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恋人がいる人の年末年始の過ごし方

12月に入った。

彼女が出来てから初めてのクリスマスまであと三週間だ。


いつものように手をつなぎながらの下校中、一段と冷たい北風が吹き付けてきて俺は身を縮ませた。繋いでいる手はかじかみそうで見ると彼女の指先も赤くなっている。


俺は繋いだままの手を自分の制服のポケットに入れた。


「手、寒いだろ」

「ありがとう。温かい」

香奈は照れながらポケットの中で手を握り返してきた。


「……クリスマスは予定ある?」

なんとなく照れながら言う俺とは対照的に、その問いに香奈は気まずそうな顔をしてうつむいた。


「ごめんね、クリスマスは向こうで家族と過ごすの、毎年そうなの。ママも向こうで過ごすの楽しみにしてるし……あたしは紘平と過ごしたいけど」


香奈は上目遣いになってもう一度謝り、ポケットの中でギュッと手を握ってきた。

「そっか、しょうがないよ。本来クリスマスって家族と過ごすもんなんだろ?昼間だったら大丈夫?」

その手を握り返し、極力落胆が顔に出ないように明るい声で聞いてみた。


「最終の飛行機で行くから5時までなら大丈夫だよ」

「じゃあ5時まで一緒にいよう」

「うん」

途端に嬉しいそうな顔になり俺もその笑顔につられて笑顔になった。




クリスマス当日、九時前に駅で待ち合わせをした俺達は、香奈のリクエストで水族館へ出掛けた。


水族館へ着くと、館内もクリスマスムードでいっぱいだった。サンタクロースの格好をしたアザラシと写真を撮ったりイルカのショーをみたり。

しかし、今日はクリスマス。館内には大勢のカップルで混雑していた。俺らは早めに水族館を出て、クリスマスムードで賑わう街の中をゆっくりと歩きながらいつもと違う街の雰囲気を楽しんだ。


四時過ぎに地元駅まで帰ったが、まだ多少時間がありギリギリまで一緒にいたかった俺たちは、近くにあり過ぎてあまり足を運ばなかった大きな公園へ。

人影もまばらな公園の遊歩道を落ち葉を踏み、他愛もない雑談しながら歩いた。


「そうだ」


立ち止まった香奈はカバンの中から包装紙に包まれた細長い物を取り出して俺に渡した。


「はいクリスマスプレゼント」

思いがけないサプライズプレゼントに俺はキョトンとしてしてそれを受け取った。


「え?あ、ありがとう。ごめん、俺何も用意してない」


気まずそうにしていると

「ううん、いいの。あたし今日紘平と一緒にいられるだけで嬉しいから」

香奈は俺の腕にしっかりと抱きついて笑顔でそう言った。



ベンチに座り包みを開けてみると、赤い差し色が入った綺麗なネクタイが入っていた。


「4月からスーツでしょ?」

彼女の言葉にすでに就職が決まっている俺は、今更ながら「そっか」と思った。そんな事は全く頭になかったので、スーツさえまだ買ってはいない。彼女の方がよっぽどしっかりとしていることに感心した。



「香奈は大学生か……俺も行きたかったけど、頭が足りないからな」


「受験はこれからだから、合格したらね」


「香奈なら大丈夫だよ」


「ありがとう、がんばるね。ねえ…紘平、卒業してもずっと一緒だよ」


「当たり前じゃんか」

香奈の顔を見て微笑んだ。


「綺麗な大人の女の人いっぱいいるから……浮気しないでね」


「するわけないだろ。俺には香奈がいるんだから」


「心配だな。大人の魅力にフラフラ〜って……」


「大丈夫だよ」

少しふくれっ面の彼女を軽く抱きしめて頭をクシャクシャっと撫でた。



「紘平のスーツ姿早く見てみたいな。初詣は一緒に行こうね」


「だな。……さて帰りますか」


俺は先に立ち上がり、香奈の手を勢い良くぐいっと引っ張って自分の胸に抱いた。何も言わず抱きしめると腕の中で彼女の息づかいと鼓動が聞こえる。



自然と目が合い唇が重なった。

クリスマスということで、少し長めのキスをしてお互いにニッコリと笑うと、再び手を繋いで帰路へついた。





香奈を家まで送り自分も家に着くと、見計らったかのように携帯がなった。


「なに?」

「邪魔してわりーな。秦野と一緒か?」

「いや、1人だけど?」

「クリスマスなのに?とうとう秦野に振られたか……」

「ちげーよ今帰ってきた所。でなんだよ」

「みんなで集まってるんだ。お前も来いよ」

言われてみれば後ろからは騒がしい声が聞こえている。

場所を聞き母さんには夕飯いらないと言ってまた出掛けた。


「おー紘平、振られたのか?」

着くなり友達にそう言われそいつの肩にパンチを食らわせた。

持ち寄ったお菓子を食べジュースを飲みゲームをし、集まった割にはみんな別々な事をしている。



誰かが言った「腹減った」の言葉にみなでゾロゾロとファーストフードの店に行き店内でワイワイと食べた後、再び友達の家に向かった。



「暇だな……」

やることをやりきった俺達はすることもなくゴロゴロとしていた。



「兄貴の部屋から持ってきた」と1人が怪しいタイトルのDVDを高々と見せた。

「グッジョブ!」


目を輝かせた友達らはサッサとプレイヤーにディスクをセットして、男子数人で過ごすかなり寂しいクリスマスの夜の上映会が始まった。

階下に親がいると言うこともあり極力小さな音での鑑賞。




「そう言えば、もう使ったか?例のアレ」

途中、正士が小声で聞いてきた。

「そう言えば文化祭でメアド交換した子とはどうなった?」

またそれかよと思った俺は、質問に質問で返すとニヤリと笑った。




「この中でヤッたことのあるやつ」


DVDを持ってきたヤツが言うと、お互いにチラチラと見ながら誰かが手を挙げるのを期待して待った。



「はーい」



正士がふざけて俺の手を持ち上げ勝手に返事をし、みんなの視線が俺に集中した。



「ばっバカヤロ!ふざけんな、まだヤッてねーよ」


「まだ?しっかり準備してるもんな」

「おいっ」

ニヤニヤしているヤツを赤い顔でにらんでやった。


「なんだよ準備って?」

「おいっ!正士余計なこと言うなよ」

完全否定したが、赤面した顔で否定しても全く説得力はなかった。


「紘平うらやましい!もう相手はいるもんな」

「いつの予定?」

「おい、野暮なこと聞くなよ。クリスマスの次のイベントと言ったらきまってんだろ」

「あーあー…なるほどね。リボンをかけたあたしをあ・げ・るっ」

「お返しは俺だよ」

「紘平のエッチ」

バカな友達二人がふざけて俺と香奈の真似らしいことをしながら、男同士で唇をチューっと突き出し抱き合いながら友達のベッドへ倒れ込んだ。


「やーん、紘平の大きい…」

「ふざけるな!」

俺は立ち上がり、ベッドの二人を手で叩きつけた。





新年を迎えて3日たった。ドイツから帰ってきた香奈は待ち合わせの場所にやってきて俺に袋を渡してきた。


「ママが紘平にどうしでもって」

袋の中にはきれいな革製品が入っていた。


「ありがとう。おばさんにもお礼を言っといて」




年が明け日にちもたっていたが、神社の参拝者は多く少し長い列にならび参拝を待った。

順番が来てお賽銭を投げて手を合わせる。ちらっと横を見ると手を合わせ長いまつげを伏せ目を閉じている香奈の横顔があった。顔をあげると俺と目が合い照れたようにはにかんだ。


「やけに早かったけどちゃんとした?」

「したよ。香奈は何を願ったの?」

「みんなが健康でいられますように、受験に合格しますようにって。紘平は?」


あまりに真面目な願い事に俺はあまりにも自分優先の願い事を言えなかった。


「も、もちろん『香奈が合格しますように』だよ」


「怪しい……ありがとね」

一度疑いの目で見たが、素直にお礼を言う香奈をみて罪悪感があった。



『神様ウソついてすんません。でもさっきの取り消さないでください』

心の中で神様に拝みながら境内を後にした。


合格祈願と書かれた御守りを買い、屋台のじゃがバターを頬ばった。




「さっきのお願い事、実はもう一つあるんだ」

帰る途中、小腹が空きファーストフード店で買ってきたポテトを公園で広げていると、モジモジしながら香奈が願った事を教えてくれた。


「紘平とずっと一緒にいられますようにって……神様叶えてくれるかな」


「神様に頼まなくったって、俺が叶えてやるよ」



嬉しそうに笑って抱きついてきた香奈の瞳が一瞬深い緑色になった。

しかし、目を開け俺を見つめた瞳はいつも通りの薄緑色だった。



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