国語の授業とセルバートの家 << マイネ 3 >>
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王立騎士団リーダー セルバートの村に着く << マイネ 2 >>
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翌日の授業は、上の空だった。
学校では、いじめとまでは言わないまでも、弱い子はどこかで警戒し、嫌なことがないことを願っているように見えた。
マイネがそうだったからかも知れない。
その日は雨が降っていて、部活はないと連絡が来ていた。
だから早く帰ってゲームができる、そう楽しみが膨らんでいた。
スマホは、学校への持ち込みが禁止されていたので、ゲームは家に帰らなければ出来なかったのだ。
その日、最後の授業は国語だった。
ヘルマン・ヘッセの『少年の日の思い出』を、先生が机の並び順に、一行ずつ僕たちに読ませた。
この短編小説は、主人公が客に蝶集めを始めたことを自慢したら、来客者が蝶にまつわる子供の頃の思い出を思い出し、それを語る物語だ。
来客者は子供の頃、珍しい蝶を盗んだことを白状し、所有していた友人から言われた言葉を思い出す。
「そうかそうか、つまり君はそんなやつなんだな」
悪ぶってカッコつける、ガキ大将のロンドも、授業中はイキがることは出来ない。
ロンドは若干声が上ずり、沈黙が流れた。
おちゃらけたケインが、小声でその声を真似たら、教室の片側に失笑が広がった。
ロンドに何度か小突かれたことのある僕は、この世界に下剋上が起き、ロンドが力を失って、僕たちがいじめに合う日が来ないことを願ったが、先生が「はい静かに」と次の人を指名したので、その期待は終わった。
授業が終わり、掃除の時間が来たときに、僕は「そうかそうか、つまり君はそんなやつなんだな」がもう一度ぶり返されることを望んだが、ケインが伏し目がちにそそくさと教室を離れてしまったので、ロイドの殺気が自分にこないように、みんなが気を使った。
その日、学校から帰った僕は、すぐにスマホを手に取った。
『剣と魔法の王国戦争』にログインし、ゲームの世界に入った。
僕がログインすると、フェアリーはすでに僕の隣にいて、わっと声を上げた。
「びっくりした?」
僕は話しかけると同時に、自分がいる場所がどこか、周りを見渡した。
僕は部屋のベッドで横になっていた。
「あなた、突然倒れちゃったから、みんなびっくりしたわよ」
僕は1時間の接続時間が終わって、強制的に現実世界に戻っていたことを話した。
「そうだろうとは思ったけど」
フェアリーは僕のおでこをちょんちょんと触りながら、接続切れる前に、自由行動などの指示を出しておくことを教えてくれた。
「自由行動の指示を予め出しておけば、ログインしていなくても、その時に必要と思われることを進めてもらえるわよ、自動行動で」
フェアリーは優しく僕に教えてくれる。
「わかった。これからそうする」
僕はフェアリーを見て答え、今日はこれからどうすれば良いのかと、フェアリーに尋ねた。
「この村の村長のセルバートのところに行きましょう。挨拶をしに」
僕はベッドから起き上がると、身なりを確認して、うん、行こうと答えた。
「よう、小さな勇者さん」
セルバートの自宅をノックしたら、中年の男が出てきて、頭を撫でられた。
「俺はシャルルだ。お見知りおきを。リーダーはコーヒーを用意してくれているよ」
僕は頭を撫でられたことが不快だったので、ムスッとした顔をしたら、フェアリーがそれに気づいて、トントンと、シャルルの手を蹴った。
「ほう、妖精じゃないか。珍しいモンスターを仲間にしたな」
シャルルは腰を落として、僕とフェアリーに笑顔を見せた。
「モンスターとは失礼ね。私は妖精なの。人間と同列に見てもらいたいわね」
フェアリーがプンスカプンした仕草をしたのだが、それが僕から見てもかわいくて、シャルルと一緒に笑ってしまった。
そこへ、セルバートとイザベラ、それともう二人、女性がやってきた。
「モンスターは言い過ぎだな」
と、セルバートは言い、いらっしゃいと僕とフェアリーに握手した。
「少なくとも、私たちの国はこの村より住みやすいわよ。ここは軍事施設ばっかりで暮らしにくいわね。これじゃ、村もギルドも発展しないわよ」
フェアリーはセルバートにそう教えた。
「ギルドメンバーの女性たちも、男勝りな人が多いからな・・・優先順位で軍事施設から手を付けたのだが」
言ったそばから、セルバートが、女性3人を紹介しようとか言い出したので、イザベラがセルバートの頭をコツンと叩いた。
セルバートは長身の男だったが、それと同じくらいイザベラも長身だった。
「おつむが足りないだけでしょ」
ぼそっと冷たい視線を送ったのは、シンシアという女性だ。
優しそうなふわっとした服装の人だが、言うことはキツそうだ。
「あら、賢そうな勇者さんと、素敵な妖精さんね」
ザラと紹介された女性は、腰を落とし、僕たちに目線を合わせて話してくれた。
「こんにちは。昨晩はご迷惑をおかけしました。泊めていただいてありがとうございます。あの、宿屋のお代はいくらですか?」
と、ここまで言ったところで、僕はお金を持っていないことに気づいた。
そもそも、僕の使っていたお金は、この世界で使えるのかとの疑問も生まれた。
「銀貨7枚ある?」
と、ザラが言うので、僕は困ってしまった。
ズボンのポケットを探してみたけれど、やっぱり何もない。
「私が立替えるわよ」
困った仕草をした僕を見て、フェアリーは懐にあった袋から、綺麗な粉を出して、金貨10枚と言うと、その粉は付近にあった木の端材や陶器を呼び寄せ、金貨10枚を作り出し、僕の手の中に入れた。
銀貨は銅貨の100倍、金貨は銀貨の100倍よと、フェアリーは僕に教えた。
「錬金魔法!!!」
ザラは驚いて、フェアリーを見た。
フェアリーは「まあね」と言って、腰に手を当てて、僕にウインクした。
「助けてあげるって言ったでしょ」と微笑んだ。
「あと数日で、この村にもいくつもの施設が出来る。この村に滞在してみないか?」と、セルバートは言った。
「そういえば、先日、もう一人子供の旅人が来ていたな」
シャルルが「あの子は無事か」と、セルバートに聞いた。
「ああ、安全な場所に避難させようと思ったが、逆に助けれた。あの子は強いぞ」
と、セルバートは言った。
「冒険者を受け入れるのは、ギルドリーダーのセルバートの村がいいかもね。どう?」
ザラが周囲の人に聞いた。
イザベラらも、「いいんじゃない」と同意して、僕たちはこの村に滞在することになった。
銀貨は銅貨の100倍、金貨は銀貨の100倍だからと僕は改めて計算し、フェアリーと相談して、金貨1枚を渡して、半月くらい滞在することに決めた。
そうしたら、セルバートはありがとうと言い、その金貨1枚を僕に返して、賑やかな街にしたい、滞在して協力してくれるなら、お金はいらないよと言ってくれた。
僕とフェアリーは、ゲームを遊ぶ拠点が出来たことを、素直に喜んだ。
接続を切る前にすべき作業をフェアリーに確認してから、僕はゲームを中断して現実世界に戻った。




