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幻想ダンジョン攻略と、ファーストキス << マイネ 6 >>

ゲームの中の出会い  << マイネ >>

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王立騎士団リーダー セルバートの村に着く << マイネ 2 >>

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国語の授業とセルバートの家 << マイネ 3 >>

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魔道士ヨーネスとの出会いと、王立騎士団の役員紹介 << マイネ 4 >>

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王立騎士団の分割と、島ギルド・マイノスとの出会い << マイネ 5 >>

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 「小さなギルドだけど、不思議と勢いを感じるわね」


 フェアリーの独り言に、僕も同感だった。

 夜はそれまでの旅の疲れがあったのか、マイノスさんの客室でぐっすり眠れた。

 フェアリーにはハンモックという小さな空中ベッドをくれた。

 今まで彼女は寝るときは、僕の隣で寝ていたが、押しつぶされて目を覚ますことが多かったようなので、とても喜んでいた。


 翌日、マイノスさんたちは、島ギルドのメンバーの軍団と共に、葦の船に乗り込んで、洞穴に向かった。

 島ギルドは百数十隻の船を持っているようで、今回は使用しなかったが、木造の巨大船も停泊していた。

 洞穴の中の接岸箇所は広場のようにひらけていて、軍団が続々と上陸していき、僕たちの船も接岸して上陸した。

 ドノフという男の部隊は、見張りのために海上に残った。


 「このギルドは組織的に行動することが出来るようね」


 フェアリーが言うので、僕も彼らの動きをよく見ることにした。

 マイノスさんが前進を指示すると、スターネイム、ロボシンクという二人のギルドメンバーの部隊が、並列で奥へ向かった。

 上陸後、周囲には霧が立ち込めていたが、奥へと続く細道の辺りは、特に霧が濃いようだった。

 マイノスさんが先に進む部隊に点呼するように指示する、その声が聞こえた時、僕の周囲からは人が消えた。

 僕の目の前には再び開けた場所があったが、その異様な光景は、ここに身を隠す場所がなく、この場がひらけていることを嘆きたくなるものだった。


 数千、そんなものではない、数万、数十万の魔物の軍団が行軍していた。


 「マイネ、あれは何?」


 フェアリーの声がしたので、横を見ると、彼女がいた。


 「霧のせいで道を間違えて、僕たちはマイノスさんたちとはぐれたのかな?あの細道の先にここがあるはずがないよ」

 

 僕が震え声でいうと、フェアリーはモンスターの軍勢を見ながら答える。


 「異世界か、夢の世界に飛んだのかな?」


 軍勢を見ていると、魔物たちは空間の裂け目のような場所に進み、消えていく。

 そしてよく見ると、ここにいるのは亜人種と言われる魔物たちばかりだ。

 リザードマン、ダークエルフ、ドワーフ、ハーピー、ミノタウルス、コボルド、オークらが、それぞれの種族ごとに進軍しているのが見えるが、徐々にその数が減っていくにつれ、その中でもリーダーが集まったような一団が見えるようになった。


 その声も聞こえた。

 声を発しているのは、どう見てもハーピーの女王だ。


「龍王、こちらを見ている人間とフェアリーがいるようです」


 僕は心臓が握り潰れたように、体がこわばり、顔が手足までが収縮したのがわかった。

 なぜ彼らの言葉を理解できるのかわからない。

 ただ確実に、彼らは僕らに気づいている。

 龍王と呼ばれた怪物は、身長が3メートル近くあり、トロル王の次に背が高く目立っていた。


 「孤高の勇者が来たか」


 龍王は前を向いたまま、隣りにいるダークエルフの女王に訪ねた。


 「はい。ここに来れる者は選別しています」という声が聞こえた。


 「私もあなたも、村を持っていない冒険者だからかな」


 隣りにいるフェアリーが僕に震えながら言う。

 僕はフェアリーが隣にいることを忘れるほど驚いていたので、身体全体がぎゅっと縮こまった。

 すると龍王は、腰から下げた剣を引き抜き、大地へ突き刺した。


 「孤高の勇者よ、お前にわしの力を与えよう」

 

 そう言って振り返り、僕とフェアリーを見た。

 僕たちは龍王を見た。

 それは恐ろしい魔物の顔で、フェアリーは気絶した。

 僕は慌てて彼女を救ったが、僕自身は龍王の姿を受け入れた。

 それはまさに龍王であり、あるべき姿だと思った。


 魔物の軍団は次々と空間の裂け目に入っていき、龍王らも入っていった。

 最後尾には、オーガの王とその軍団も残っていたが、それも進軍を始めた。

 オーガの王子と思われる魔物が、側にいるオーガの王に話しかけるのが聞こえた。


 「なぜ遺跡の国に向かうのか」


 オーガの王は答えた。


 「それがこの世界の未来だからだ。獣王会の決定だ。調査隊による報告では、遺跡の国のような状況は、特別なことではないようだ。多くの地域で同様の状況が見られるとのことだ。もっとも被害の多い遺跡の国を調べることで、その解明に当たる。軍団が必要だ」


 オークの王子は首を振り、「それではこの軍勢の説明にはならない」とぼやいた。

 オーガの王の話や龍王の話がなぜ理解できるのか、マイネはフェアリーに聞きたかったが、彼女はまだ気を失っていた。


 「念」


 そんな声が聞こえたような気がした時、魔物の軍団は空間の裂け目にすべて入り、そして何も居なくなった。

 マイネはフェアリーを軽く触れながら起こした。

 フェアリーはマイネに両手で触られていることに驚きと嫌悪を示し、怒りをマイネに向けた。

 マイネは何もしていないと潔白を訴えて、そして彼女に剣を指さした。


 「あれ、抜けるかな」


 フェアリーはすぐに飛んでいって剣に触れたが、動かすのは無理だった。

 マイネも剣を前にして、その大きさは子供サイズではないなと諦めそうになったが、フェアリーがあなたなら抜けるというので、柄を持ち力を入れたら、剣は抜けた。

 まるで剣が生きているかのように、深い音を発して抜けた。

 そして、龍王の剣を天に掲げると、剣は再び深い音を発して、まるで生きているかのように淀み、形を変えて、マイネを包みこんだ。

 それは龍王の鎧となり、マイネを守ることがわかった。

 マイネは剣を持つように両手をそえると、鎧は再び深い音を発して剣になった。

僕はとても疲れて、その場で意識を失った。


 マイノスさんたちは、ダンジョン探索を早々に終えていた。

 この洞穴には結論として、何もなかったようだ。

 ただ途中で僕たちの姿が消えたことで、ちょっとした騒ぎになってしまったようだった。

 マイノスさんが側にいたので、余計に心配をかけたようだった。


 僕は霧の濃かった細い通路に倒れていたようだった。

 フェアリーは僕より早く意識を取り戻したようで、周囲の人たちに僕の救助要請をしていたようだった。

 僕が目を覚ました時、僕はひらけた入口で横たわり、軍勢の多くは船で洞穴から離れ始めていた。

 僕が意識を取り戻したことを、フェアリーがマイノスさんに伝えると、マイノスさんは大丈夫かと僕に声をかけてくれた。

 僕は思い出したように、「剣は?」とフェアリーに聞くと、隣に置いてあった剣を指さした。

 僕は恐る恐る剣を持つと、マイノスさんに訴えるように「この剣を奪わないでください」と言った。

 マイノスさんは「わかっている」と言って頷き、「それはお前のものだ」と言ってくれた。


 僕たちはその日、マイノスさんらの夕食会に招かれ、剣について聞かれた。

 僕は正直に話した。

 これが龍王の剣であること、そしてこの剣は龍王の鎧になることを話した。

 歳の近い、マールという女の子とも少し話をした。

 彼女は騎士のように強くなりたいと話し、その剣を持たせて欲しいと言ってきた。

 僕はマイノスさんをみて、どうしようかと思ったが、マールに渡した。

 マールは剣を持ち、何度か振ったあとに、「私にとってはなまくらの剣のようです」と言って、返してくれた。

 僕はマイノスに、明日この島を経ち、セルバートの村に帰ることを伝え、「明日、帰る前に、この剣の凄さをを見せる」と、マールに話した。


 寝室に戻ったあとに、僕は夢ではないかと再度、剣を天に掲げると、また同様に龍王の鎧が僕を包んだ。

フェアリーはあっけに取られるようにそれを見ていた。


 「夢じゃなかったのね」


 フェアリーは僕に微笑んだ。

 翌日、マイノスさんは、「君を島の最大の船に乗せよう」と言った。

 ナオ船と言うらしい。

 僕はお礼にというわけではないけれど、島ギルドの人の前で、龍王の剣を天に掲げた。

 剣は深い音を発して、形を変え、僕を包んだ。

 マイノスさんは僕に「ダンジョン攻略おめでとう」と言って、握手した。


 「俺Tueeee、だね」


 フェアリーは笑って僕に話しかけた。


 「そうかしら?」


 側にいたマールは、即座にフェアリーの言葉を否定して、ふんと笑い、僕の方につかつかと歩いてきた。

 僕はただそれを見ている。

 ふいに、マールの顔が僕に近づき、「お顔が無防備よ」と言って、僕の唇に触れた。

 僕は呆然とそれを受け入れたが、フェアリーの「ああああああーーー」という声で我に返り、全身に血が巡った。

 僕らは船に乗り、マールの「また会いましょう、小さな勇者さん」と言ってウインクをした姿を何度も頭の中で反ばくした。

 フェアリーには、ファーストキスの味を聞かれたりして揶揄われた(かわかわれた)が、この旅は、フェアリーと僕の気心が知れた旅にもなった。


 ただ・・・フェアリーが一人の男を見ていたので、僕もその男に気づいた。

 このダンジョンを見つけてくれた人、マフナド。。


 僕は現実世界に戻る前に、フェアリーに聞いておきたいことがあった。

 大きな目的を達成して、安全な船に乗った安心感から、僕は心の中にある不安をフェアリーに話した。


 「僕さ、学校の部活動の選択、間違えたと思う。新入生は部活のどこかに入らなければいけない規則があって、友達が野球部に入ったので、得意ではなかったんだけど、僕も入ることにしたんだ。たぶん失敗だったと思う。後からわかったんだけど、野球部は小学生の頃からやっている人が大勢いて、中学生になってから始めるのでは、到底太刀打ちできない。僕はルールすら、詳しくは知らないんだ。しかも、新入生のうちは、インターバルで走らされるばかりで、喘息持ちの僕には、マジで地獄の苦しさ。毎日、なにか一つ嫌なことがある。僕にとって学校は地獄だよ」


 僕は少し、べそをかいて、泣き笑いしながら、フェアリーに聞いた。


 「この龍王の鎧は、たぶん、空も飛べる。練習すればね。背中に翼があるもの。僕さあ、本当は現実世界でも空を飛べるんじゃないのかな?それかもしくは、こっちの世界が本当の現実世界だったりして」


 僕が少し冗談ぽく言うと、フェアリーは真顔で、飛べないよと言った。


 「ここはゲームの中よ。現実世界で、高いところから飛んだら、死ぬわよ。そしてそれはやり直すチャンスもない。一度やったら終わり。あなたの両親は悲しんで、そしてこう言って諦めるわ。そういう子だったのよ、そういう運命の子」


 フェアリーは僕をじっと見つめた。


 「あなたの運命は、あなたが決めるの。大人はあなたに教えることは出来る。でも決めるはあなた自身。現実世界では、人間は空を飛べない。高いところから飛んだら死ぬ。教えたわよ。命を大切にして。一度しかない運命を大切にして」


 フェアリーは、僕からすぐに目を逸らして、海の向こうを見た。


 「部活は選び直せないよね。たぶん。中学校は3年間だから。もしあなたが自分の命を大切にするなら、それは長い人生のうちのたったの3年間だから。我慢出来るなら、我慢してもいいかもね。それはあなたの人生にとって、寄り道かも知れないけれども、あなたが真っ直ぐに進んだら見れない景色だと思うよ。楽しんでも良いかもね」


 僕はフェアリーの言葉を忘れないように反駁した。

「寄り道か。それも良いか」と僕は思った。

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