【第三十一話】 -賭け金レイズ-
ガレット学園に入学してから早くも一か月がたった。
ガレット学園の、と言うより学園生活が俺にとって刺激が大きく、毎日毎日が驚きの連発だった。
まず俺たち最上位クラスの授業は全体を広げる授業ではない。
その人得意分野をさらに引き出すような授業体制、一般常識程度の歴史を教えてもらう。
それ以外は実践的な魔法知識を教えてもらう。
意外な事だが、俺にも学ぶことはあった。
もう何も学ぶことはないと思っていたが、この世界も侮れないという事か。
杖に関しても、俺の仮説が当たっていた。
杖が手になじむ感覚は、俺の魔力を少量だが吸収ことが原因らしく、杖は使用者の体の一部となるのだ。
それと、今のところ最上位クラスは名ばかりなものだ。
まだ一か月、最上位クラスが調査なりなんなりする程の事件が起きていない。
流石超優秀な奴らが集まる名門のガレット学園、何か一つの揉め事がいつ波乱を呼ぶかわからないからな。
最上位クラスの特別待遇について。
言葉ではわかっていたが、いざ目にすると改めてその待遇をの良さを実感した。
授業の回数は本当に少ない。
では授業がない日は学園にも来なくてよいのかと言われればそうではない。
万が一が起こった時にすぐに駆け付けられるように学園には来て、書庫で時間をつぶしている。
今日も今日とて、最上位クラスは授業がないので、俺は書庫に向かっていた。
事件がないか学園を見回っていても、子供の姿では威圧感と言うものが欠如しているため、言葉を聞き入れないだろう。
このような仕事はグリムとシュート、ミランに任せる、クォーツは…まだ分からない、素性が謎のままだ。
「何度も言っている通りですが、その件につきましては最上位クラスの担当、クリラ・ウィントン先生を訪ねてください…では失礼します」
「待て!今はお前に聞いてんだよ、話が分からねぇ奴だなぁ!」
早く書庫に行きたいのだが、仕方なく足を止める。
それで、書庫に向かっているときに大柄の三人に絡まれたわけだ。
話が分からないのはどっちだと言いたいが、逆上されるのがオチだ。
「それは知らないとさっきから言っているではないですか…」
「てめぇ…今ワットさんがどんな気持ちでいるのかわかってんのか!?」
ワット呼ばれた男の左隣横にいる奴が俺に怒号を浴びせる。
うーん…どうしたものか。
「どういう意味ですか?」
そう言うと、今度はワットの右隣にいる男がさも自分の事かのように自信満々に言った。
「親のコネで最上位クラスに入ったガキにはまだ分からねぇだろうよ!ワットさんはなぁ、誰よりも努力して、あのグリムさんにも届くと言われている男なんだよ!」
「……へー」
コネと言う部分には少し苛つくが、次の言葉には少し興味がわいた。
あのグリムに届くという事は、グリムの次に強いという解釈で問題ないはずだ。
だが、その興味もすぐ失せた。
今は早急に書庫に行きたい、こいつらと話していても有意義なことなど一つもないからな。
少しだが、俺らの会話をかぎつけた者達が俺たちの方を見ているし…よし。
ここはひとつ俺の秘儀を見せてやろう。
何かと前世では宴やらに誘われることも珍しくなかった。
なので、俺には今すぐその場を退散する秘儀がある。
「用事を思い出しました、その話はまた今度という事で…」
そそくさーと早歩きでその場を退散する。
多少強引だが、これで大体のやつは撒くことが出来る。
「逃げんなガキ!まだ俺の話が終わっていないだろうが!」
こういう例外も、いるにはいる。
もう仕方がないな、自分の納得するものしか見ない男なのだろう。
「わかりました…どうしたら放してもらえますか?」
相手の要求の呑むのが一番早い。
しかしこの技の悪い所は相手の無理難題な要求をされることだ。
俺の言葉を聞いた男たちの顔が歪み、迫るように顔を近づけてくる。
この顔の歪み方…いやな出来事の前兆だ。
「フェアリアムだ、俺とお前、最上位クラスの座を賭けて一対一の勝負を合意しろ、まさか最上位クラスの人が、その辺の俺のような凡夫の望みを受けないわけないなぁ?」
俺たちの周りの人達が一目散にどこかに飛んでいった。
恐らく、このことを広めるつもりなのだろう。
一日もすれば俺たちの噂は広がり、さらにそれは真実に昇華する。
特に狙ったわけではないだろうが不覚にも俺は断れない空気になってしまった。
「…………」
「どうした?まさか受けないなんてことないだろうなぁ?」
……好機だ。
顔には出さず、あくまで心の中で笑った。
この状況、相手は俺にしてやったりと思っているだろう。
しかし逆、俺は今を好機と捉えることが出来る。
あれはガレット学園から一週間後が立った時だった。
クリラが大量の紙をもって、その紙を俺の机に置いたのだ。
何だろうと思い中身を確認すれば、大量のフェアリアムの申し込み表だった。
クリラの聞いた話によれば、フェアリアムは当事者たちが何かを賭けて行われるもの。
ザックリ行ってしまえば、こいつらは俺に最上位クラスの座を賭けて勝負してほしいといった感じだ。
しかし、相手の賭ける内容が稚拙過ぎて全然賭ける物が釣り合っていない紙が大半だった。
だから今まで受けなかったのだが…ここら辺が丁度いいだろう。
「わかりました、いつ頃にしますか?」
「七日後の学園の授業が終わった時だ、この紙に自分の名前を書け」
俺はワットに突き出された紙にすらすらと自分の名前を書いて突き返した。
「楽しみにしてろよ…じゃあな」
はぁ…面倒くさいことになったが、それ以上に興味もある。
グリムの次に強いと言われるワットと言う男、一体どんな奴なのか。
「……しかし」
何だが奴を見ていると、いやな予感がするのは俺だけだろうか…
────
──
「おい、ジェイク」
書庫で本を読んでいると、俺の前の前の机に手が置かれた。
視線を上にあげると、そこには今の俺を憐れむような顔をしたグリムがいた。
「仕事はもう終わったんですか?」
「まぁな、別に仕事っていうほどではない…今はそんなことを聞きに来たわけじゃない、あの噂本当なのかよ」
「噂ですか?」
「あぁ、もう広まりまくってるぞ、魔法最上位クラス最少年のジェイクがワットとフェアリアムを行うってのはよ、実際どうなんだ、マジなのか?」
「あぁ、予想よりもだいぶ早く広まってるんですね」
噂の伝達率がすごいというよりも、この噂が学園で広まったという事が短時間で広まった原因のようだ。
いやぁすごいものだ。
「感心してる場合か、どうするんだお前?」
「どうする…とは?」
「フェアリアムをやるのか、やらないのか、一体どっちなんだ」
グリムはいつになく真剣な顔をしている。
グリム視点、俺があの男と戦う事は非常事態とも呼べる事なのだろうな。
「今更取り消す事はできません、もうフェアリアム申し込みの紙もその場で書いてしまいました」
「そうか、何を賭けて行うかは容易に想像できる」
「ですね、それよりも思ったんですが」
「ん、なんだ?」
これは後のやる気に関わる事なので、事前情報としてグリムに聞いておく。
「ワットさんの隣にいた人達が『ワットはグリムに届くと言われていたんだぞ!』と自信満々に言っていたのですが、ワットさんとは知り合いですか?」
グリムは首を縦に振った。
「そうだ、ワットは俺と同じ三学年、一見傲慢そうな性格に見えるがその実はただの努力家ってのが俺の評価、俺がこの学園にいなかったら今頃あいつが最上位クラスに入っていただろうな」
グリムの話した通りなら、俺が思えた悪い奴ではなさそうな感じはする。
あの嫌な予感も俺の思い過ごしか。
「だから、ただの子供が最高クラスに入っているのに俺みたいな努力家は外れるんだと…最もすぎる理由ですね」
「自覚があるなら結構だ、俺含めて全員思っている」
「なら、なんでグリムさんは俺を抜けさせようとしないんですか?」
「過ぎた話だ、親のコネで入ったとしても結局いつかはふるいにかけられて終わる、俺が手を下さなくともな」
自信満々に言うグリムを前に俺は黙ることしかできない。
別に気まずいとかではない、ただ次には何の言葉を出せばいいのか分からないのだ。
「あーそうだな…これも聞いておきたい事なんだが」
いい判断だグリム。
よく会話を広げてくれた!
「はい、なんでしょうか?」
「実際戦うことになったわけだが、何か勝算はあるのか?」
「………うむ」
全然考えていなかったな。
勝算…勝算か…始まりと瞬間に魔法当てて「はい、勝ったー」は勝算なのか?
「おいおいおい、まさか勝算もなしに挑んだわけじゃないだろうな?」
「い、いや勝算はあります、うん あるあります」
「はっ、どうだか」
グリムが真正面に飛んできた俺の言葉を笑い飛ばした。
本当に勝算はあるのだがな。
「こう見えても、俺は勝てない勝負はしないんですよ」
「そうか、七日後だろう?時間はたっぷりあるから沢山策を練っておくんだ」
目の前の椅子からグリムが立ち上ると、一目散にドアの方に向かう。
「何処行くんですか?」
「見回りだ…どうせ何も起こっていないだろうが」
バタンと、扉は閉められて書庫に一人だけのなった。
一つのため息を吐いて、俺は天井を見上げて考える。
ワット、グリムの話では努力家…らしい。
しかし何故だかそうは思えない、グリムが嘘をついているわけでもない気がする。
「……クックック」
俺の考えが合っていれば、あの男は相当できる男だ。
七日後のフェアリアムは警戒しておこう。
あの男は何がなんでも勝ってくるはずだからな。
────
──
「全く、今年初めての事件はお前かジェイク」
フェアリアム当日。
俺は闘技場に入る目前の小さな椅子に座っていた俺の前にシュートが奥の通路から姿を表す。
「に、しても…どうしたそのしけた面」
「聞かないでください」
この七日間、学園内では俺とワットとのフェアリアムで持ちきりだ。
なんなら噂なら二日で広まり、後の五日間は学園内の人間が噂を様々な角度から育てていた。
当然アミにもその噂が入ってこないはずもなく、この七日間は俺が犯罪者になったが如く問い詰められた。
さらにアミがその話をティズ・グラントリアにも伝え、いつ変は気を起こすか分からないティズ・グラントリアを前に生きた心地がしなかった。
「いざ戦いを前にして怖気付いたか?」
「多少はあるかも知れませんが、この顔になっている原因ではないです」
「そうか、お前達の噂が広がっている、今日の闘技場の観客席は立って見ている奴もいる、それほど人が多い」
「緊張するなってことを言いたいのなら大丈夫ですよ」
戦いにおいて、緊張な重要な要素だ。
と、あいつも言っていたしな。
「そろそろ時間ですので、ここら辺で失礼します」
立て掛けてある杖を持ち椅子から立ち上がる。
そして闘技場の中に姿を現すと、確かにシュートが言っていた通り、大勢の人が会場を埋め尽くしていた。
「ちゃんと逃げずに来たみたいだな」
俺の反対側の入り口からワットが姿を現す。
すると、観客席からは会場を壊す程の大きな歓声が上がった。
この感じ、ワットもそこそこ有名人らしい。
「そう言う約束ですので」
「生意気なガキだ、今から自分が負けるってのによ…その杖も中々良いものだ、それで負けたらマジで言い訳できねぇぞ?」
「言い訳する気もないです」
どうせ杖は使わないから言い訳もクソもない。
ワットこそ、杖の性能の差を言い訳にしてくる可能性がある。
俺たちとワットとの間の距離のちょうど真ん中の左側から全く見たことがない女性が歩いてきた。
「あの人は?」
「俺たちのフェアリアムの仲介役だ、別に気にすることはない」
ワットがそう言うと、仲介役の女性は俺に軽く会釈した。
そして今回のフェアリアムの説明を始めた。
「このフェアリアムの勝利条件は、相手を戦闘不能にするか、相手が『ルーズ』と唱える…この二つです、両者理解していますか?」
俺とワットは頷いた。
「では賭けるものについて、ワットさんは『ジェイクさんへの一切の干渉』、そしてジェイクさんは『最上位クラスの座』これを賭けて頂きます、両者理解していますか」
「いや、待ってください」
ワットは頷いた。
しかし、俺はこの条件を聞き、少し不満に思った。
こいつも同様、賭ける物が釣り合っていない。
「賭ける物を追加します、その場合そちらのワットさんにも賭けるものを増やしてください、互いの合意があれば良いですよね?」
「…ワットさん、どうですか?」
「別にいい、何を賭けてもいいぞ」
会場は盛り上がりを見せる。
しかしそれは一瞬の事だった。
ここにいる全員は、俺の言葉を聞いて震撼した。
「俺は自分の命を賭けます」
クリラ・ウィンドン
↓
クリラ・ウィントン
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