表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/16

コーネリア


「ここ」

秦野が立ち止まったのは、閑静な住宅街に突如現れた大きな建物の前。目の前には頑丈そうな門構え。その奥には重厚な建物がそびえたっている。よく『先生』と呼ばれるお偉いさん方の愛人らやセレブな芸能人、はたまた高級クラブなんかのママらが多く住んでいると噂の高級マンション。

「どんなやつらが住んでるんだろうな」とよく正士と自転車で前を通る度に言っていたマンションだ。



「ここ……?」

口をぽかんと開け建物を見上げている見るからにアホな俺。



「送ってくれてありがとう」

「ああ…じゃあ」


帰ろとしたその時重厚な門扉が音もなくスムーズに開くと「カナ!」と声がした。振り返ると年上とおぼしき人が駆け寄り秦野を抱きしめている。そして早口で何やらしゃべっている。秦野もそれに答えるように何やら話しているとちらっと俺を見た。すると年上らしき女性も俺を見た。



おおっ!すげー美人!

秦野と同じような緑色の目をしている。その美人な女性は俺に近づいてきていきなりハグをした。


うおー!何だ?ってか、すげーいい香りがする。



そして一度体を離すと何か言ってる。

「町田くん、ママがお礼をしたいって。是非うちに寄ってって」


秦野の言っているのを聞きその女性は隣でコクコクと首を縦に振り微笑んだ。


「ママ?秦野のお母さん?」


やっぱり美人は遺伝するんだなと変な所で遺伝子を褒めていた。俺が秦野と会話している間も秦野のお母さんは俺の手をグイグイと引っ張り続けた。

「学校から連絡があったみたいなの。ごめんね、ママ言い出したら聞かないの。家に寄っていって」


俺は満面の笑みを浮かべる秦野のお母さんに引っ張られ建物の中に入った。






建物の中はすごかった。ロビーだけでどんだけの広さだよ…。いたるところに高そうな調度品が並べられ、フカフカの絨毯が俺の足下を包み込む。ロビーの奥のエレベーターの扉もすごい。もうなんかよくわからないけどすげー。一般人の俺は軽くパニクる。そしてこれまた必要以上に広いエレベーターに乗り10階へ。本当に動いているのかわからないほどの滑らかさで到着。

扉が開くと目の前にはどこかで見たことのある顔が。


「あら、香奈ちゃんおかえり」

「マキエさん、お仕事ですか?いってらっしゃい」

すれ違いざまに短い会話をしその女性は『バイバイ』と手を振りエレベーターに乗り込み階下へ。


マキエ?マキエっていやー、今テレビや雑誌なんかで『カリスマセレブモデル』と呼ばれるあのマキエだ!こんな近くに住んでたんだ……。しかもなんで美人はいい香りがするんだ?



「知り合い?」

「知り合いっていうか、同じフロアの人。ワンフロアに三部屋しかないからよく会うの」



こんな広い建物のワンフロアに3部屋?一部屋はどんだけ広いんだ?


そんな事を考えてると秦野の家に着いたらしい。マンションなのに一軒家のような外観。頑丈そうな門もついている。秦野の母親がインターホンに向かって何か言うと静かに門が開いた。(後で聞いたが『声紋』でロックが外れる仕組みらしい)

室内に案内されるとまたびっくり。広い……広すぎる……。玄関だけでうちがすっぽり入ってしまいそうなくらいだ。永遠かと思われる長い廊下を進みリビングに通された。


もう何も言えない……。




すると正面にある一枚の絵が目に飛び込んできた。

「あの絵……」


俺はその絵に釘付けになった。


「この絵がどうしたの?」

「この景色なんか見たことあるような気がする」

「あたしのお気に入りなの。かなり古い絵らしいんだけど、向こうで一目惚れしちやって何日も見に行ってたらお店の人が特別に売ってくれたの。この絵を見てるとなんだか落ち着くの」



絵を眺めていると「お茶をどうぞ」と声をかけられた。

「美智子さんありがとう。町田君もどうぞ。あたし着替えてくるね」


埋もれてしまいそうなフカフカのソファーに座り、貧乏くさくキョロキョロと部屋を見渡してしまった。すると秦野の母親と目があって微笑まれた。俺は愛想笑いし出されたカップを手にし口に運んだ。すると今まで嗅いだことのないいい薫りのする飲み物が、俺の口の中を浄化するように喉を潤していった。世の中には知らないことがまだまだあるんだな……魅惑の飲み物に恍惚としてしまった。


「香奈さんひどくなくて良かったですね。学校から連絡が来たときはびっくりしてしまいました。ね、ニーナさん」


美智子と言われた女性はケーキがのった皿をテーブルに置きながらニーナにそう話しかけた。

「ヤー……ソウネ」

日本語混じりにニーナがそう返事をした。



「Danke Schoen(ダンケシェ)


ニーナは微笑みながら俺の目を見て、たぶんドイツ語でなにやら話しかけて来た。言葉が分からない俺がきょとんとした顔をしていると「ありがとう。って言ったの」と普段着に着替えてきた秦野が助け舟を出してくれた。制服とは違う普段着姿に俺はドキドキしてしまった。


「マチダ、アリ……ガト…ウ」

ニーナは片言の日本語でもう一度俺にお礼を言った。


「いいえ……」

俺がそういうと、今度は秦野が母親にドイツ語で通訳する。


「すげーな、秦野は……」その様子を見て感心した。


「なんで?」

皿のケーキを一口すくい口に運び「んっ、おいしい」と秦野は笑った。



「日本語とドイツ語、ペラペラだろ。英語だってしゃべれるんだろ。もちろん努力しただろうけど。バイリンガルってこういうんだなって。はあ〜、俺にもそんな頭が少しでもあったらな……」俺はがっくりと肩を落とした。


「日本もドイツもあたしの母国だもの。それにママがまだ日本語をあまり覚えていないから、パパが仕事で家を開けていない間はあたしか美智子さんがママの通訳してあげないとね。買い物にもいけないからね」

美智子さんに同時通訳されたニーナが秦野の隣でニコニコとしながら頷いていた。




30分程で秦野の家を後にした俺は、家に帰ってもあの風景画が頭の中に鮮明に残っていた。



「———この絵はね、ずっとずっと昔、お婆ちゃんが生まれる前かもってくらいずっと前。無名の画家が描いたドイツの片田舎の風景画なんだって。あたしも行った事ないし、お婆ちゃんも知らない場所なんだって。あたしもなんでこんなにこの絵が気に入ったのか分からない。だけどこの絵を見てるとすごく温かい気持ちになってくるの」




なんで俺もあの絵が気になるんだろう?



その夜、また夢を見た。


あの絵に似た風景の中、背の高い草が風に揺られてサワサワと音をたてている。どこからか花の香りも漂ってくる。俺はその草原が見渡せる小高い丘で、誰かの膝に頭を乗せ目をとじている。ものすごく心地いい。


目を開けると、太陽を背にした髪の長い女性が俺の顔にかかった髪の毛を指でよけてくれた。


「起きた?」

女性はどこかの国の言葉でそう言った。


逆光で彼女の顔ははっきりと見えないが微笑んでいるのが分かる。俺も微笑み彼女の顔に手を伸ばしその頬に触れる。

彼女は俺にかがみ込み唇を触れた。



「コーネリア……」



俺は彼女の名前を口にした。

俺はゆっくりと起き上がり彼女を抱きしめる。花の香りに混ざってあの匂いがする。彼女を胸に抱きながらサラサラと長い髪の毛を愛おしく撫でる。

風で流れる雲が太陽にかかりまぶしい光を遮った。心地よい風に彼女の長い髪の毛がそよぎ顔にかかり、彼女はそれをかきあげて微笑んだ。



目の前にいる笑顔の彼女、それは秦野にそっくりだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ