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香奈の秘密


同窓会当日。俺は久しぶりに会った正士やクラスメートと酒を飲み交わし、近況報告など楽しみながら会話をしていた。

ふと気になって会場を見渡したが香奈の姿はなかった。眞野を見つけ何気なく聞いてみた。



「香奈?来れないって昨日連絡あったよ。なんで?」

「いや、なんとなくな……実は先月街中でばったりあってさ、そん時に同窓会楽しみって言ってたから……」

眞野は何か言いたげにして周りを見回した。

「ちょっといい?」

眞野は俺の腕を引っ張って空いている席へ移動した。


「みんなには内緒にしておいて……香奈が結婚してるの知ってる?」

「ああ、指輪してたから」

「旦那は大学の1つ先輩でかなり香奈に入れ込んでてね、付き合って半年で香奈がまだ在学中に結婚しちゃったの。だけど結婚した途端……実は香奈、旦那から暴力受けてるみたいなの」

その事実に俺は驚いた。

眞野は声を潜めながら話を続けた。


「暴力?DVってやつか?」

「うん。その上浮気もしてるみたいなの。最近はひどくなってきてるみたいで、あたし先週会ったんだけど顔に痣があったの。香奈はタンスにぶつけたって言ってたけど……」

「この間会った時にはアザなんてなかったぜ」

「そりゃそうよ。見えないところはひどいみたいなの」


眞野は俺の目を見て思い切ったように口を開けた。


「紘平……香奈を助けてあげて。会う度に傷が増えてる香奈がかわいそう」

そう言われて俺は困った。

「助けるったって……俺にはどうも出来ないよ。どうにかしたいけど。警察は?」

「ダメダメ警察は。何度も行ってるけど『実際被害が出ない限り対処できません』って言うばかりで何にもしてくれないから。被害届けは出してあるけど……」

「被害って実際出てるじゃないか」

「怪我して入院とかしないとダメってこと」

「んな余裕ねーだろ」

「現実はそうなの、警察ってそんなもんよ」


眞野の話を聞いて、あの時の香奈の笑顔が胸に刺さる。そんな状況にいたなんて、そんな事も微塵も見せずに笑ってた香奈。

そして何も知らずに笑ってた自分が情けない。



重い雰囲気でいると、相変わらず何の悩みもなさそうな正士がグラス片手に陽気にやってきた。


「お二人さーん、なに話してるの?」

「お前悩みなさそうでいいな」

正士は心外という顔で俺を見た。

「俺だって悩みは沢山あるさ」

「例えば?」

「地球温暖化防止には何が必要かとか世界の戦争はいつなくなるのか……おいっ待てよー」


そんな正士を置いて俺と眞野は席を立って賑やかな輪に入って行こうとした。

「ちょっ、ちょっとまてよ」

正士は俺と眞野の腕を引っ張り「実は彼女がコレで……」と腹の前で手を動かして大きなお腹を作った。


「マジで?!」

同時に叫んだ俺達をを見た正士は「相談にのってくれよ」と情けない顔と声で訴えた。






家に帰っても眞野から聞いた話が信じられなかった。


この間会った時、香奈は笑っていた。暴力を受けているなんて全く感じさせない笑顔だった。


高校の時の香奈を思い出し俺の心は暗くなり、顔も名前も知らない香奈の旦那に嫌悪感を抱いていた。



《女性が殴られている》


警察に一報が入り警察官が現場に急ぐ。


現場は騒然となっており野次馬がそれの周りを囲み、その奥からは男の怒鳴りつける声が聞こえる。


「どうなんだよ!言ってみろ、おい!」

女性の首を掴みながら頬を叩いている。


「やめろよ」

野次馬の数人が男を制止させようとすぐが、

「コイツは俺の嫁だ!自分の嫁を殴って何が悪い!」

と男達の手を振りほどき女性につかみかかろうとする。それを二人がかりで押さえつける。


男から離された女性は壁に背中をつけたままその場にズルズルと座り込んでしまった。


「おいお前!人の事ばっかり言いやがって、ふざけるな!お前なんかとは別れてやるよ、せいせいするよ!金なんか一銭も出さねーからな」


取り押さえられている男達の手をふりほどき、女性につかみかかろうとする男を男達はまた押さえつけた。

「香奈!覚えてろ!!」

そしてその手をふりほどくと、その男は夜の繁華街に消えた。



警察官が人を掻き分けて行くと男の姿はもうなく、座り込み泣いている香奈がいるだけだった。



至急駆けつけた婦人警官に支えられ香奈は到着した救急車に乗せられ病院へ向かった。



「殴った相手は知っている人?」

治療を受けながら香奈は事情聴取を受けた。


「はい……主人です」


婦人警官は顔を曇らせて香奈の顔を見た。

「以前相談したけど被害がでない限り手は出せないって……」


婦人警官はため息をついて謝った。

「ごめんなさい、警察は夫婦の問題には被害が出ないと介入出来なくて……」

ケガの治療と事情聴取を終えた香奈は自宅に帰されることになった。


「もう一度旦那さんとよく話し合ってみて」

自宅には夫の陽彦がいる。帰りたくない……。

しかし、そんな事は言っていられず帰り支度をして警察署の玄関に向かって歩いていると、先ほどの警察官が香奈を呼び止めた。


「今ね通報があったの。あなたのご近所の方から……」

香奈は言い知れぬ不安に顔を曇らせた。


「一緒に行きましょう」

警察官とパトカーに乗り自宅へ急いだ。



「何これ?ひどい……」

警察官も絶句する程の光景が目の前にあった。


家の前の道には香奈の持ち物が散乱していた。陽彦が家の中から投げつけたらしい。

香奈が使っていたマグカップやガラス製品は砕け散り無造作に投げつけられた洋服類の上に飛び散っていた。香水のビンも割れ周囲には甘ったるい濃厚な香りが周囲に漂っていた。


近所の家からはチラチラとこちらをうかがう人影が大勢いる。



「香奈ちゃん……」

近所の仲のよい60代のおばさんが声を掛けてきた。


「なんかねお宅の様子がおかしかったから警察へ電話しちゃったんだけど……ごめんなさいね」

「いえ、こちらこそご迷惑をお掛けしてしまって……申し訳ありません」


気丈にそう言う香奈の顔を見ておばさんは涙ぐみ、手で香奈の頬を撫でた。

「かわいそうに……ひどい事を。大丈夫?」

「……はい……朝までには片付けますので……ご迷惑をお掛けします」



散乱している荷物の中には下着もあり香奈はそれを一枚づつ拾っていった。

そばにいた婦人警官も一緒に荷物を拾い上げひとまとめにしてくれた。


その荷物の山の中、本に挟まれた一枚の紙がヒラヒラとしていた。陽彦の乱暴な字と判が押された離婚届だった。


「北島さん、ご自宅にご主人はいらっしゃるかしら?」

すっかり暗くなったにも関わらず、外灯すら点いていない家は明かり一つも見えなかった。車庫に停めてあった車もない。


「たぶんいないと思います」

香奈は暗い家を見上げてそう言った。


確認の為、家の中を簡単に調べたいという申し出に、香奈はカバンから鍵を取り出し玄関の鍵穴へ差し込もうとしたが、手が震えて上手く鍵が入らない。


「お願いしていいですか?」警官に鍵を渡し玄関を開けてもらった。


一通り家の中を見たが陽彦の姿はどこにもなかった。香奈が使っていたベッドのカバーははがされ、枕と一緒に大きなゴミ袋に入っていた。それどころか、香奈の持ち物全て、小さなアクセサリーまでもが家の中に一つもなかった。



玄関を閉めた香奈は、左手から指輪を外し鍵と一緒に丁寧にハンカチに包みポストの中へ置いた。




「身内の方に迎えにきてもらう?」

「両親とも今は海外なんです。身内は日本にいません」



一時間後、連絡を受けた晶子が迎えにきた。


「ごめんね……忙しいのに」

晶子は香奈の容姿を見て涙を流し「香奈のバカ!」と言いながら彼女を抱きしめた。「ごめんね」香奈は泣きながら晶子に謝った。




「はい……」

晶子は香奈を自分の部屋に連れてきて、温かいコーヒーを渡すと自分もカップに口を付けた。


「ありがとう」香奈はカップに口を付けてふーっと息をついた。


「おいしい」

笑顔でそう言うと晶子が笑った。

「よかった。香奈やっと笑顔になった」

晶子が笑うと香奈もつられて声を出して笑い出した。

「プッ……あははっ」


「こんなに笑ったの久しぶり」

香奈は目尻に光る涙を指で拭った。

「香奈には笑顔が一番似合うよ」

「こんな傷だらけの顔でも?」

「そうだよ。香奈の笑顔は素敵なんだよ」

「ありがとう晶子……迷惑掛けちゃったね」

「しばらくここにいなよ。安全策はとってあるから」

晶子が意味ありげに言うとチャイムが鳴った。


「あっ、丁度きたきた……」

晶子は立ち上がり玄関の戸を開けた。


「入ってよ、ほら〜」

「いや、でも……」

「何のために呼んだかわからないでしょ!!」


玄関からはなにやら晶子が誰かと押し問答している声が聞こえる。


「用心棒連れてきたよ」

晶子は誰かを引っ張って部屋に戻ってきた。

香奈が振り向くとそこにはスーツ姿の紘平が立っていた。


「町田くん?」

紘平は香奈の顔を見ると少し驚いた顔をしたが笑顔で「久しぶり」といった。


「ひどい顔でしょ?まあ座って」

香奈は笑って空いている席をポンと叩いて紘平を促した。


「あたし離婚したの」

紘平が座ると香奈が笑顔でそう言った。


「そうなんだ……」

なんて答えたらいいのかわからない俺は無難な答えしか口にできなかった。


しかし、以前会った時よりも顔が生き生きとしている。偶然街で会った時も確かに香奈は笑顔だったが、何かに怯えているような少し神経質な顔だったのを覚えている。


そして瞳の色。

今は高校の時と変わらない綺麗な薄緑色の瞳に戻っていた。



「あたし結婚相手を見る目なかったな。最初は優しかったんだけどね」

香奈は吹っ切れたように笑って言った。


「で、町田くんは?」

「え?俺?」

「可愛い彼女とラブラブ?」「そんなのいたらここにはこねーよ」

「そっか、そりゃ失礼しました」

香奈は自分の事でこの場が暗くなるのを避けるようにことさら明るく振る舞っていた。


「はい紘平も」

晶子が紘平にもコーヒーを渡した。

「サンキュー」

「今日は二人ともここに泊まってもらうからね。香奈は身の安全の為、紘平はその用心棒として。あたしと香奈はあたしの部屋で、あんたはここで」

晶子はソファーを指差してそう宣言した。


「え?俺もかよ……何も持ってきてねーぞ。スーツで寝ろと?」

「男のくせになにが必要なの?それに誰が寝ていいっていった?用心棒はずっと起きてるもんでしょ?」


「お前相変わらず人使いあらいよな」


「こんないい女二人を護れるなんて光栄だと思わない?ねえ香奈?」


「ねえ」

香奈は晶子と顔を合わせて笑うと紘平の方を向いて「町田くんお願いね」

とにこっり笑った。


その笑顔に高校生の時の香奈の顔が重なりドキッとしてしまった。


「あ、ああ……しょうがないな」

それを見透かされないよう、意味もなく顎に手を添えながら目を逸らせて言った。


「ちょっと、なんであたしが頼むとだめで香奈が頼むと二つ返事でOKなのよ!」

紘平の返事に晶子は目をつり上げて猛抗議した。


「ねえ晶子…彼氏には言ったの?」

香奈は紘平に食ってかかっている晶子に訪ねた。


「え?彼氏いたら紘平泊めないってば!まあ、紘平泊めたところで間違いが起こることは皆無だし」


「俺、そんなに魅力ない?」

その言葉に二人は笑った。


三人は近くの量販店で必要なものを簡単に購入し、夜遅くまで思い出話に花を咲かせていた。







ガタンと音がして俺は目を覚ました。


やべっ…寝ちまってた。


まぁ眞野も本気で『寝るな』と言った訳じゃないし、別に寝て怒られる事はないのだが……。

一応二人いや、一人を護る為にここに呼ばれたのだから、それなりに仕事?をしておかないと後で何を言われる事やら……。


うーんと思いっきり腕を伸ばして眠気を追い払う。


コーヒーでも貰うかな……。勝手に飲んでいいと言われたので頂く事にしよう。


小さなキッチンへ行きコーヒーを飲んで一息していると、またガタンと音がした。


なんだ?


恐る恐る音のした方へ歩み寄ると、突然ドアが開き不覚にも俺は叫びそうになってしまった。


「キャッ」

ドアを開けた香奈が俺に驚いて声をあげた。

「紘平?」

「なんだ香奈か……ビビらせんなよ。どうした?」

「眠れなくて」

「コーヒー飲むか?」

「うん」

もう一つコーヒーを淹れるとマグカップを香奈に渡した。


俺達はいつの間にか付き合っていた頃のように、お互いを名前で呼び合っていた。そして当たり障りのない話しをしながらコーヒーを飲み干した。


「まだ夜中だしもう一度寝れば?俺は一応起きてるよ」

一応を強調し香奈からマグカップを受け取りシンクに置きに行った。


「おやすみ……」

後ろでパタンとドアがしまった。俺が振り返ると香奈はまだ室内にいて閉めたドアに背を向け立っていた。

すると俺に向かって歩いてくると抱きついた。



「紘平……」


「香奈?」

俺は抱きついてくる香奈を拒むことが出来なかった。

高校生の頃から比べるとだいぶ大人びた香奈、夫の暴力でだいぶ痩せ、そしてその悪夢から解放された香奈。

久しぶりに香奈の声で名前を呼ばれあの頃の気持ちが蘇ってきた。本当の俺の気持ちが。


今、目の前にいるのはまぶたは腫れ唇は切れている香奈。首には絞められた痕が生々しい。しかし、そんな事は全く気にならなかった。


俺は何も言わずに香奈を抱きしめキスをした。香奈もそれを拒まなかった。

何度も何度もキスを重ね、口の中にはまたコーヒーの香りが広がった。


俺達は一緒にソファーに座り一枚の毛布をかけると、香奈は俺の肩に頭を乗せて「このまま寝ていい?」と聞いてきた。

俺は何も言わず香奈の体を引き寄せて肩を抱いた。


「ありがとう紘平」

香奈は目をつむってすぐに眠った。





翌朝、目の覚めた晶子は狭いソファーで身を寄せ合って寝ている二人をみてため息をついて笑うと、寝ている二人を起こさないように静かに部屋へ戻った。



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