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ひとりぼっちだった魔女の薬師は、壊れた騎士の腕の中で眠る  作者: gacchi(がっち)


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29.薬師室ふたたび

「では、どうしてもユキ様は、

 その小娘を後継に指名するとおっしゃるのですか?」


先日会えなかった他の王宮薬師の方と会うために、ユキ様に連れられてノエルさんと来ていた。

今回は全員がそろっているようで、七人の王宮薬師が薬師室にいた。


ユキ様から前回と同じような紹介を受け、また同じように寵妃の噂は誤解だと話をすると、

他の王宮薬師の方からの視線は和らいだ気がした。

それでも、ハンスさんだけは違うらしい。

こげ茶色の髪をきゅっと一つに束ね、眼鏡をかけた細身の男性で、陛下と同じくらいの年齢だろうか。

私のことはちらりと見ただけで、いかにも不機嫌そうな顔を隠しもせずにユキ様に問いかけた。


「そうだ。今まで私は誰も後継に指名していなかった。

 ミカエルがいなくなった時からな。

 ずっと後継にできる才能を持ったものを探していて、やっと見つけた。

 そのことに何か文句あるのか?」


「あります!

 私はずっとフォンディ家を継がせてくれるように頼んでいたはずです。

 分家でもあるガラール家の出で、一番才能がある私が継ぐのが当然でした。

 なのに、ずっと許可が下りず、王宮薬師のままです。

 どうして、こんな小娘が急に現れて、

 フォンディ家当主だユキ様の後継だなんて言われて、

 簡単に納得できると思うのですか!」


あぁそうか。ハンスさんはフォンディ家の分家出身だと言っていた。

王宮薬師長だけでなく、フォンディ家も自分が継ぐと思っていたのか。

父様が王宮薬師長をやめて姿を消した後、フォンディ家は無くなったも同然だった。

領地を持つ貴族とは違い、フォンディ家は薬師として生活していた。

爵位と家名はあるものの、王宮薬師長を継ぐ者がいない状態で存続させることに意味は無いと、

そのままにされていたそうだ。

無理に分家から継がせても、その才能が無ければ意味がないとユキ様が判断したからだと聞いた。


「ハンス。フォンディ家を継ぐこと自体に意味はまったくない。

 だからミカエルがいなくなった後のフォンディ家のことは放置されていたんだ。

 フォンディ家の当主だから王宮薬師長になれるわけではない。

 才能の無いものがフォンディ家の名前だけ継いでも何にもならない。」


「私に才能が無いというのですか!」


「王宮薬師になる才能はあっても、王宮薬師長にはなれない。

 何度もそう言っていたはずだ。」


「…ですがっ。

 ですが、ユキ様は何が足りないのかおっしゃってくださらなかった。

 私はもうずっと努力し続けてきました。

 すべてはフォンディ家を継いで王宮薬師長になるためです。

 他の王宮薬師とは比べ物にならないほど修業してきたはずです。」


「王宮薬師になるために必要なものは魔力と知識と修業だ。

 ここまではお前たちに何度も言っているからわかるだろう。

 だが、王宮薬師長になるためには、その何倍もの魔力量が必要になる。

 その上で知識と修業が必要になるんだ。」


「何倍もの…。」


「そうだ。魔力量を何倍にも増やすなんてどうやっても無理だ。

 だから私はハンスが王宮薬師長になるのは無理だと言っていたんだ。」


「でも、それなら、その小娘にはあるというのですか!?」


「ルーラは、私以上の魔力を持つ。」


「は?」


「ルーラは他国の貴族から産まれているから黒髪黒目だが、

 これはこの国で言う色付きと同じ性質になるだろう。

 ルーラの母親は魔女で、ルーラ自身も魔女の魔力を持っている。

 その魔力量ははかりしれない…間違いなく私以上だ。」


「…そんな、そんなわけはない…。

 私は納得しません!いいですか、納得しませんよ!」


最後の一言は私に向けてそう叫ぶと、ハンスさんは部屋から出て行った。


「どうしてあんな考えになってしまったのだろうなぁ。」


ユキ様が少しだけ寂しそうにそう言うと、他の王宮薬師の方が笑った。


「ユキ様のせいじゃないですよ。

 ハンスさんは次男だから、子爵を継いだお兄さんを見返したかったようですよ。

 王宮薬師になった時点で爵位は上なんだから、

 それで満足すればよかったんですけどね。

 まぁ、そのうち納得しますよ。

 で、今日はルーラさんを紹介してくれるんですよね?

 あ、ルーラ様と呼んだ方がいいですか?」


「ええっ。ルーラでお願いします!一番下なんですから!」


「そういうわけにもいかないんですけどね~次期王宮薬師長なんですから。」


「まぁ、それはそうなんだが。ルーラは平民育ちなんだ。

 王宮薬師長になるころには慣れるだろうから、

 それまでは許してやってくれ。」


「そうですか…じゃあ、ルーラさんでいいですね?」


「はい。よろしくお願いします!」


「いえ、こちらこそ。よろしくお願いしますね。」


前回来た時に挨拶できなかった王宮薬師の二人は、

ドガさんとデビーさんという男性だった。

ドガさんは少しぽっちゃりした体型でユキ様より高齢に見える。

デビーさんは小柄で元気の良さそうなお兄さんだった。

ドガさんはお父様よりも先に王宮薬師になっていて、

ユキ様の次に長く王宮薬師を務めているそうだ。

もちろん父様のことも知っていて、私を見て鼻の形が似ていますねと笑ってくれた。

デビーさんは父様がいなくなった後に王宮薬師になったそうで、

伝説のミカエル様に会えなくてがっかりしていたから娘さんに会えてうれしいですと言ってくれた。


二人と前回会えなかった理由は、

どちらも自宅の薬師室にこもっていて呼び出しに気が付かなかったらしい。

自宅に薬師室?と思ったけど、よく考えたら私がいる部屋にも処方台がある。

ここにいる人たちはみんなそんな感じのようで、特に何も言わなかった。




「では、ルーラ。いくつか処方を見せてやってくれ。

 実際にルーラがこの部屋で処方することはないと思うから、

 みんなも気になるだろう。」


「わかりました。」



その後、王宮薬師からいくつか薬を指定してもらい、

その場で私が処方するという作業を繰り返したのだが…

全員が納得するまで処方するつもりだったのだが、あっという間に三日が過ぎて行った。

納得というか、満足というか…それは結局してもらえなかったのだけど。


どうやらユキ様の処方の教えはわかりにくく、

私が処方を説明するのを聞いてようやく理解できたものもあるらしい。

これはどうだ、こっちもお願い、そんな風にいろんな処方をせがまれ、

何度も説明しているうちに王宮薬師の皆さんと仲良くなれた。



それでもただ一人、ハンスさんだけは一度も薬師室に現れることはなかった。


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