魔王の胸のうち
ガチャ・・・
扉が少し開くと、そこから小さなくまの人形がすっと入ってきた。
「くまたん!!」
桃花は、ベットから這い出るとくまの人形をぎゅって抱きしめる。
胸元で抱きしめながらくまの人形の感触を確かめながら、ニコニコしている桃花。その声をドア越しに聞きながら緑虎は少し複雑な気持ちであった。
俺・・・
桃花様に・・・
合わせる顔がない・・・
嫌われたし・・・。
「どうした、緑虎?」
そこには、話を終えた魔王が立っていた。不思議そうに緑虎の顔を覗き込むと・・・
「お前・・・桃花に嫌われたな(笑)」
「・・・」
「図星だな(笑)」
緑虎に、返す力は残っていなかった。
「とにかく、龍鬼!」
「はい、魔王様。」
「お前らも来い。」
そういいながら、魔王は姫達のいる部屋のドアを開けた。
魔王の姿を見るなり、怖がりはじめる姫達。そんなことの気にもせず魔王はドアの目の前にいた桃花を抱え上げると、柚子のいるベットの上に放り投げた。
「親父・・・」
「パ・・・パ・・・」
「桃花、柚子・・・パパが言いたいことはわかるよな(怒)」
魔王は、姫達の肩を掴むと怒った眼でただじっと見つめる。しかし、桃花も柚子も魔王の顔を見ようとはしない。
「どれだけ心配したか分かるか?」
「「・・・」」
「ママなんて、お前達が家出したって聞いてから、ずっと寝込んでるぞ。お前達のこと呼びながらずっとな。」
「「・・・」」
「とにかく、明日の朝に魔界に帰るからな。」
そういうと、魔王は龍鬼と緑虎を連れて部屋を出て行った。
「柚子・・・。」
「何?」
「ママが・・・心配・・・。」
「そうだけどさ・・・せっかくここまで来たのに・・・。」
桃花と柚子の心の中には複雑な心境しかなかった。
ここから逃げ出したい。でも・・・
その頃
「どうされましたか、魔王様。」
「俺・・・多分どっかで・・・桃花と柚子を傷つけたんだな、きっと。」
「そんなことは・・・。」
魔王は、赤ワインを飲みながら龍鬼に心のうちを話していた。そこから、姫達が子どもの時の話に・・・
「赤ん坊の時に“たかいたか~い!”っていってさ、柚子を部屋の天井にぶつけてしまったり、桃花のおむつ交換しようとしたら、きつく締めすぎて腰にすごいあざ残ったりして・・・」
「妃様が大変お怒りになられていて・・・」
「あぁ。俺なりにがんばったんだけどな・・・。どこでどう違ったのかな、育て方。」
悲しそうにワイングラスを見つめる魔王に龍鬼は声をかけることが出来なかった。