【第十六話】 ‐最後の仕返し、見出す希望の作戦‐
「………っ」
あぁうるさい、というか一体ここはどこだついさっきまで夕方の知らぬ平原いたはずだ。
さっきからずっと、わいわいがやがやと俺たちの外から聞こえる声が俺の睡眠を邪魔している。
「…朝か」
俺の記憶とは食い違う外の太陽の光が俺の眼球を焦がす勢いで光を発している。
時が巻き戻るわけはない、つまり一日が経過したと考えるべきか。
「……おはようございます」
俺が起きた音に気付いたのか、魔法使いの運転手が声をかけてくる。
「おはようございます、今は朝ってことはあれからずっと運転してくれてたんですか?ありがとうございます」
「礼には及びません、私も少しずつ休憩をはさみながら移動していました、それに仕事ですのでこのような事には慣れています…しかし一つ驚きなのがあなたが今目覚めたことですが」
「今目覚めたのがそんなに驚くことなんですか?」
寝ている奴がいつ起きようがそれは驚くべき問題なのか?俺はそうとは思わないがな。
「あなた含めて私の後ろにいる全員は魔法で眠っている、そしてそれは丁度この魔法車があなた達の住むところに到着するときに目覚めるはずが、まずは貴方だけが起きてしまったようですね…まだ少しかかりますがもう一度寝ていますか?」
そう言うと、じわじわと運転手の持っている杖が光り始める。
「いや…目が覚めてしまっているので大丈夫です、それに」
「それに?」
「初めてなので…魔法使いの国をこの中から見ていきたいと思います」
「…そうですか」
心なしか、俺たちの乗っている乗り物…魔法車と言ったか、それがゆっくりな速度になり、魔法使いの国の様子が先程より鮮明に見ることができる。
「…お気遣い結構ですよ」
「はて、何のことですか?」
とぼけているな、だがそこには仕事人のプライドがあるのだろう。
まぁこの運転手のご厚意を素直に受け取っておくとしよう。
魔法車の中から外を見ると俺が五年間住んできたところとはまるで違う別の世界のように感じる。
要因は言わずもがな魔法の存在だ。
見れば、点々と人が日常の中で魔法を使って物を運んだりしているのが見える。
「……けど、みんなあまり魔法を使っていないな」
そう、俺の視界の中には魔法を使っている人は割合的には数少ない。
皆俺が思っている以上に魔法を日常的に使っていないという事だ。
杖の存在で多少魔法を扱うことが簡単になった今、どんどん活用していった方がよいと思うのは俺だけだろうか。
「普通の日常を…例えば何か食料を買ったりするときなどは、魔法など使わなくても両手で事足りますので」
「かえって二度手間になるって事か」
「その通りです」
「…へぇ」
少しの手間であればわざわざ魔法など使わずそのまま手を使う方が早い。
その考えの要因は杖という重量を持った物を持ち歩くのが面倒臭いと言う所なのだ。
その両方をいいとこ取りをしたのが杖なしの魔法だ…実に好都合だ。
魔法車から見る外では火の魔法、風の魔法、水の魔法など俺が本で読んだ通り日常的に使用頻度が多い魔法使われていた。
何かの料理をするときは火の魔法が、何か物を運ぶときは風の魔法が、しかし水の魔法に関しては日常とは少し離れている使われ方をしていた。
水の魔法は己の魔法技術を高めるための訓練のようなものをするために使われるらしいのが推測できる。
勿論ほかの使い方もされているが、度々見かける子供たちが水の魔法で互いの体に水球を当て合っているのがとても印象的だ。
水球は小さなものならば簡単に作ることができ、比較的殺傷能力が低い。
以上の観点から自信の魔法技術を高めるためにはもってこいのものと言えるだろう。
勿論、いくら殺傷能力が低いとはいえ一歩間違えることがあればなかなかに危険なものだがな。
「…まだかかりそうですか?」
「……もう少しかと、寝ますか?」
「それはいい」と運転手の提案を一蹴して、移住先の中央の国ラッターニまで外の景色を眺めて暇をつぶす。
もしかしたら俺の知らない俺の時代ににはなかった魔法を見ることができるのかもしれないしな。
────
──
「……ん、ここは」
外の景色を見ていると、俺の後ろにいたラフィが自分の目をこすりながら上体を起こす。
「…どこよ此処、さっきとはまるで違った景色じゃない」
続けて、後ろにいるアミも目を覚まして上体を起こした。
立て続けに二人が目を覚ました…と言うことは。
「んあぁあ、よく寝た」
俺の予想通り、ハックも目が覚める。
「…着きました」
運転手は魔法車を止め、地面に跳ねるように着地する。
それに続くように、ハックの除いた俺たち三人も地面に降り立つ。
俺たちの前にあったのは前の家と何ら変わりない二階建ての家だ、というか…何一つ変わっているところが見受けられない。
「前の家と同じじゃない?」
「…特に狙った訳ではないです、こちらがお客様四人のご自宅になります」
「え、四人?」
運転手の的外れの言動に首を傾げる。
家族は俺とハックとラフィの3人のはずだ。
「あぁ違います、この子は私たちの家族じゃないんです」
ラフィがアミの肩に両手を置いて運転手に言った。
その後運転手が何かを察したような声をあげて、それ以降は何も言わずに淡々と荷物を部屋の中に入れていった。
「ではここで失礼致します、それと伝言です。必要な手続きなどはこちらの方でやったから何も気にすることはない…と、リリディさんからです」
最後にそう言い残して、運転手は魔法車と共に走りだしてしまった。
先ほどの話を聞いた後では、俺があんなにリリディを煽ったから仕返しと称して何もやらなかった場合があったという事で、そう思うとリリディが理性的な奴でよかったと思った。
運転手と別れてから、俺たちは家の中まで運んでくれた荷物の整理をした。
荷物を、とは言ったところで椅子や机などの特段大きなものを持ってきたわけではないため、ものの数分で移住作業は終わった。
荷物の整理が終わった頃に部屋の隅から全体を見ると、家具の配置までも同じにしたために、丸ごと家が瞬間移動をしてきたような感覚を覚えた。
「ふうぅ、終わった終わったぁ」
物が少なかろうが、移住作業というのは体力を使うもの、どさっとハックが椅子に体重を落としたその瞬間にラフィが水を容器に入れて渡した。
…いや待て、何かおかしくないか?
「……ジェイク?」
突然、脈絡なくふと頭をよぎるこの違和感に体が止まり、血の気が引いていく。
移住の手続きはある程度終わらせてもらっている、そのほかにも何か重要なことがあるのではないか?
「しっかしまぁ、移住できたはいい物の、新しい生活も頑張っていこうな!」
ハックよ、そんなこと今気にしている場合ではな…生活?
「生活ッ!!!」
「そう!新しい生活だ、新しく仕事も見つけないといけないからなぁ」
ハックの口から俺の望む答えがポンポン飛び交う。
違う、問題はそこじゃなくもっと内側の根本的な話だ。
恐らく、これは俺しか知らない。
他の三人よりも不覚にも早く起きて、魔法使いの国の日常を見ていた俺にしかわからない事…俺がいた街と、魔法使いの国とでは…
「通貨が違う、この魔法使いの国と俺たちの居た場所の街では」
「「「…え」」」
三人の驚きの声が重なる。
「…も、元手はあるのか?支給されてないの?」
「…えっとぉ?」
「特に聞いてないわね、リリディさんからも聞いてないし」
恐らく、俺たちの中では誰一人として知らない事だったようだ。
一番重要なことをまず初めに教えないはずがない、図ったなリリディ、何が理性的な男だ。
お前の評価は俺の中で上がって駄々下がりだ。
「…どうするか」
ハックの切実な疑問の言葉が俺たちの居る空間を冷たく包み込む。
金は何をする時にも必要だ。
飯を買う、物を買う、何かを利用するなど用途は様々だが絶対に必要なもの…それがない。
「…前の街の通貨を、この国の通貨に替えてもらうってのは?」
「ちょっと行ってくるわ!」
ハックに言葉に反射的に返したラフィは手当たり次第に元手をもって外に飛び出してしまった。
もしそれができるのならばそれで解決だ、しかしそれが出来なかったら…考えたくもない未来が容易に想像できる。
あぁクソ、何も思いつかないな、今から物乞いでもやるか?
無理か?俺の時代じゃ珍しくなかったが、もう俺の知っている時代じゃない、価値観も何もかも変わっているこの時代で成功する確率は低いだろう。
強制的に俺たちに借りを作らせて、その貸しとしてお金をもらう、出来なくはないが危険だ。
俺たちの評判が下がり後の両親が仕事に影響を及ぼす、目先の利益で長期的な利益にはならないのは話にならない…いや、
「…居る、一人いる」
「一人って、いったい何が一人なんだジェイク?」
「…いや二人だ、まず確実に二人いる、もしかしたらもっと多いかもしれない」
この作戦がうまくいけば、俺たちは財政難をから脱却することが出来る。
いや、絶対にうまくいく作戦だ。
うまくいかなければそれこそ向こうの評判が落ちざるを得ない、逆に俺たちはうわさが流れれば評判が上がる、最初から勝ったような作戦だ。
「…確実だ」
「何かひらめいたのか?」
「あぁ、これは偶然できた奇跡の作戦だ」
「奇跡の作戦って、いったい何なの?」
俺は自分の顔に笑みを浮かべて、二人に考え付いた作戦を話始めた。
後でラフィにも伝えるが、少々汚いやり方になるこの作戦、しかしこの作戦しか残されていないのなら、この作戦が俺たちの最後の希望なのだ。
新しい章の始まりになります、序章をもう少し短くしたかったんですがそれでも見てくれている人に感謝です。
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