28.王族の魔力
「王族は魔力の器そのものは持っているんでしょうか?」
魔力欠乏症にもいろんな場合がある。
魔力の器そのものが無い場合、魔力の器が欠けてしまっている場合、
魔力を生み出す能力が無い場合、その理由によって薬の処方は変わる。
王宮薬師長でなければ治療できないというのなら、普通の魔力欠乏症とは異なる可能性がある。
ユキ様もそのことをわかっているからか、王族の魔力の性質も含めて説明をしてくれた。
「金髪碧眼で産まれた場合、何もしなければ魔力の器を持たないで産まれてくる。
だから王宮薬師長の仕事としてはまず妃が身ごもったら、
子が産まれるまで特別な薬湯を飲ませ続ける。
そうすると産まれてくる子は小さいが魔力の器を持って産まれることができる。
ただ、そのままではごくわずかな魔力しか持つことができない。
幼少期から薬湯を与え続けて、魔力の器を少しずつ大きく成長させる。
成人するとそこからはもう魔力の器は育たない。
その後は器の中に魔力を補充する薬に変える。
魔力を生み出すことができないため、薬なしでは生きていくことができない。
ルーラには説明をしただけでも、この薬の処方の難しさが理解できるだろう?」
思った以上に王家の魔力欠乏症は深刻な状況だった。
まったく魔力を扱う能力のない者に、そのすべてを与えるなんて聞いたことがない。
フォンディ家最初の薬の魔女がいなければ絶対に無理だっただろう。
…だからこそ、王家はフォンディ家、王宮薬師長を大事にするのか。
こんな処方を代わりにできるものがいるとは思えない。
王族の、王家の命そのものを握っていると同意だった。
「飲む者の器の大きさや性質によって補充する魔力量が違うし、
処方するときの違いの見極めが難しい。
それにその薬を処方するには魔力をずっと同じ力で与え続けなければならない。
高い魔力を一定で出し続けるというのは、かなりの魔力量が必要になる。
ある程度の魔力量と知識と修業があれば王宮薬師になれても、
王宮薬師長になるにはそれ以上の才能が無ければならないのはそれが理由だ。
王族の血筋ではない者たち、妃などへの通常の処方は王宮薬師が担う。
だが王族の血を持つ者と身ごもっている妃への処方は、
王宮薬師長しか対応できないことになる。
今は私だけが処方している。
色付きの者が長命だからと言って、私がずっと生きているわけではない。
当時まだ若かったミカエルに王宮薬師長を任せたのは、
私が早めに死んでも大丈夫なようにと思ってのことだったのだが…。
ミカエルが去った後、他の後継者を探していたが見つからなかった。
ルーラに引き継がれていてくれて本当に良かった。」
深くため息をついたユキ様は、どこか遠くを見ているようだ。
ずっと王宮薬師として生きてきた時間を感じているのだろうか。
赤色だった髪が白くなって、桃色に変わってしまうまでに、
どのくらいの時間をこの王宮で過ごしたのだろう。
異母弟と異母妹が亡くなり、その子どもたちへと処方を続け…
おそらくはその子どもたちが亡くなった後もユキ様は生きることになる。
同じ色付きのノエルさんも、ユキ様と同じくらい長い時を過ごすのかもしれない。
「先日、魔剣騎士の任命を受けた時に、
陛下がルーラを守ることがこの国を守ることにつながると言ってました。
王宮薬師長に何か理由があると思っていましたが、
こんなにも大事な役目だとは思ってませんでした。」
「ノエルも王族の血筋だ。
代々色付きで産まれた王族がこの話を伝える役目を持つ。
残念だが陛下の子で色付きが産まれることは無さそうだ。
この状況で私が死ねば、ノエルにこの役目を持たせなければならない。
それもあってノエルにも話したのだが、それだけではない。
この役目の重要さを理解していた方がルーラを守りやすいだろう?」
「はい。」
「…ユキ様、私に王宮薬師長は務まるのでしょうか?」
「ルーラはもう王宮薬師としては教えることが無かった。
王宮薬師長の処方が出来るようになるまで数年はかかるだろう。
だけど、ルーラはまだ十六歳だ。数年かかっても大した問題じゃない。
そのうちできるようになればいい。
私が死ぬまでにできればいいから、あと三十年は大丈夫だ。
それなら安心して修業できるだろう?」
「三十年…そうですね。じゃあ、気長にがんばります。」
三十年もあるのであれば…。まだ自信は無いけど、ユキ様について修業できる。
父様がしていた仕事を継ぐことにもなる。
できることはやろう。三十年後の自分なら出来ると信じて。




