【第十八話】 -壁-
多少響くアミの声から少しの静寂、ついに槍をラフィに向けた門番が口を開く。
「嘘だな、そのような奴を聞いた事がない、言うならもっとマシな嘘を言え」
門番は俺たちに槍を下ろさず、その逆さらに突き立てた。
はぁぁ…まぁそんなところだろうな。
突然すぎるアミの暴露、それがグラントリア家の家族と来たもんだ、そりゃ信じられないだろう。
「え、いや本当なんだけど!」
しかし本人からしたら、本当の事を嘘だと言われてたまったもんじゃないだろうな。
「仮に本当だとしていきなりすぎる、証拠も何もない状況で信じろと言うのが無理な話だ」
「じゃあお母さんに私の名前を言って、絶対に通してくれるから」
それでも尚、アミは引き下がらない。
「まだ嘘を嘘だと言わないか、今日は帰れ」
しかし、門番の態度はぶれない。
「んのぉ!絶対に後悔するわ、行くよジェイク!」
「お、おい!?」
アミはそう言って、この家に来た道とは全然違う方向に走って行った。
クソ、子供特有の自分お都合通り行かないと不機嫌になるあれか、全く厄介だ。
「父さん、母さんは先に帰ってて!アミを連れ戻してくるから」
そう言って、二人の返事も待たずに俺はアミを追いかけた。
アミの言いたいこともわかる、俺にも当然家族愛はある。
しかし、二人とは毎日会っているためそれを感じづらいだけ…アミの場合は一年に一度しか会えない家族との再会を夢見て今まで頑張ってきたのに、まさか家の敷居すら入れていない。
しかし、門番も決して悪くない。
今まであの手この手で拝もうと、中に入ろうとしてきた者たちの警戒、それは俺たちも例外ではない。
門番も必死にあの中にいる家主を守りたいだけなのだ。
――――
――
「ア、アミ!止まれ、止まってくれ!」
まずい、体力の限界だ、完全に息も切れ始めている。
しかしアミからは全くそのような様子を感じ取れない、時期に振り切られる、アミに追いつくにはもうこれしかない。
俺は右手で小さな手のひらサイズの魔法陣を形成し、発動させる。
体力が回復するわけではないが、先ほどと比べて2倍以上の速さで走っている、結果として徐々にアミに追いついていき、体力限界のところでアミの手を握る。
飛行の応用的な使い方、ただ走る速度を早めるだけのものが、こんなところで役に立つとは。
「……はぁ、はぁ、アミ、なんで急に」
手を握ってから、アミの動きが止まる。
「……私、何か間違ったことした?」
「え?」
間違ったことをした?な訳ないだろう、人一倍家族に会うために頑張ってきたアミの何が間違いなのだ。
「なんでそう思う?少なくとも俺は思わない」
「…じゃあなんで、家族に会うことすら許されないの?」
それは単純で、切実な疑問だった。
「それは、俺たちがまだ何者かわかってないだけで…」
「不自由なく会いたいときに会う、それが家族じゃないの?…三年も会えなかったのに、そんな事って有り得るの?」
「……」
また明日行けばいいじゃないか、一日ぐらい我慢しろ。
なんて言葉をすぐに言えたら俺はこんなに困ったりしまうだろう、アミもそういうのは頭で理解しているはずだ。
それでも今すぐ会いたいという家族愛が先に来るのだ。
「あぁイライラする、大体なんなのあの門番!もうちょっと愛想良くしなさいよ!」
「…そうだね」
「と言うか、何で門番があんな簡単に槍の刃を私たちに向けられるわけ!?人の心とかないでしょうあんな人!」
「……うん」
感情は感極まったアミの愚痴はその後も続いた。
俺はその愚痴にただ相槌を打つことしか出来ない。
それにしても、槍使いを門番に置くと言うことが疑問だったのだが、あの男の動きを見て納得した。
所詮は槍使い、申し訳程度の槍の長さを生かし中距離からの攻撃で相手を沈めるぐらいしか出来ないと思っていた。
しれは魔法使いが蔓延るこの国でそれは全く関係のないこと…だと思っていた。
だが、あいつの時間を飛ばしたかと思うほどの速度から繰り出された槍は誰にも認識が間に合っていなかった。
現に、ラフィも目先の槍を認識して尻餅をついた、槍が動き始めてから目の前に来るまで見えていなかった
納得をしたわけではないが、あれならば魔法使いの奴らとも同等に戦うことが出来るだろう。
「ねぇ、聞いてるの?」
「はい、勿論ですアミ様」
「なら私が今言ったこと、やってくれるわよね?」
アミは顔をずいっと俺の方に近づけてくる。
アミの顔をこんなに近くで見たのは初めてかもしれない…これはなかなかだ。
「美人だな」
「え?」
「…いや、なんでもない」
ついつい余計な事を口走ってしまったようだ。
アミも顔を赤くしてるし、怒ったか?
「……そ、そう?美人ね…うん」
髪をいじりながらアミはボソボソ何かを言ってる。
アミは美人というよりも可愛いといた方がいい、どちらでもアミには似合う言葉だが俺個人としては可愛いの方が合ってると思う。
「そ、そんな事より、さっきなんて言ってたっけ?」
アミの言っていたことを聞いていなかったので如何にも聞いていたふうにアミが言っていたことを聞き出す。
「なんでもう覚えてないのよ」
「記憶するのは得意じゃなくてね」
「…まぁいいわ、どうにかして今日中にお母さんお父さんに会いたい、どうにかして」
「……なるほどね、ちょっと待って」
手を額に置いて考える。
…いや無理だろなんだその無理難題すぎる願い、どんだけ我儘なんだ目の前の奴は。
まぁ最初から考えないのは思考放棄と同じ、幾つか挙げてみようか。
あの門番を突破して家の中に入る…正直な話不可能に近い。
前の人生、俺は魔法研究家であり戦闘家ではない。
魔法を駆使して戦えば行けなくはないが、その間に増援が来て結局詰み。
じゃあ、戦わなければ?…戦わずして会話で門番を倒す。
それこそ無理な話、どんだけ言ってもあの手の人間が意見を変えることはない、仕事だからな。
話し合いの末、結局の所で戦闘になる未来が見える。
…じゃあ、これしかないな。
一番面倒臭いやり方ではあるが不覚にも受けてしまった以上は仕方がない。
「…アミ、今日中に両親に会いたいんだよな?」
「そう、どうにかして」
「一応だけど、作戦は思いついた…ひとまず家に戻ろう、父さんと母さんが心配してるだろうから」
そう言って、俺たち二人は家に向かいながらその道中で俺は作戦を話した。
今思えば、アミの言ったことを受け入れないで我慢させると言う選択もあった、俺の作戦は一歩間違えればどうしようもならないことになる可能性がある。
昔の俺はこんな性格だったかな…それとも、周りに感化されたのかどうか、そんな事今となってはどうでも良い。
取り敢えず今は、アミの要望に応えられるように全力を尽くすとしよう。
────
──
「あぁぁ…んもー無理よこれ」
目の前で山積みになっている紙をぐしゃぐしゃにして捨てたい欲を抑えて、私は山積みの紙の合間を縫って前に上半身を倒れる。
一体いつになったら終わるのよ。
一応私、朝から晩までこの仕事やってるのよ?それで終わらないってどう言うことよぉ。
「あぁぁぁ…やだやだやだぁ、もう仕事やだぁ」
今日の仕事はこの時間にして終わりを迎えた。
そう、今日の仕事は終わりを迎えたのだ。
今も存在感を放っている明日やらないといけない書類…冗談じゃなく過労で死んじゃいそうだわ。
「…では、過労で死ぬ前に、せめて私の報告を聞いてからにして下さい」
顔を上げると、ドアのところに一人の男がいた。
と言うことは、もうそんな時間なのね。
「あぁ、テラいたのね…一体いつから?」
「家主様が過労で死にそうと口走った時です…もう遅い時間です」
思わず口を押さえる。
無意識的にそんな事を口走っていたのかと、少し恥ずかしくなる。
「見てよこれ、まるで減っているような気がしないんだけど、気のせいかしら」
「…私から言わせてもらうと、仕事していましたか?」
「酷い、酷いわ!私の苦労が見えないってことよね!」
なんとひどい男、今日はこんなに減ったんだから。
山積みの紙の上から下に減りましたよと腕を動かしても全くわかってくれないわ。
「はぁ…」
「ため息をつくと幸せが逃げますよ」
「いいわよもう、私の唯一の幸せは今年はないんだし」
「娘との会うこと、ですか?」
そう、私の唯一の幸せは魔法が使えない一般人の街で暮らしている娘の事だ。
色々忙しいから今年は会えないと手紙を送ったのだが、今頃泣いていないだろうか、もしかして会えない衝撃で無気力な子になってないかしら…世界一可愛い娘の一人がぁぁ。
「ねぇテラ、何か面白い話してよ」
私はテラに無理難題をぶつけた。
面白い話が出てくるわけない、そんなことはわかっている。
分かっている上で、テラの反応を楽しみたい。
「急にどうしたんですか?そんなことよりも…いや」
「ん?なに?何かあるの?面白い話」
意外だ、テラの仕事柄で面白い話があると言うのかしら。
「面白いか、そう言われると定かではありませんが、今日の報告とも通ずる物が有ります」
「それはいいから早く言って」
「では」とテラは一拍置いて話し始めた。
「近頃、家主様を拝もうと家の中にあの手この手で入ろうとしてくる者が沢山居ましたね」
「そうね、最近は静まってきてると思うけど、昔は酷かったわね」
本当に昔はひどかった。
もう手段を選ばないと言った感じで、今までで印象に残っているのは私の親族を騙っている人だわ、そんなまる分かりな嘘に誰が騙されるってのよ。
「しかし、最近はそう言うのはなくなってきました、皆絶対に入れてもらえないと周知の事実になってきたのですから、しかしそんな中で私に挑んでくる者が今朝方現れました」
「それでそれで?」
「その者たちは、あろう事か家主様の娘を騙ったのです」
「…ふーん、今までにないわね、まさか私の娘を騙る者が出てくるなんて、でもそれで入ろうとしてくるなんて、情報不足が過ぎないかしら」
私の顔が強張る。
それは絶対に入れない禁忌の言葉となっている。
私の娘は魔法使いの国にいない、魔法が使えない一般人が住む街にいる。
そんな事実があるのにも関わらず、私の娘を騙るなんて…なんとも腹立たしい奴らだ。
「以上で終わります」
「そう、終わりね…終わり!?、全然面白くない!!」
「私は定かではないと言いました」
ぐぬぬ、そうだけど!そうじゃないじゃん。
なんかもっとこう、ね?あったじゃん!
「はぁ、ごめんね、仕事で少し気が滅入ってるみたい」
「お気になさらず、いつもの事です」
「それ全然私を庇えてないから、まぁ報告ありがとう…もう行っていいわ」
そう言うと、テラはドアの方に向かう。
「た、隊長!!助けて下さい!」
すると突然、テラの向かう扉から、一人の男が現れた、今日テラと一緒に仕事をしていた男だ。
汗をかいて相当焦っているよう、何かあったのだろうか。
「どうした?何かあったのか?」
「侵入者です!!侵入者が現れました!」
え?侵入者!?なんで…一体どうやって。
「馬鹿を言うな、辺りには魔法結界が張られている、それに音も立てずに壊せるはずがない、それに何故侵入者を捕えない、手練れの魔法使いか?、増援はいないのか?」
「それが、増援も全て手を出せない状態で」
テラ率いる隊員達は決して弱くない、その隊員たちでも手が出せないと言うならば相当の手練れのようだ。
「…理解した、手練れの情報は?」
「それが…小さな子供二人」
「……なんだと?」
男はビクリと体を震わせる。
小さな子供二人?なんでそんなことする必要があるの?
私たちに一体なんの恨みがあるの、こんな大変な時にぃ!
「…嘘はついていないようだ、他には?」
「それが、家主様に伝えたい事があると」
「え、私?」
なんだろうか、これと言って二人の子供と言っても心当たりがない。
「侵入者が言うには、『娘の我儘で正式な形で会うことができなくてすまない、しかしこのままでは自分の娘を牢に入れる事になる、早くきたほうが身のためだぞ、ティズ・グラントリア、お前の娘のアミ・グラントリアが駄々を捏ね始めて体が痛い』…と」
「アミ・グラントリア?一体誰だ?」
「いえ、私にも分かりませんが…家主様!?」
気づけば、私は二人の合間を縫って走り出していた。
仕事の紙が散らかるほど勢いよく走り出したが、どうでもいい。
アミ・グラントリア、確かにそう言ったの?その侵入者は本当にそう言ったの?
その名前を知っているのは、私の家族と限られたものしか知らない、侵入者が知っているはずがない。
「……あっ」
まずい、場所どこか聞いてなかった。
全部見て回るしかない、それまで耐えてアミ……それともう一人の誰かさん。
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