37.処罰
陛下立ち合いのもと行われた申し開きの場の結果、
ランゲル公爵家には王宮薬師の処方は行わず、王宮への出入りも禁じられた。
おそらくランゲル公爵の命は数か月しか持たず、
一人娘のリリアン様はまだ十五歳になったばかり。
リリアン様が成人する前にランゲル公爵は亡くなってしまうだろう。
社交もできず、後ろ盾も無くしたリリアン様が、
自分の力だけで結婚相手を見つけられるとは思わない。
たとえリリアン様と結婚して公爵を継いだとしても、
一緒に社交界から追放されるだけなのだから。
陛下にとってはランゲル公爵は従兄で幼馴染なのだから、
穏便に済ませたかったのかもしれない。
それでも王宮薬師長への軽視は見過ごせるものではなかった。
何よりも、処方についてはユキ様が処方する気にならなければ無理な話。
ユキ様にとっては甥でも甘い処分にする気はなかったそうだ。
その他の処分として、連れ出した文官と女官は平民に落とされ、
それぞれの生家も爵位を没収された。
親戚一同もう二度と王宮には務められないらしい。
平民にとって唯一とも言える出世先の騎士団にも入れないそうだ。
ハンスさんはもっとも重い罪になった。
王宮薬師として優遇されるのと引き換えに、重い責任も背負っている。
自分の処方したものが悪用されるとわかって処方した上に、
普通なら入れない魔術がかけられている塔に入り込める魔術具も渡していたらしい。
王宮薬師とは個人で責任をとる存在であるらしく、生家で何があっても関係はない。
またその逆でハンスさんが犯罪を犯したとしても、
生家であるガラール子爵への責任は問われないらしい。
そもそもガラール子爵家とは縁を切っていたためという理由もあるそうだ。
ハンスさんは王宮薬師の処方を悪用したために、平民に落として王宮の外に出すことはできない。
幽閉しておくことも難しく、毒を賜って処刑されることに決まった。
処刑の日、ユキ様が処方した薬を静かに飲んだと聞かされ、
どうしてもっと早くに話し合って理解してもらおうとしなかったのか後悔した。
最終的にハンスさんに認めてもらえなかったとしても、
努力することすらしなかったことが悔やまれた。
薬屋で私をさらおうとした破落戸は、すべて犯罪奴隷に落とされたそうだ。
北の領地にある鉱山に繋がれて一生働かされる。
鉱山から一歩でも外にでたら爆発する首輪をつけられると聞いて、
もう二度と会うことは無いんだとほっとした。
リリアン様たちは怖くなかったけど、破落戸は本当に怖かったからだ。
ハンナニ国へも事の次第と警告が書かれた書簡が送られることになった。
あの日、街から帰って来た日、ノエルさんが王宮から書類をもらってきた。
「魔力の共生の儀式で、もう結婚してるともいえるけど、
もっとみんなにわかりやすく書類での結婚もしたい。
ルーラ、署名してくれないか?」
そんな風にミラさんがいる前で私に書類を渡してきたせいで、
ノエルさんはミラさんから説教されることになった。
「ノエル!もう少し雰囲気っていうか、二人きりの時に言うとかあるでしょう!」
そんな風に怒るミラさんに驚きつつ、
思った以上に二人の仲が良いことに気が付いた。
話を聞いたら、ノエルさんが騎士団に預けられたのはまだ三歳の頃。
騎士団には女性もいるのだけど、訓練や仕事で忙しく面倒をみるのは難しかった。
そこで、見習い女官だったミラさんに預けられることが多かったそう。
「母親みたいな感じなんだ…ミラさんには頭があがらない…。」
「母親はやめて。十歳しか違わないんだから!」
そんな言い合いをしていて、そういえばと思った。
「そうそう。私ノエルさんの年齢を聞いたことないんだけど…?」
「あれ?そうだったか?そういう話にならなかったのかもしれないな。
今二十四歳だぞ。ルーラとは八歳違うのか…。」
「そうなんだ。」
あ。ミラさんの年齢もわかってしまったけど、それは黙っておこう。
結局ミラさんの説教が終わった後はユキ様に呆れられ、
最後はヘレンさんとサージュさんも呼んで、みんなに見守られながら署名をした。
提出したのは申し開きの場に向かう直前で、
バタバタと慌ただしい提出になってしまったけど、
私とノエルさんだし、そんな感じでもいいんじゃないかと思った。




