第60話 苦悩(伸二視点)
午前1時
この時間帯は本当ならもう寝ている時間なのだが、俊隆の件が頭から離れず眠れず、俺は部屋の中央にあるソファに座り、頭を抱えていた。
「これじゃあ数年前と変わらないじゃないか!本当にどうしたものか。」
配信が終わった後、俊隆の精神に影響が無いか心配になり、先程電話してみたが《《普段通り》》の軽い口調だった為、安心した。この事が良いか悪いかで言えば悪いんだろうけど。しかも、何処で知ったのかは分からないが、俊隆の親戚のクズ共からもメールが届き、『そのクズに関わってると碌な事にならないと言ったろ?www』のようなメールがたくさん届いた。
世間一般の意見は『どう考えてもブラックハッカーの方が犯罪者だ!』だと、情報メディアは報じているが、実際は、ブラックハッカーを擁護する意見が少しずつだが増え続けている。その中でも一番影響力を与えているコメントは『最低限の仕事しかしない警察とか政府よりは役に立ってるでしょ』や『結果的に罪を隠してきた人達を見つけられてるんだから良いんじゃないの?』などの、一見、的を射ているような意見が大量に流れており、それに対してよく考えずに肯定的な意見を述べる人が増えてきている為、今回の事件についてあまり知らない人にまで悪影響を与えてしまっている。
インターネットは人間の本当の性格を映し出す場所だ。
「最近のあいつは少しだけだが楽しそうだったのにな。」
今回の事件に対して俺たちが訴えることは簡単だろう。だが、あいつが『訴える』と言うとは思えない。多分、『時間の無駄だ』とか考えているだろう。
あいつにとって、自分の風評がどうなろうが関係ないだろう。それよりも、自分に向けられる悪意に嫌気が差して、《《本当の意味》》で人生が詰んでなければ良いのだが。
あいつは他の人と比べると、何処か認識にズレが生じる事がある。例えば、急に『何であんなにも楽しそうに生きれるんだ?』と質問してきた事がある。『華やかな未来の為に生きる』とか『明日はこんなことをしようかな!』などを考えた事がある人は多いだろう。だが、俊隆は『未来を~とか明日は~とか、生きてる保証も無いのに、なんでそんな事考えてるんですかね?』と言っていた。それなら『行き当たりばったりの生活をしろってことか?』と聞いたら、『その生き方をするのは馬鹿のする事ですよ?』と言われた。はっきり言って、意味不明だった。逆に俊隆の意見も気になった為聞いてみると、『人間、生まれた時から人生は詰んでるんだから、そんな事を考えている状況自体無駄ですよ。』と言って。立ち去っていった。『だったら、今話していた内容は全部無駄だって事になるな』等、何が言いたかったのか理解しようとしたが、さっぱり分からなかった為、これ以上考えるのを諦めた。
事件が起こってからは認識のズレがさらに激しくなり、社会的に見ると異常者に見えてしまう時もあるだろう。だから、こんなにも心配して気に掛けているにも関わらず、あいつの周りでは事件が多発してしまう。
「隆弘。お前だったらどうするんだんだろうな。」




