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020:庭園で

訓練が始まり一月が経とうとしていた。

土曜日。

朝日に照らされる庭園を奈々樹は鼻歌を歌いながら歩いていた。

魔法教会大学校ではインターンの始まる4,5年目を覗いて、土日が休日となっている。

食堂や購買が置かれる管理棟と、大学校の学生達が暮らす寮の合間部分は管理の行き届いた庭園となっていて、彼女はその中を歩いていた。


「えっと? ここを曲がって……? 」


奈々樹は手元の情報端末を見下ろしながら曲がり角を曲がる。

彼女は寮管理人に用事があって管理棟を訪れたのだが、あいにく不在であった。

彼女は代わりに対応してくれた受付の担当者が教えてくれた場所に向かおうとしていて、大学校の構内地図と格闘していた。


「ここかな? 」


地図にはなにも記載の無い場所だが、周囲を見渡すと高い生け垣に囲まれた区画を見つける。

それは内側に置かれた物を隠すようであり、その生け垣の回りをぐるりと一周してみると、内側に入るための生け垣の切れ間が見つかった。

奈々樹がその切れ間から首を伸ばしなかを覗き込むと、そこは庭園を管理するための資材置場だった。

様々な器具や盛られた土、それから倉庫と思われるプレハブ小屋などが置かれている。

それらを眺めていると、奈々樹に向けて声がかけられた。


「……あら! 森崎さん、来てくれたのね!! 」

「円香さん!! ……と、アクアさん……? 」


女性の声に安堵の表情を浮かべた奈々樹が生け垣の切れ間から中に入ると、そこにはエプロン姿でふわふわと笑顔を浮かべる小柄な女性と、同じくエプロン姿で不貞腐れた様子のアクアが立っていた。

円香と呼ばれた女性はメガネをかけた妙齢の女性で、この魔法教会大学校で寮の管理長を務める存在だ。

奈々樹が円香に駆け寄ると、彼女はエプロンを差し出す。


「うふふ、ごめんなさいね。置いていってしまって。」


それを受けとる奈々樹に、円香はにこにこと笑顔を浮かべてそう告げた。

そんなとき、奈々樹の耳にアクアの声が届く。


「あんたもなんかやらかしたの?」

「え? 」


その言葉に奈々樹は怪訝な表情で振り返ったが、彼女は腕を組んだまま余所へと首を向けている。

そんな様子に奈々樹がエプロンを身につけつつ首をかしげていると、円香が軍手をはめた両手をポン、と鳴らした。


「奈々樹ちゃんも揃ったし、そろそろ始めようかしら? 」

「はい! 」

「……ふん。」


彼女の言葉に視線を戻した奈々樹は目を輝かせながら返事をし、アクアは不機嫌そうに鼻をならす。

円香はそんなアクアの反応に、あらあら、と頬に手を当てながら両の眉を下げた。


「アクアちゃん? お返事はー? 」


ぽやぽやとした雰囲気で再び声をかける円香。

その様はみるものを自然と脱力させるような能天気さがあったが、それと同時に不思議な威圧感もあった。


「くっ……はい。 」

「んー! よろしい!! 」


その圧力に屈したのだろう。

アクアの返事は舌打ち混じりのものだったが、それを聞いた彼女はとても満足そうに笑顔の花を咲かせた。

満足そうにうんうんと唸った彼女は、改めて両手を合わせると、今日は、と口を開く。


「今日は、庭園の管理をしますね。」


奈々樹とアクアの前に立った円香は、そう言うと豊かな胸を張る。

本日彼女達は庭園の整備を行うために集まっていた。


「お手伝いさんが2人も名乗りをあげてくれて助かったわ。」

「はい! お花とか、すごく綺麗だったので!! 」


彼女の言葉に奈々樹は少し興奮した様子で答える。

構内の掲示板で庭園管理の手伝いを募集している掲示を見て、彼女は名乗りを上げていた。

澄み渡る空や動植物といったものが奈々樹は好きだったからだ。

対して隣に立つアクアの表情は暗い。


「あたしは別に、命令されただけ。」


アクアはぼそりとつぶやくように声をもらす。

彼女はアキラとの私闘の一件で3ヶ月の奉仕活動を命じられていた。

今回の件もガイウスから突然送られてきたメールによって強制的に参加させられたものであり、本来であれば参加するつもりなど毛頭なかったのだ。


「ん~? 」

「な、なんでもないわ!!」


アクアは完全に独り言のつもりだったが、円香には聞こえていた様だ。

笑顔のまま下から顔を覗き込むように顔を寄せてきた彼女に、彼女は歯切れ悪そうに言葉を誤魔化しながら視線を逸らす。

頭一つほど低い位置にある彼女の顔に気圧されるように足を下げたアクアに、円香は合わせるように一歩前に進む。


「アクアちゃん? 」

「な、なによ。」


顔を背けていた彼女の名前を円香が呼んだ。

その声に反射的に視線を戻したアクアは、その表情を驚愕に染めて動きを止める。

そこには怪しく目を細めながら彼女を上目遣いに見つめる円香の姿があった。

表情も口元も、柔らかい笑顔なのに目だけが笑っていない。


「素直なのはいいけど、おいたはしないでね? ぜんぶ、知っているんだから。」

「────!! 」


彼女の言葉を聞いた途端、アクアは心臓を掴まれるような感覚を覚える。

この女に逆らってはいけない。

彼女の本能は目の前の眼鏡の魔女を相手に全力で警鐘を鳴らしていた。


「アクアちゃん? 」

「っち、何でもないわよ。」

「舌打ち!!?? 」


円香の後ろに立っていた奈々樹は、急に飛びのいたアクアを見て怪訝な表情をした。

その反応を見て煩わしそうに顔を歪めた彼女に、奈々樹はショックを受けた様に声を上げる。

二人がそのようなやり取りをしていると、いつの間にかプレハブ小屋の方へと足を向けていた円香が言葉を投げかけてくる。


「ともかく、早く作業に移りましょうね。これと、これと、あとはこれを台車に乗せて頂戴。」


彼女は肥料の入った袋や支柱、工具箱や農業器具を取り出しては地面に並べていた。

周囲を見渡すと手押し車の様なものが隅に置かれていて、あれに荷物を乗せろ、というのが彼女の指示なのだろう。

アクアが台車を移動させて奈々樹が荷物を乗せていく。


「んっしょ、んん、ちょっと通りにくいわね。」


そうして作業をしていると、プレハブ小屋隣に置かれた温室から大型の育苗トレイを両手に持った円香が顔を出した。

育苗トレイ上には色とりどり花々がその姿を揺らしている。

小柄な円香は大型のトレイを片手に持って、空いた片手で扉を押さえなんとか通ろうとしていたが、今にも彼女はその手に持ったトレイを取り落としそうになっていた。


「ま、円香さん!! 私が持ちますからちょっと待ってください!! 」

「んぇ? あらぁ、ありがと。」


駆け寄った奈々樹がトレイを彼女の手から焦った表情で取り上げる。

円香は呆けた表情でぱちぱちと目を開閉し、それから柔らかい笑顔を浮かべた。

台車に取り付けられた金具にトレイを差し込みながら、奈々樹は半目になってその目を円香に向ける。


「円香さん、これ運び入れたときはどうしてたんですか。」

「もっと小型のトレイにのってたわよ。他の子には、運び出すときには絶対一人で持つなー、って言われちゃったわ。」


きっと口調まで真似ているのだろう。

少し声色を変えながらそう言った彼女は、失礼よね、と口を尖らせた。


「いや、わかっていたなら無理しないでくださいよ!! 」

「もぅ! 奈々樹ちゃんも皆の味方なの? お姉さんショック受けちゃうな。」


そんなやり取りをしながらも、彼女は温室から2つ目、3つ目と育苗トレイを取り出してくる。

最終的にトレイの数は5つあり、成る程、これを全て植えようと言うのであれば確かに人手が必要な量だった。

台車にのせられるトレイは3枚までだったので、ひとつを両手で抱えた円香は、歩き出しながら首を奈々樹達に向けて口を開いた。


「ひとつは奈々樹ちゃんが持って? アクアちゃんは台車。2人ともついてきて頂戴。」

「はい! 」


彼女の言葉に奈々樹が元気に返事をし、2人は円香に続いて移動を始めた。

鼻歌交じりに庭園を進む円香に続くように奈々樹が歩き、その後ろをゴロゴロと台車を押すアクアが追いかける。


「それにしても、本当に綺麗なお庭ですよね。」

「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいわ。すごく手を掛けているもの。」


その様な言葉を交わしながら、彼女達は庭園のなかを進んでいく。

とはいえ会話、といってもその殆どは奈々樹と円香の間で行われていて、アクアは殆ど黙っているか不機嫌そうに鼻をならすばかりだった。

時折足を止めて柵の補修などをしながら歩みを進めていると円香が、ここよ、という言葉と共に足を止める。

そこは一区画分の荒れ果てた花壇があった。

荒れ果てたとはいうものの、管理がされていないと言うよりも何者かに引き裂かれたという表現が正しいだろう。


「酷い……。」

「たまーにね。こうやって物に当たっちゃう子達がいるのよ。」


目を大きく見開いて言葉を失う奈々樹に、円香は困ったように眉を下げながら応えた。

そしてそのまま、円香は空気を切り替えるように、それじゃ、と言葉を続ける。


「それじゃ、始めましょうか。まずは花壇を綺麗にしてね。完全に茎が千切れていなければ治癒魔法で治せるから、無駄にしちゃ駄目よ? 」

「治癒……ですか? 」


そう言いながら円香は屈んで荒れ果てた花壇に手をつける。

しかし彼女の言葉に疑問を覚えた奈々樹が首をかしげると、彼女は手元に落としていた視線を再び奈々樹に向ける。


「ええ、治癒魔法。 治せるのよね、こういうの。」


そう言いながら彼女は、花壇から半ほどで折れてしまった一株の花を両手で掬い出した。

痛々しい姿で風に揺れるそれを円香が見つめていると、やがて蝶と百合の魔紋が出現して手の平に乗せた花を包む。

わずかな間を空けて魔紋が消え去ると、そこには折れていた筈の茎が修復されて風にそよめく一輪の花があった。


「わぁ……。」

「少し繊細だけど、折れた花くらいなら治せるのよ。」


円香の見せた妙技に奈々樹が歓声を上げていると、彼女は治癒した花を花壇に植え直した。

そしてそれから、わざとらしい仕草でなにかを思い出したようにアクアの方へと振り返る。


「……何よ。」

「そう言えば、アクアちゃんは治癒魔法が使えるのよね? 訓練と思ってやってみましょ?」


不機嫌そうに返事をしたアクアに、彼女はクスクスと笑いながらそう告げる。

対するアクアはその言葉にそう来たか、と面倒ごとを任せられた様に顔を険しくした。

そんな彼女のことを円香は、変わらず微笑みを浮べたまま首をかしげて見せる。

奈々樹はボランティアとして自発的にこの場に参加していたが、アクアは罰則の一貫として召集を受けていた。

きっと円香はアクアの詳細情報をガイウスあたりから受け取っているのだろう。

アクアと円香が無言で視線を交わしていると、奈々樹が恐る恐るといった風に声を掛けた。


「あ、あの、私も挑戦してみていいですか? 」


奈々樹は治癒魔法の適性があり、自分の能力が足しになるのであれば、そしてそれが鍛錬にもなるのであればと彼女は協力を申し出ていた。

その申し出は円香にとって意外なものだったのか、彼女は驚いたように目を大きく見開いて彼女に振り返る。


「あら? 奈々樹ちゃんも治癒魔法が使えるのね。お掃除だけでもと思ってたけど、そういう事ならぜひ挑戦してみて!! 」


ぽん、と両手を合わせながら嬉しそうに微笑んだ彼女は、さっそくやってみましょ、と言いながら奈々樹を花壇の中に招き入れた。

彼女から一株の花を受け取った奈々樹は深呼吸をすると、緊張した面持ちで治癒魔法を行使する。

魔紋が現れるとともに彼女の手の中で花は光に包まれた。

集中しているのか、奈々樹は両目を閉じて眉を寄せている。


「……んっ。」


時間にして数分程だろうか、円香よりもずっと長い時間をかけていた奈々樹は、やがて治癒魔法を停止する。

その手元には、治癒が成功した花が一輪咲いていた。

その姿を見た奈々樹は、満面の笑みを綻ばせる。


「な、何とかうまくいきました……。」

「あらあら!! 初めてなのに上手ね。お姉さん関心しちゃった。」


花の治癒に成功し安堵のため息をついた奈々樹を見て、円香は歓声を上げながら彼女の頭を撫でた。

それが心地よかったのだろう、頭を撫でられた奈々樹は満足そうな表情で喉を鳴らした後で、回復させた花を花壇に植えなおす。


「チッ。わかったわ、やりゃあいいんでしょ!? 」


奈々樹の頭を撫でる円香にニヤニヤと挑発するような笑みを向けられたアクアが、舌打ちをしながら花壇へと足を踏み込む。

図らずも彼女のやる気を引き出すことができたことは、円香にとって望外の効果だ。

これも奈々樹のおかげか、と彼女が視線を戻してみると、奈々樹はせっせと花壇の整理や育苗トレイの新しい花の植え付け、傷ついた花の治癒を行っていた。


「勤勉は吉ねぇ。」

「どうかしました? 」

「ふふ、何でもないわ。」


彼女が感嘆の息を漏らしていれば、その視線に気が付いた奈々樹が振り返って首をかしげる。

そんな彼女になんでもないと小さく首を振って、改めて作業に戻ろうと口を開きかけた、その時だった。

ばちん、と何かがはじけるような音が、草花の治癒を試みていたアクアの方から聞こえた。

その音に驚いたのだろう、奈々樹の小さい悲鳴が周囲に響きわたった。


「あらまぁ! 」

「……。」


アクアの方に顔を向けた円香は、驚き半分、喜色半分といった声と表情で歓声を上げる。

その視線の先には、大きく目を見開いて手元を見つめるアクアの姿があった。

彼女の手の中には爆散して原形を留めていない花の残骸が乗っている。

飛び散った土に顔を汚したアクアは激しく混乱しているのだろう、喉を震わせながら声にならない謎の音を喉から漏らしていた。


「アクアさんは治癒魔法(こういうの)が苦手と聞いてたから、ちょっと見てみたくって。」

「……ツ!!」


彼女の元へと歩み寄った円香は、いたずらっぽく片目を閉じながら彼女の顔に付着した土をハンカチで拭った。

彼女の言葉が気に障ったのだろう、アクアは睨みつける様な視線を彼女の方へと向ける。

アクアは治癒魔法の適性こそあれど、その扱い自体はあまり得意ではない。

それ故にコントロールを誤った治癒魔法により花を爆散させてしまったのだった。


「人間の治癒とは違って、草花の治癒は繊細なのよ。」


彼女の怒りを込められた視線を受けても、円香はどこ吹く風と言わんばかりの涼しい表情で、アクアの両手に乗った花の残骸に手をかざした。

蝶と百合の意匠の魔紋と共に藤色の稲妻が迸る。

円香がかざしていた手を離すと、無残な残骸ばかりがあったはずのそこには一株の花が満開の花を咲きほこらせていた。


「なっ!? 」

「ふふふ。これはもっと上級編の魔法。」


驚愕の声を上げたアクアに、円香がいたずらっぽく笑う。

彼女は言葉を探すように何度か口を開閉させたが、苛立ったような表情になると両手に載せたその満開の花を投げ捨てる。

否、投げ捨てようと手を振り上げようとした姿勢で思い悩むように顔をしかめると、不機嫌そうに眉を顰めながら、それでも丁寧な手つきで花を花壇に植えなおし、その後に円香へと詰め寄った。


「ちょっと!! それができるなら魔法で花壇を治しちゃえばいいじゃない!! 」

「何言ってるの。これすっごい魔力使うから、10輪も咲かせる前に魔力切れになっちゃうのよ。それに、間違えると木とかも生えちゃうのよ? 」


アクアの剣幕に苦笑するような笑顔を浮かべながら、円香はそう答えた。

彼女の答えにアクアはすぐに返す言葉が浮かばなかったのだろう。

ぐ、と黙り込んだ後で、それでも虫の居所は収まらないのか、口元を曲げたまま顔を赤くしている。

そんな彼女の反応が愉快だったのだろう。

円香が人の悪い笑顔を浮かべながら口を開く。


「なぁに? アクアちゃん、ぷりぷり不機嫌そうだったけど、魔法が失敗して恥ずかしかったの? 」

「────っ!!」


からかうような口調で告げられた彼女の言葉に、アクアは不機嫌を通り越して声にならない奇声を上げた。


「円香さん!! 今の魔法、私知りたいです!! 」

「っさいわね!! 今その話は関係ないでしょ!! 」

「ひんっ!! 」


奈々樹は彼女たちの遣り取りにかかわらない様に、息を潜めて園芸作業に精を上げていたが、意を決したように手を挙げた。

それはアクアの扱いを気の毒に思った彼女が話題転換を図ったものだったが、逆効果だったのかアクアは怒りの声を上げる。

だがしかし、奈々樹の言葉は藪蛇だったのだろう、アクアよりも円香の方が、興味深そうにうんうん、頷いていた。


「確かにそうねぇ。アクアちゃんは治癒魔法、奈々樹ちゃんは植物の再生魔法を訓練する、私は庭園管理の労働力が確保できるって考えると妙案かしら? 」

「ちょ!! あんたが余計なこと言うから!! 」

「ふぇ? え、あ、あれ? 」


アクアはその言葉に驚いたように目を見開くと、大きく舌打ちをした後で円香ではなく奈々樹の方へと詰め寄る。

対する奈々樹は円香に代わって自分が詰め寄られることになり、目を白黒とさせながらあわあわと両手を振るばかりだ。


「あんたのせいであたしまで巻き込まれる羽目になったじゃないの!! 」

「えっと、そ、それはその……。」


両肩を掴まれた奈々樹は彼女と目を合わすまいと必死に目を逸らすが、アクアはそれを逃すまいとさらに彼女へと詰め寄った。

どうどうとアクアを落ち着かせるように両手を上げる奈々樹に、なにかいいなさいよ、と彼女は眉間の皺を深める。


「ま、まぁ、あ、アクアさんも、その……。」

「その!? 」


アクアから距離を取ると、奈々樹は言葉を探すように空を見上げながら絞り出すように口を開いた。

対するアクアは彼女の次の言葉を待つように、足を止めて彼女の声に耳を傾ける。


「そのね? 治癒魔法の練習ができるなら、いいんじゃないかなー、なんて」

「あたしが治癒が下手糞なのが悪いってこと? 」

「全然全然!! そうじゃなくって、苦手な!! じゃなくって!! 、その、えっと……身につけられるならと、えとえと、その、おもって……あの、その、あはは……。」


底冷えするような温度で放たれた彼女の言葉に、奈々樹は目をぐるぐる回しながら、必死に言葉を探す。

しかしそれでも、自分の言葉があまりアクアをなだめるには適していないと察したのだろう。

言葉を発するごとに俯くように顔を下げ、それでもふるふると肩を震わせているアクアの様子に、奈々樹の言葉は最後は誤魔化すような苦笑へと変わっていた。


「奈々樹ちゃん、やるわね。」


愉快でたまらないのだろう。

彼女たちの遣り取りを見ながらくすくすと笑っていた円香が目尻に溜まった涙をぬぐいつつ、ぽつり、と言葉を漏らした。


「────!!!! 」


その言葉が引き金になったのか、顔を真っ赤にしたアクアが奈々樹にとびかかる様に駆け出す。

いよいよ耐え切れなかったのだろう、円香は声を上げて笑い出していた。

反射的に逃げ出した奈々樹を、アクアが追いかける。


「ま、円香さん!! 笑ってないで助けてくださいよー!! 」

「逃げるな!! 」


晴れ空の下、怒りに任せたアクアの叫び声と、円香の笑い声、そして情けなく円香を責める奈々樹の悲鳴が響いた。

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