【第二十八話】 ‐飛び級試験Ⅱ‐
「えっと…大丈夫ですか」
女性は頭を下げて両手で頭を押さている。
反応を見るに『合格』で間違い無いと分かるが…
「……うん、はいはい」
女性は下げていた頭を上げまた物置に歩き出す。
その間に俺は砕けた的まで歩き表面を見る。
側面を見ると、的の材質は木だった。
しかし木にしては風針の突貫力が小さかったように思える。
簡単に言えば、木にしては硬すぎるのだ。
「試験はまだ終わってないぞ少年、あまりうろちょろするな」
的の素材を触ったり見たり、とうとう舐めようとした時に後ろから女性に声をかけられる。
女性から俺を訝しむような目が突き刺してくる。
そんな事をよそに俺は次の試験に目を向ける。
「あれが次の試験ですか?」
俺の視線の先には、何やら入り組んだ棒が8本。
そしてその先にはさっき砕いた的が置いてある。
開始場所から約30メートルと言ったところか。
「そ、ジェイク君の魔法の威力は十分理解できたけど、本当の戦いじゃそんな事やってる間に死、だからね」
確かに、女性は俺に猶予をくれた。
そのおかげであの威力が出たのは間違いない。
次は操作技術を確かめようと言うわけか。
「もう予想はついてるかもだけど、次はこの入り組んでる棒を魔法を操作して的に当ててもらう、勿論横から行くのは論外ってことはわかってると思うけど…一応ね」
俺は微笑する。
「勿論ですよ、じゃあ早速…」
先ほど同様に杖を構える。
今回使う魔法は水の魔法水球、風でも火も駄目だ。
水球は他の二つに比べて目視しやすいからな。
杖から水球を作る。
そして少し気になった事を女性に質問する。
「そう言えば、魔法を操作してこの障害物を避けるのは良いのですが、肝心の合格基準はどうするんですか?」
女性は考える素振りをした。
「…あぁそれね、合格基準は10秒以内で完璧、15秒以上でまぁ及第点、だから15秒以内を目指してやってくれれば問題ないよ」
「挑戦回数は何回ですか?」
「……一回だね」
「一回…分かりました」
なるほど、少し緊張するな。
絶対に出来ると分かっていても、間違いを犯す事で不利益が降りかかるなら、出来なかった場合を考えてしまう。
しかも、俺はそこら辺の奴らとは比べ物にならない緊張がかかっている。
もし合格できなければ…金がなくなってしまうのだからな。
ティズ・グラントリアが言っていた条件が満たせなくなる。
「……ふぅぅ」
緊張する。
何度も思う、俺は戦闘家ではなく魔法研究家だ。
戦闘家特有の勝負強さは俺にはない、だから自分が出せる速度の中で、絶対に障害物に当たらないように操作する。
目を閉じて想像する。
これから行われる水球の動きを想像するんだ。
鮮明に、その鮮明に想像したものをさらに鮮明に…今。
「……ッ」
水球を飛ばす。
縦に長い8本の障害物は俺の飛ばした水球の前では意味をなさず。
まるで水球は直線に飛んでいるかのような速度で30メートル先の的を勢いよく揺らした。
俺の脳内が弾き出した時間はざっと9秒。
今までの俺の功績と合格目安時間から考えると少し遅いが、及第点だろう。
「さて、終わりましたよ」
女性の方を向く。
「……なるほどぉ」
顎に手を置いて、女性は数回頷く。
合格基準に達しているはずが、女性の表情から感じ取れる反応は著しくない。
「うん、完全に理解したよ」
「何を理解したのか分かりませんが、合格ですか?」
女性は頷く。
ひとまずは合格って事か、よかった良かった。
「だけど一つ確認、本当に三年からでいいの?」
「どう言う事ですか?」
「いや、君なら三年と言わずもっと上の所に行けるようにできるんだけど…興味ないかな?」
もっと上と言うのは上の学年ということか。
興味はある、出来ることなら上の学年から始めたい。
しかし俺にはティズ・グラントリアとの約束がある。
「興味はありますけど遠慮しておきます…もとより三年からと思っていたので」
俺がそう言うと、女性はなんとも言えないような顔をした。
自分でも損をしていると言う自覚は少しある。
ただ仕方がない事だ。
「ま、君がいいならそれでもいいけどさ…結論として、君は試験に合格して三年から始める事になった、こう言うことになるけど」
「それで大丈夫です、それじゃあ後一ついいですか?」
「まだ何かあるのかい?」
そう言えば聴き忘れていたことが一つある。
「あなたの名前はなんですか?」
「…あー」
女性は目を逸らし、言いずらそうな声を出した。
「まぁでも、そう言う約束だったしね…」
「と言うよりも、なんでそんなに言いたくないんですか?」
さっきからそうだと分かっているはずだ…何か言いたくない事でもあるのだろうか。
「いや、別にやましい事があるわけじゃない、ただ人一倍警戒心が強いだけなんだ」
「あっそうですか」
「ぶっちゃけ興味ないでしょ、私の名前なんて学園に入ればわかる事だよ」
確かに、そこには早いか遅いかの差しかない。
別にいつ知ろうがどうだっていいわけだ。
「分かりました、では学園に入った後にあなたの名前を確認します」
「あいあーい…じゃあまたねー」
「はい、また学園で会いましょう」
手を振っている女性を尻目に闘技場のドアから外に出た。
一体あの女性はなぜあそこまで名前を言うのにこだわっているのだろうか。
その真意は全く不明だ。
「……で、なんで貴方がいるんですか」
目の前のやつを見て顔を歪ませる。
俺を殺そうとしてきた憎たらしい門番がいた。
「お前を迎えに行けと命令された」
「じゃあ、帰ってもらって大丈夫ですよ、このまま家に帰るので」
大体、何故わざわざ迎えにくるんだ。
お前らの所で言うと俺は悪魔憑きだぞ、迎えなんて俺に必要ないだろ。
「お前が帰るのはグラントリア家だ」
「……なぜ?」
頭が痛くなる、いや痛い。
俺らは家族じゃない、多少そっちに恩がある一般家庭の認識でいいだろ。
「何故ではない、家主様がそう言うのだからの従うんだ」
「お前からすれば家主様かも知れないが、ティズ・グラントリアは俺の家主様ではない」
「お嬢様もいるぞ」
そりゃ居るだろ、グラントリア家の人なんだし。
それでも、親が心配する事はしたくない。
「親の母親と父親もいる」
「……なんで?」
「疑問を言うことしかできないか、お前の両親が呼ばれているということは、お前にも当然関係してくる事だ」
早く行くぞ、と門番は家に向かって歩き始めた。
はぁ…逆らって前みたいになるのも気が引けるな。
俺はため息をつき、渋々理不尽の権化のような門番の後ろを付いて行った。
────
──
「……はぁ」
家に帰った来れたのは夜過ぎ。
私はベッドに転がり込み今日の出来事を思い出した。
「…はっはっは、凄いなぁ彼」
目を疑ったよ、彼はまだ五歳らしいじゃないか。
あの後闘技場から帰った私は彼の年齢を何度も確認したけど結果は変わらなかった。
私はあの時彼を試した。
あの自信満々な彼を顔を少し壊してみたくなったから…
三年の飛び級試験より更に上の上の上、六年の最後の試験をさせた。
本当に興味本位だった。
そうすれば、彼も本気でやるから最後に明かして合格だーってやろうと思ったのに。
「でも結果は、想像と逆」
六年最後の試験でも、私は嘘をついた。
10秒…六年がやって早くて20秒だ、なのに彼は9秒。
正直言ってありえない。
魔法の威力も、操作も、全部一級品。
なのに彼からはまだ底が見えない。
「……いいじゃん」
良い、凄く良い。
この学園に来てよかった。
「……あなたのお陰だ」
予言は当たっていた。
予言というより、私は彼をずっと見ていた。
彼がこの国に来るのも、彼がこの学園に入るのも全部、わかっていた。
これであの話にも信憑性が出たというもの、彼の成長した姿を見れて本当に良かった。
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