痛いっ!
あらまぁ。。。それはダメだよ。
痛いっ
『痛いっ!』
見ると、上からお金が降ってきて頭に直撃したようだった。
ちらっと上を向くと、ライトに照らされたお金が、まるで打ち上げ花火が開いたように飛んでくる。
『すご〜い』
それらが次から次へと落ちてくるのだ。
ただ落ちてくるお金は小銭ばかりだけど。
下を向くとあちらこちらにたくさん落ちている。
僕は無我夢中に拾い集めてはポケットに仕舞い込んだ。
そんな僕の行動を制止する人が現れた。
母親だ。
「あんた、何をしてるの?」
「えっ?、何って、お金を拾ってるんだよ」
母親はなかば諭すように僕に向かって言った。
「あのね、これらのお金はね、皆のそれぞれの願いなの」
そう言うと僕に拾ったお金を出すように促した。
僕は仕方なしにポケットから出して母親に渡した。
「ほら、それじゃこれ」
母親は代わりに持っていたお財布からお金を取り出して、僕に渡してくれた。
僕は精一杯の力を込めて投げてみた。いや、投げたつもりだった。
「あら、もう投げちゃったの?」
母親の声かけとほぼ同時に、進んでいる方向の前方で声が聞こえた。
「痛いっ!」
そんな声をものともせずに、僕は一生懸命に願いを込めていた。
『将来、かわいいお嫁さんが僕に現れますように』
その後で、余裕のできた僕は警察官の呼びかけの意味を理解できたのだった。
「危ないですから、お賽銭を投げないで下さい」
そんな自分が大人になってから度々思うことがある。
『あの時の願掛けがこういう結果になったのは、誰かが自分のお賽銭を拾って、持って帰ってしまったのだろうか?それとも、賽銭箱まであのお賽銭が届かなかったせいなのだろうか?』
「痛いっ!」
知らず知らずに声を出していた自分の脇腹をつねり、嫁が横目で睨んでいた。
ー Fin ー




