14.対決
二日後の早朝、まだ日が昇らないうちにたたき起こされた。
こんなにも早くにあの貴族から呼び出されたようで、
慌ててミラさんにドレスに着替えるのを手伝ってもらうことになった。
「ミラさん、早くからすみません。」
「いいのよ、ルーラ。悪いのは向こうなんだから。
今日この国を出て帰るんですって。
だからこんなに早い時間に来たみたいよ。」
今日この国を出る。だから早い、なるほど。
夜になるまでに宿場町まで移動したいからってことか。
私のことはすんなり連れて帰れると思っているんだろうな…。
ユキ様が迎えに来てくれたので、ノエルさんと三人で応接室に向かう。
中に入ると、侯爵とお付きの者が旅支度の格好で待っていた。
「なんだ、そのドレスは。
行く準備をしておけと言っただろう。着替えてこい。」
侯爵は私のドレス姿を見た瞬間、にらみつけた上で命令してくる。
あぁ、やっぱりこういう人だ。
このまま連れていかれずに済んで本当に良かった。
私にそれ以上侯爵が何か言う前に、ユキ様が前に出て対応してくれた。
「侯爵、先日は話の途中で帰ったから伝えられなかったのだが、
ルーラは他国に行くことができないぞ。」
「どういうことだ?」
「ルーラは後ろにいるノエルと魔力の共生の儀式をしておる。」
「魔力の共生の儀式とはなんだ?」
「簡単に言えば結婚だが、普通の結婚とは違う。
魔力を一つにしているから、離れることは無理だ。
離れたら、魔力を使うことができず暴走してしまう。」
「なんだと!…じゃあ、仕方ない。
その男も一緒に連れて行くことにしよう。」
「それは無理な話だ。」
「どうしてだ?我がジェンギー家の女を勝手に娶ったのが悪いのだろう?
ハンナニ国では当主に無断で娘と結婚したものは罰せられるのだぞ?
それを罰せずに連れて帰るだけにしてやろうというのに。」
「ノエルは侯爵家の次男だ。平民ではない。
そして、ルーラも平民ではない。
ルーラの父親はこの国の伯爵家当主だ。
その父親が亡くなった今は、ルーラが伯爵家の当主になる。
この国の貴族を勝手に連れ去ることはできないよ。」
「そんな話は知らん!」
「侯爵がハンナニ国の法を持ち出すように、この国にも法がある。
ルーラがこの国の伯爵家当主であり、貴族のノエルと結婚しているのなら、
国王陛下の許可なく国の外に連れ出すことはできない。
だが、侯爵が許可を求めたとしても、陛下がその許可を出すことはない。
ルーラは王宮薬師を継ぐフォンディ伯爵家の当主だからな。」
私はユキ様の話が理解できずにいた。侯爵は言い返すことができないのか、何も言わずに黙っている。
文句は言いたいのだろう。怒りのあまり顔が赤黒くなっている。
その時、後ろに下がっていたお付きの者が侯爵に声をかけた。
「侯爵、これでは無理だ。あきらめるがよい。」
お付きの者だと思ってたのに、どうやら侯爵よりも上の立場のようだ。
侯爵より少し若く見える男性は、前に出るとユキ様へと向き直った。
「リエンディ公爵だろうか。」
「気が付かれましたか。ユキ王女。お久しぶりです。」
ユキ王女?ユキ様って王女様だったの?
「お二人には悪いが、ルーラは大事な私の弟子でね。
この国の王宮薬師長になってもらう予定だ。
そちら側の身内だという言い分は、何一つ証拠もない話だし、
ここはひいてもらえないか?」
「そうでしたか。
この国は女性でも当主や役職に就けるんでしたね。
わかりました。さすがにそういうことであれば、こちらには打つ手がありません。
侯爵、そういうわけだ。あきらめて帰ろう。」
「…わかりました。」
「ルーラと言ったね。悪かったよ。
私は君のお母さんとは婚約していたんだが、逃げられてしまった。
それもあって、君をうちの息子の結婚相手にと思っていたんだ。
まぁ、もう幸せなようだから、邪魔しないで帰るよ。
…それでは、ユキ王女、失礼します。」
公爵たちはユキ様に軽く礼をすると応接室から出て行った。
この短時間で頭に入ってきた情報の多さに、ついていけない。
え?ええ?どういうこと?




