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ひとりぼっちだった魔女の薬師は、壊れた騎士の腕の中で眠る  作者: gacchi(がっち)


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17.寵妃さまのお呼び

「え?寵妃さまが呼んでる?」


「ええ、そうなの。

 お茶に呼んでるそうなのだけど、ユキ様どうしますか?」


いつも通りユキ様に処方を確認してもらっていると、申し訳なさそうにミラさんが入ってきた。

後宮から使いのものが来ているらしい。

なぜか、寵妃さまからのお茶の招待状を持って。


「あぁ、そういえば後宮の者たちが騒いでおったな。

 王が平民の子どもをさらって愛妾にしたのは許せないとかなんとか。」


「え?」


「ユキ様、寵妃さまは誤解されているということでしょうか?」


「誤解って言っても、さらってきたのは事実だしな。

 陛下が担いで王城に連れてきたのは、大勢の使用人が見ている。

 それを誤解するなというほうが、無理があるだろう。」


「そんなぁ。」


ようやく平穏な日々が来たと思って楽しんでいたのに、

今更あの件で何か言われるとは思ってなかった。


「そうだな…お茶会に行って、愛妾ではないとはっきり否定してくればいい。

 護衛にノエル連れて、念のためミラもついて行ってくれるか?

 私は午後は王宮薬師のほうに教えに行かなければならないんでな。

 寵妃は変わってる妃だし、会わなければ何度でも誘いが来るだろう。

 ひどくなる前にさっさと行って話してきた方が良いぞ。」


「…わかりました。」


寵妃さまに会うのはとても億劫だけど、そう言われてしまうと、

これからもっとめんどくさい状況になる前になんとかしたい。

誤解だって言って分かってもらえればいいけど…。


「…ミラさぁん…。」


泣きそうになってたのに気づいたのだろう。

ミラさんがよしよしと頭を撫でて慰めてくれる。


「大丈夫よ。わたくしもついていくし、話せばわかってくれると思うわ。

 さっさと終わらせて帰ってきましょうね?」




その日の午後になってすぐ着替えが始まり、湯あみされてドレス姿にされた私を

正式な騎士服姿でノエルさんが待っていた。


「ノエルさん、その服は?」


「ん?ああ、寵妃が住んでいる区画は王族しか入ることができない区画なんだ。

 そこには貴族でも招待されなければ入ることができないし、

 護衛も正式に任命されている者しか入れない。

 これは、俺がルーラの正式な騎士だと示すものなんだ。」


「そうなんだ。すっごく似合うね。」


この前、謁見室でみた近衛騎士の黒の騎士服とも違い、

紺色の騎士服に白い線が一本身体の中心から左側に縦に入っている。

王宮薬師付きの騎士の服なのだろうか。


「これは俺だけの服だな。ルーラ付きの護衛は俺だけだから。

 紺色は俺の髪に合わせたんだろう。白い縦線は王宮薬師付きの騎士の印だ。」


「へ~だから紺色なんだね。」


紺色の髪に合わせて…ん?

なんとなく、ノエルさんの髪の色が薄くなったように見える。

紺色の服が濃いからそう見えるだけかな。


「二人とも待たせてごめんなさい。準備は大丈夫よね?

 では、行きましょうか。」


ミラさんが迎えに来てくれたので、王宮の奥、後宮まで向かった。

女官の中でも特別なミラさんと、特別な騎士のノエルさん。

その二人に守られるように王宮の廊下を歩いていくことが、

どういう意味になるのか…この時はまだ知らなかった。





固い鎧をつけた護衛たちが守る門をいくつか通り、王宮の奥まで進む。

ミラさんとノエルさんは平然としているけど、

王宮にくることもめったにない私は、心臓が落ち着かなくて誰かにすがりつきたくなる。


「ルーラ、魔力が落ち着いてない。大丈夫か?」


「え?そうなの?気持ちが落ち着かないから?

 緊張しすぎて、心臓が痛いくらい。

 どうしたら落ち着くかな…。」


「俺の腕につかまって。大丈夫、エスコートだと思われるから。」


差し出された左腕につかまると、魔力が吸いこまれて行く感じがした。

力が抜けるようなことはないが、本当に魔力があふれ出ていたようだ。

周りに影響が出る前にノエルさんが気が付いてくれて良かった。



「ルーラ、もう少しで寵妃さまの部屋につくわ。大丈夫?」


「はい。もう大丈夫です。」


ほっとした顔でまた歩き出したミラさんに、私とノエルさんがついていく。

すれ違う人たちの驚いた顔が気にはなったが、私が誰だかわからなくて驚いているんだろう。

王宮薬師になったら、王宮にも顔を出すことになるのだろうか。

少しだけ不安になった。


「王宮薬師見習いのルーラ様をお連れいたしました。」


大きな扉の前にいた女性騎士に向かって、ミラさんがそう告げる。

私の顔を確認したのか頷いて、扉を開けてくれた。


「どうぞ、こちらに。」


中にいた寵妃さま付きの女官と思われる人が案内してくれる。

それについていくとバルコニーに出て、中庭が見える場所のテーブルに案内された。

座らずに待っていると、すぐに奥の部屋から寵妃さまらしい女性が現れた。


近づいてくる女性に頭をさげたまま、声がかかるのを待った。


「あなたが例の愛妾なのね。顔をあげて?」


少し高めの女性らしい声がかかり、顔を上げて見る。

薄黄色のレースを重ねたドレスがまず目に入る。

栗色の髪と瞳で、小柄で愛らしい感じの女性が首をかしげてこちらを見ていた。

首をかしげているのは私の対応が何かおかしかっただろうか。


「まぁ、いいわ。座って話しましょう?」


寵妃さまが座った向かい側の椅子に案内され、

座ると女官たちがお茶や菓子を目の前に置いて寵妃さまの後ろへと控える。


「あなたの名前は?」


「ルーラです。」


伯爵家の名前を出すか迷ったが、王宮薬師見習いであれば家名を名乗る必要は無かったと思い、

ルーラとだけ名乗る。

ミラさんとノエルさんは後ろに控えているので、

この答え方で大丈夫なのか顔を見て確認することはできない。

よほど困った状況になれば助けてくれるのだろうけど、

迷惑かけないようにできる限り一人で乗り越えたい。


「そう。…ルーラは陛下のこと、好き?」


「好きとか嫌いとか言えるような立場ではありません。

 それと、私は愛妾ではございません。」


これでわかってもらえたかな…そう思ったのに、

寵妃さまの表情はなぜか険しいものになった。


「ルーラは平民なのよね?」


「平民として育ちましたが、先日伯爵として認められました。」


「…伯爵。」


平民だと言いたかったが、嘘をつくわけにもいかない。

だが、その辺の話は知らなかったのだろう。

寵妃さまが周りの女官に視線をうつしたが、女官たちは困った顔をしている。

寵妃さまがお茶を飲もうとしたが、

手が震えているのか、うまくカップを掴めないでいる。

それを見ていたら、あきらめたように深いため息をついて、静かに微笑んだ。


「そう、そういうことなのね。

 わかったわ。これからは側妃同士として仲よくしましょうね。」


「は?」






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