【第三話】 -世界魔法-
俺が生まれ変わりというものをしてから一年が過ぎて、つい二か月前にこの世界ではようやく一歳を超えた。
まぁ今まで生きてきた年齢で語るならば78歳という事になる。
そして一歳の過ぎてからというものようやく家の中をに四つん這いになりながら自由に移動をすることができるようになった。
母の名前はラフィ、そして父の名前はハックという、
母親ラフィは黒髪のきれいな女性で、父親ハックは体ががっちりとした何でも頼れる男的な感じがする。
この二人は俺の予想通りまだ契りの日が浅い、言うならば初々しさがとてつもない。朝のキスなんて俺にバレないようにやっているつもりなんだろうが俺にはバレている。
この家の作りは二階建て、一階には椅子と机が並んでいる少し広いスペースがあり、その近くには調理場、そして広いスペースの隣には父と母の安心安全な部屋が隣接している。俺の部屋はその隣にあるがここで一つ疑問なのが何故俺だけ別の部屋で寝ているのだろうかという事なのだ。
決して俺がこの二人と寝たいというわけでない、ただやっとこさ苦労して生んだ赤ん坊を、ましてやまだ生まれてから一年ちょっとしかたっていない赤ん坊を一人の部屋に置いていくというのはどうなのだ。
もしこれが俺ではなくちゃんとした赤ん坊であったら今頃泣いてしまっていること間違いない。
しかし、これにはちゃんとした理由があった。
どうやら俺の新しい父親は俺をかなり溺愛しているらしく、もし俺が一緒の部屋で寝てしまっていると勢い余ってそのまま抱きしめて寝る、次に俺が目覚めるのは今度こそ天国か黄泉の国だ。
そして、まずするべきことを考えた結果、俺はまだまだこの世界について知らないことだらけだ。
大まかに言うと世界の歴史、俺の生きていた時から何年が流れているのか。敵を知り、己を知れば百戦危うからず、まずは世界の事と俺自身の事についてもよく知る必要がある。
「……う」
深夜、恐らく二人とも寝ているだろう時間になっているはず。
慎重に手から魔法陣を形成して編み込む、大きさは最小限かつ迅速に、いつ母が来ても対応できるようにする。
『研究魔法〈音遮断〉』
音遮断の魔法は完全に音を遮断する魔法、その魔法をこの家全体にぴっちり張り付かせるようにかけた、これで扉の音も風が家に当たる音も何もかも音がなくなったので誰にも気づかれずに動くことができる。
さらに念には念を、もう一度魔法陣を、しかし今度は家全体に魔法をかけるわけではない。
魔法をかけるのは俺自身だ。
『魔法〈飛行〉』
飛行の魔法で空中へ浮かび、そのままドアを開けて目的の場所まで飛んでいく。
目的の場所というのはこの家の二階にある大量の本たちだ。
先日、この上を上った先にある扉の先がどうしても気になったので開けてみれば、そこは大量の本がズラッと並んでいた、一瞬しか見ることは出来なかったが確かにあった。
入ろうと思ったのだが運悪く母に見つかってしまい、入ることは叶わなかった。
まぁでも、この家にはそういう場所があるという事実だけでも値千金なところだ。
今の時代を知らない俺のために神様が少しだけ融通してくれたと受け取っておこう。
早くも目的の場所につきドアを開けて寝屋の中に入る。入った瞬間に少し煙いような、いわゆる本の匂いというのが鼻から顔に突き上げる。
「…うぅ」
前にはちょっと先までしか見ることができなかったこの部屋、入れば一面、本とその棚だけが波紋上に存在する。
それ以外のものは何もなく強いて言えば波紋上に広がっている中心に椅子がある。取り敢えず飛行の魔法を解除して椅子に座る
入ってから気づく凄みが、確かにそこにはあり、前に生きていた時代でも自分の家にこれほどまでの本を所有していたものは見なかった、せいぜい所有していても本棚5つ。
しかしこの家の子の本の数はざっと見ても300の書物とかなり異常な数がここに現れている、まさに圧巻と呼ぶに相応しい。
だがこれほどまで多いというのはそれはそれで面倒くさいもので、この中から俺が探し求めている書物がどこにあるのか見当がつかない。
「うーーーう」
一体どうしたものか、そういう探し物に特出した研究魔法はあるにあるが、何かが密集しているところでは多少の粗がある、しかし200を超える書物をいちいち確認している暇は俺にはない、早急に探し当てる必要がある。しょうがない…
両手に魔力を込めて地面にくっつけると、みるみるうちに2階に床を魔法陣が上から覆い被さるように広がる。
『研究魔法〈捜索検〉』
次には俺の頭の中から数々の光の粒子が徐々に飛び出し、20個辺りの本棚に入っている本を吟味するように高速で飛来する。
やがて光の粒子の動きが徐々に弱まり始めた頃、床に広げていた魔法陣を一気に発動させる。
「うぅぅぅ!?」
発動した瞬間、本棚から数々の本が音もなく俺の目の前に集まり始める。
驚いたのがその量、この部屋にある300の書物の中から200余りが飛び出してきたのだ。
探索検の魔法はその者が今欲しい物を頭に浮かべると、その頭から光の粒子が飛び出る。
そしてその粒子が当事者の目的の場所、物を多少の粗があるが簡単に絞ることが出来るというわけだ。
そしてそれは密集している場所であればあるほど精度は落ちる。
しかもこいつの悪いところはその粗が本当の数よりも多いのか少ないのかがわからない所だ。
つまり、今俺の目の前にある本達は俺の求めている書物が足りないのか、余計に多いのかどうかも分からない。
取り敢えず、今日は目の前にある本を片づけて終わろう。
っとその前に…
『魔法〈標〉』
いちいち魔法を使って出すのは面倒だからこの目の前にある書物に標をつけてく、そして読み終わったらその標を消していく。
長く途方もない時間がかかるのが予測できる、本というのは意外にも全てを読むにも時間がかかるのだ。
一日の夜に二冊同時に読むのを目標にいこう。
──────
───
夜に音遮断の魔法を家にかけ、二階にある標をつけた書物を二つ手に取り、それを二時間読むという生活が始まってから二週間が経過した。
自分自身、本を読むこと自体得意の部類に入るためそこまで苦ではない。
むしろ好きな方で前の生きていた家にも多少の本は置いてあった。
そう、苦ではないのだ。
何度でも言おう、苦ではないのだ。
「あぁぁぁ…」
最後の表紙の部分をぱたんと閉じて標の魔法を消す。
それと同時に力が抜けた声が出る。
しかし多い、いくら好きと言えどこの本のをすべて読めと言われればさすがに飽きる。
たった今6冊目を読み終えたところだ、もっと効率よく読みたいというのが本音ではある。
勿論、むやみやたらに本を読んでいるわけでは決してなく、本の表紙には題名がちゃんと書いてある本もあるので今俺が欲しい情報が出そうな本を手に取り読んでいるというわけだ。
とりあえず今が歴史上で何年か、たった今読み終わった本の片割れからある程度ではあるが読み解くことができた。
この本の内容を要約すると
【今から400年前、何の因果なのか、魔王のと勇者が同時に出現し、そして魔王は勇者に敗れた。
すると今度は気が狂ったかのように人間達は勇者の殺そうと考えた。そして勇者は殺された】
人間の怖いところが出てる内容で、勇者が一番悲惨な結末をたどった胸糞の悪い本だ。
この人生の中でこれからこの本を開くことはないだろうな、絶対に。
俺の生きていた時代に勇者なんて奴はいなかったし、ましてや魔王もいない。
この本は俺の生きていた時代よりも先の歴史という事になる。
つまりこの時代は俺が死んだ後から少なくとも400年と時を経ている。
「………」
睨むような目つきでこの本棚たちを見渡す。
俺が二週間で読めた本の数は6冊、前に探索検の魔法で俺の前に束ねさせた本の数は200あまりだ。
つまり最短でも66週間かかる、年に直すならば最短でも5年ぐらいはかかる事実が目の前にある。
……読むしかない。
半ば諦めつつ、標の魔法で標を付けた本を二つ手に取るのだが、その過程で面白そうな本を見つけた。
「うぅぅ!」
だいぶ上の方にあった書物で、風の魔法で押し出すようにしてから落ちてきたところをキャッチする。
なかなかに薄い本だな。
『魔法使いの辿る道』と表紙にはそう記載されていた。
俺は人生全てを魔法研究に捧げた男だ、魔法と記載されている本は読まねば気が済まない。
表紙を開き最初のページにに目を通す。
魔法使いなるためには原則的に二つの要因が存在している。
1つ、体内を流れる魔力。
2つ、体内に流れる魔力を外に放出したり、魔法を編む際に必要な杖。
「うぅ?」
はぁ…なんなんだこの馬鹿馬鹿しい本は、魔法を使うのに何故杖を必要とするのだ?全くもって理解不能。
馬鹿馬鹿しいと思うが一度読み始めた本を途中で放棄するのは俺の中の規律に反する。
今一度本に手をかけて次のページを捲った。
これからたくさん時間をかけてやっていこうと思っています。面白くなりそうなんじゃねと思った方!評価やコメント、ブックマークなどよろしくお願いします!