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壊れた初恋  作者: towa
2/2

後編

ラストです。



 ユリウスとマリアの関係も変わった。ケイシーと別れた日、マリアのいる公園に戻るユリウス。


 ユリウスはマリアの前では婚約者だとは言わなかった。きっとケイシーはマリアを思っての行動であると察した。



「ユリウス……あの子がケイシーちゃんよね」

「……」


 ユリウスは何も言わなかった。ユリウスの頭の中は先程のケイシーの泣き顔だけである。


 幼い頃から一緒のケイシー。自分の後を付いてくる可愛いケイシーと婚約できて嬉しかった事、一緒に手を繋ぎ未来を語ったケイシーを裏切った罪悪感と後悔がジクジクと心を蝕む。



 ケイシーとは幼馴染で……妹で……婚約者で……私の初恋で……私の……。



 マリアとは王都に来て右も左もわからない不安の中で出会ったクラスメイトである。明るく元気なマリアは人懐っこく王都の生活を楽しさに変えてくれた女性だった。最初は、自分に婚約者がいる事から一定の距離を保っていたのが変わったのは一年の夏休みに差し掛かった頃だ。


 毎日、友人らと共に学び一緒に帰る通学路でマリアは言った。

「王都は自由なのよ、恋愛だってね。今しかない時間を楽しく過ごした方がいいわ」


「ねぇ、故郷に恋人がいないならさ。私と恋人にならない?」


 マリアからの誘いにドキりとした。悪魔の誘惑だった。ケイシーは来年、王都に来る。それまでの間ならと迷いが生じる。


「僕には……婚約者がいる。来年、ここに来る予定なんだ」


「そう……それならさ。彼女が来るまでの間でもいいわ、真面目な貴方が困らないように女性の扱いを教えてあげるわ」



「いや、大丈夫だ」


 ユリウスは断るもマリアは諦めなかった。同じグループで課題をこなす日々、マリアにケイシーを重ねていた。王都に進学し始めての夏休みに故郷に帰るも課題の為に王都に戻らないといけない。ケイシーと過ごす時間は少なかった。冬休みが近くと友人らと遊ぶ事が楽しくなっていた自分がいた。


 マリアとは恋人ではなかった。しかし、周囲はそうは思っていなかった。マリアは積極的に自分に擦り寄ってくる。王都での友人関係を壊したくなかったのと1年間は同じグループで課題をこなす為にマリアとは行動を共にする必要があったのとマリアからの好意は素直に嬉しかった。何より王都の煌びやかな雰囲気とクラスメイト達に溶け込めなった自分と王都の男らに囲まれて困っている所を救いだしてくれた。マリアには感謝していたのだ。



 2年生となるとマリアとは課題のグループが変わり安心した。ケイシーとの未来の為に勉学に励んでいた。6月はケイシーの誕生日だ。ユリウスは街でケイシーの誕生日プレゼントを探していた。そこで偶然、友人らと出会った。その中にはマリアもいた。友人らはおすすめのアクセサリー屋を紹介してくれた。そこで見つけたブローチは細やかな細工が綺麗であった。迷いながらもケイシーの事を思いながら選ぶ。昔から変わらない自分のアイスブルーの色を選んだ。


 




「ユリウス?」



 突然の声に驚くのだった。

「マリア……どういう事だ?」

 静かに尋ねる。

 

「何が? ケイシーちゃんは貴方を好きだったのね。とても悲しそうな顔をしていたわ。それなのに私は彼女に自分とユリウスが選んだブローチを……酷い事をしたわ」


 

「マリア……違うだろ。俺は……俺が選んだのはアイスブルーのブローチだ。何故、ケイシーは違う色のブローチを? あれはお前が自分で購入したブローチだろ」



「……店員が間違えたのかしらね。ねぇ、やはり私と付き合ってよ。キスしていた所も何度も見られたのでしょう?」



「何度も? 突然、お前からしてきた」


 突然、マリアから手を繋がれたり、友人らに頼んで2人きりにさせられる事も何度かありユリウスは困っていたのだった。

「えぇ、最近。私の購入したブローチと同じ物をつけている子を見つけてね。あの店は全て手作りだから一点物よ」



 目の前には柔かに笑うマリアがいる。ユリウスはマリアが怖かった。夏休みはケイシーを驚かせたくて帰れないと手紙に書いた事と自分に抱きついてくるマリアを強く拒否できなかった弱い自分に後悔したのだった。


「じゃあ、ユリウス。また学校でね」



 ユリウスは屋敷に帰りケイシーからの手紙を読む。頻度が減った手紙を読み漁る。


 すぐに実家に手紙を出すも返ってきた手紙には婚約は白紙との事だけだった。ケイシーには誤解だと手紙を書くも返事が来る事はなかった。周りに流されてケイシーを蔑ろにしていた自分が悪い。ユリウスは休日に港町に戻るもケイシーとは会わせもらえなかった。家族からは今更必死になってどうすると言われるばかりである。誤解を解く事すらできなかった。冬休みにも戻ったがケイシーは南国に商売の勉強と言い旅立ったと言われた。ユリウスは南国へと行くも探し出す事は出来なかった。


 何度も手紙を書くも返事は来ない。

 



 無常にも月日は流れる。

 3学年となるとコース選択がある。一般科と商業科、そしてデザイン科がある。


 ユリウスは本来なら商業科を選択する予定だった。その為の王都の学園への進学だったから。しかし、ユリウスが選んだのはデザイン科であった。

 かつてケイシーがユリウスの書くデザインが商品に出来ればいいのにと言ってくれた。一緒に考えたデザイン画、彼女の笑顔を思い浮かべたデザイン画達は大切な宝物だ。



 マリアは一般コースを選んだ。商業科とデザイン科は忙しいのがわかっていたからだ。ケイシーとの婚約が白紙になってからもマリアからのアプローチは続いた。しかし、少しずつ関係は変わっていく、マリアが待ち伏せしていた通学路も時間が合わずに、すれ違いが続く。ユリウスにとってはありがたかった。



 

 夏休みを控えたある日の帰り道でジョシュアと久しぶりに会う。

「ユリウス……元気だっか?」

「あぁ、忙しいけど楽しいよ」


「マリアとは?」

「ほら、あの通り」



 前を歩くマリアはユリウスには気づかずにクラスメイト達と帰る。その中の男と腕を組み楽しそうだった。



「ケイシーは王都で、あの様に歩くお前とマリアを何度も見た」


 そこに1人の女性が現れた。

「ジョシュア、一緒に帰ろう」


 ジョシュアの婚約者であった。

「お前は婚約したのだったな」


「そうだ」

「ふふっ、ジョシュアは初恋に敗れたのよね。だから私と婚約したの」


「ジョシュア?」

「おい、余計な事は言うな、俺だって忘れていたのだから」


「ジョシュアはね、去年の夏に遊びに来ていたケイシーちゃんが初恋だったのよ。昔、ケイシーちゃんに婚約を断られたのよ」


「おい、これ以上言うと……」

「言うと?」


「今日のケーキは無しだ」

「え……困る。楽しみだったのよ」


 仲良く歩きだす2人をただ見つめていた。


 昔からの婚約者でも幼馴染でもない2人を見つめるユリウス、自分の隣には可愛い幼馴染だったケイシーはいない。


「俺は……何をしているんだ。何がしたい?」



 それからは勉学に励む、街を歩きデザインの参考になる物に出会う為に、可愛い物や行き交う人々を見る。





 卒業後は王都の宝石店でデザインと加工を学んだ。マリアは自分がデザインを学ぶ間に出会ったクラスメイトと結婚した。結婚式の招待状には欠席と返事をだした。

 かつてのクラスメイトから聞いたのは、最初マリアは田舎者の自分を揶揄うつもりだった。しかし、一向に振り向かない事にマリア自身も本気になっていたとの事だ。


 コンテストには何度も応募したが結果は出ない。それでも諦めなかった。自分が成功したらケイシーにも自分の名が届くと願いながら。店長であり師匠からは作品には悲壮感が現れすぎている。だれも購入したいと思わないと言われた。ユリウスは悩み辿りついたのは南国だ。街をあるくとケイシーと家族が見えた。幸せそうなケイシー、その顔を浮かべなから作品を作る。店長は恋人が出来たのかと思っていたが実際は違う。遠くから愛しい人の幸せそうな姿を見るだけだ。



 忙しく毎日を過ごし、気がつくと卒業から5年が経っていた。そんな時に店に来たのはジョシュアと婚約者だった。結婚指輪を買いに来たのだった。自分を指名するジョシュアは話しだす。


「ケイシーが離縁し港町に戻ったようだ。港町で小さな店を構えるらしい」

「離縁?だって仲良く暮らしているのを……」


「南国まで様子を見に行ってたのか……その行動力を婚約者時代に発揮しろ。元々、政略結婚だったようだ。夫の想い人が離縁した為ケイシーとは離縁し一緒になるようだ」


「そんな……ケイシーは」


「先程まで私達の家にいた。今日、港町に戻るようだ」


 昔から冷静な男ジョシュアは変わらない。


「ユリウス、この前のコンテストの指輪を用意できるか?」


「あぁ……」


 ジョシュアは1つため息をつく。


「ユリウス何を迷う? コンテストに出した品を誰を想い作ったのだ? 今頃、駅へと向かっている」



 ユリウスは店長に事情を話し早退する。手にはコンテストに出す予定の最高傑作だ。



 ユリウスは走る、駅に向かう途中で立ち止まる。かつてケイシーに別れを告げられた公園で、卒業後も何度も1人で過ごした公園だ。


 1人ベンチに座る女性を見つける。



「ケイシー」


 女性は振り向く。

「あら、ユリウス」


 ケイシーの元に駆け寄り隣に座る。


 ゆっくりと時間は流れる。


「私ね、結婚して子供が2人産まれたのよ。とっても可愛いの」

「知ってる。君に似た元気な男の子と女の子だね。さっきジョシュアに会った……離縁したと」


「子供達の事を何で知っているの? 離縁したのよ。円満離縁なのかな。子供たちは元夫と幼馴染の元よ。いつでも会いに行ける。夫も商会を経営しているし良好な関係なの。私のお店にも南国の品を入れる予定よ」



 ケイシーは15歳年上の商人と結婚した。夫には長年想い人がいた。ケイシーは悩みに悩み、答えをだした。その代わり、ケイシーの故郷との交易をして欲しい事と時々は子供達に会いたいと伝えた。


「ケイシー、それじゃあ。君の夫はその幼馴染と再婚するの?」

「2人がどうするのかは知らない。でも……見送りに来た2人は幸せそうだったわ……あの日の貴方と同じ」


「それじゃあ君の幸せは? だって向こうで幸せそうにしていただろ。仲良く買い物だってしていただろう?」


「ユリウス? どうして知ってるの?」


「何度も南国へと行った……君が幸せにしているか心配で……僕のお客は南国にもいるからさ」


「夫だった人は大切にしてくれたわ。彼女が戻るまではね。子供達も可愛いし離れたくなかった。でも夫はね、ずっと幼馴染を忘れられなかったのよ。寂しそうに愛おしく離縁し戻った幼馴染を見つめていたのよ……互いにね。私は耐えられなかった。自分を見て欲しかったの。何度も話し合ったわ。最初は子供達を連れ帰るつもりだったの。でも夫は商家の跡取りで……」


「そうか……辛かったね」


 ボロボロと涙を流すケイシーの手を握るユリウス。


「子供達を産んだのは私なの……私が母親なのに。彼の事だって大切に思っていたの。幼馴染が戻らなければ良かったのにと何度も思って……憎くて、私の夫と子供を……彼女は簡単に奪っていったの……『真実の愛』だと街の皆は祝福していたわ。あんな街……大嫌い」



 ユリウスは何も言わずに話を聴く。



「ケイシーは頑張ったよ。必ず子供達は君を選ぶよ。だってケイシーは母親なんだから」




「そうかしら」


「大丈夫だよ。勿論、彼らだって後悔するよ」


 


「今後、南国での仕事はないな」

「ん?」

「なんでもないよ」


 



 ケイシーの身体を自身に向けるユリウスはケイシーの手を握る。

「ケイシー、聞いて僕からの手紙は?」

「読んでないわ」



「当たり前か……あとさ、ケイシー……まだソレを?」

「あぁ、これは私の原動力なのよ。ブローチに罪はないしね」


 ケイシーの胸にはかつてユリウスがマリアと選んだピンクよブローチが輝いている。


「捨てられなかったの……普段は使わないけど。悲しい時に見ると沸々と怒りが込み上げてくるのよ。あの男も同じだとね」


「『も』ね……誤解しているよ。ケイシー、君との婚約が白紙となり、色々と考えた。そしてデザインを学んだ」


「知ってる。今は王都1のデザイナーね。ジョシュア様も貴方の店で指輪を購入すると言ってたわ」


「さっき店に来たよ」


「これから港町に帰るの。最後に会えてよかったわ」



 立ち上がるケイシーの腕を掴む。

「ユリウス?」


「ケイシー……座って。まだ話したい事がある」


 ユリウスは婚約白紙となってからの事を話し出す。デザイン科に進んだ事、マリアとは何もなかった事、手紙の事、そしてブローチの事を話す。ケイシーは黙って話を聞いた。


「ユリウス……私は勘違いをしていたの? 貴方は彼女とは何も無かったの? あの日、貴方の話を聞かなかったから」


 ケイシーはため息をつく。


「ユリウス……昔からデザインが好きだったね。頑張ったのね……今は売れっ子デザイナーだから奥様も鼻が高いわね」


「ケイシー、僕は結婚していない。婚約者も恋人もいない」

「ユリウス?」


「僕の原動力は君だから……デザインを想い浮かべる時に頭の中に登場するのはケイシーだった。あの時、王都に来て心細かった……弱かった。君を不安にさせて傷つけた。本当にすまなかった。だから、そのブローチは卒業して」




「え? 嫌よ」

「……それは僕が選んだのではない」



 ユリウスはポケットからハンカチに包まれるモノを取り出してケイシーに渡す。



「はい。プレゼントだよ」



 ケイシーはハンカチの包みを開ける。


「ユリウス……」

「綺麗だろ、たまたま見つけた。僕と君の色がいい感じで混じり合っているんだ」


 ブローチには可愛らしく蔦の細工が縁取り中央の石はユリウスのブルーの瞳とケイシーのグリーンの瞳の色が混じり合った石が付いてある。蔦は宝石を優しく囲む様に細工されている。


「ネックレスにもできるし、髪飾りにも変えられる」


「すごいわね」


「君の為のアクセサリーだ」


「私は……結婚し離縁したのよ。夫は他の女性を選んだの。子供も2人産んだの……貴方とは住む世界が違うのよ」


「ケイシー、今更だけど……ずっと好きなんだ。忘れられなかった。こっそり南国にも行っていた。だからさ従業員としてでもいいから側にいさせて」



「あの……え……少し考えさせて」





 ◇◇◇◇



「ケイシー、手紙を書くね。会いにも行く」

「わかったわ……」



 結婚しても忘れられなかった初恋の男性ユリウス。夫と離縁し、新たな人生を歩む為に訪れた約5年ぶりの王都で再び出会った2人。

 

 昔とは違い互いに大人になった、違う道を歩いていたが気がつくと道が再び1つとなった。この先の道が分かれ道なのかはわからない。



 ケイシーは列車に乗る。窓の外には笑顔で手を振るユリウスがいる。

 


 そして、ケイシーの胸には初めて王都に来た時のピンクのブローチではなく、ユリウスとケイシー色のブローチが王都の優しい日差しにキラリとひかるのだった。



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