魔道士ヨーネスとの出会いと、王立騎士団の役員紹介 << マイネ 4 >>
ゲームの中の出会い << マイネ >>
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王立騎士団リーダー セルバートの村に着く << マイネ 2 >>
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国語の授業とセルバートの家 << マイネ 3 >>
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僕の頭の中は、ゲームの世界でいっぱいになっていたが、学校生活を止めるわけにはいかなかった。
もちろん、何もかもがつまらかったわけではない。
小学校と違い、教科ごとに先生が違うので、その教科に対する面白さを教えてくれる先生の話は、興味を持って聞いた。
僕も受験を見据えて授業を受けるように親から言われているけれど、そんな先のこと考えられるわけない。
だから、役に立つから、受験のためだとか言わない、本質的に面白い話をする先生が好きだった。
国語のクラリス先生は、綺麗だし、特に好きだった。
でもそれは先生の話が面白かったとかではなくて、その、わかるだろう?中学生の男子は、それしか考えていないんだよ。
もちろんみんな猿じゃないから、自制して別のことも考えるけどね。
この間の『少年の日の思い出』の感想文、書かなきゃな。
一度壊してしまったものは元には戻らない的なことを書けばいいのかな。
マイネは宿題をすぐに終わらせると、スマホゲームにログインした。
セルバートの村の隣には、ギルド拠点と呼ばれる施設があり、そこに多くの兵士が集まっていた。
将校は大きな倉庫からキャンプ道具や兵糧を兵士に渡す指示を出し、そこから各部隊が馬車へと荷物を積み込んでいた。
「戦争の準備が始まっているわ」
フェアリーと合流した僕は、その様子を見ていたが、しばらくして、あなたにはまだ早いからと近づかないように言い、その代わりに、村の学校へ案内した。
僕は、どういうこと?と、不満げにフェアリーに聞いた。
「何でゲームの中でまで、学校に行かなければいけないの?」
フェアリーは真顔になり、僕を諭した。
「ゲームの世界の情報を知らないと、上手にゲームを遊べないわよ。学校はそれを子供に無料で教えてくれる。大人が情報を得るときは、高い対価を払う必要があるの。お得でしょ、学校に行くの?」
僕は何か騙されているような気がしたが、村の施設の学校に行くことにした。
そこには、まだ名前も付けられていない、NPC将校の候補生が大勢いて、人間関係で緊張することも無さそうなので、気は楽になった。
授業が始まる直前に、一人の子供が教室に入ってきた。
その子がNPCでないことは、すぐにわかった。
その子は、服装が現代人のもので、僕に気づいたからだ。
「珍しいね。ここに本物の人がいるなんて。君の名前は?自分はヨーネス」
と握手を求めてきた。
僕は不安げにフェアリーを見た。
フェアリーは手を握ってと、僕に仕草をする。
僕は握手に応じる。
彼はフェアリーをまじまじ見て、「君には妖精が付いているの?」と聞いてきた。
僕はまたフェアリーを見る。
フェアリーは答えた。
「それぞれのプレイヤーには、特別な特典があるの。私がいるのは、マイネ、あなたの特典。ヨーネスには、別の特典があるはずよ」
ヨーネスはにやっと笑って、あるねと言った。
「魔力がすごいんだ。たぶん王国一。セルバートにそう言われた」
ヨーネスは手のひらに意識を集中させて、見たい?と聞いてきた。
「ううん。怖いからいい」
と、僕は断った。
そうやって、小突かれたりして虐められてきたので、僕は迷わずに答えた。
ヨーネスは拍子抜けしたように、きょとんとしてしまったが、フェアリーはふぅと息をついて、授業が始まるわよと前を向いた。
セルバートはここに担当の将校を任命しているようで、モルトスという教師が、僕たちにこのゲームを説明した。
<< モルトスの授業 >>
このゲームでは、現実世界の8倍の早さで時間が進み、3時間で1日が終わりますぞ(現実の7分半でゲーム内では1時間過ぎ、現実世界の1日でゲーム内では8日過ぎるということじゃ)。
ということはじゃ、現実世界の1時間毎に、朝・昼・夜と時間が流れるということじゃ。
天候は、晴れ、曇、雨、雪、霧などがあり、各時間ごとに変化しますぞ。
大地には、いくつもの地形があり、山岳(進入不可)、丘、森、草原、平原、砂漠、沼地、水辺、河、湖、海、街道などがあり、所々に小さな資源がありますぞ。
一つの地形は、だいたい5キロメートルの距離があり、進軍や交易では、休息などを含めると、通過には平均するとゲーム内時間2時間、現実世界の15分の時間がかかりますな。
街道や草原・平原の移動は容易じゃが、森や砂漠・沼地などの移動は時間がかかるからのお。
河や湖・海などは、橋や船が無ければ走行は出来ん。
夜の進軍は士気の低下が激しくなるため、通常モードの進軍は一時停止される。
一日に行軍できる時間は最大16時間で、距離にして平均40キロ進める計算じゃが、行軍時に様々な出来事が発生するので、実際には20キロ進軍出来れば良い方じゃ。
一般的なストラテジーゲームと比べると、とてもスローモーションのような動きに見えるが、行軍路を設定して放置するゲームなので、そこは別物と考えるしかないことを理解してほしいの。
行軍モードには、他に探索モード(速度半分、イベント発生率2倍)と強行モード(夜間進軍可、索敵能力半減)がありますぞ。
行軍経験値を積んだり、練兵場で訓練をすると、さらに特殊な行軍モードを習得することもあるようじゃな。
行軍や交易の最中のイベントには、空腹や疲労、馬車の故障や天候の悪化、他の村や廃墟や資源の発見、獣や他のプレイヤーの襲撃などがあり、どれも行軍を妨げるものじゃが、発見イベントは報酬を伴うこともありますぞ。
資源には、食料では、小麦、米、とうもろこし、蜜柑、オレンジ、ぶどう、りんご、バナナ、香辛料、薬草などの植物から、鶏、鹿、羊、魚、貝などの家畜や海の幸などもありますぞ。
牛や馬、ラクダなどは、軍用資源をしても活用することが出来ることを忘れてはならんぞ。
鉱山資源としては、木材、石、銅、鉄、金、銀などがあり、世界のどころかには、魔力の宿った粉もあるそうじゃ。
・・・
「なるほどねー」
ヨーネスはこういう話をきちんと聞く子のようだ。
授業を妨害するような、ハチャメチャな子供ではないようだ。
僕はせっかくなんで、ギルドって何?て聞いておいた。
NPCは回答してくれるのか試してみたら、回答してくれた。
「ギルドは一般的には、商工業者による職業別組合という意味じゃ。
製靴、漁師、肉屋、布屋、紡績、塗装、粉挽、石工、大工、屋根工、仕立て屋、製パン、鞍馬屋、鉄工、毛織工、染め物屋などがあるの。
しかしこのゲームにおいては、それは勢力という意味じゃ。
ギルドがまとまって更に大きくなった勢力が、連合になり、更に大きくなると国になりますぞ。
ギルドチャット、連合チャット、国チャット、世界チャットというのは、それぞれの範囲内にある領主が会話をすることが出来るのじゃ。
ちなみにギルドには職業別組合という要素も全くないわけではないんじゃ。
ギルドは参加する村の成長や軍事行動を助けるために、様々なサポートをしてくれる。
採集を助けたり、各施設の育成を早めたり、軍事能力を高めたりするのじゃが、そこにはギルドの特性がどうしても反映されるのじゃ。
メンバーの上限を増やしたり、村の生産量を増やしたり、部隊の攻撃力・防衛力・生命力を増やしたり、魔法力を増やしたり、行軍速度を増やしたり、管理できる都市の数を増やしたり、城や弓矢塔を強化したり、戦争兵器を強化したり、先遣拠点を増やしたり強化したり、強化する要素はたくさんあり、すべてを育成することは出来ぬ。
自分たちがより多くやる行動をサポートする要素を選択して育成する必要があることから、ギルドにも能力に偏りが出てくるものじゃ。
海岸に村が集まるギルドは海運系の要素を育成するじゃろうし、採集を主にするギルドは、工房要素や運搬要素を育成するじゃろう。
国防に責任を持つギルドは、戦闘能力を高める要素を育成するはずじゃ。
繰り返しになるが、一つのギルドがすべての要素を育成することは出来ぬ。
そしてこのギルドは、連合、そして国という上位組織のステータスにも影響する。
国内の全てが戦闘メインのギルドになってしまうと、それは国としては効率が悪くなるのじゃ。
育成には効果低減の法則が適用されておる。
満遍なく育成することが最も効率が良いのじゃが、ギルド間の紛争では戦争で決着がつくことが多いことから、どうしても戦闘メインのギルドが多くなるし、強くなるの」
「すげー」
ヨーネスが感動を述べた。
僕もフェアリーもヨーネスも、モルトス先生が息継ぎ無しに話し続ける姿に呆気にとられた。
授業の内容が頭から飛んだ。
僕たちはその日は、その説明を聞いた後は、役所に行って、子供向けの仕事がないか調べることにした。
このゲームは、戦争がメインのゲームのようで、先程の授業でも教わったのだが、村を持てない子供の僕たちが遊べることは限られているようだった。
でも実際に役所に行って調べてみたら、思った以上に僕たちに出来る仕事があった。
希少資源の採集や地図の作成、人の捜索、商品相場の調査、獣討伐などなど。
「う〜ん。どれにしようかな」
僕はヨーネスと依頼書を見ながら考えた。
フェアリーも考え込んでいた。
「どうしたの、フェアリー?やりたい仕事はある?」
と僕が聞くと、フェアリーは「そうじゃなくて」と言って、僕のおでこをつんつんしながら言った。
「あなた、戦闘力ゼロよ。何やってもすぐにゲームオーバーになる」
それを聞いたヨーネスは、ぽかんとした後に、「確かに弱そう」と僕に行った。
13歳の男子が、弱そうなどと断言されることが、どれだけ自尊心を壊されるか。
僕は泣きたくなった。
「せっかくリアル世界から逃げて、このファンタジー世界に没頭しているのに、戦闘力ゼロの弱者じゃ、ここにいる意味がないじゃないか」
八つ当たりかも知れないが、僕はフェアリーに怒りをぶつけた。
フェアリーは目を閉じて考えた後に、
「ゲームといっても、急には強くなれないしね」
と悩んだあとに、
「一つ一つ課題をクリアして、強くなっていかない?」
と僕に提案した。
ヨーネスは、「自分も付き合うよ」と言ってくれた。
「王国一の魔導士が一緒にいてくれる、それだけで強くなったのと同じよ」
フェアリーは思わぬことを教えてくれた。
「あなたが直接強くなるだけが、あなたが強くなる方法ではないわ。強い人と仲間になる、それもあなたを強くする方法の一つよ」
フェアリーはグッジョブと親指を立ててみせた。
ヨーネスも、にっと笑顔を見せてくれて、依頼書を改めて見ながら、
「とりあえず、武器や防具を買うお金もないから、難易度Eの市場の商品配送の仕事からしようか?村の中で完結する仕事のようだし」
と言って、依頼書を僕とフェアリーに回した。
「これは児童労働に違反しないのかな?」
荷物の受け渡しで大人と接しなければいけないので、僕は不安が勝った。
「ここはまだ子供を守る法律がない世界だからね。気をつけて」
フェアリーは僕にウインクして、やってみようよと言った。
僕とヨーネスは、それから現実世界では約2週間、ゲーム時間で約4ヶ月近く、市場の商品配送の仕事をした。
これは良い仕事だった。
この世界のアイテムや商品が学べ、届け先の施設についても学ぶことが出来た。
例えば、羊皮紙の配送は学校にも役所にもあったし、薬は病院、武器防具は兵舎、農場には鋤や鍬、酒場には酒や食材などを配送した。
僕とヨーネスは、セルバートが用意してくれた宿から、市場が用意してくれた寮に移り、自活する形で働いた。
料理も簡単なものだけど、炊飯や魚の塩焼き、野菜スープなどを覚えた。
重たい荷物を台車で引いたりしたこともあって、体力も少しついた。
また僕はフェアリーから金貨10枚をもらっていたが、それはフェアリーに返して、自分の働いて得たお金で、武器と防具を買った。
たとえ、金貨で鉄製の武具を買っても、驕りで強さが追いついていないまま危険な場所に行きかねないと、僕は自分を見つめ直して、お金をフェアリーに返却した。
フェアリーは「良い心がけ」と、小さい手で僕の頭を撫でたけど、彼女にそうされると、なぜか嬉しくなった。
ちなみにフェアリーに返した金貨10枚は、返されても私は重くて持てないからと、僕が預かる形になった。
また、市場の休日には、訓練場にも通うようにした。
僕は勤勉にログインして、セルバートの村の中で、強くなれるように仕事や訓練を続けた。
そんな中、セルバートら王立騎士団は、王国政権と度々戦争をしたようだった。
僕は時々ギルド拠点を覗いていて、見ていたら、ギルド内のメンバーの役職者もわかってきた。
リーダーはセルバートで、老将のライゼンがサブリーダーのようだ。
セルバートは、僕の初見とは違い、圧の強い性格のようだったが、ライゼンは物腰が柔らかく、優しいおじいさんに見えた。
内政官はザラという中年女性と、マリスという若い青年が務め、各村の役所や市場の動向を見ながら、指示を出していた。
軍事担当官は長身のイザベラという中年女性と、シャルルという中年男性、クルーべという若い男性と、ロゲルナという中年男性が務めているようだった。
彼らは担当地域の哨戒を基本業務として、戦争時には各戦線のギルドメンバーの指揮官を務めているようだった。
外交官には、リリアという若い女性と、シンシアというこちらも若い女性が務めていた。
彼女たちは一方が他のギルドとの交渉に遠征しているときは、もう一方がギルド拠点で、ギルド外の各地の情報を整理していた。
それはとても多岐に渡り、地図の作成や市場調査、他のギルドの調査などをしていて、担当者だけで出来るものではなく、保有するNPCをフル活用して業務遂行しているようだった。
その代わり、役員の村の防衛に関しては、軍事担当者が最優先で行う決まりのようだった。
さらに友好ギルドとして、商人ギルドのゴールネスという男が、王立騎士団と共同で動いていた。
ヨーネスは、この中で自分より魔力の強い人はいないけど、戦ったら自分より強い人は何人かいると、僕に教えてくれた。
「セルバートとイザベラはマジで強い。シャルルも自分と同じくらい強いと思う。ライゼンは強そうだけど、それほどでもない。性格も優しいし、戦闘向きではない。マリスもクルーべもロゲルナもリリアもシンシアも、そんなに強そうではない。とはいっても、役員になるだけの武力はあるだろうけどね。ザラは、見かけとは違う何かがある。気をつけたほうがいいね」
と、僕に教えてくれた。
フェアリーはそれを聞いていて、一言加えた。
「そうね。似たような印象を受ける。でも何もない人なんていないわよ。ここに来ている人は何かしらの特性を持っている。そのことは忘れないで」
と、僕らに教えてくれた。
僕はずいぶんと強くなっていった。
ヨーネスと一緒に訓練場で剣や盾の使い方を学んで練習したけれど、僕のほうが覚えるのが早かった。
でも、もっと強くなったのは、フェアリーだった。
彼女は魔術院に通って、魔法を習得していた。
ヨーネスは訓練場で面白くなかったのか、それともフェアリーが魔法を次々に覚えるのに驚いたのか、訓練を始めてから、現実世界の時間で1ヶ月ほど過ぎた頃に、自分たちも魔術院に行こうと言ってきた。
僕は週5の市場の仕事を1日だけ減らして、週に1日だけ魔術院に行くことにした。
それは休日にヨーネスと行くと、比較されてつまらなくなることがわかっていたので、休日にヨーネスが魔術院に行くときは、今まで同様に、訓練場で練習をした。
ヨーネスも「その気持ちはわかる」と言って、理解してくれた。
ちなみに、村の学校にはもう行かなくなっていた。
そこで得られることは基本的な情報で、ゲームをしながらでも学べるからだ。
フェアリーが言うには、まだ学校施設のレベルが低いから基本的な情報しか学べないのであって、施設のレベルが上がれば、もっと深い情報が得られるはずと教えてくれた。
いずれにしても、僕らは現実世界で3ヶ月がすぎる頃には、当初とは全く違うくらい強くなっていた(魔術院に行き始めてから1ヶ月半が過ぎた)。
そしてその頃、王立騎士団は王国政権と和平した。
戦いは、ほぼ互角の戦況だったようだ。
セルバートはギルドの集会でみんなに言った。
「今回の戦いにおいて、大きな損失はない。ギルドメンバーも戦争を良いきっかけとして、各々の村を発展させることが出来たはずだ。実質的な勝利だと皆さんに伝えたい。工業都市フレアを強襲して陥落させたイザベラ、そして時を置かずに和平を成立させたザラとシンシア・リリアの外交チームの功績は称えなければならない。ギルドメンバーの皆さんの声を賜りたい。」
ギルド集会場は大歓声に包まれた。