人間界到着。逃走準備します。
本編スタートです。
魔界がパニック状態とは露知らず、桃花と柚子はある人物に会うために路地裏をうろうろ。
「柚子・・・どこ行くの?」
「あぁ?情報稼ぎに。」
柚子はニコニコしながら、薄暗い路地裏を桃花の手を引いて歩く。進んでいくに連れて空気が冷たくなっていく・・・。
「着いた!ここの最上階か・・・」
桃花と柚子の目の前には、完成することなくそのまま放置されたビルがたたずんでいた。
「柚子・・・怖いよ。」
「大丈夫だって!行くよ!」
柚子は桃花の手をギュと握るとそのまま最上階まで飛んでいく。桃花達の視界にはすばやく移り変わる景色と高速で動くビルの壁が写っていた。
「脱走お疲れさん、柚子。おっ!桃花も一緒か。」
桃花と柚子を迎えたのは、黒いショートカットの髪をした女だった。耳にいくつものピアスをし、右腕にタトゥーを入れた奇抜な女。それは、柚子の憧れでもある女だった。
「来靭姉さん・・・久しぶりっす!情報ありがとうございます。」
「かまわねぇよ。姉妹なんだからさ、あたいらは(笑)」
来靭は、柚子と桃花に瓶に入ったコーラを渡すと柚子の前に座り込み、コーラの栓を開ける。
「それより、魔王の奴、こっちに送り込むみたいだぞ、手下。」
「まじっすか・・・」
「迎えに・・・来るの?」
「そうみたいだな。柚子、お前の嫌いなあいつらがな。」
来靭は、少し笑いながら桃花と柚子にそう告げる。
「嘘だろ・・・会いたくねぇ。」
「・・・誰?」
「龍鬼と緑虎だよ!」
「私・・・会いたくない。」
姫達の顔がどんどん怒りの混ざった顔に変わっていく。
「あいつら・・・ある意味ストーカーだよ。どこに行くにも着いてきやがって(怒)」
「他の執事さん達と違って・・・嫌い。いじめる。」
「親父以上にうざいし・・・」
「執事長と護衛部隊の隊長が自らお前らを捕まえに来るって事は、どうやって来た、こっちに?」
「・・・部屋に魔法陣書いて、そっから飛んできたっす。」
「パパとママに話したらダメってきっと言うから・・・内緒で来たの。」
「おっさんらも着いてきそうだしさ・・・黙って出てきてやった(笑)」
「ハハハ~!!!豪快に家出してきたね~♪さすがだわ、お前ら。」
来靭は、桃花と柚子の頭をガッと掴むと力任せに撫でた。
その頃、魔界では・・・
「「失礼します。」」
魔王の部屋に入ってきたのは、30後半から40前半ぐらいのスーツ姿の男達。茶色の髪に黒に近い灰色の眼をした背の高い男と、黒髪で右目だけが赤色の男。彼らの腰元には刀と銃が装着されている。
「龍鬼、緑虎、言いたいことはもうわかると思う。」
魔王は、ベットで眠っている妻の横に座りながら男達にそう確認する。
「桃花様と柚子様のことですね。」
「あぁ。」
「私も今回の件は少し度が過ぎていると・・・。」
「俺もそう思います。」
「俺もそう思ってる、親として申し訳ないくらいに(怒)そこでお前らの出番だ。探してきてくれねぇか、人間界まで(怒)」
唐突な命令が来るのを覚悟していたのか、男達は冷静に答える。
「承知いたしました。」
「見つけ次第こちらへ・・・。」
「見つけたら連絡くれ。」
予想だにしていなかった回答に背の高い男は「・・・どういうことでしょうか?」と思わず魔王に確認してしまった。
「見つけたら、とりあえず逃げないように捕まえて、お灸でも据えといてくれ。その間に俺も乗り込むから、そっちに(怒)」
「了解しました。」
「では、保護次第、すぐご連絡いたします。」
男達は魔王にそういい残すとすっと部屋から消えてしまった。
「どこでどう育て間違えたかな・・・俺・・・。」
魔王は、眠り続ける妻の手を握りながら、心配そうな顔で彼女の顔を見つめていた。
「さて、まず案内したいところがあるんだ。」
来靭はそういうと桃花と柚子に紙袋を渡す。中には服やアクセサリー、ウィッグなどが入っていた。
「そのままだと龍鬼と緑虎にバレそうだからさ、とりあえず着替えろ。」
「うん。わかった。」
「わ・・・わかったっす。」
数分後・・・
「少し・・・寒い。」
「結構、動きやすいっす!」
「だろ?」
来靭と同じようなパンクスタイルの完成。着慣れている柚子はいいのだが、着慣れていない桃花は少し肌寒く感じていた。
「ウィックやアクセサリー、服に呪文を掛けといた。だけど、龍鬼と緑虎がどんな手を使ってくるかはわからないから、100%防げるとはいえねぇけどな。」
「ありがとうございます!姉さん!」
「じゃ、街に出っか(笑)」
来靭はそういうと、胸元からシガーケースを出すと、中の煙草に火をつけて地面に落とした。その瞬間、魔方陣があわられ彼女達を包んでいく。
「契約せし者に告ぐ。我、思いし願いを叶えたまえ!」
彼女達は炎の中に消えて行った・・・。
数時間後
「どうやら、来靭が手引きしているようですね、龍鬼さん。」
「そうみたいだな・・・厄介なことになったな(笑)」
龍鬼と緑虎は、彼女達の去ったビルの最上階に足を踏み入れていた。魔方陣の形などで来靭の存在に気づいた彼らはその場で策を練り始めた。
なぜ、龍鬼と緑虎は来靭を厄介だと感じたのか、実は、来靭はかつて龍鬼と緑虎と一緒に魔王に使えていた少し型破りなメイドだった。しかし、来靭はある日突然、メイドを辞め魔界を去ってしまった。来靭を尊敬してやまなかった柚子は、そのことが原因で感情のコントロールが出来なくなった時期があった。その為、龍鬼と緑虎は迂闊に手を出せないと判断したからである。
「とにかく、この魔方陣を軸に、桃花様と柚子様を捜索しよう。」
龍鬼はそういうと、魔方陣に手を当て、強制的に魔方陣の機能を破壊した。
「では、行きますか(笑)」
「了解です。」
龍鬼と緑虎は、破壊した魔方陣から進入。桃花と柚子の後を追った。