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【第六話】 ‐宴の晩餐、魔法使いを添えて‐

ダンという男と別れてから、俺たち三人は様々な所に足を運んだ。

肉を食べたり、果物を食べたり、時には何か娯楽道具も見て回った。

どれもとても美味で興味深いものだったが、一つ計算に入れていなかったことがある。

俺の年齢は三歳で、腹はすぐに満腹になってしまい、あまり食べられなかったのが悔しかった。


しかも、何かに食事にはいつも欠かさなかった酒、酒が飲めないとなるとあまり食欲も湧かない。

俺のできることは酒をうまそうに飲んでいる奴をジッと見て俺も飲んでいる気分になることだった。


そして、俺がこのミャーガレット祭で確認したかった事、それがこの歩きを通してようやくわかってきた。


「ふぅ、少し休憩するか?さっきまで歩きっぱなしだったからな」


「そうね、そろそろ足も痛くなってきたところだし、何処か座れる場所を探しましょうか」


歩き始めて色々な場所を回ってきたが、俺の目的はこの場所ではなく、人にある。

はやりというべきか、俺の推測は的を得ており、ここに魔法を使っている人はだれ一人としていなかった。

使った方が何かと便利な魔法を節約する理由などない。


見事に座れそうな場所を見つけた二人はそこ座り、今までの活気ある空気からの緊張が解けたようにため息をついた。


「なかなか疲れたな、今日のミャーガレット祭、例年に比べても過去一番の活気じゃないか?人がいつもよりも多い気がするんだが」


「そうかしら、確かに人が多い気はするけど、私からすればいつも通りの人数にしか見えないわ」


そもそも、何故魔法を使えないのだ?魔力は自分の体を流れる波のようなもので、それを使えば魔法を使うことができる、その魔力がないなんてことが絶対にないはずなのだ。

いや待て、使えないのではない、それと近しいものが一つだけ考えられることができる。


『使い方が分からない。』これなら魔法を使わないという理由ができるが、思うところがある。

本当に何も魔法を使えないというならば、魔法の授業などは一体どうしていたのだ?魔法というのは生活するためにはなくてはならないものとされている。


当然その授業も力が入る、なら魔法の使い方ぐらいは知っているはずなのだ。

魔法の使い方が分からない、使わない、授業で習っているのにか?有り得ない。


何故だ…何故だ。


「ね、ねぇあなた?何かおかしくない」


そんなことを考えていると、母のラフィが突然そんなことを口走った。

反射的に顔を上げると確かに異変に気付くことが出来る。

皆何か焦っているとも目に取れることができるが、それとは逆に何かを楽しみそうにしているとも受け取れる。


「おぉ、なんかあったか?」


「…あ、あれ」


俺が指をさしたところをラフィとハックが見る、そこには俺たちが見おぼえのある奴がいた。

ハックよりも年を食っている中年の男性、泣く子がさらに泣いてしまうことで有名なダンがそこにいた。

そのダンでも、ほかの人達と同じように何かの目指して走っている。


「ちょっとダンさん待ってくれ!!」


ダンに静止の声をかけると、あたりをぐるりを見たわし俺たちを見つける。

すると即座にこちらの方に走ってきた。


「おぉ!!お前たち丁度いいところにいるじゃねぇか?一緒に行こうぜ!」


「えぇと、何があるんです?俺たち何も知らなくて」


「俺もさっきまで知らなかったツーの!いいから来いよ!すげーもんが見られるってよ!」


「いや、だからそのすげーもんってのは一体何なんです!?」


「それは後で教える!もうすぐ始まっちまうから早くいくぞ!!行きながら教えてやるから!!」


「ちょ!ダンさん!?」


ダンさんはハックの手を引っ張りそのまま連れて行ってしまった。

俺の父親を引っ張ることができる力がダンに備わっているとは思いもよらない出来事だった。


「もうあなた!…ジェイク、どうする?」


どうするか?そんなもの決まっている。


「いく、いきたい、早く」


今日は楽しむためにミャーガレット祭に来ているんだ。

いつもの考察は優先度が低い、それに民衆がここまで駆り立てられるのもとても珍しいことが起きているのと考えるのが必然、当然気になる。


「なら早くいきましょう、みんな急いでいる感じだったし、終わってるかもしれないからね」


「うん、はやく」


母ラフィは俺の乗っている乗り物のようなものの取っ手を手に持ち少し足早に民衆たちの走る方向に向かって歩き始めた。


「にしても、何があるんだろうねジェイク、ここまでみんなが駆り立てられてる姿は初めてだから」


「わからない、けどすごいことがおきている」


「そうね、私も少し楽しみにしてるわ」


────

──



皆が走って目的としている場所は街の中央で、俺たちは幸いそこから近かったため、さほど時間もかからずに到着することができた。

他のみんなも、たくさん走って息が切れている人たちが多い。


「すごい人ね、みんなが集まりやすい様に街の中央で開いているのね、何が起きるかしら、それよりもまずはハックを探さないとって…ジェイク?」


ラフィが何か言っているが、俺の耳には届かない。

それほど俺は目に飛び込んできた光景を集中して凝視していた。


皆の集まっている中央に大きな土台があり、そしてその上には白いローブを身にまとった一輪の花とも見えるきれいな男が佇んでいた。


そして俺の視界の過半数を奴の手に持っていたものに惹きつけられるように凝視してしまう。

その男の身長と同じぐらいの長い棒…その棒の先端にはキラキラ煌めく赤い石、間違いないだろうと心の中で結論付けた。


「あの男の人、何か長い棒を持っているけど、あれで何をするのかしら?投げて魅せるのにも一つだけじゃ味気ない感じだし」


「…うん」


ただの棒ではない、俺が会いたかったものがまさかこんなところで会うとは思いもせず、もはや祭りで羽を伸ばすなんてものは頭にない、ただ考察する。


この世界を構成する基盤の一つの支えとなっている最重要道具とされている物…まさしく『杖』であった。

あれが杖…この時代の魔法常識を築く基盤となり、さらに時代を築いた魔法道具。


「ラフィ!やっと見つけた」


民衆の中から人をかき分けながらこちらにハックが向かってきた。

ハックも走っていたのか、多少息が切れている。


「ちょっとあなた!どこにいたのよ!というか私たちを置いて行かないでよね」


「悪かったって、それよりも、いったい何が始まるんだ?白ローブの男、長い棒を持っているが」


やはりこの二人、いやここにいる土台の男と俺以外はいまいち何が起こるのかピンと来ていない感じだった。

つまりそれは、ここに集まっている人達は魔法を使ったことがない一般人であるという事になる。

恐らく、その使い方すらも知らないで生きてきたのだ。


やっと繋がった感じがした。

魔法の使い方を知らない民衆、すなわち魔法を使うものがいない一般人の集まり、魔法を使うときに必要な杖を知らない、つまりこの世界は…


すると突然、大きな打撃音が土台の場所から鳴り響く。

ローブの男が杖で土台を叩いたようで、皆の視線は白ローブの男に吸い寄せられた。


「皆さま!!当然初めましての方が全員でしょうから、まずは私の自己紹介をいたします!!」


男は一つ咳払いをしてから、何かと思えば杖を前に突き出した。

次の瞬間、奴の持っている杖の先端部の赤い石が意思を持ったかのようにひとりでに光り始め、少し小さい魔法陣を形成していく。



「私は中央の国、ラッターニから来た大道芸師のピエロと申します、以後お見知り置きを…」


「え?え?あれ?今隣にいなかった?」


「俺の隣にもいた気がする…」


「一体どうなっているんだ?あいつは確かにあそこにいるのに…」


何故か民衆にはざわめきが起こっているが無理もないことで、男は先ほどよりも落ち着きのある小さな声で自己紹介をしているにも関わらず、まるで耳元で自己紹介されているような感覚に陥ってしまう。



先ほどの杖先端部の赤い光、確実に俺が一年前に読んだ本、

『魔法使いの辿る道』に出てきた魔法使いのやり方と酷似している。


そして、こんな事が出来るの魔法は俺の知る限りでは一つしかない、それは俺もやった事がある基礎中の基礎魔法。


「今、皆さんには私の声がよく届いていることでしょう。

それは何処にいても、どこに逃げてもどこまでも追ってくるような声、今のは風の魔法で声を飛ばしたのです…」


ピエロは少し頭を下げ、そのまま静止した。


やはり風の魔法、この時代の三大魔法として名高い魔法の一つで、この魔法は俺の時代からあり、今白ローブがやったのと同じように何かの演説などをする際に使う魔法だ。


民衆が呆然と白ローブを着た人物、ピエロを見ていると、何処からともなく震えているような声で一人の男が声を上げる。


「風の魔法、中央の国ラッターニって…事はまさかあんたはそう言うことなのか!?」


その言葉を待っていました、そう言わんばかりに白ローブの男はその言葉を聞いた瞬間に引きちぎれるかと思う勢いで顔を上げた。


「そう!皆様の中でもお気づきの方がいるでしょう!この私はこの祭りの盛り上がりの火を更に高めるために参った正真正銘の『魔法使い』なのです!!」


「魔法使い!?なんでそんな人がこんな所にいるんだ!?」


「一体なんの目的があって…」


「お静かに!まだ私の番ですよ」


民衆のざわめきを土台を杖で叩いて消させたピエロは言葉を続ける。


「当然ここには私の事を未だに魔法使いではないと思う方がいるでしょう、大変鬱な気持ちになりますが無理もございません、ここにいる人は魔法使いどころか魔法すら!見たことがない人たちだからです」


…あぁ、そうか。

随分簡単な話だったな、そうか通りで、ようやく推測が頭の中でパズルのように当て嵌まった。


逆に、今までこの考えが生まれてこなかった自分に苦笑が出てしまう、それほどまでに簡単だ。


「しかし今宵!貴方たちは刮目することになる!!私の魔法で、この祭を!一生忘れることができなくなる祭りになる事を恐れるぐらいに脳裏に焼き付くものとなるでしょうッ!」


数秒の静寂、次には一転して爆発するかのような期待を込めた歓声が辺り一体を埋めつくように大きくなる。

初めての魔法、期待を高めるには十分すぎる要素だ。


「凄いな!!生きている中でまさか魔法をこの目で見ることができるなんてなぁ!?」


「そうね、これは流石に驚いちゃうわ!ねぇジェイク!?」


例外なくハックも、普段はおとなしいラフィも声を大きくして楽しみにしているようだ。


「……うん、これはすごいよ!!」


言葉ではこう言っているが、俺は奴の大道芸を快く見ることはできなないだろう。

俺からして見れば奴を審査している感じで、この世界初めての魔法を見るのだ。

つまり魔法の判断基準は白ローブのピエロに託されている。


勿論の、事大道芸師に威力高い魔法を望んではいない。

しかし測ることは出来る、この世界の魔法は奴を基準に測ることができる。


一度深呼吸をしてから再度やつの動きに注目する。

魅せてみろ、この世界の魔法、くれぐれもガッカリさせないでくれよ?























よければブックマークや感想、星の評価などなどよろしくお願いします。

これら全て私の励みになりますので是非是非


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