プロローグ~すべてが始まった瞬間~
はじめまして、清田花音と申します。物書きとしては不慣れなところがあり読みにくい点もあると思いますが、これから少しずつ連載していきますのでよろしくお願いします。
「・・・おじさんと一緒にいたいよ・・・」
俺だって離れたくないよ。
「おじさんのお嫁さんになりたい・・・。」
おい・・・俺、かなりおっさんだぞ。お前からしたら・・・それでいいのか?
「ずっとここにいる!」
「いいから連れて行け!」
「嫌だ!いるの!おじさんと一緒にいるの!嫌だ!!」
本当は離したくなかった。
でも、あいつの居場所はここじゃない。
それに、もっと若い奴に恋したらいい。
悪魔じゃなくて天使に恋したらいい。
まだ若いんだから・・・
こんなおっさんの悪魔じゃなくてもいいだろう・・・。
天使と悪魔の間では争い事が起きていた。
ある日、魔王は、多くの仲間を連れて天界に侵入。暴れるだけ暴れて、まだ幼い子供の天使を数名、魔界へと連れて帰ってきた。欲しいものを手にするためなら手段を選ばない魔王。この連れてきた天使達をうまく利用して、天使達から強奪できるだけ強奪してやろうと考えていたのだ。
「ビ~ビ~うるせぇガキ共だな。」
魔王は、牢屋に入れられた天使達を冷たい眼で睨みながらそうつぶやいた。ふと、牢屋の奥に眼をやると、小さな手で石を持ち、牢屋の床に絵を描いている天使がいた。連れてきた天使の中でも一番幼く、一番小さな天使だった。
「こいつなら面倒なことなさそうだし、まいっか、こいつで。」
魔王はそんな軽い気持ちで彼女を牢屋から出すと、常に自分の手元に置いた。
天使達に人質がいることを忘れさせない為に・・・
「てめぇらが俺の出した条件を飲まなかったら、こいつも、まだ城にいるほかのガキも殺っちまう事忘れんなよ。マジだからな。」
魔王にしたら天使は交渉の道具にしかなかった。
魔王にとっては・・・
しかし、天使にとってはそうではなかった。
「おじさん。」
「あぁ?何だ?」
「・・・何でもない。」
「は?次、同じことしたら許さんからな。」
「・・・」
天使は、魔王のことが好きだった。そばにいれるだけで幸せだったのである。
牢屋を出てからは、魔王に嫌われないように必死だった。泣く子が嫌いだと思った天使は何があっても泣くことを止めた。魔王の仕事の邪魔にならないように、仕事中は部屋の隅でおとなしく過ごすように心がけていた。魔王に言われたことはきちんと守った。わがままも言わなかった。
嫌われたくない。ただそれだけの為に・・・。
ある日
仕事にひと段落着いた魔王は、ふと窓の外を見てにこっとしながら「結構育ったな・・・。」とつぶやく。そこには、深く薄暗そうな森がひろがっていた。自分の欲しいものが手に入った時や目的を達成できた時にこの森に木を植えていく。
また、庭の一部で果物や野菜を育てていた。天界や人間界で手に入れた貴重な品種のものを自分で育て収穫して食べることを楽しんでいた。森や庭の作物を見ることは魔王の日課だった。
その森を眺めた後、ふと部屋の片隅に眼をやると小さな天使が床ですやすや眠っている。
「何勝手に寝てんだ、こいつ・・・。」
魔王は彼女を蹴り起こそうとしたが・・・
「・・・すき・・・。」
「はぁ?」
「・・・おじさんの・・・お嫁さんに・・・なりたいでしゅ・・・。」
「はぁ!?」
魔王は、彼女の思わぬ告白に戸惑いを隠せないでいた。天使に好かれるような言動をした覚えがないのである。魔王は、ソファーに座ると今までの自分の言動をすべて思い出してみたが・・・やっぱり心当たりがない。
「こいつ・・・俺を何かと間違ってるんのか?」
不安に思いながら天使を見つめていると眼を覚ましてしまった。
「あっ・・・ご・・・ごめ・・・ん・・・なさい。」
「・・・勝手に寝るんじゃねぇ(怒)」
魔王は、天使をソファーに投げ飛ばすと部屋から出て行った。
やべぇ・・・
俺、何かしたか?
好かれる理由なんてないぞ。
それに
あいつの親父でもジジイでもおかしくない年だぞ、俺。
それに悪魔だぞ!
あいつらからしたら敵だぞ。
いくらなんでもそれはないだろう・・・
部屋を出て、城の中をうろうろしても、森の中を散歩しても堂々巡りの状態で“どうして天使に好かれたのか?”という答えは出ない。疑問が疑問を膨らまし、雪だるまのように大きくなっていく。
結局、気分転換できずに部屋に戻ると、部屋の隅っこで天使は、泣き顔を隠すかのように足に小さな顔を押し付けて体育座りをしていた。
魔王は、天使をいきなりお姫様抱っこ。驚いた天使は、泣いた顔を魔王に見せないよう隠そうとするが隠せず、魔王の腕の中でおどおどしている。
「動くな(怒)それに泣いてるな・・・」
「もう泣かないから!おじさんの邪魔、絶対にしないから!」
「はいはい、わかったから騒ぐな(怒)」
魔王はそういうと、ソファの上に天使を放り投げた。
「いてもいいから、寝るならそこで寝とけ!」
そういうと、魔王はデスクワークに戻る。心の中は葛藤し続けていて、落ち着いていない。そんな魔王の気も知らずに、天使は魔王の背中をニコニコしながら見つめていた・・・。
それから数ヵ月後
天使達は、魔王の要求の一部を飲む変わりに、天使達の開放を要求してきた。
天使達を開放する、イコールあの小さな天使との別れということを意味していた。本来ならうれしいはずなのに、魔王の心の中で何かが崩れていくような感じに襲われていく・・・。
魔王に残された選択は2つだけ。
自分のプライドを取るか天使の気持ちを汲み取るか・・・
天使も横でその話を聞いていた。心の中ではその話を断って欲しいという気持ちでいっぱいがったのだが・・・
「わかった・・・それで手を打とう。」
天使の視界が一気に暗くなっていった・・・。
何も聞こえないくらいに・・・
魔王は、プライドをとった。それには理由があった。
魔王が要求していたのは、天界の財宝と領地と様々な利権。天使からすれば一部だけでも許すといった決断は“清水の舞台から飛び降りる覚悟”を必要とするものであった。魔王にとってもその要求がすべて通るのが理想なのだ。しかし、すべてを通してしまったらあの小さな天使のすべてを奪うも同然だった。
何ヶ月も過ごしているうちに魔王にとってもあの天使は大事な存在になっていた。
道具ではなく、ひとつの存在として必要になっていた。
魔王は、天使達に要求した物をそろえて持ってくるまで人質は渡さないと言って、天使達を帰らせた。
「おじさんなんか嫌い!大嫌い!」
天使はそう叫びながら、小さな手で魔王の背中をぽんぽん叩き続ける。
「おい、いい加減にしろ。」
「嫌だ!ここにいる!」
「駄目だ!一緒に帰れ!」
「嫌だ!」
天使の小さな抵抗がぴたっと止まった。魔王が背中のほうに顔を向けると、天使が自分の背中に顔をうずめながら泣いていた。
「・・・おじさんと一緒にいたいよ・・・」
背中越しに天使の声が聞こえてくる。
「おじさんのお嫁さんになりたい・・・。」
天使の願いが魔王の身体の中を駆け巡り、さらに葛藤を生んでいく。
「ずっとここにいる!」
「いいから連れて行け!」
魔王は、部屋の外で待機していた執事に小さな天使を別室に連れて行くように指示をだす。
「嫌だ!いるの!おじさんと一緒にいるの!嫌だ!!」
部屋の外から、泣き叫ぶ声が聞こえるたびに魔王の心の中で何かが崩れていく。
その次の日、天使達はふるさとへと帰っていった・・・。
それからの魔王は、仕事はしていたが気持ちはどこか宙に浮いているような状態だった。朝起きると、部屋の中で天使の存在を探してしまっている。
それは天使も一緒で、魔王のことが忘れられず、気がつくと魔界との境界線に来ては魔王の姿を探していた。心の中に大きな穴を開けたままだった。
天使が魔王の元を去って数年後
「魔王様!」
城の警備をしていた悪魔が慌てた様子で魔王に駆け寄ってくる。
「うるさい!ノックぐらいして部屋に入れ!で、いったいなんだ?」
「はい。城の前で大怪我をした変な女が倒れていました・・・」
「変な女?」
「はい。しかし、魔王様に会いたいの一点張りで。」
「変な奴だな。お前、城の警備やってるのに女の一人や二人に何てこずってるんだよ(怒)」
「申し訳ございません。しかしその女、天使のようでして・・・自分で羽根を切り落としてきたようなのですが・・・処刑してもいいのかどうか・・・」
「まさか・・・おい、その女どこにいる?」
「はい、とりあえず地下の廊下にぶち込んでます。」
それを聞いた魔王は、穏やかでない心のまま部屋を飛び出し、地下牢屋まで走る。
地下牢屋に着いた時、沢山並ぶ廊下のうち、一番奥の廊下だけに複数の悪魔が立っていた。
「魔王様!」
「ここにいんのか?その女・・・」
そういいながら、魔王は牢屋の中の女の顔を見るなり、身体の中が冷たくなる感覚に襲われる。何年経っても、忘れれることの出来なかった彼女が、白いワンピースと長い桜色の髪を赤い血の色に染めて倒れている。
「おい・・・お前ら。」
「はい。」
「すぐ、医者呼んで来い!」
「しかし・・・そいつは・・・」
「いいから呼んで来い!!」
牢屋の周りを取り囲んでいた悪魔達を一気に追い払うと、魔王はその天使を抱え上げ、強く抱きしめた。
「お前・・・死ぬ気か?」
「おじさんに・・・会いたかったから。」
「俺のどこがいいんだよ・・・」
「おじさん・・・優しいもん。それに・・・かっこいいから。」
「おっさんだぞ、それに悪魔だぞ、俺。」
「でも・・・私、おじさんが好き。」
「他にいただろ・・・俺じゃなくても。」
「おじさんじゃなきゃ嫌だ。だから・・・」
「もういいから。しゃべんな(怒)」
「お嫁さんに・・・してくれる?」
「あぁ。だからもうしゃべんな。」
それから数ヵ月後
魔王と天使は、結婚し晴れて夫婦となった。周囲の悪魔達も羨ましがるほどの仲睦まじい夫婦になっていた。
結婚して1年半後
彼らの間に子供が出来た。双子の女の子。肌の色は母親と同じ色白で、瞳の色は父親と同じ赤紫色。唯一違うのは、姉の髪の色が桜色で妹の髪の色が橙色ということだった。
「かわいいな~、女の子か~♪」
魔王はニコニコしながら子供達を抱えると、ベッドに腰掛け、妻に子供達の顔を見せる。
「かわいい~」
「俺もこの子達の親父か~」
「本当だね。一緒に子育てがんばろうね、パパ。」
「よろしくお願いします、ママ。」
姫達の名前は、桃花と柚子と名づけられた。
姫達はすくすく成長したのだが・・・
「お待ちくださいませ!」
「危のうでございます!早く降りてくださいませ!」
「誰が降りるか!バ~カ!!」
妹の柚子は、執事やメイド達も世話を焼く男勝りでおてんばな女の子に・・・一方、姉の桃花はというと、のんびりとした性格でおとなしく、急ぐことを知らない。双子の姉妹であるが性格は180度違う。親である魔王達も頭を抱えていた・・・。
時は流れ・・・
姫達は18歳になった。
姉の桃花は、長い桜色の髪を書き上げながら、部屋や庭で本を読むことに没頭するなど“おとなしすぎる女の子”に成長。一方、妹の柚子は、橙色の髪を短く切り、城だけにとどまらず、魔界中のあらゆる場所で大立ち回りを繰り返す“手のつけられない女の子”に成長してしまった。
ある日の晩
「あ~あ・・・自由になりたい。」
柚子は、ソファーの上で寝転がりながらそうつぶやくと「どうして?」と桃花は聞く。
「だってさ~。どこ行ってもおっさん達(=執事)は付いてくるし、やっと城から飛び出せたって思ってたら、連れ戻されるしさ~飽きた。どっか行きたい。そうだ!」
柚子は、おもむろに籠の中にあった林檎を手にした。
「俺の“柚子”も桃花の名前の“桃”も、元々はこいつと同じ、人間界で育てられている果物の名前らしいんだ!」
「知ってる。」
「実物、見たくない?」
「・・・見たい・・・かも。」
「じゃ、見に行こうぜ!」
「うん。じゃ、私これ見たい。」
そういうと、桃花はある写真集を開いた。そこにはイルカや魚達が自由に動き回る海の中の写真が広がっていた。
「じゃ、決まりだな(笑)」
「うん。」
姫達は、その日から誰にもばれないように、綿密な計画を立て、人間界をリサーチするなど魔界脱出に向けての準備を整えていた。
1ヶ月後
「準備はいいか?」
「うん、大丈夫。」
部屋の中に敷かれていたカーペットや家具を、魔法を使って静かに移動させると、そこには魔方陣が・・・。
桃花と柚子が時間の合間を縫って書き上げた合作。人間界へワープする魔法は桃花の持っていた本を見ながら練習した。
その魔方陣の上に、服などの詰め込んだバックと一緒に姫達は乗っかる。
「じゃ・・・」
「「せ~の!!」」
姫達は自分の右手を魔方陣に向けてかざす。すると、魔方陣から赤黒い光が姫達を包んでいく・・・
「痛って~・・・」
「柚子・・・着いたの?」
「そうみたいだな。」
姫達の視界に入ってきたのは、たくさんの高層ビルと、行きかう人間。本の中でしか見たことのない景色だった。
その頃、魔界では・・・
「魔王様!妃様!」
食事中の魔王夫妻の部屋に、姫達の世話係である執事が大急ぎで飛び込んできた。
「何だ、朝っぱらから!騒がしいぞ(怒)」
「桃花様、柚子様がいなくなりました!」
魔王は言葉を失うほど絶句し、妃はその場で気を失ってしまった。
城は姫達がいなくなったことで大パニック。
魔界中が、大混乱に陥っていた・・・。