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ひとりぼっちだった魔女の薬師は、壊れた騎士の腕の中で眠る  作者: gacchi(がっち)


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18.認識の違い

あまりの会話のずれに、思わず後ろを振り返ってミラさんに助けを求める。

寵妃さまが何を言ってるのか、まったく理解できないんですけど~?

そのことに気が付いたのか、ミラさんがテーブルの近くまで来て寵妃さまに話しかけてくれた。


「レミーラ様、お話し中に申し訳ございません。

 ですが、ルーラ様と会話がかみ合っていないように思います。

 少々確認してもよろしいでしょうか?」


「ミラ…いいわ。何が違うのかしら?

 ルーラは陛下が見初めて連れてきたのでしょう?」


う…それを言われると困る。

ミラさーん、お願い。私じゃ、寵妃さまが納得するような答えが出ません!

目で訴えているのがわかったのか、ミラさんが説明してくれる。


「まず、陛下がルーラ様を王城に連れてきたのは魔力酔いのせいです。」


「魔力酔い?」


「はい。陛下は魔力への耐性を持っていません。

 そのため、魔女の力を持つルーラ様の魔力に酔い、

 惹かれていると誤解してしまったのです。

 王城に着いた後は、ユキ様が処方された薬で正常に戻っています。

 その後、陛下とルーラ様が顔を合わせたのは一度だけ。

 謁見室で伯爵位を認められた時のみでございます。」


「え?そうなの?だって、ルーラは平民育ちでしょう?

 側妃にするために、伯爵家の養女にしたのでは?」


「平民育ちではありますが、ご両親とも貴族です。」


「塔にこもっているのは側妃になるため、

 礼儀作法を学んでいるから、こんなに所作が綺麗なのでしょう?」


「ルーラ様の所作は最初からお綺麗でした。

 お母様が他国の侯爵家のご出身だそうです。」


「じゃあ、王宮薬師見習いって肩書は…」


「それは本当ですわ。

 正確に言えば、フォンディ家当主として王宮薬師長になるための修業中です。」


「え?フォンディ家当主?本当に?」


そういえば、ユキ様がそんなことをあの貴族たちに言っていたような…。

それ本当だったんですか?


「ルーラ様はフォンディ家当主だったミカエル様のたった一人のお子さまです。

 そのため、陛下もルーラ様が当主だとお認めになられました。

 現在、ルーラ様がフォンディ家の当主です。

 当主のままで側妃にはなれません。ましてや愛妾だなど。

 ルーラ様に失礼ですよ。」


「…ごめんなさい。陛下が綺麗な子を担いで連れてきたって聞いたら、

 側妃でいる自信がなくなってしまって…。

 あせって、呼び出してしまったの。ルーラ様、失礼いたしました。」


「え!あの、寵妃さまが謝る必要はありません。

 すべては魔力をあふれさせていた私が原因なのですから…。

 いろいろとご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした。」


誤解がとけてしまえば、原因はすべて私にあるわけだし、謝るしかない。

寵妃さまは陛下のことがお好きなのだろう。

こんなことで心配させてしまっていて、本当に申し訳なかった。







誤解がとけたら安心したのだろう。寵妃さまの表情が柔らかくなった。

良かった。これでもう呼び出されることはないだろう。


「そうでしたか。王宮薬師長になるお方でしたのね。

 ルーラ様、これからよろしくお願いしますね?」


…えーっと、また呼び出されるのかな。

どう返答して良いのか、迷った結果、素直に答えることにした。


「申し訳ございません。私は王宮薬師長になるどころか、

 王宮薬師にすらなれていません。

 寵妃さまにお目にかかれるような立場になるには、しばらくかかりそうです。

 今は人に処方する許可も下りていない状況です。」


「あら、そうなのですか。

 残念です。ルーラ様に処方してもらえたらと思ったのですが…。」


「もちろん、修業した結果、

 王宮薬師として仕事をいただけるようになりましたら、全力でお勤めいたします。

 その時までお待ちいただけますか。」


「わかりましたわ。楽しみにしています。」


納得してもらえたようで良かった。

いつになるかわからない約束ではあるが、今すぐ処方しろと言われても困る。

それにしても、処方してもらいたい薬ってなんだろう。


「寵妃さまは、何かお困りなのでしょうか?」


薬師としての気持ちが勝ってしまい、思わず聞いてしまった。


「あぁ、困っているというか…避妊薬をお願いしようと思いましたの。」


「…失礼いたしました。」


聞いてはいけない話だった。聞かなければよかった。

その後はいくつか薬師としての生活のことを聞かれたが、

予想とは違い和やかな雰囲気でお茶会は終わり、ミラさんとノエルさんと一緒に塔に戻ることになった。

終わりの挨拶をして帰ろうとすると、ふいに後ろのノエルさんに気が付いたのか、

寵妃さまに尋ねられた。


「青の騎士…?もしかして、ルーラ様の護衛はノエル様なのですか?」


「はい。」


「公爵家の当主になるかたが専属の騎士って、すごいわ。

 やはり次期王宮薬師長って、他の薬師とはまったく待遇が違うのね。」


つぶやくような寵妃さまの声を聞き返す前に、女官たちに扉を開かれた。

促されるままに廊下に出て、礼をすると、すぐに扉は閉じられた。

今の話は、どういうこと?



「ノエルさん…?」


「帰ってから話そうか。ここは立ち止まっていて良い場所ではない。」


表情がかたいままのノエルさんに、素直に従って歩き始めた。

ここに来た時と違い、エスコートされる必要は無かったし、

その腕にさわれるような雰囲気では無かった。


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