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トラブるナースの旅   作者: 白都 アロ
9/20

役に立たない刺股の話(+1)

 とある僻地の病院の休日勤務。スタッフ数も患者も少ないので、暇を持て余して詰所でうだうだしていたのだが。そんなわけで、どうしようもなく暇だったのでこの病院の暴力対応システムについて興味本意で現地の看護師に聞いてみた。

「倉庫の奥にぃ、刺股(先端がYの字の殺傷能力が皆無なものを指す)があるけどぉ、使ったこともないし使い方もわからないし、一本しかないよぉ。」

 との事。

 まぁ、そんなのはどこの病院も似たり寄ったりで、基本的に病棟で使う目的で購入された肝心の刺股は病棟にないし、病棟にあったとしても予算ケチって一本しかないし、おまけに大切に大切に金持ちの貴族が中世の鎧を飾るが如く、刺股が壁に掛けられ壁にかざられている程度の存在だった。その様はまるで忘れられ気味の神棚の様で、お供えの一つでもしてあげなければ浮かばれない感じである。

 そんなわけなので、当然実践で使える者も使い方も誰も知らなかったし、触れた事のあるスタッフすら絶滅危惧数だ。尤も、倉庫で埃を被るくらいなら詰所にいてもらう方がもしかしたら威圧できるのかもしれないが。

 そして、話はここからである。

 語尾の母音が糸を引く口調でぽっちゃりでやる気のないゆるキャラに見えて、実は病棟内最強の古株オネーサン看護師が口を開く。

「これってどうやって使うんだろうねぇ。」

 確かに、調べたことすらなかった。

「ようつべ先生に聞いてみますか。」

 タップされるボクのスマホの赤い長方形マーク。

 最初に出てきたのは以前どこかの施設で男が大暴れした時に警備員が取り押さえている映像だ。なるほど、男一人に対し、刺股を装備した警備員数人が参戦し、数本の刺股で磔にしている。

「やっぱり一本じゃすぐに抜けられるもんねぇ。だめだぁ。」

 そうですね。襲われる方がボクで刺股一本が相手であるならば掴んで強く引っ張ると見せかけて力強く押して相手のバランス崩させるか、足で蹴り上げるか踏みつけます。選択肢がたくさん、隙がたくさん。

 そもそも非力な女性看護師(非力ではない者も往々に存在するが)が扱う機会が多そうだが、それなら尚更抜けやすい。

「じゃ、一本での戦い方、調べてみましょうか。」

 ポチッとな。

 暴漢と使用者、一対一。襲いくる暴漢。使用者はuの字の部分を相手に当て、力を入れて押した後、一瞬の動きで刺股を反転、持ち替えてIの字の部分で一撃相手の腹に叩き込む。当然悶える暴漢さん。そこを、さらに刺股でメタメタに追撃していく。

 動画を見、病院で看護師が患者をボコボコにお料理する姿を想像して爆笑するボク。

「これぇ、私たちがやったら怒られるよねぇ。」

 そうですね、最悪医療事故報告書に加えてお巡りさん来ちゃいますね。

 他にもいくつか動画を見るも、同様の相手の損害を厭わない動画が複数認められる。病院でこれをやれと・・・。笑いすぎて良い加減に腹が痛くなってくる。

「やっぱりやるならシュッてやってグッてやるしかないねぇ。無理だぁ。」

 諦める先輩。

 そうですね。刺股チャンスの際は、相手に肉体的に滅ぼされるか、相手を滅ぼして社会的に滅ぼされるか選ばなければなりませんね。

 そんな、やっすい給料で人生の生殺与奪を考えさせられるのが、僕らの職場なのだ。

 恐らくこの病院では刺股君に活躍の機会は来ず、永遠に倉庫の隅で埃を被って眠り続けるのだろう。

 居るだけで価値があり、永劫に眠り続ける事が存在意義な刺股に対する若干の羨ましさを感じながら、一度も刺股を手に取る事がないまま、この話は終わるのだった。

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