第86話 活路
警察の取り調べと伸二さんとの面談が毎日続き、そろそろ留置所の生活にも飽きて来た頃、伸二さんと検察官の両方から『勾留期間の延長』が決まったと報告を受けた。弁護士側は勿論のこと、検察側も起訴出来るほど正確な証拠が発見されていない為、さらに10日間の延長となった。
そもそも、勾留自体は検察官や裁判官に対して『無理に勾留しなくても、逃亡や隠蔽の恐れが無い』と判断さえして貰えれば、伸二さんの家に戻ることが出来るのだが、如何せん信用されていないようだ。
「これ、今週分の着替えとお金な!それに、頼まれていた本も買って来たぞ!」
いつも通り差し入れとして渡されたのは、5着のジャージと下着、2万円、小説2冊だ。
最初、差し入れは最小限で大丈夫だと説明したが、伸二さんは頑なに認めてくれず、ここまでの物を差し入れして貰っている。
「着替えはまだしも、2万円も渡す必要は無いでしょ?前に貰った1万円もほとんど残ってるのに。本は、ありがとうございます。」
「お金は念のため、多めに持っといた方が良いぞ?と言うか、布団くらい買ったらどうだ?お金さえあれば頼むことも出来るんだからさ!」
「寝る時に、それほど寒くは無いから大丈夫です。面倒なルールを指摘されるくらいなら、何も被らない方が楽だしね。それより、事件の方で進展があるんでしょ?」
実際のところ、この警察署内で頼み事は出来るだけしたくない。特に、生活に関わるような物に関しては任せたくは無いよな。
「ああ、検察官からも聞いたかもしれんが、事件の証拠を消した犯人が見つかった。まぁ、犯人と言うか依頼した奴がな。これがその人物だ。」
机の上に出された書類には、その人物の顔写真と指紋検証の結果、身辺調査の結果など、様々な情報が書かれていた。そして、写真に写っていた人物は、とてもよく知っている人物でもあった。
「・・雅紀⁉こいつが証拠を消したのか!確かに、あいつならやりそうだな。てか、人に依頼してまでやってくんなよ。」
「何か、心当たりがあるのか?俺ら弁護士側と検察側では、態々、証拠を消す意味が分からなくてな。しかも、証拠隠滅を図ったのは近藤一家の指示ではなく、個人的に動いたんだろ?そこらへんがイマイチ分からなくてな。」
「・・あいつは昔からそうですよ。俺の何が気に入らないのかは知りませんが、他の奴らと比べて、嫌がらせの規模が大きいかったんですよ。例えば、同じ学校に通っていた時には、玄関の靴箱に悪戯を仕掛けるのって、話で聞くじゃないですか。靴に画鋲を入れたり、靴を隠したり。それがあいつの場合、俺の下駄箱の場所だけ破壊したんですよ。しかも、壊したのは俺だって言うんだから、頭がおかしいでしょ?ただ、あいつの家が金持ちなのもあって、取り巻き共が味方したことによって、俺が怒られましたけどね。多分、先生もグルだったんでしょう。あいつにとって、こんな事をするのは日常茶飯事だと思いますよ。」