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狼王の1人娘  作者: 月ノ輪球磨


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1/1

1人娘の従者

 狼王フェンリル、黒い毛並みに金色の瞳をした巨大な狼にして、魔王を喰らい地上最強の存在となった大狼。

 狼王の底知れない力を恐れた天上の神々は、薄い桜色の髪をした美しい女神、女神ミラを狼王に当てがった。

 女神ミラは運命の女神、狼王の運命を操り天上に上げないようにする為に地上に送られた生贄だった。

 しかし、女神ミラは天上の神々が想像もつかなかった方法で地上に縛る事に成功した。

 その方法とは、狼王の子を身籠るというものだった。

 女神ミラは狼王は神喰らいとされているため、権能が効かない事を前提に、話し合いや行動によって狼王の心を溶かし、恋仲になり、子を身籠った。

 それにより狼王はかつての魔王の城を定住の地と定め、女神ミラと今も仲睦まじく暮らしている。

 それがアレフ王国に伝わる伝説である。





 現在、魔王城は『狼王城』と名前を変え、その周囲に広がる広大な森は『魔狼の森』と呼ばれ、入った者は生きて出られない禁足地として扱われている。

 そのため、魔狼の森は冒険者協会によって定期的に調査が行われている。


「ハァ……ハァ……」


 長い黒髪に赤い瞳をした女性は、森に棲む青い炎の立髪を持った狼『ヘルウルフ』の群れに追いかけ回されていた。

 その女性は『リンネ』、協会からこの森の調査に派遣された冒険者である。

 リンネは逃げながら剣を払い、1匹ずつ着実にヘルウルフを倒して行く。


「あと何匹いるの……」


 リンネが振り返ると、ヘルウルフは飛びついて来ており、剣で防いだものの押し倒されてしまう。

 倒れた瞬間、ヘルウルフはリンネに群がって両腕に噛み付いて剣を振れない状態にして全身に噛み付く。


「離して!!やめて!!」


 そんな断末魔が森の中に響くが、森にいるのは脅威度の高い魔物のみ。助けるものなどいるはずがなかった。

 ヘルウルフに四肢を噛み砕かれ、もはや抵抗する事すら出来なくなった時、ヘルウルフの1匹がリンネの喉に噛み付く。

 死の恐怖に支配されたその時、小さな少女が視界の端に映る。


「逃げて!」


 自らの死を前に咄嗟に叫んだ言葉は少女の身を案ずるものだった。そして、そこで首から骨がへし折れる音が聞こえてきて意識を失った。







 目を覚ますとそこは見知らぬベッドの天蓋だった。


「あ、起きた!」


 それは最後に見かけた、黒いウルフヘアに桜色のメッシュが入った、狼の耳と尻尾がある少女だった。


「……死後の世界」


 あの状況でこの少女が生き延びた可能性は極めて低い。自分もほぼ確実に死んだであろう状態だったため、そう判断した。


「死んでないよ?」


 リンネは身体を起こし、辺りを見渡す。

 その部屋はどこかの宮殿の一室のようで、窓の向こうには魔狼の森と思しき森が広がっていた。

 それでようやくその場所が狼王城である事が分かり、生き延びた安堵から少女を抱きしめる。

 少女は嬉しそうに抱きしめ返す。

 それからリンネは少女を離し、自分の状態を確認する。

 リンネが着ていた鎧は砕けて無くなっており、手足の付け根から服も消えており、腹部にも大きな穴が空いていた。そして、それらの服の端は赤く染まっており、そこが食い千切られた跡なのだと如実に表していた。

 ほとんど死んでいた事を再確認し、強い吐き気で口を抑える。


「大丈夫?」

「大丈夫だよ」


 リンネは少女の頭を撫で、自分の気を落ち着かせる。

 どうやら少女はスキンシップが好きなようで、撫でられて喜んでいた。


「どうして、私達はこの城にいるの?」

「ワンちゃん達にほとんど食べられちゃってたんだけど、ママが回復させたら生き返ったから、お家に連れて来たの」

「ワンちゃん……」


 ヘルウルフは厳密には狼ではない。凶暴で群で狩りを行うものの、雑食性で骨格もどちらかと言うと犬の方が近い。ただ群で襲ってくる狼のような見た目をしているから狼と呼ばれているだけの犬である。


「ん?お家?」

「うん!あ、そういえばパパが起きたら連れて来てって言ってた」


 リンネはとてつもなく嫌な予感がしたものの、逃げ出そうにも外は魔狼の森、装備を失った今の状態で外に出ればさっきの二の舞になるのは確実だった。

 どうせ殺されるならば確率が低い方を、というわけで少女について行く事にした。






 少女に連れて行かれたのは城の中心部となる大広間、そこには体高50mにもなる巨大な黒い狼が寝そべっていた。

 その狼こそ、伝説に登場する狼王フェンリルだった。


「連れて来たよ!」

「そうか、では遊んで来ると良い」

「うん!行って来まーす!」

「あ、ちょっ!?」


 少女が遊びに出て行ってしまい、リンネは一気に心細くなる。


「我が名はフェンリル、あの子の父親だ」

「父親……!?」


 確かに伝説では女神ミラは狼王フェンリルの子を身籠っていたし、あの少女にはハーフウルフの特徴である人間的な外見に狼の特徴を併せ持っていた。


「愚かな事だ。この森に普通のハーフウルフの子供がいる訳がなかろう」


 この森は冒険者であっても許可無く入る事が許されない禁足地、小さな子供がいる方がおかしいのはリンネでも分かっていた。


「貴様は何の目的でこの森に来た」

「……協会の依頼で森の調査をしに来ました」

「マリーの存在を知った貴様を生かして返す事訳にはいかなくなったな」


 狼王は初めから生かして返すつもりなどなかったのだ。

 先ほどの少女が『マリー』という狼王と女神の子供だと言う事は狼王から聞いた。そしてその事を知った者を生かして帰さない。殺す口実を自ら作っている。

 リンネはどちらにしても殺されるならば、あそこで死んでいれば良かったと生き返った事を後悔した。

 何度も死を体験などしたいはずもない。


「だが、貴様はあの子が初めて見た人間、相当気に入ったらしい。ゆえに、貴様にはマリーの従者になってもらう」

「従者?」


 瞬きをした瞬間、リンネの右腕は狼王によって喰い千切られた。しかし、次の瞬間には何事もなかったかの様に腕が回復していたが、右の手首には黒い鎖の模様が入っていた。


「こ、これは……」


 リンネが状況を理解する前に、狼王の頭上に光の門が現れ、そこから桜色の長い髪と瞳をした美しい女性が現れ、足を踏み外して狼王の頭に落ちる。


「もっとマシな登場の仕方を出来んのか。お前がカッコよく登場したいと言ったのだろうが」

「失敗しちゃった……。もう一回!」

「もういいわ、たわけ」


 その女性はプンスコと分かりやすく不満があるような顔をしつつ、狼王の頭から降りてリンネの所まで歩いて来る。


「私はミラ、マリーのお母さんよ。それで早速なんだけど左手出して?」


 リンネが恐る恐る左腕を差し出すと、ミラはリンネの左手首に触れる。すると、左手首に白い二重螺旋の模様が現れる。


「こ、これは一体……」

「捕食の呪いと永劫の呪い。マリーを裏切ったり、危害を加えたら、魔狼に全身を喰い千切られるけど、絶対に死ぬ事が出来なくなる。裏切ったかどうかの裁量はフェンが決めるわ」


 リンネは絶望したが、それと同時に微かな希望も見出していた。

 少なくとも、今すぐ殺される事はないし、マリーを裏切ったりしなければ良いだけの話なのだから、生きられる可能性を与え。


「あの子の、従者をすれば私は生きられる?」

「そうね。それで、あの子を守ろうにも貴女はとても弱いじゃない?だからここからが本命。その2つの呪いは恩寵でもあるの」

「え?」


 2つの呪いは発動する前は『狼王の恩寵』と『女神の恩寵』という2つの恩寵となる。

 狼王の恩寵は、狼王フェンリルが持つ一部のスキルの取得と全てのステータス向上。

 女神の恩寵は、女神ミラが持つ一部のスキルの取得と自然治癒力向上と回復限界突破。


「フェンの方は戦う力、私の方は癒す力って覚えておけばオッケーよ!」

「良いわけなかろう」


 狼王は女神の恩寵に含まれているスキルの中に『神眼』と言うものがあり、それを使えば自分のステータスの確認、見た対象のステータスの確認などが出来る。当然神が持つスキルなので妨害は不可能。

 それを使い、自分でどんなスキルを得たのかを確認する様に狼王に言われる。

 その時点で狼王は確かに恐ろしい存在だが、割としっかりしている。それに反して女神は優しいが所々で雑で、リンネが持っていたイメージと少し違っていた。


「このたわけが言い損ねたが、その呪いはマリーからの好感度が一定以下になっても発動する。精々加減を損ねないように気を付けるが良い」


 リンネは何故そんな大事な事を言わなかったのかとミラの方を見るが、ミラは笑顔でどうしたのかと首を傾げていた。それほど大事な事だと思っていなかったらしい。

 呪いの発動基準が狼王の裁量なのは、女神ミラにはこういう所があるからなのかと納得したリンネだった。


「スキル内容はマリーが帰ってくる前に確認しておけ。呪いの発動基準も見れるはずだ」

「結局フェンの方が世話を焼いてるわよね」

「お前が大雑把過ぎるのだ」


 女神ミラは狼王の下唇を引っ張って抗議するが、狼王はそのまま女神ミラの上半身を咥え、左右に振り回して壁に叩きつけ、女神ミラは動かなくなった。

 それから狼王は青い炎に包まれ、黒髪金眼の若い男性の姿に変わる。


「貴様の部屋に案内してやる」

「……」

「本来の姿でどうやってこんな場所で暮らすと思っているのだ、たわけ。本来の姿の方が楽なのは事実だがな」

「えっと、女神様は」

「放っておけ、いつものことだ」


 リンネはそういう家庭なのかと納得する事にした。





 狼王に城の案内をしてもらい、マリーの部屋の隣にリンネの部屋があてがわれた。

 ドレスや靴などの貴族然とした服装だけでなく、従者らしいメイド服、冒険者としての装備なども完備されていた。


「ドレス?」

「我等は別にここにずっと引きこもってる訳ではない」


 狼王は人の姿となり、アレフ王国の王家が主催するパーティに行ったり行かなかったりするらしい。

 王家は狼王の存在を知っているし、連絡手段も持っているのだ。


「王家にとってこの城や我の事は国家機密、貴様がこの事を知ったと分かれば、消しにかかるだろうな」

「そ、そんな」

「だが、王家主催のパーティにはマリーも行った事がある。マリーの従者だと分かれば何も出来まい」


 狼王と王家の間にはある盟約が結ばれている。

 狼王はアレフ王国を攻撃しない、王家は狼王に貢物を贈る。その盟約は狼王から結ばれたもので、アレフ王国の王家が狼王やその家族をパーティに招待するのは、狼王と王家の間で結ばれた盟約に対するせめてもの感謝の気持ちからだった。


「案内は終わりだ。あの子か帰ってくるまでは自由にしているが良い」


 そう言って狼王は青い炎の中に消えて行く。


「た、助かった……」


 リンネは膝から崩れ落ち、なんとか命を繋いだ事に安堵する。

 それと同時に、狼王が思ったよりも世話焼きで女神が大雑把、娘が天真爛漫で活発。思ったよりも普通の家族関係らしくてほっこりしていた。

【神眼による鑑定】

《名前》 リンネ・アイバーン

《性別》 女

《身長》 167cm

《体重》 57kg

《職業》 冒険者・マリーの従者

《等級》 ランク4

《好きな物》 肉系料理

《嫌いな物》 虫系魔物

《ステータス(恩寵込み)》 

・腕力5700

・魔力3900

・耐久4200

・俊敏7200

・治癒力8900

《スキル》

・捕食の呪い(マリーに敵対時、全身を魔狼に捕食される)

・狼王の恩寵(呪い発動前ならば狼王の一部スキルを獲得)

・狼王の権能(食べたモノの力を得る)

・狼王の威光(ステータス半分以下の魔物を即死)

・狼王の眼光(ステータス半分以下の相手を硬直)

・狼王の咆哮(味方の全てのステータスを10分間10倍)

・狼王の爪(攻撃した相手に回復不可状態付与)

・狼王の牙(全てのステータス100倍)

・永劫の呪い(マリーに敵対時、不死になる)

・女神の恩寵(呪い発動前ならば女神の一部スキルを獲得)

・女神の息吹(全回復&死亡から1時間以内ならば復活)

・女神の加護(一定以下の攻撃の無効化)

・女神の抱擁(永劫・捕食を除く全ての呪い無効化)

・女神の激励(全ての状態異常無効化)

・女神の癒し(自然回復力1000倍)

・女神の眼差し(回復限界突破)

・神眼(全ステータスの鑑定(妨害不可))

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