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1.薬屋の店主

「ルーラ、また求婚されたって?」


「うん、そうなの。

 そんな風に思われていたそぶりはなかったんだけど、

 みんな、どうしたのかな…。」


「結婚できる年齢になったら騒がれるだろうとは思っていたけど、

 ここまでとはね。返事はどうするんだい?」


「まだ十六歳になったばかりよ?ようやくお店も落ち着いたところなのに。

 結婚だなんて、そんなこと考えられないわ。」


「まぁ、そうだろうね。ゆっくり考えればいいよ。

 じゃあ私は戻るけど、一人で店にいて何かあったらすぐ呼ぶんだよ。」



そう言って、おばさんは店から出て行った。

両親が亡くなった後、子どもの私が薬屋を続けていられたのは支えてくれた街の人たちのおかげで、

そのうちの一人である隣の店のおばさんにはとても感謝している。


一人で店を続ける決意をしてから四年。先週誕生日を迎え十六歳になった。

それからというもの、店の常連さんたちから求婚され続けている。

仲のいい常連さんたちではあったが、今までそんな感じはしていなかったので、

突然どうしてという思いでいっぱいだ。

もちろん結婚する気はないが、これからも店を続けていくつもりなので、

常連さんたちに冷たくすることもできない。

うまく断るにはどうしたらいいかと悩んでしまっていた。


「さて、今日は何を作らなきゃいけないんだっけ…。

 ええと水飴と腹痛の薬ね。」


一人で暮らすことに慣れてしまったからか、独り言を言いながら今日の作業を始めた。

薬師だった両親から受け継いだ薬は評判で、これからも薬師としてこの店を続けていくつもりだ。

多少の苦労はあっても薬を買いに来てくれる人がいる限り、店をやめて結婚するなど考えられなかった。


水飴を作り終えた時にカランとドアが開いた音がして、一人の客が入ってきた。

身なりからして、お忍びの貴族だと思われた。

貴族か…客を選ぶつもりは無いけど、苦手だな。

両親が貴族相手を避けていたこともあって、どうしても苦手意識があった。


「ここは薬を売っているのだろうか?」


どうやら思ったような貴族ではないらしい。

子ども相手だと見下すこともなく聞いてくれて、少しホッとする。

貴族であっても、こうして客として来てくれるのであれば問題ない。

こちらも薬師として応対するだけだ。


「はい、そうです。何をお求めでしょうか?」


「今日は風が強いだろう?のどを痛めてしまったようだ。

 何か痛みを和らげるものはあるか?」


「土煙で痛めてしまったのなら、水飴がいいです。

 先ほどできたばかりの水飴ですが、試してみますか?」


「ああ、頼む。」


瓶に詰め終わった水飴を木の匙ですくってお客に渡す。


「この水飴を少しずつ舐めるようにしてみてください。

 のどの痛みが和らいでくるはずです。」


お客は頷いて木の匙を受け取り、舐め始めた。

帽子を深くかぶっているが、隙間から金髪が見えている。目は青だろうか。

父親と同じくらいの年代に見えるが、お忍びで一人で街に来る貴族…。

護衛も付けないなんてめずらしい人だ。


のどの痛みはひいただろうかと待っていると、お客の顔が赤くなっていくのがわかった。

え?のどの痛みから熱が出ている?それじゃあ、水飴では効かないかもしれない。

そんなことを思っていると、お客に両手を握られた。


「君、名前は?」


「え?」


「ああ。もういいや、後で聞こう。」


「え?…えっ?」


ひょいと担ぎ上げられて、驚きのあまり声がうまく出せない。

え?何が起きているの?なんで、私運ばれているの?


店からそのまま連れ出されると、あっという間に店の前に止めてあった馬車に乗せられる。

このままじゃまずい、おばさんに助けを…。

と思って叫ぼうとしたが、馬車のドアは閉められて走り出してしまった。

窓から見る景色がどんどん後ろに流れて行く。

ほとんど揺れもしないのに、ものすごい速さで馬車が進んでいっている。


「あの!どこに向かっているんですか!?」


ようやくお客に聞けた時には、もうかなりの距離を進んでしまっていた。


「心配しなくていい。俺の城に連れて行くだけだ。」


俺の城…城…王城!?




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