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第六話 襲撃【前編】

久しぶりの更新です─まずは更新遅れてすみません!!

しかし、作者としてのテクニック等を学びました。


それではお楽しみを。

「ミシェーラ、一つ頼まれてほしいことがあるのだが、構わないかね?」


「私に選択の余地は無いでしょう。我が主」


やたらと豪奢な部屋を掃除していた最中、メイド服姿の女…ミシェーラ・ドッグウッドは彼女の主人である『情報屋』に突然声をかけられた。


「何、あまり難しい仕事を頼む気は無い。ある情報を星府軍司令官殿にリークしてくれれば良い」


「充分難しい仕事ですね」


「君は幾多の候補者を押し退けて、僕が後継者に選んだんだ。この程度、鼻歌混じりでこなしてくれなくては困る」


「…分かりました、我が主。必ずや期待に答えて見せましょう」


ミシェーラはそう言って、部屋を退出した。


「まったく、彼女はいつもせっかちだね。君もそう思わないかい」




「クローディアの〝片割れ〟君」

NEST本部HS格納庫。そこで機体の整備をしていたミキヤにフェーンが話しかけてきた。


「よう、ミキヤ。最近調子はどうだ」


「フェーン、ですか。何の用です?」


「いや、お前最近元気無いからな。怪我したのも元はと言えば俺の見立てが甘かったせいだしな」


そのままフェーンは持っていた缶コーヒーを差しだし、自分はいちごミルクの缶をあける。


「フェーン、それ…」


「ああ、俺の大好物だが。何か?」


「いえ、少し気になっただけで…」


まあ座れ、とフェーンは近くのコンテナに腰かける。

ちなみに宇宙空間に存在するNESTの本拠地の格納庫内は作業の利便性を高めるため重力が弱めに設定されている。


そのままミキヤもフェーンが腰かけたコンテナまで飛び上がる。


「それで、どうだった?イリスの話は」


フェーンの問いにミキヤは一瞬返答に詰まる。


「…何の事です?」


やっとの思いで導きだした返答は、


「いや、お前に嫌われたんじゃないかってイリスに相談されたからな」


「そんなこと…!!」


「分かってるさ。そんなことはあり得ないってのは」


だけどな、フェーンは付け加える。


「今のお前の態度を見てたら誤解されても仕方がないぞ」


「わかってます!!わかってるんですけど…」


「それにな、お前はもう少しイリスの気持ちを考えろ。『待ってるしかない』ってのは存外キツいんだぜ」


ましてやその相手が自分の大切なヒトならばな、フェーンはそう締めくくる。


「まあ、俺としてはイリスを戦場に出すことはしたくない。理由はわかってるな?」


「…NESTにも体裁があるって事ですか?」


「そうだ。アンドロイドを救う理由が自らの戦力増強のためだと思われたくは無いからな」


一息吐いてフェーンは更に続ける。


「とは言え、イリスの意志は尊重されるべきだ。それも分かるだろう?」


「そうですけど!!」


「なら、少なくとももう一度話し合え。まあ、機体は余っているし、お前のエルフは大破したしな」


「…考えておきます」


それで良い、フェーンはそう言って格納庫を後にした。


フェーンに言われた事を反芻してみる。


そして、自分の考えと擦り合わせる。


やはり自分はもう二度とイリスを戦場に戻したくない。


フェーンもクロも、多分トーンもそう思っているだろう。


『待ってるしかないってのは存外キツいんだぜ』


フェーンの言葉が胸に突き刺さる。


そう言えばフェーンにもそんな経験があるのだろうか。


そんな事を現実逃避半分に考える。


よく考えたら自分はフェーンの過去を何一つ知らない。


「っ…」


ミキヤはそれは今考える事では無いと首を振る。


そんな時だった。


「ミキヤ…?」


いきなりイリスに声をかけられた。


「えーと、イリスさん?何でここに?」


ミキヤはそう尋ねる。


「クロさんにここの作業員さん達に差し入れを持ってって、て言われて…その帰りです」


そう言ってイリスはミキヤの隣に座る。


「あの…すみません」


「何で謝るんですか?」


ミキヤの問いに、イリスは


「あの、この前の事です。やっぱり私なんかがPAだなんて、ミキヤも嫌ですよね」


「そんなこと無いですよ!!僕はもう二度とイリスさんを戦場に出したく無いって何度言えば─」


「でも、それなら何でミキヤは戦場に行くんですか!この前なんて、後ちょっと間違えば死んでいたじゃ無いですか!!」


イリスの強い口調にミキヤは圧倒される。


「私が、私がどれだけ心配したか、ミキヤに分かるんですか!?」


そこまで言ってしまってからイリスはハッとなる。


「あの…イリスさん」


「…何でしょう、ミキヤ」


「この前の事は本当にすいません」


突然の謝罪にイリスはあたふたとする。


「でも、僕は…」


そこまで言った時だった。


突如、強大な揺れが二人を襲ったのは。



時間は少し、遡る。


星府軍総司令、ロベルト・グラスに突然星府高官用緊急回線にて、連絡が入ったのだ。


「何があった」


ロベルトは通信相手に問いかける。


「あなたがロベルト・グラス総司令ですね?」


受話器から聞こえてきたのは想像に反して、若い女性の声だった。


「貴様…何者だ?何故星府緊急回線を使用できる?」

ロベルトの疑問は最もだ。この回線を利用できるのは星府内でもロベルト自身を含め、一握りしかいない。


そして、その中に若い女性はいないのだ。


「そうですね…。私は『情報屋』と名乗っておきましょう」


「『情報屋』だと?それが何故この回線を使用できる?」



「それは我々の実力の証明であると考えてください。ああ、私の正体を探ろうなんて事は考えない方が賢明ですよ」


若い女性の声はそう言って、


「私の目的はあなたに我々の新たな顧客になっていただくコト。ついこの間我々の顧客が一人死亡しまして、ちょうど会員に一人分の空きがあるのですよ」


「…ふん、斯様な物言い、信用出来ると思うか?」


「出来ません。少なくとも私は絶対に信用しません」


ロベルトの皮肉に女性はあっさり答える。


「しかし、私としても元より言葉であなたの信頼を勝ち取るつもりはありません。私は〝本業〟…『情報屋』としてのですが…の方であなたの信頼を勝ち取らせて頂こうと思っております」


そう言って女性は、


「欲しくないですか?例えばNEST本拠地の情報など、何なら偵察部隊でも派遣してみれば良いと思いますが」


「ロベルト総司令。もう少しで作戦宙域に到達します。ノーマルスーツに着替えてください」


星府軍旗艦『ゴールドアップル』


食した者は不死になるという伝説の林檎の名前を冠した戦艦は、艦隊を率いてNEST本拠地に進軍していた。


「お前がノーマルスーツを着てないなんて、珍しいな」


ミストルティンのギルベルトから通信が入る。


今回の作戦にあたってロベルトは可能な限りの戦艦とHSを用意した。


その内分けは、


ロベルト自身が独自権限で動員出来る戦艦10隻


ロベルトの呼び掛けに応えた艦隊の戦艦10隻


計20隻の戦艦に加え、戦艦一つにつき10機ずつのHS


更にその内の10機はドールタイプと言う力の入れようだ。


「しっかし、お前どこでそんな情報手に入れたんだ?」


ギルベルトの言葉を聞いて、『情報屋』の言葉を思い出す。


『ああ、この情報をどこから手に入れたとか聞かれても決して私たちの名前を出さないようにしてください』


「すまんな、その質問には答えられんのだ」


「かっ、高官様の機密って奴ですか?」


「茶化すなギルベルト。

それより、そちらのバルドルの準備は出来ているな?今回の作戦の要はバルドルとクレバーにあるのだからな」


そこまで言ってからロベルトはこの作戦を発案するに至った経緯を思い出す。


『情報屋』を名乗る女性が開示した宙域ポイント。


そこにNESTの本拠地があると『情報屋』の女性は言っていた。


疑い半分のまま、ロベルトはミストルティンに宙域ポイントの偵察を命じた。


専用回線である高官用緊急回線でコンタクトをとってきた辺り、単なるいたずらと切り捨てる事は出来なかったのだ。


結果、カインツがルキナのDsである短期未来予想の応用でNESTの施設とおぼしき小惑星に偽造された基地を発見したのだ。


「それでは、我々はテロリスト集団『NEST』の討伐を開始する。総員、配置につけ!」


ロベルトの言葉で艦隊全員が動きだす。


「作戦の第一段階を実行する。各艦、主砲装填!!」


艦隊が主砲を放つ準備をする。


「撃てぇ!!」


幾本もの巨大な光条が、小惑星に向かって放たれた。


ミストルティンHS用ドック


バルドルのコクピット内でティモシーとクレバーは緊張していた。


「ね、ねぇ、ティム。大丈夫?き、き、き緊張してない?」


「あ、安心しろ、く、クレバー。せ、戦場にでればやることは、い、いつもとか、変わらない」


「かんっぜんに緊張してるな二人とも」


通信でギルバが会話に割り込んできた。


「まあ、お前らにとって初めてのでかい戦いだけどな、カインツとルキナを見てみろ。落ち着いているぞ」







カインツの方を見た。


「なぁ、ルキナ。次のイベントではこれ着てくんない?」


「これは…、成る程ビキニタイプバトルアーマー装備型スーパーアンドロイド版ももえちゃんの衣装ですか。さすがカインツ様」


「だろ?」


「しかし、私はこちらの…」






「あれは落ち着いてるんじゃなくて現実逃避って言うんですよ!隊長!!」


ティモシーのツッコミに、


「それでもガチガチのお前らよりはマシだ。そんなんじゃすぐに落とされて死ぬぞ」


そう言ってギルバは両手を組んで目を瞑る。


「隊長、それは…」


「瞑想って言いますのよ。緊張している時などに効果的ですわ」


リリーが説明してくれる。


「そうなんですか…。やり方教えてもらっても良いですか?」


ティモシーの言葉にリリーは、


「わかりましたわ。まぁ、目を瞑って雑念を捨てるだけなのですが」


そのままリリーも目を瞑る。


ティモシーとクレバーもそれを真似してみる。


少し落ち着いてきた。



揺れが収まりミキヤは周囲の状況を把握しようとする。


すると、フェーンの声が全館放送で聞こえてきた。


「全軍に通達。我々は今、星府の艦隊から攻撃を受けている。オペレーターは全員司令室に集合。パイロットはそれぞれの機体で待機。いつでも出れるようにしておけ」


最後に俺も出る、と付け加えてフェーンは放送を終了する。


「あ、ミキヤさん!」


ドックにやって来た広次がミキヤに声をかける。


「広次、僕はイリスさんを安全な所に送ってから機体に行く」


「了解しました」


そう言って、広次はシノビに乗り込む。


「さ、行きましょう。イリスさん」


ミキヤはそう言ってイリスの手をとる。


そのままミキヤはイリスを連れてシェルターに向かった。


「撃ち方、やめ!!」


ロベルトの指示に全ての艦が主砲の発射をやめる。


「HS部隊は白兵戦の用意!」


そこまで指示を出してから、ロベルトは違和感を感じた。


『何故HSが出てこない?』


ロベルトの疑問は当然だ。NESTの戦力で最も恐ろしいのは卓越した実力を持つHS部隊だからだ。


それを警戒して今回の作戦は出来るだけ多くのHSを動員した。


しかし、それにしてはNESTはまだHSを出してすらいない。


「何のつもりだ?NEST」


ロベルトの疑問はこの後すぐに氷解する事となった。


「しっ司令!!大変です!!

小惑星がっ…!!」


ロベルトは見た。


小惑星の表面に幾筋もの亀裂が入り、岩盤が弾け飛んだのを。


そして、小惑星の中から現れた巨大な艦を。


時間は少々遡る。


司令室から通信を終えたフェーンはそのまま司令官席を立ち、


「オペレータースタッフ!!今回は〝ヨルムンガンド〟の初披露だ!!」


「「「「「「「了解!!」」」」」」」


「偽装用岩盤、パージ!!」


岩盤が弾け飛ぶ。


「光学迷彩、解除!!」


光学迷彩が解除され、艦の全貌があらわになる。


その全貌は、正に世界蛇(ヨルムンガンド)と呼ぶに相応しい。


小型のコロニーほどもある大きさに無数の砲台。


主砲はコロニーレーザークラスの威力を持つ。


「俺はスルトに行く。ここの指揮はリル、お前に任せる」


「了解です。兄さん、戦果を期待しています」


そう言ってフェーンは司令室を後にした。


「これより全体の指揮はヨルムンガンド艦長であるこの私、リル・マクスウェルが執る!!各員、気を引き締めろ!!」


「な、何なんですか!?アレは!!」


ティモシーは思わず叫びをあげる。


そのまま巨大な艦…ヨルムンガンドはシールドユニットを展開、防備を張り巡らせた。


そして、ヨルムンガンド内からHS部隊が出撃した。


「ティモシー、クレバー、カインツ、ルキナ。行くぞ。目標はあのバカでかい艦を沈黙させることだ」


対して落ち着いているのはギルバだ。


「ギルバ隊長は、落ち着いてるんだね」


クレバーが呆れ半分に言う。


「あの程度の奇策はラグナロクで見飽きている。今さら驚く程の事では無い」


「あれを見飽きているんですか…」


カインツはかつての戦乱の滅茶苦茶さに呆れ返る。


「さて、緊張は解けたかな」


ギルバが言ってティモシー達はハッとする。


気付けばついさっきまで緊張でガチガチだった体がいつの間にかほぐれていた。


「…隊長、心遣い感謝します」


ティモシーはギルバに礼を言う。


「何、それで部下が生き残るなら安いものだ」


ギルバはそう言って笑う。


「ミストルティンドールタイプHS部隊、出撃してください」


オペレーターの声が聞こえる。


「了解した!ティモシー、カインツ、PAの生死はお前らの腕にかかっている!!

故に命令だ!」


そう言ってギルバは深呼吸する。


「全員、生きて帰れ!!」


「「ティモシー&クレバーペア、了解しました(したよ)」」


「「カインツ&ルキナペア、了解しました」」


「分かれば良い!!全員、出撃!!」



「フェーン!星府軍がHS部隊を展開したよ!」


「了解した、クロ」


スルトのコクピット内でフェーンはNESTのHS部隊に指示を出す。


「HS部隊に告ぐ。これよりヨルムンガンドは量子テレポーターを起動させ、量子テレポートの体勢に入る。我々の目標はそれまでの時間稼ぎとなる」


フェーンの言葉が艦内放送で響き渡る。


「作戦の第一段階は俺とクロが敵を引き付ける。すまないが援護を頼みたい」


そう言ってフェーンはスルトをカタパルトに乗せる。


「フェーン&クロペア、スルト。出撃する!!」


「っ、あのドールは!!」


ティモシーがスルトを見て声をあげる。


「第26資源採掘基地を襲撃した黒いドール。多分、私と同じDsのコピー能力を持ってる」


「っ隊長!あいつの相手は俺とクレバーにやらせてください!他のドールには荷が重すぎます!!」


言ってティモシーはバルドルをスルトに向き合わせる。


「元よりそのつもりだ。命令は忘れるなよ」


「「わかっています(るよ)!」」


そう言ってティモシーはバルドルの空間制御機能を起動。二門の大型ビームカノンを取り出す。


「ティム、多分当たらないよ?」


「わかってる。これは牽制のつも─」


そこまで言った時だった。


突如、全周波回線で通信が入った。


『星府軍の諸君!!』


『星府軍の諸君、聞こえているかね!!

私の名はフェーン・マクスウェル。

シド・マクスウェルの息子にして、NESTの長だ』


突如、全周波回線で流れた敵の言葉に星府軍は思わず聞き入る。


『諸君らには残念な事だが、我々はここで潰えるわけにはいかない』


故に、と男─フェーンの声が続く。


『諸君らを撃ち破らせていただく!!』


そう言って黒いドールタイプHSは大剣─レイヴァテインを構える。


『さあ、私を討ち取って手柄をあげるのはどこの誰かな?』


この台詞が終わるか終わらないかの内、ティモシーは二門の巨砲を漆黒のドール─スルトに撃ち放った。



予想通り、漆黒のドール─スルトはやすやすとビームを回避、そのまま白銀のドール─バルドルに接近する。


「フェーン、この感じ!」


「ティム!なんか変な感じがする!!」


クロとクレバーが不思議な感覚をお互いのオーナーに訴える。


「わかってる!この相手は─」


「予想はしていた!この相手は─」




「「俺たちと同属だ!!」」





そのままスルトはレイヴァテインを変形させ、剣砲形態…レイヴァテイン・カノンにする。


そしてバルドルに砲撃を放つ。


バルドルはギリギリでこれを回避、両手の砲を手放す。


バルドルの手から離れた砲は空間制御機能により、すぐに消える。代わりにバルドルの手には二本の槍…母艦と同じ名を冠する…ミストルティンを両手に持つ。


そのまま右手の槍で刺突を繰り出すが、すでに大剣に変じていたレイヴァテインに弾き飛ばされる。


しかし、残った左手の槍でスルトを殴打し、そのまま


「Ds発動!ミラージュ」










フェーンはスルトのコクピットの中でバルドルが三体に分裂するのを見た。


「クロ、Ds発動。千里眼(クレアヴァイオンス)


フェーンはクロのDsを発動させ、本体を見極める。


と、同時に幻影の中にバスタービットが隠れている事に気づく。


レイヴァテインを分解し、ブレードビットを射出する。


「うそっ!」


クレバーは驚愕の声をあげる。


初見でこの技が破られたのは初めてだったのだ。


「スーパークレバーミラージュアタックが…」


「っ集中しろ!クレバー!!」


ダサい技名を口走った相方に叱責しつつ、ティモシーはスルトの接近を防ぐべくバスタービットを増やす。


と、二機のバスタービットを破壊したブレードビットがこちらに向かってくる。


バルドルはギリギリでそれを回避する。










「流石は特機と言うべき、か」


フェーンは攻撃を回避したバルドルにそう呟いた。


「多分、それだけじゃ無い」


クロはフェーンに言う。


「あのドール、オーナーとPAが心の底から信頼しあってる」


「要は?」

フェーンの求めに応じて、クロは実用的かつ極限まで簡略化する。


「シンクロ率がメチャクチャ高い!!」


なるほど、フェーンは呟いて機体をバルドルに向き合わせ構えをとる。


「長くなりそうだ」


「ディア君、この戦場を見て、何か思うことは無いかね?」


戦場からわずかに外れた宙域、そこに〝それ〟はいた。


「…私にそれを聞きますか?マスター」


〝それ〟はドールタイプのHSだった。


HSのオーナーはPAの反応に落胆したように、


「君はもう少し感情と言うものを理解しようと努めるべきだ。そうでなければいつまでたっても今のままだ」


オーナー…『情報屋』がそう言った時だった。


「マスター、ドールタイプHSの反応です。こちらに向かってきます」


その言葉が終わった直後、光波が『情報屋』の機体を襲う。










「すっげー、フェーンの読みがドンピシャだったぜ」


「何を言っている、ジャック。フェーン・マクスウェルは私たちの主なのだ。それくらい出来てもらわなければ困る」


アンジェはそう言って『情報屋』のドールに武瑠を向き合わせる。


そして、出撃前の会話を思い出す。










「アンジェ、お前に頼みたい事がある」


「どうした?フェーン。らしくないぞ」


「ジャック、お前は黙っていろ」


ジャックを黙らせて、アンジェはフェーンに問う。


「それで、私たちは何をすれば良い?」


助かる、フェーンはそう言って用件を伝える。


「この状況を仕組んだヤツがこの近くにいるハズだ。そいつを見つけ出して討ってほしい」

「…しかし、どこを探せば良い?宇宙空間に今回の戦域は広大だぞ?」


アンジェの疑問にフェーンは、


「それなら心配はいらない。大体の目星はついている」


言って座標データをアンジェに渡す。


「ヤツは恐らくそこにいる。そいつを倒せば星府の艦隊も撤収するはずだ」


「何故そう言い切れる?」


「…情報の流出元に心当たりがある。そいつの目的が俺の予想通りなら危険を侵してまではそこに居座らないハズだ」


そう言ってフェーンは


「本来は俺自らが行くべきだが…頼む」



そのドールは奇怪な姿をしていた。


色はスルトと同じ漆黒、武装を持っている気配は無いが、空間制御機能があるため油断はできない。


そして、何よりの特徴はその頭部だった。


髪の毛のようなコード?が無数にはえているのだ。


「マスター、あのドールタイプHSが…」


「そう、アレが武瑠。ミシェーラの姉アンジェレネの機体だ」


そのコクピットの中、『情報屋』とそのPA─ディアはまるで世間話をするような口調で会話している。


先ほどの光波を難なくかわし、その後も放たれ続ける光波や斬撃をかわし続ける。


それほどの超絶技巧をこなしている。










「アンジェ、あれを倒せばとりあえずこの状況を乗りきれるんだな?」


「フェーンの予想が正しいならな」


戦域から離れた宙域で、もう一つの戦いが始まった。シェルターにたどり着いたミキヤはイリスにその中に入るように言う。


「取り敢えず、そこにいれば当分の間は安全です」


そう言って、ミキヤは自分の機体に向かうべく走りだそうとする。


「待って!!」


走りだそうとするミキヤの手をイリスが掴む。


「イリスさん?」


イリスの手が震えている事に気がついたミキヤは足を止める。


「行っちゃ…嫌です」


懇願するようにイリスが言う。


「イリスさん…」


「行っちゃ、嫌です!!何でミキヤが戦わないといけないんですか!!、戦える人ならフェーンさんやクロさんや、アンジェさんやジャックさんに、他にもいるじゃないですか!!なのに、何でミキヤが…」


そう言ってイリスは泣き崩れる。


ミキヤはそれを見て、


「…戦わなければ、守ることも、勝ち取ることも、出来ないからですよ」


それが、ミキヤのだした結論だった。


かつて、イリスを守りきる事が出来なかった。


そのせいでイリスは地獄のような環境に4年も置かれる事になった。


「だから、僕は戦うんです」


そして、かつての自分はイリスを勝ち取る事が出来なかった。


歪んでいると自分でもわかる。


否、その自覚は星府の軍人になった時にすでに出来ていた。


そして、ミキヤは理解している。


この歪みこそが今まで自分に力を与えてきたのだと。


「でも、そんなのって…」


イリスは食い下がる。ここでミキヤを行かせてしまえば本当に、もう二度と戻って来ないような気がしたからだ。


「だから、僕からのお願いです」


そう言って、ミキヤは震えを止めるよう、イリスを抱きしめる。


「僕の…力になってくれませんか?」



第6話 完

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