蝙蝠男襲来1
「なんだ、お前ついてきてたのか」
後ろから、クモ戦で生き残った兵士がついてくる。
「だだだだってよぉ!団長どころか王までお前に倒されたんだぞ!?
下手に城下町に戻ったら平民からどんな扱いをされるか…」
「後ろ盾がなくなったからおれを盾にしたいってわけか」
人のいなくなった城から鎧を盗み出したシゲルが鬱陶しそうにする。
「お前もなんでついてくるんだ、アオイ。
お前のお袋さんはうちの研究所に転送してやっただろう。
お前も保護してもらえ。」
「私はシゲルさんに助けてもらいました。
その恩を返したいんです。」
研究所から女の子物の服を転送してもらったアオイは毅然と答える。
「おれがお袋さんに絡まれなけりゃ、よかったんだけどな…
ハッキリ言うがおれはおれの目的最優先で動く。
お前らを守ってやる事はできないかもしれんぞ」
注射を打つ。
「俺とて騎士のはしくれ!自分と少女の身くらい守ってみせる!」
「アオイです」
「ああ、すまない…」
「そういえばお前の名前は?」
「ユウサクだ!」
騎士は胸を張って答える。
「ユウサク、聞いておきたいんだがお前ずっとアオイにやろうとしてた事をしてたのか?
返答によっては…」
「いや待て待て待て!俺はあくまで落ちこぼれの一般兵士!
団長のご相伴に預かることなんてできなかったよ!」
「信じてやる。お前ヘタレそうだしな。
あんな行為に嬉々として加担してたんなら、この場で殺さなきゃいけねえところだった」
「あの…」
アオイが恐る恐る口を開く。
「なんで、たった一人で帝国と戦おうとするんですか?
仲間を集めた方がいいと思うんですけど…」
「このソード帝国一強の中で、わざわざ殺される為に立ち向かうバカがどれほどいるよ。
普通だったら帝国配下になってヘコヘコして騎士やってた方が安定するわ。
仇なんだよ。ウィリアムは」
「仇…ですか?」
「おれのじじいは立派な研究者だった。
ウィリアムが動物と機械を合体させてハンターを生み出したのは知ってるよな?」
「教科書で習ったくらいなら…あります。」
「運悪くじじいがウィリアムに見初められちまってな。
断ったら試作段階だった人間と動物と機械を融合させたハンターどもにリンチさせて殺しやがった。
それが各地を統治してる王だ。
復讐の為におれは志願して親父の改造手術を受けたのさ。
だから、帝国のハンターどもとやりあえるのは俺くらいしかいない」
「なぁ、さっきから打ってるその注射はなんなんだ?」
「これか。
おれの施された改造手術はまだ不完全でな。
親父が完全な方法を確立して再手術してくれるまで、
定期的に打っとかないと細胞が崩れるのさ。
代わりにパワーは常人の100倍は軽く出る。」
「そこまでして…」
「あのクモ野郎はじじいをリンチして食い殺した中にはなかったな。
多分新型のハンターだろう。
弱かったし辺境に配置されるのも納得だな。
あとウィリアム含めて13人殺さなきゃいけねえ」
「13人!?
うちの王みたいな化け物がまだそんなにいるっていうのか!」
ユウサクが後ずさりする。
「あいつらは自分のことを13使徒と呼んでる。
特にウィリアムは自分を神だと思ってるらしいな。
まぁ神の如き実験を成功させて大陸を支配しちまった奴だ。
うぬぼれても仕方ねえ」
「ずいぶん…重い話を軽く話すんですね…」
「別に。普通のことさ。俺にとってはな。
家族がぶっ殺されたから仇をうつ。それだけさ」
「ウィリアム王を倒したら…どうするんですか?」
「その後か?考えてねえ!
まぁ下克上で王になっておれが死ぬまでハンターや騎士を殺すとするか」
ユウサクを見る。
明らかに怯えが走っている。
「まぁ、お前はお嬢様の護衛をやってくれ。
そうすりゃ最後に殺してやるかもしれないし、
ウィリアム王政が崩れれば一般人として生きてもいい」
「ほっ…」
「今日は洞窟で野宿だ。
俺が夜警してやるからお前らはさっさと寝ろ。」
「おい!あの携帯転送装置でもっといい場所に行けねえのか!?」
「悪いな。運んだブツの質量にもよるが、1~3日はチャージが必要だ。
アオイのお袋さんを転送したから、1日半ってとこか」
「ごめんなさい…」
「謝るのは俺の方だ。巻き込んじまったんだからな。」
「…シゲルさんは?寝ないんですか?」
「俺に睡眠はいらん。よっぽど戦闘で疲れでもしない限りはな」
(王と戦っても大して疲れてねえってことかよ…
なんだよこの男…)
「ユウサク。今俺を化け物を見るような目で見たな?」
「えっいやそんな…」
ククッ、と自嘲する。
「いや、それでいい。
化け物に対抗するなら同質もしくはそれ以上の力が必要だからな。
あながちその見方は間違ってない。」
鍾乳洞の水がポタポタと垂れる音。
アオイはなかなか寝付けない。
「ねぇ、シゲルさん」
「まだ起きてるのか」
「心配なのと、野宿になれなくて。」
「そこのアホ騎士なんか警戒心ゼロで寝てるっていうのにな」
「お母さんは、大丈夫なんでしょうか…?」
「安心しろ。親父の研究所にはメシも寝床も十分そろってる。
木の実栽培だってできるぜ。ハンターの巣から盗まなくてもな。」
「ありがとうございます。
でも、町の他の人たちは平気でしょうか…」
「あいにく転送するにも限度があってな。
あんたは俺と関わったばかりに、親子ともども命を狙われる危険があったからな。
騎士どもは軒並みぶち殺したから民間人に危険はないだろう。
生き延びてる奴がいても、王の庇護なしじゃ袋叩きにあうだけさ」
「…さん!
シゲルさん!」
バッと起きて注射を打つ。
いつの間にかうたた寝をしていたようだ。
「お前か!ハンター殺しのハンターというのは!
俺のねぐらを勝手に使いやがって!」
「お前は…コウモリ型ハンター長男か」
「こいつを知っているのか!?」
ユウサクが、へっぴり腰でアオイを守るようにハンターと対峙している。
シゲルはすかさず覚醒し間に割って入る。
「こいつらは一応使徒でな。3人兄弟で1人の使徒として扱われてる。
バーサーカーの次男、インテリの末っ子…
そしてこいつは、一番雑魚の長男だ」
「なんだと!よくも俺のあだ名を広めてくれたな!」
「なんだ雑魚か!俺でも倒せるか?」
ユウサクが投げた石を、羽根ではじき返す。
目は怒りに燃えている。
「やめとけ。腐ってもハンターだ。今のお前が手における輩じゃねえ。
それにこいつらの真価は戦闘能力なんかじゃない。
その飛行能力とコミュ能力によるスパイ…諜報能力だ。
ウィリアムの野郎が各軍勢を落とす際に重宝されたらしいぜ。
諜報だけにな」
「なめるな!どこの馬の骨とも知らん奴が俺をバカにしおって!
お前ごとき優男がクモを殺ったって聞いたが何者だ!?」
「…動物学者のジョー=オーキードの孫っていえば、わかるか?」
「な!」
一瞬のスキを突かれて、組み伏せる。
「貴様は確か、じじいを食い殺すのに加担はしていなかったな。
半死半生で生かしてやってもいい。」
「ほんとか!?助かった…
あの時のチビどもの片割れがこんなに大きく…」
「代わりに、命がけでウィリアムのいる本拠地まで連れていけ」
「ま…魔王城にだと!?
それだけは冗談じゃない!
俺が殺されてしまう!!」
「おい、こんな奴助けてやるのか!?」
ユウサクが詰め寄る。
「いや、その気がないなら今ここで…
離れろ!」
コウモリハンターから手を放し、ユウサクを突き飛ばす。
「なにしやが…うわ!」
ユウサクの持っていた盾が破壊される。
「ぐうっ」
シゲルの肩はえぐられ、出血している。
「シゲルさん!」
「寄るな!
潜んでいたようだぜ…
こいつの弟がな!」