第212話 標的(ターゲット) 高太郎視点
午前3時
完全に静まり帰った七階の事務室で、高太郎は一人、悩みを打ち明けられずに抱え込んでいた。
「奈落君に伝えるべきなのか?・・・・その前に一度、伸二さんとも確認を取って置いて方が、何かあった時に対応出来る。いや、どうせなら、過去を克服するチャンスにすれば、奈落君もこれからの活動で困ることは無いが、もし失敗した場合、奈落君に私はどう思われるのだろう・・・。」
ブツブツと手元の報告書を見ながら、程よい解決法を探っていく様子は、何処かカッコよく、社長としての自覚がしっかりしているように見える。
現状を説明すると、何とか、個人的な友人を含め、様々な方法で打開をしようと裏で活動してみたが、特に著しい活躍が出来た訳でも無く、折角手に入れた情報も、諸刃の剣に近いものだった為、扱いにとても困っている状態だ。出来る事なら、秘書の円さんにも手伝って貰いたいのだが、判断が難しい。
そもそも高太郎は、会議室での会話の中で、奈落に対し『何か犯人に、心辺りは無いか?』と口に出してしまったことは、とても反省しなければいけないと思っている。
改めて考えてみれば、あの場面で奈落に直接聞いてしまったら、今回の事件と奈落君が間接的にでも関係があると、悟られてしまうだろう。又は、普段の私では考えられない行動を、いくつかしてしまったような気がする。
私も、気が付かない内に気が立っていたのだろうな。
「こんな時間になって申し訳ないが、伸二さんに相談があることwメールで伝えて・・・・・、他に何かあったかな?・・駄目だ、一回頭を休ませよう!何か、飲み物でも買って来るかな?」
スマホと財布を片手に事務室から出ると、近くの自販機に向かう。
手元のスマホを確認すると、伸二さんから『時間があるなら、今すぐに連絡を頂いても大丈夫ですよ?』と、返信があった為、電話を掛ける。
「ふぅー、何から話せば良いのか。取り敢えず、なら「ガタッ」、ん?今何か、見えたような。」
丁度、自販機を目視で捉えた瞬間、自分から見て右側にある空き部屋から、物音が聞こえて来た。
そして、物音が鳴ったと同時に、空き部屋の中で黒っぽい何かが一瞬、動いたのを見たような気がする。
「・・・・・ふぅぅ、行きますか。」
伸二さんと繋がったスマホを、あちらからの音声のみ聞こえないように設定した後、恐る恐る音が鳴った空き部屋の中を確認しようと、近付いて行く。
空き部屋との距離が一歩ずつ縮まり、残り二歩ぐらいにまで近付いた瞬間、部屋の中から、顔を隠したまま真っ黒の服装をした人が飛び出て来た。
そして、目の前の人は、逃げるように自分と衝突した後、一目散に駆け出していく。
「うわっ⁉ま、待って!!ッ!、ッッ⁉」
走り去る人を追いかけようと振り向いた瞬間、自身の脇腹に何か刺さっている事に気付く。
あまりの痛みに膝を床に付けた後、急いで伸二さんに『あいあ』と言う文書を送り、ゆっくりと意識を失った。




