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033:ウェアウルフ

彼は目にもとまらぬ速度で背中に背負っていた小銃型の魔道銃を片手に握ると、標的を見ることなくその引き金を引く。

その音は、カチカチカチと3回。

その魔導銃から打ち出された3本の熱線は、彼の脇を飛びぬけようとしていたアンギラス達を容赦なく打ち落としていた。

見下すように顎を小さく上げた彼は、そのまま魔道銃を背負いなおした後で再び口を開く。


「通さないって言ったよね? 」


その威圧だけで、彼を前にした魔獣の突撃の脚は一瞬だけ止まった。

立ちはだかる彼を前に通過できないのではないか。

そう認識を与える為に、アキラは魔力を練り上げ、惜しげもなく空中へとそれを漏出させた。

意識的にそう振る舞う少年に気圧されるように、魔犬たちは一歩引いたように見えた。


「っ!? 」


少しはうまくいくものだと、そう内心ほくそ笑むアキラだったが、次の瞬間、彼の右足ががくん、という事を聞かずにその場に縫い留められた。

右足を見下せば、地面を掘り進んでいたのだろう、ガルムが地面から首を出して彼の脚に噛みついている。


「しまっ──


刹那、彼の視界を影が埋める。

そこにあったのは、これまで静寂を貫いていた2足の狼型の魔獣。

ウェアウルフの鋭い爪が腰だめに構えられ、突きを放つ。


──なんてね!! 」


だがしかし、その瞬間にアキラの身体から白い稲妻が迸り、人類の限界を超えた速度での体捌きが行われる。

反応できない間合いに見えたウェアウルフの爪撃を、アキラは逆袈裟の要領で迎え撃った。


「なっ!!?? 」


だがしかし、彼の逆袈裟斬りはウェアウルフの肉体を捉えることなく宙を斬った。

そして、彼が斬り付けていたそれは陽炎の様に立ち消え、そして彼の視界には、改めて腰だめに爪を構える姿が映る。


「ハサンの魔法!? 」


攻撃中の反撃をすべて無効化する魔法と言えば、すぐに思い出されるのはハサンが操る生得魔法だ。

だがしかし、第二種の魔獣のウェアウルフがそのような魔法を操るという報告をアキラは聞いたことがない。

現にハサンの魔法は反撃を無効化したうえでそのまま攻撃を行う魔法だ。

ウェアウルフは反撃を受けてその姿が消滅し、今は僅かに遅れて追撃の溜めを行っている。


「ちがう、”幻影魔法”か!! 」


”幻影魔法”。

それは被術者に幻影を見せる魔法で、第二種のウェアウルフが主に扱う魔法である。

その使い方は多岐にわたり、そして、彼の目の前の個体は先ほどまでこの場で戦っていた少年の、厄介な生得魔法の使い方を模倣するようにそれを使っていた。


「ハサンの猿真似か!! 厄介だね!! 」


そう言いながらもアキラは、ウェアウルフの放った本来の突きを返す袈裟斬りで弾いた。

がぎん、と硬質な擦過音が廃墟に鳴り響き、お互いの身体が弾かれるように飛び退る。

再び距離を取った両者は間合いを取り睨み合い、アキラは魔法剣を再び握りこむと現状を厄介そうに内心舌打ちをした。

先程の幻影魔法の使い方はきっと初めての試みで、かなり粗削りなものなのだろう。

それでもその使い方はハサンの魔法と同様、否、場合によってはそれよりも厄介な魔法かもしれない。


「先手を許したら本物の攻撃かそうか分からないかもね。」


アキラはそう言いながら、飛びかかってきたガルムを切り払う。

そう、ウェアウルフの攻撃は幻影魔法の可能性と同時に、本体の攻撃の可能性もある。

今はアキラの神経強化、身体強化が後出しの権利を勝ち取っているが、それは敵の幻影魔法が粗削りであるが故の可能性もあるのだ。


「本能で覚えた魔法かもしれないけど、いい筋してるよ!! 」


先手を許すまいと判断したアキラが飛びかかる様に足を踏み込む。

だがしかしその瞬間、彼の視界の半分を黒い何かが埋めた。

それは他のガルムが巻き上げた土だった。

古典的な目つぶしをアキラは反射的に腕で防ぎ、その瞬間、上空からアンギラスの攻撃が降り注ぐ。

咄嗟の出来事に意表を突かれたように眉を上げたアキラに、彼を取り囲んでいたガルム達が今度は一斉に飛びかかった。

彼にめがけて降り注いだ熱線や炎弾が爆炎を上げ、その隙を狙ったかのようにアンギラスたちが上空を翔ける。


「危ないな! 」


天翔ける鉤頭の魔獣は、だがしかしその胴体に巻きついたワイヤー付きのナイフによってその身を拘束される。

飛翔の勢いに引かれるように、爆炎から姿を現したアキラはその勢いを生かして上空を舞うアンギラスに飛びついた。

彼はその手に握る魔法剣で飛びついたアンギラスの命を奪いながら、地上を見下ろした。

隙をさらしたこの瞬間に、ウェアウルフに討ち取られる。

そう危惧した彼の目は、別の意味の驚愕に大きく見開かれていた。


「まさか……っ!! 」


アキラの目に飛び込んできたのは、彼に背を向けるウェアウルフの姿だった。

逃げようとしている。

魔獣の行動にしては痛く消極的なそれは、だがしかし、アキラにとっては看過できない行動だった。

厄介な魔法の使い方を覚えた第二種の魔獣を取り逃がすというのは、今後人類にとって大きな被害を発生しうるかもしれない。

だがしかし、彼の第一目標はこの場を守り抜いて魔獣の侵攻を退けることでもある。


「……この!! 」


ウェアウルフが命令できる魔獣は、本来同系の魔獣であるオルトロスやガルムのみの筈だ。

それでも対峙する個体数に対して、一人だけで対処しなければならないとなるとここまで分の悪い戦いになるのかと、その表情を険しくゆがめた。

そしてそんな彼を嘲笑うように、空中で焦燥に駆られたような表情を浮かべた彼の肉体は、すぐさま飛び込んできた別の個体のアンギラスによって噛みつかれ、上空に運ばれる。

彼は背中に担いでいた魔道銃を体の対捌きだけで体の前に運ぶと、その引き金を乱雑に引いて自分に噛みついているアンギラスの脳天を穿った。

そして、その瞬間、彼はさらなる不都合な真実に気が付く。

先程アキラは、突如現れたオルトロスに襲われた。

それではそのオルトロスはどこから現れたのか。

第二種の魔獣の気配はとても大きく、簡単に隠し通せるものではない。

それが戦場で対峙するほどの距離だったらなおさらだ。


「お前……!! 」


ぎり、と歯を噛み締める音が聞こえ、アキラの眉間の皺がさらに深まる。

上空に高く打ち上げられた彼の視界の見下ろす先では、地上でお互いを捕食しあうガルムたちの姿があった。

いないなら現地調達すればいい。

それはシンプルなアイデアだ。

原則として魔獣たちはお互いを攻撃しないという生態が存在し、また、お互いを捕食しあっても必ず狂食化は発生しないことが分かっている。

狂食化による上位の魔獣への進化は本来は効率的ではない進化ルートなのだ。

それでも、幻影によって仲間をコントロールすればどうだろうか。

背を向けて逃亡するウェアウルフの表情が醜く歪んでいるような錯覚を、アキラは覚えた。


「……いいよ。好きなだけ共喰いしなよ。」


そう言いながらアキラは納刀し、空中でアンギラスの魔獣の亡骸に両足をついた。

巨大な魔紋が宙に描かれ、亡骸が空中に固定される。

限界まで身体強化を行い、足元から空中に迸る魔力が白色の稲妻として結実した。


「まずは君を最優先に()る。残りはそれから相手する。」


刹那、アキラはそう言い残すと魔獣の亡骸を足場に跳んだ。

炸裂音と共に彼の身体は宙を斬り、次の瞬間には逃げるウェアウルフの背後に追いついている。

ざりざりと地面を左足を前に両の脚裏で滑りながら、彼は右腰の剣を抜く。

狂食化を囮に逃げるというのが、この魔獣の作戦だったのだろう。

一度驚愕したように目を見開いたウェアウルフは、それでもその攻撃を迎え撃つように振り返りざまにその爪を振りかざす。


「そこだっ!! 」


抜刀術の要領で斬りかかるアキラと、それを迎え撃つアキラ。

抜き打ち様に放たれた一文字斬りが、逃げるウェアウルフの腰を捉えた。


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