【第十一話】 -世界の盾に向かう矛-
今何歳か、間違いなくラフィは俺の事を理解し
それを確信する証拠も挙がっていることが先ほどの説明で理解した。
ならば、今更俺がジェイクではないという事をを隠す必要がなくなった、二年前の時はまだラフィが確信を得ていなかった可能性があったため、あのような行動がとれたが今は八方ふさがりと言った状態だ。
言うしかない、言うしかないのだ。
「………」
「どうなのジェイク?」
ラフィは俺の言葉を待ってくれている、こんなに手厚くしてもらっているのに…なのに…何故だか言葉が出ない、いつもと同じく直前で止まる。
呪いとでもいうのだろうか?神が俺に言うなという制約をかけているとしか思えない。
体が震え、気持ちは怯えている俺の体は二年前よりも症状が悪化しているのは明白。
「……ねぇジェイク、隣座ってもいいかしら?」
ラフィが突然そんなことを言いだす。
承諾の意を見せようとしても全身が震えて声があまり出ず一語が連発し口から出るばかりだ。
しかし、ラフィは俺の承諾を待たずに俺の隣の椅子へと座り、俺の手を慈愛の女神が俺の全身を包んでいるように、優しく包み込むように握る。
「ねぇジェイク、何も言わないってことは私の推測が正しいってことでいいのよね」
「………」
…何も言えない。
「……怖かったの?」
「…え?」
「震えてるから、怖かったのかなって」
…確かに震えてしまっているが、それは怖かったのだからなのか。
「私はジェイクに失望なんかしない、どんな結果が待っていたとしても私はそれを受け入れる覚悟を持ってる…安心して」
俺の手を握っている手の力が少し強くなる感覚とラフィの言葉、優しく微笑む顔に緊張と震えが止まり始める。
絶対に受け入れる覚悟…ラフィが生半可な気持ちで言っているわけではないのは肌で感じ取れる、ラフィが中途半端な気持ちで決断したところは見たことがないからだ。
しかし、そんなラフィと言えどこの事実は耐えられるのか?自分が大事に育ててきた子供がまさかその皮を被った成熟した大人だと言う騙された感に。
しかし、ラフィは言った。
絶対に失望なんてしないと、どんな結果になろうともその事実に対して覚悟している。
怖い、予測できない未来はこんなにも怖く、自分がいかに安全な世界で、誰にも干渉されない世界で甘えてきたのかがわかる、人に自分の秘密を喋ると言うことはこんなにも緊張するものだったのか。
「……ほんとうに?」
消えちゃいそうな声でラフィに最後の確認を取る。
「……大丈夫、ね?」
ラフィの態度は変わらず、家の微かな光に照らされたラフィが笑いながら俺の手を握り続ける。
……
「……本当は、違う」
言った、ついに言えた。
自分が無意識に課した呪いのようなものから一気に自分が解放された感覚を覚えてから、先程まであんなに躊躇っていたのに…ラフィの言葉、女神と見間違えるほどの笑顔に呪いが消えて今まで溜まった言葉の数々が口から溢れ出る。
「本当は…違う、俺は、五歳じゃない」
「本当は何歳なの?」
「……今の年齢を合わせると、合計で20歳になる」
「20歳…て事は、元は15歳なのね」
流石に本当の事を言うのは流石に違うと思った。
俺はこの瞬間だけ腰抜けになったが、嘘もひとつの愛である。
「……うん」
「何で二年前には、答えてくれなかったの?」
「……怖かったんだと思う」
「何が怖かったの?」
「……捨てられるのが怖かった、悪魔の子なんじゃないかなって…それに、母さんと父さんに申し訳なかった…生まれてきたのはジェイクじゃなくて、ジェイクの皮を被った別の人格を持つ人間だってバレるのが、必死に母さんが産んだのに…ごめん」
「……大丈夫」
気がつけば、俺を握っていたらラフィの手が離れて、代わりにラフィの暖かい体温に体が包まれていた。
「私は…いえ、私たちはジェイクを捨てたりしない、ハックも説明すればきっとわかってくれる…教えてくれてありがとうね」
「なんで?…そんなに優しくするの?」
俺はジェイクじゃない別人、ずっと騙し続けていたことに対して罵り、捨てることが妥当とも言える状況で何故、ラフィは余裕そうに笑顔を浮かべているんだ。
「だって、そんな話をされたからって私にはよくわからない、確かに貴方にとって自分はジェイクじゃないかもしれないけど、私たちからしたらあなたはジェイクで、私たちの子供…それじゃダメなのかしら?」
「ダメじゃ…ないと思うけど、それでいいの?」
俺からしたらとても大事なことだ。
もし俺が親ならば、捨てるとまではいかなくとも、ラフィのようにあっけらかんとした態度をとることは難しい、それは俺でなくても同じことだろう。
自分の生んだ子供が別人格を持った人間…だからラフィの事が不思議で仕方がない。
「少なくとも、私は今の話を聞いてジェイクが別の子供だったなんて思わなかった、ずっと一緒に暮らしてきた家族をそんな理由で失望するなんてことはしない、ね?」
「……ん」
あんなにこの事について考えていたのにも関わらず、今となっては何が何だかどうでも良くなってきた。
今はただ、このラフィの包容力に体を預けていたかった……しかしそれはダメだ。
「……母さんって今何歳?」
「28歳よ、20歳で結婚して、そこから三年後経った時にジェイクを出産した。そして今ジェイクが生まれて五年経過してるからね」
28歳……俺は28歳の女に気遣いをさせてもらっている。
ならば、ここは年上の在り方として年下の意見を受け入れるのも年上の役割だ。
……あぁそうかそうか、そっちがそんな態度を取るならば、この俺もそれ相応の対応をしようか。
「……もういいよ、退いてくれ」
「え?…ジェイク?」
今までも俺の言動からは考えつかないような少しの高圧的な物言いにラフィは戸惑うが、そんな事気にもせず俺はラフィの体の中からするりと抜け自室まで歩く。
今更謝ったって遅い。
ラフィ、貴方じゃなかったらこんな態度取ったりしない。
俺も最初はジェイクらしく年相応の普通の子供を演じるつもりだった、もっと上品な言葉遣いをするつもりだった。
貴方のせいだ、こんな気持ちにさせたのは…ラフィのせいで俺は悪くない。
「ひとつ聞かせてくれ、明日の魔法適性検査で、俺に魔法の適性があったとして…どう思う、誇らしく思うか?」
「……誇らしく思うわ」
「そうか、なら母さん…あんたの気持ちはどうだ?」
ラフィは俯き、数秒黙りこくった後、先ほどの俺と同じように弱々しく唸るように言った。
「……とても悲しいわ、ジェイクと離れ離れなんて、そんなの考えられない…だって家族だもの」
「……そうか」
それが聞けただけで十分だ。
「二つ約束してくれ、一つは明日の魔法適正検査の日、俺のやることに口出しないこと」
「……二つ目は?」
「ハックにこの事を言わないでくれ、何かと面倒になる未来が推測できる、母さんが契りを結んだハックも確かに認めてくれるだろうけど性格上的な問題だ」
「……あの一瞬で、見違えるように変わったわねジェイク」
ふふふ、とラフィが笑う。
「確かに変わったな、俺を封じ込めていたからが破られ、いつも俺が姿を現したみたいだ。それもこれも全部、母さんのせいだから…俺はこの喋り方を変えるつもりはない」
「そうなのね、けど私はどんなジェイクも大好きだわ」
「……おやすみ母さん」
「えぇ、おやすみなさい」
今までの俺を取り巻く呪いから全て解放された今、今日は気持ちよく寝ることが出来そうだ。
──────
───
翌日になり目が覚めると同時に自分の異変はすぐに気づけるほど変わっているようだ。
今までより気分がいい、打ち明けると言うことは自身の悩み、罪の意識を消すとともに体にまとわりつく重りを消してくれる。
そんな気分の中、俺たちは目的の場所へと歩く。
その場所というのは街の近くにある教会で、呼び方が合っているかは分からないが少なくとも俺には教会のように見える。
教会のドアを開けて中に入ると縦に広い空間の両端に規則的に横長の椅子が並べられており、その奥には白色の祭壇、さらにその上にはリンゴを二回りほど大きい水晶玉が置いてある。
「よくお越しくださいました、ガーネット家の皆さん…私はリリディと言います」
ドアの近くに佇んでいた白髪の老人がこちらに近寄り軽く頭を下げる作法一つ一つに老人の生きてきた人生が嫌と言うほど表現されている。
この老人が…俺の魔法適性の審査をしてくれると言うことなのだろうか。
それにしてもガーネット…か。
自分の下の名前を初めて心の中で声を出した。
正直なことを思うと、自分の下の名前などどうでも良いと感じてしまう。
「ではハック・ガーネット、ラフィ・ガーネット
ジェイク・ガーネット……それと」
老人の声が俺たちの名前を順番に呼んでいく。
しかし、最後の人間で声が詰まった。
「あぁ、彼女は気にしないでください、ただの友達ですから」
奴というのはアミ・グラントリアの事で、今朝にあの施設に向かって俺を待っているアミをを約束通り連れてきた。
あまり彼女のことを言及されたくなかったために、ラフィには昨日の約束を飲んでもらった。
ハックはラフィからこの事について知っているだろう。
「なるほど……お二人はよろしいのですか?」
老人の確認に俺の後ろにいるラフィとハックが首を縦に動かす。
「で、では…今から魔法適性検査を始めたいと思います、ジェイク・ガーネット、こちらの方まで」
俺は老人の後を追うようにして後ろから歩き、一番奥にある祭壇に近づく。
そして、あとの三人は俺たちの5人分ぐらい距離を空けてこちらに向かって来ている。
それよりも、あの祭壇の上にある水晶玉のような物……何か見覚えがあるような感じがあるが、一体どの素材を媒体とした物だ?
「では宜しいですかな?ジェイク・ガーネット様」
そんな事考える間もなく、老人の声が響く。
「大丈夫だ、それより俺は一体どうすればいい」
「簡単です、この水晶玉に手をかざすだけでございます」
「それだけで良いのか?」
にわかには信じられない、本当にそのような事で適性があるかどうか調べることができるのか?
「心配ありません、こちらの水晶は特別性…その人に魔力があるかどうか感知してくれるものでございます」
「……なるほどな」
老人の言葉を完全に信じたわけではないが、まぁ今はなんでも良いだろうし、突っ込む所ではない。
「では準備が出来次第、こちらの水晶に手をかざして下さい」
「わかった」
俺は手を目の前の水晶玉の上に広げる。
手をかざした瞬間に昨日のラフィの声が頭をめぐる。
誇らしくは思うが、離れ離れにはなりたくないと言うラフィの本音…当然俺もラフィとハックと共に生きていきたいと言うのが本音だ。
手をかざして数秒経った後、水晶玉が淡い色で光出す。
淡い光からは粒子産み、その粒子が教会に撒き散らかされるように広がり幻想的な空間を作り出す。
「おぉ!?これは…」
俺の近くにいる老人は驚きの声を上げて、膨大な光の粒子の数々を目で追っていた。
後ろにいる三人も同様にして、それを手に取ろうとして手を動かしてみたり、一人は食べようと口を大きく開けていた。
この反応…そうか。
「素晴らしい、これは紛れもなく魔法使い…いや、それ以上の素質!」
老人が興奮して声を荒げる。
もしかしたら魔法適性がないんじゃないかなんて思っていたが、そんな事はなく俺には魔法使いの適性があった。
それもかなりの素質、もう無理だろう。
俺と二人は近い将来…離れ離れになる。
「すごいぞジェイク・ガーネットッ!君はすごい魔法使いになること間違いなしだ、そう思うだろう!?ラフィ・ガーネット!ハック・ガーネット!」
「……そうですね」
「…俺もそうだと思っていました」
ラフィ、ハックの順に老人リリディの言葉の圧力に強制的に便乗するが、その口先だけの見栄を張っている言葉…心ではそんなこと言っていないのは誰がみてもわかる。
離れたくない、家族全員で暮らす。
ここにいる三人が強く思っている願望は潰えた……なんて思っているようじゃまだ二流。
「なぁリリディさん、少しいいか?」
「なんですかなジェイク・ガーネット!?自分の才能を今すぐにでも確かめたくなりましたかな!?そうとなれば今すぐ私が魔法使いの国に――」
「魔法使いの国に行くためには、魔法適性検査を受けて魔法適正…つまり魔法使いの素質がある人が行くことができる、合ってるよな?」
「……そうですが、それがどうしたのですか?」
食い気味に発した俺の言葉が沸騰した水が徐々に徐々に冷ましていくように、リリディの感情的な昂りもやや落ち着きを見せながら俺の質問に返答する。
「それって要するに、魔法を使うことができれば魔法使いの国に行けるって事だよな?」
「……はぁまぁ」
リリディは思っている。
「なぜ当たり前のことを聞くのか」と、逆に常識的すぎてかける言葉を見失っているようだ。
「良かった、ここだけは本当に博打覚悟だったんだが、まぁ何とかなった、おいアミ!計画は見事に動かせる」
少し大きな声でそう言うと、アミは俺の近くまで寄ってきて、最後の確認をした。
「大丈夫だったの?」
「あぁ、最後の最後の賭けに勝ったけど喜ぶのはまだ早い。俺たちの勝負はここからだからな」
「そうね、まぁなんとかなるんじゃないかしら?可能性は低いけど」
「……えっと、なんの話をしてるんだ?」
最後の賭け、計画、勝利。
何もわからない大人三人衆を置いてきぼりにする俺たちの会話にハックが横から割り込む。
口出ししない約束のはずだがもう良いだろう。
「質問だリリディさん、魔法が使うことができれば魔法使いの国に行かされる、合ってるか?」
「…もちろん合っていますとも、ご家族とは離れ離れになってしまいますが年に一度会える機会がありますので」
「気遣い結構だ、俺は家族と離れ離れにならない。そんな事を俺がさせない」
「そうは言いますが、魔法を扱う素質を持つものが魔法使いの国に行くのは決定事項ですので」
「家族と離れない方法が一つだけある」
リリディが眉に若干皺を寄せる。
「そんな方法があるなら知りたい物ですね」
「簡単なことだ、魔法使いにする」
「………は?」
「俺は、あんたに宣言する。ここにいる母ラフィ、父ハック、友達アミを…」
人先指を上に立てて、この人生で初めてと言っていいほどの自信満々な顔でリリディに告げる。
「魔法使いに仕立て上げましょう」
まずはここから変えよう。
世界の常識の盾を俺と言う矛で壊す時だ。
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