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【第三十五話】 -悩みの種は摘むことで-

 


「ふむ…どうしたものか」


 家族の食卓。

 ラフィが作った料理を前にして、俺の箸は一向に進まない。

 あれから、俺の頭はクォーツの悩みで侵食されてた。


 クォーツの悩みを解決してあげたいが二割。

 俺が分からない事なんてないと言う自身の誇りを守るためが八割。


「ん……どうしたジェイク?」


 俺の様子を見かねたハックは声をかけてくる。


「いや、少し友達のことについて考えてて…」


 あれから、手に取った本の頁を余すことなく熟読した。

 だが、どれもクォーツに該当するものは載っていなかった。

 自身の得意な属性がないというのは、本来あり得ないことなのだ。


「と……友達?」


 ラフィが手に持つ橋を震わせた。

 友達がいないと思われていたか、少し傷ついてしまう。


「そう、それが……はぁ」


 家族の食卓、そんな所でため息を吐いてしまった。

 自分に無理もないと言い訳をしたいが、それでも良くないことをしてしまった。


「……ラフィ」


「えぇ、分かってるわ」


 二人は視線を合わせ、何か意気投合したように頷く。

 不思議に思った俺はラフィに聞いた。


「えっと、一体何がわかったの?」


 そう聞くと、ラフィは椅子から立ち上がる。

 そして俺の方まで歩き、何故か全身を包んだ…何が起きてる?


「これまでよく頑張ったわね…もう大丈夫、お母さんたちが何とかするからね」


 全く話が見えてこない。

 どういう経緯だ。


「ジェイク、俺を殴れ…俺は父親失格だ!」


 目を瞑り、ハックは覚悟を決めたようにすました顔をしていた。

 本当にどうしたこの両親。

 急に抱き着いたかと思えばもう片方は殴れ…何故?


 あぁもう分からん…だが一つだけ言える。

 この二人は、何か変な勘違いをしているという事だ。


「待って、絶対勘違いしてるよ二人とも」


「分かるわ…言いたくないのよね、大丈夫…私たちはわかってるから」


 何もわかっていないではないか。

 ラフィの慈愛の抱擁を押し除けて、真面目に話す。


「本当に違うんだ」


 ラフィとハックは俺の顔で何かを察し、自分の席へと戻っていく。

 目の前にあるご飯の一口入れて話を続ける。


「俺の友達に、得意な魔法がないって言う人が居るんだ」


「んーと、それただ単に」


「才能がないわけじゃなくて、実際得意な属性がないと言うのはおかしい事なんだ…それに前も言った通り最上位クラスの友達のことなんだ…二人ならどう考える?」


 自分でも思うが、だいぶ無理を言っている自覚はある。

 二人は魔法に詳しいわけではないから、二人から正解が出なくとも仕方がない。

 しかし、初心の心を持っている人間の意見は案外馬鹿にすることはできない。


「……俺は、そんな奴いないと思うんだよな」


 最初に声を出したのはハック。


「居ないって?」


「才能のない人間なんていない…自分が見つけられてないだけで、実は自分が思いもよらなかった才能が眠ってる…と俺は思う」


 ………ほぉ。


「……その三つの魔法の中に得意魔法がないなら、まだ誰にも発見できてない魔法が実はあるとか…ってジェイク!?」


 どさっと、体に謎衝撃が伝わった。

 理解したのは全てが終わってから、どうやら椅子から転げ落ちて地面に激突したようだ。


「父さん、俺を殴ってくれ」


「何でだ!?殴らないぞ!」


 馬鹿だ、俺は馬鹿であった。

 あぁあ萎えた、魔法研究家失格だ、今本気で引退を考えている、簡単な事だったではないか。

 様々なことが、最近頭からよく抜けている気がする。


 体を起こして椅子に座り直した俺は二人に頭を下げる。


「ありがとう、二人とも…おかげで解決できそうだよ」


 スプーンを手に取り料理を食べる。

 さっきより鮮明に味を感じる、悩みの解消は大事なのを実感出来る。


 ハックとラフィはそんな俺を見て、顔を見合わせてニコリと笑った。



 ────

 ──




 クォーツの悩みを聞いてから、三日が経過した。


 悩みの種が分かったから早速問題解決、と言うわけにもいかず、多少考える時間が必要だった。


 クォーツがこちらに差し出した悩みはとても難解なもの。

 解決するためには未知の領域へと足を踏み出す必要がある、つまり今まで誰もやっていなかったという事になる。


 だから少し考える時間が必要だった。

 だが三日三晩考えたところで、大した案は出ず、苦悩を強いられた。


 それでも問題の解き方が分かれば、何とか解決まで漕ぎ着けられる。


「と言うわけで、呼び出しちゃってすいません」


 授業後、アミには先に帰ってもらった。

 そして闘技場のところで、今目の前にいる杖を持ったクォーツと合流した。


「いえ、大丈夫です…えっと、どうしたんですか?」


 クォーツの表情が優れていない。

 時間がないなら早く終わらせよう。


「三日前の悩み、解消できるかもしれません」


「…ほ、本当ですか!?それなら早く解決してください!」


「いや、でもまだ恐らくの域を出ないですので…そんなに近づかないで…」


 ハッとしたクォーツは元の位置に体を戻した。

 それでも、俺の口から出た目から鱗の言葉はクォーツは表情を明るくした。

 暗い表情だったのは時間的な問題ではないようだ。


 本当なら今すぐにでも教えてあげたい。

 だが、今度のことを考えると、一度本人に確認を取る方がいい。


「それに、この問題を解決するためにはクォーツさんの許可が必要なんです」


「……人が居ないのと、何か関係ありますか?」


 この闘技場は現在、俺とクォーツの二人しかいない。

 本来いつでも使える場所だが、無理言って今日は貸切状態にしてもらった。


 クリラに頭を下げる羽目になったと言うところだけが、唯一気に食わないところである。


「今はこの解決案は誰にも知られたくないし、後からどうせバレることです、クォーツさんにしてほしいことは俺のいう事を信じて従う事、これから覚悟してほしいという事です」


「任せてください!どんな事があっても大丈夫です!」


 いい自信だ。

 早速本題に入るとしよう。


「ではまず、この紙を持ってください」


 紙をクォーツの前に差し出す。

 手のひらぐらいの、小さなメモ紙だ。


「それじゃあ、中を見て下さい」


「……何ですか、これ」


 意味がわからないだろう。

 クォーツの手に渡ったのは、短い文が何個も連続したもの。

 これを見て理解出来たのなら、俺の生きていた時代よりも昔の住人だ。


「詠唱文です、随分昔は使われていたみたいですが」


「詠唱文…詠唱文…聞いたことないですね」


 馴染みがあまりない言葉をクォーツは何度も口に出す。

 実際俺も使ったことはない、俺が生まれた時は既に無詠唱だった。


 ただ、詠唱にも利点が存在する。


「では、杖を構えてからその文を口に出してください」


「わかりました…えっとぉ」


 杖を前に出し、紙に視線を流しながらクォーツはゆっくりと声を出す。


「聖なる神よ…どうか、その偉大な力をお貸しください」


 詠唱の不便さは考えれば幾らでも上げられる。

 今思いつくだけでも、声に出すからすぐにバレると言う不便さ。


「大地をゆらせ…集え、恵みの粒子達よ」


 ただ、そんなデメリットだらけの詠唱にも利点が存在する。

 正直利点はこれだけ…これの為に詠唱させた。


その利点って言うのは。


「〈土壁(クリンジ)〉…え」


最後の言葉を紡いだ瞬間。

クォーツの持つ杖から魔法陣が浮かんだ。

本人の意思とは反した暴走とも呼べる動きだが、それは違う。


目の前の地面から音を立てて乱雑な形の土の壁が徐々に盛り上がった。


やがて人三人分の高さまで聳え立った土壁(クリンジ)はそこまでで動きを止めた。

これぞ詠唱文の利点、本人がその魔法を知らなくとも、存在を認めまいとも、文を言い終われば発動する。


詰まるところ、魔法の自動発動である。








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