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ひとりぼっちだった魔女の薬師は、壊れた騎士の腕の中で眠る  作者: gacchi(がっち)


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46.新しい朝

「ルーラ、起きられる?」


「ん~?」


「そろそろ起きて湯あみしようか。

 ミラさんたちが来る前に身体流してこよう?」


まだ眠い…と思いながらノエルさんの声を聞いて、少しだけ目が覚める。

ノエルさんがゆすってくる肩が、なんだかいつもと感触が違う?

目を開けると、半分体を起こしているノエルさんが裸だった。

裸…そっか。私ノエルさんの妻になったんだ。

私も裸だから、布越しじゃなくふれられた肩がくすぐったい。

なんだか恥ずかしくて隠れたい気持ちがこみあげてきて、もう一度掛け布にもぐりこもうとした。

それをノエルさんに軽く笑われて、布をはがされそうになる。


「ルーラ。いいの?この状態をミラさんたちに見られちゃうよ?

 いくら女の人でも恥ずかしいんじゃない?」


「…うん。見られたくない。」


「だろう?少し早いけど、湯あみしておいで。」


「はぁい…。」


渡された夜着を肩から羽織って、裸を隠す。

多分それに気が付いているノエルさんはこっちを見ないでくれている。

それに甘えて急いで湯あみをしに行った。


戻ったら寝台が綺麗に整えられていて、すごく恥ずかしかった。

ノエルさんが全部新しいものに代えてくれたらしい。

確かにミラさんたちに見られたくはないけど、

ノエルさんにさせるのも恥ずかしい…。


「ソファに座って待ってて。俺も軽く体を流してくるから。」


「うん。」


湯あみから着替えて戻ると、

すぐにさっと抱き上げられ隣の部屋のソファに連れて行かれた。

そっと座らせて頬にキスするとノエルさんも湯あみをしに行ってしまった。


…もう。ノエルさんがかっこよすぎて、倒れそう。






今日は予定通り王子様たちに挨拶に行く。

ノエルさんも護衛として一緒にきてくれることになった。

身体が少しだけきついけど、それでもちゃんと動ける。

ノエルさんが真顔で抱き上げて連れていこうか、なんて言うから、

ミラさんたちが何だかニヤニヤしている。

恥ずかしいから、もう何も言わないで…。






「正妃マリッサの王子、第一王子のジョージアと第三王子のケイン

 側妃リンジェラの王子で、第二王子のシュダイトだ。

 上から、十四歳、十二歳、十一歳。薬茶は十八歳まで飲ませている。

 一番上のジョージアでもあと四年ある。あの薬茶があれば改善されるだろう。」


「王宮薬師で、次期王宮薬師長の修業をしております。

 ルーラ・フォンディと申します。フォンディ家の当主でもあります。

 今日から王子様方の薬茶は私が処方することになりました。

 どうぞよろしくお願いいたします。」


挨拶は謁見室ではなく、王子宮の私室で行われた。

ジョージア様の私室らしく、白を基調とした家具で統一された部屋は、

今まで入ったどの私室よりも広かった。


三人の王子様が全員金髪碧眼の魔力欠乏症なのは知っていた。

それよりも、全員が陛下を小さくした様なお顔で、少し笑いそうになってしまった。

妃から愛されていないかもしれないけど、間違いなく陛下のお子たちだ。

ようやくお茶を一緒にされるようになって会話も増えたと聞いて安心した。

ずっと会話もなく、王子様たちだけで育てられていたらしい。

まだ王族の呪いのことは聞かされていないそうだけど、

あのまま両親からの愛情を知らずに育てられていたら、陛下と同じように考えたかもしれない。

この王子たちも同じように愛されることを望んで、

愛してくれる妃を探し続けることになっていただろう。


できるなら夫婦としては無理でも、親として王子たちに愛情を注いでほしい。

そうすれば事実を知った時の悲しみが少なくなるはずだから。



私からの挨拶はしたが、三人の王子様方は黙ってこちらを見ていた。

王族はあまり他の者とは話さないのかもと思っていたら、

しばらくしてジョージア様が口を開いた。


「…ルーラは何歳?」


「私ですか?もうすぐ十七歳になります。」


「…そうか、三つ上か。

 ルーラ、私が十八歳になったら妃になってくれないか?」


「はい?」


「兄上、ずるい!俺もルーラを妃にしたい!」


「そうだよ!六つ上だって全然かまわない。俺の妃になって!」


「うるさい!俺が王太子になるんだろうから、俺が優先だ!

 お前たちは公爵になったら一人しか娶れないだろう!」


「ルーラなら一人でいい!」


「そうだよ、ルーラに選んでもらおう!」


「「「ルーラ、誰が良い!?」」」


後ろでノエルさんから殺気が…。ユキ様、お腹抱えて笑ってないで止めてください。

えー?これ、どうしたらいいんですか?



「…あの、まだ十六歳ですけど、もうすでに結婚しています。」


「「「はぁ?」」」


「申し訳ありません。」


「そんなの離縁しちゃえばいいだろう?

 王子よりもいい結婚があるのかよ。」


「そうだよ、王妃になれるんだよ?」


「公爵夫人だっていいと思わない?」


ええぇ?はっきり断ってもダメなんですか。

ユキ様はニヤニヤ笑って止める気ないですね。もう。

ため息をついたら、後ろから抱きしめられた。

いつも公式の場では護衛に徹しているノエルさんなのに。

見上げたら、ノエルさんが良い笑顔でキレているのがわかった。


「王子、俺の妻に何か?」


「えっ?」


「ルーラは俺の妻ですけど、何か御用ですか?」


「青の騎士の妻!?」


「うそだろ…。」


殺気を隠さないノエルさんに、王子たちは真っ青になって慌てている。

王子を守る近衛騎士の方々は…笑いをこらえている。お願い、止めて…。

そうか、ノエルさんは近衛騎士にいたこともあるし、騎士団に育てられたって言ってた。

ここにいる騎士たちはみなさんノエルさんの知り合いなんだ。

私と結婚していることも知っていたはず。で、笑って見てるんですか?

誰も止めてくれないことに少し腹が立ってきた。

私が言わないとこの場は終わらないということなのだろう…。



「えーっと、この通り、青の騎士のノエルさんと結婚しておりますし、

 王族に嫁ぎたいと思ったこともございません。

 離縁する予定は全くありません。ということで、よろしいでしょうか?」


「…ああ。」


「青の騎士…ごめんなさい。」


「今のは無かったことに…。」



「まーったく、親子だな。ホントに似すぎてる。あはははは。

 陛下も初対面のルーラに求婚して振られてたぞ。

 性格も女の好みも一緒とは。面白過ぎるな。」


ユキ様に父親と一緒と言われ複雑なのか、

王子たちは顔を見合わせて気まずそうにしている。


「お前たちの命を預かる大事な王宮薬師長だ。

 結婚相手になんてできないぞ。まぁ、それ以前にノエルがいるから無理だがな。

 まぁ、このことは忘れな。結婚なんてあと数年早いわ。」


がははっと笑うユキ様ともう笑いをこらえない近衛騎士。

王子たちは真っ赤になっていて、少し可哀そうだ。

だけどここまで笑われたら、今後は軽々しくこんなことを言い出さないだろう。

陛下のような失敗を繰り返さないためにも、王子たちには慎重に妃選びをしてもらいたい。

この後は処方しても女官に渡して終わりなので、私が王子たちと顔を会わせることも無い。

王子たちにとって恥ずかしい思い出になってしまっただろうが、一応挨拶は済んだ。


まだ少し威嚇しているノエルさんをなだめて、ユキ様と部屋を出た。

ユキ様の笑いはしばらく収まらず、

塔に帰った後、話を聞いたミラさんたちも笑いが止まらなかった。




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