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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

軽いノリで旅立ちが始まった話

作者: 廻堺 蛔

 






 西洋の剣、ライトノベル風にしてみたら西洋の件になる。


 つまり、意味が全然違うとか。

 意味がわからないとか。



 ────僕の状況は正にそれだ。


 西洋の剣を心臓に刺された。

 左胸にしっかりと刺された。

 痛みは有る、まだ僕が死んでいないということ。


 走馬灯のように僕は過去を思い返す。






 ♦︎




 中学に上がり、成績が悪いからと母親に叱られた。

 中学二年生になり、成績が悪いからと母親に半分諦められた。

 中学三年生になり、母親に『もう好きにしたらいいよ』と言われた。


 中学を卒業した僕は、バイトを始めることにした。

 正確には中学を卒業する前にバイト始めることを考えた。

 高校行っても、低学歴だから行かなくて別に問題ないよね。

 ……そんな浅はかな考えでバイトを探した。


 面接に三回落ちた。


『────うーん、十五歳だからねぇ。せめて十六歳だったらいいんだけどぉ〜』


 そんな感じで。

 母親に言ったところ『まぁそうなるよね』と、仕方ないわという感じで引き篭もりを許された。


 晴れて引き篭もりになった僕は、昔から好きだったファンタジーモノの携帯小説を読み漁る。



 ────銃を使い、ゾンビを倒す。


 ────妖力を使い、現代日本の影に潜む妖怪を倒す。


 ────異世界に召喚され、勇者として魔王を倒す。



 ……そんな状況に憧れた。

 特に妖力で妖術を使ってみたかった。

 普通に妖怪を見たかった。

 刀とかも使ってみたかった。

 運動音痴と呼ばれた僕だが、妖力を使えば身体能力も上げれる。

 突如、世界が変わらないかな……そんなことばかりを考え続け。

 中学を卒業して約四ヶ月が経った。


 七月七日、僕の誕生日だ。

 つまりは十六歳となった。

 バイトを探し始める。


 誕生日の次の日、母親からお金を渡され外に出た。

 証明写真、履歴書、その二つを買う為だ。


 久し振りの外で、軽く立ちくらみを覚えた。

 だが、母の一つ手で育てられた僕。

 恩を返したい気持ちは当然有る訳で、立ちくらみ、眩暈を抑え。

 しっかりと歩き出した。




 信号が青になるのを待っていた僕は、大型トラックに轢かれそうになった(・・・・・・・・・)


 どうしてか大型トラックが道を逸れ、僕に突っ込んで来た。

 スピードを出していたので反応する暇も無く、右側から轢かれそうになった。


 そこで、異常事態が発生。



 ────時が止まった。



 食パンを咥えていた女子高生が、口から食パンを放し、食パンが宙で静止している。


 大型トラックの運転手が目を大きくさせ僕を見ている。


 散歩中だった老人が、白い歯を輝かせた状態で止まっている。



 そして僕は、動けないでいた。

 思考だけが動く状態だった。

 なんだこれは、もしや神様の登場か……そう考えた僕は頭がおかしいだろう。


 だが、誰かがいつ間にか立っていたのは確か。


 僕が体を向けている方……横断歩道に、人が立っていた。

 その人物の容貌は、よくわからなかった。

 だが、確かに居るということだけはわかった。


 その人物は僕の前まで歩いて来て、ニコリと笑ったようば気がした。

 表情は読み取れないが、どうしてか笑ったように見えた。



 その人物は、僕に話しかけてきた。




『────オマエ、シンダ。ソノイノチ、“  ”ノモノ。トバス』


 片言、意訳すると『お前死んだ。その命、“  ”の物。とばす』ということ。

 意味がわからない、途中でノイズのような言葉も聞こえたし。

 冷静に徹し、考えた。


 僕はまだ死んでないが、時が動き始めれば死ぬだろうと。

 つまりあれかな。

 助けてやったから、お前の命使う的なことを言っているのかな?

 うん、激しく嫌だ。

 でも、楽しそうだ。

 口を開こうとしたが、体は動かない。

 喋れない。


 そんな僕に、その人物は右手を向けてきた。

 続けて、言の葉を。


『────トベ』




 ────次の瞬間、僕の意識は無くなっていた。







 気付けば、西洋の剣を持っている男と対面していた。

 意識がなくなっている間に、飛ばされた(・・・・・)ということかと。

 冷静に判断した。

 西洋の剣を持っている男は、金色の髪に真っ赤な服。

 そして、僕と同い年ぐらいだ。

 比較的、落ち着いて話しかけてみた。



『どうも、突然で悪いんですが────』


 此処ってどこですか、そう聞こうとした。

 だけど、言葉が遮られる。



『────テメェ、悪いと思ってんなら殺される覚悟出来てんだよなぁ?』


『……へ?』




 そう、そして今に繋がる。




 ♦︎



 西洋の剣が僕の左胸に刺さっている。

 意味がわからない。

 突然で悪いんですが、って社交辞令じゃないか。

 意味も違うし、意味もわからない。

 なんだこいつはと、おそらくもうすぐ死ぬであろう僕は睨む。

 西洋の剣を僕の左胸に突き刺した金髪の男を、これでもかと睨む。


「……あぁ? テメェが悪りぃんだろうが」


 睨まれたことで不機嫌そうにする金髪の男。

 僕の胸から西洋の剣を抜き、腰に差している鞘に納める。

 胸から溢れ出る熱い血に現実味が湧かない。

 これは夢か、そう考えながら地面に倒れた。

 茶色い土に鼻から着地、痛みが走るがその痛みは何処か遠くに感じる。

 胸の痛みの方が強いからか、それとも妙に感覚がざわついてるからか。

 真相は定かじゃないが、僕は声を上げなかった。


「…………」


 黙って、身体が冷たくなっていくのを感じる。

 携帯小説を漁っていた僕にはこの状況がなんとなくわかる。

 僕はたぶん、異世界に飛ばされ、即座に殺されそうになってるんだ。

 あぁ、なるほど。

 此処で僕の人生は終わりか。

 物凄く冷静に状況を分析。

 母さんには悪いと思う。


 恩を一つも返さず、あの世へ逝く僕を許してください。


 ……目を瞑る。

 死ぬのって、思ったよりも怖いな(・・・)


 此処で死に、僕は何を残すんだろうか────。













「────ほいっ」



 ぱしん。


 そんな軽い音が僕の頭上で鳴った。

 例えるなら、自分の腕に軽くしっぺをした時の音。

 この場には似つわしくない音だった。

 その音のお陰で、僕は気の抜けた顔となったことだろう。




「……………………黒色の下着について」


 ありきたりだが、僕は黒色の下着は最高だと思う。

 白色の下着も捨て難いが、やはり黒色だ。

 赤色は十六歳の僕には早い。

 では赤色の対極と思われている青色はどうだ。

 ……良いかもしれない。


 死ぬ間際の時に僕は何を呟いて、何を考えているんだろうか。

 だが、悔いはない。

 きっと、死ぬ間際で『黒色の下着について』と呟いたのは人類史上でも少ない筈だ。

 よって、僕はこの言葉を残した。

 少し、晴れ晴れとした気分だ。

 さて、そろそろ寝るか。




「…………アァ?」


 疑問を乗せた声を耳に入れた。

 その声は何か、なんて僕には関係ない。

 何せ、僕はもうあの世に行くんだ。

 バイバイ、現世、バイバイ、母さん。


「────起きろ、ゴミクズ」


 ドン、と重々しい音が響く。

 僕の右の横腹から。

 ……理解した、蹴られたんだと。

 死体蹴り、そんなことをしたのは誰か。

 間違いなく、西洋の剣を持っていた金髪の男。

 僕を殺した男。

 酷い奴だと思い…………疑問を覚えた。


 アレ? 死ななくない?


 いったい僕はいつ死ぬのだろうか。

 それは生きていたいけど、左胸(心臓)に剣を刺されたんだ。

 死ぬに決まっている。

 でもどうしてだろうか、なかなか死なないのは。


 しかも、さっきまで身体が冷たかったんだけど暖かい。


 これはいったい何が────衝撃。



「────アペチョッ!! ……ッ! ぅっは!」


 右の横腹から再び衝撃が走り、鈍い音が響き渡る。

 それと同時に僕の身体は半回転して、空を見上げる(・・・・・・)

 変な喚き声を出し、痛みの所為で右の横腹を右手で抑える。

 青き空が視界を埋め尽くしていたが────突如、金髪の男の顔がひょこりと現れる。


「……テメェ、なんで生きてんだよ。くたばれや、クソッタレなゴミクズ野郎」


 生きているのが悪いかと言いたいが、痛みの所為で無様に睨むことしか出来ない。


「なんか言えよハゲ、毛根消滅させっぞ」


 誰がハゲだ、髪生えてるわ。

 お前には僕がどんな風に見えているんだ。

 そんなことを考え……痛みが引いた。


 ……ゆっくりと上半身を起き上がらせる。

 あれ、生きてね?

 そう思って、左胸を触る。

 ……おかしい、さっきまで血が流れてたから穴が空いてた筈なんだけど。


 うん、塞がってる。服も。


 ちゃんと生きている。

 なんだこれ。



「…………なんで生きてんの?」


 金髪の男を見上げ、聞いてみる。

 不機嫌そうな顔を、さらに歪め、金髪の男は僕に言う。


「知るか、ゴミクズ。さっきからオレはそれを聞いてんだよカス」


 …………。


「……口悪くない?」


「黙れカス、テメェみたいな有象無象には丁度良いだろうが」


 ……天上天下唯我独尊、この人にピッタリな言葉。

 まるで自分以外、優れている人はいないとばかりの態度。

 僕が嫌いなタイプだ。


 立ち上がり、血まみれになった私服を見る。

 上下白色のスウェット、飾りが何もなかったので、血が良い感じのアクセントを出している。


「……これ弁償して」


 例え、良い感じのアクセントを出していようが僕には関係無い。

 服の弁償はしてもらうべきだ。


「あぁ? もう一回、刺されテェか。てかなんで死んでねぇんだよ。死ねよクズ」


 不機嫌そうに後頭部を左手で掻き、僕を見下す金髪の男。

 弁償はしてもらえないか。

 ……なんて酷い奴なんだ、人の左胸にいきなり剣はさすわ、文句ばっか言ってきて、最終的には服の弁償もしてくれない。


 僕の人生で出会ったクソッタレな奴ランキング堂々の一位だ。


「おめでとう」


 敬意を抱き、思わず言ってしまった。

 昔からの癖である、言いたいことを言ってしまうのは。

 そのお陰で、友達はゼロだったけど。

 でも、僕を尊敬する人は居た。

 あれはそう────。



「────さっさとオレに教えやがれ。テメェはなんで死んでねぇんだ」



 …………おっと、そうだった。

 今はこの人と話しているんだった。

 中学で一番可愛い子に『おっぱい触らせて』と言って男子全員に尊敬された話はもうどうでもいい。


「……でも、何でだろうか」


「あぁ?」


 いや本当に。

 どうして僕は死んでないんだろうか。

 肉を貫かれる感触、身体が冷たくなっていく絶望感。

 ……いや、よく考えれば身体が冷たくなっていって────。



【────よーす、生きてっか?】



 ……うん? なんか声が聞こえた。

 周りを見る。

 広い草原、遠くの方に中世的な街並みが広がっている。

 つまりは、僕の周りには金髪の男しか居ない。


「ねぇ、なんか言った?」


「……ゴミクズ、死にテェのかテメェ。オレの────」


 何か言っているが耳をシャットダウンする。

 どうやら金髪の男が喋ったというわけではない。

 いったい誰が────。



【────よし、生きてんな。んじゃ、手っ取り早く言うわ】



 ……。

 金髪の男は口を動かして僕の文句を言っている。

 つまりはそれとは別の声だ。

 何だこれ。

 僕の疑問を他所に声は続く。



【まぁ、アレだわ。世界救うってことでヨロシクゥ!】



 陽気な声だ。


「……え、どういう意味?」


 思わず返答する。

 すると、金髪の男に訝しげに見られた。



【まぁ、それしか言えねぇわ。あぁー、もう時間がねぇからじゃあな】



 ……整理しよう。

 この声の持ち主は、僕に生きているかと聞いてきた。

 見えてない?

 今の状況が見えていたら、そんなことは聞かない。

 どうして生きていると気付いたのか。

 僕が喋ったから? ……わからない。

 一先ずそれは置いて、世界を救え?


「……うん、意味わからない。説明お願い」


「……殺すぞクソッタレなカス野郎」


 金髪の男に何か言われるがどうでもいい。

 それよりもと、意識を集中する。



【時間ねぇから、とりあえずソイツ(・・・)を仲間にしろ。世界救うにはソイツ(・・・)の力が必要不可欠だからな。まぁ、期限は三年だ。何度か話すことになる。だからまぁ────────プツン】



 …………途中で声が途絶えた。

 明らかに何かを言おうとしていた。

 予測するに『だからまぁ……頑張れ』って言おうとしたのかな?


「うん、なんかそんな感じする」


「…………」


 無言で金髪の男に睨まれる。

 怖くともなんともないので、言葉を思い返す。

 ソイツを仲間にしろ……って、ソイツって誰のこと…だ…………。


「…………もしかして君?」


 ……無言で西洋の剣を抜かれた。

 どうやら僕を殺すようだ。

 なんて危ない性格の人なんだ、流石は『僕の人生で出会ったクソッタレな奴ランキング一位』だ。


「うん、落ち着いて。剣は仕舞うべきだ。それよりも世界救わない?」


 楽しくないから(・・・・・・・)僕は、剣を仕舞う様に言う。

 ついでに世界救わないかと聞いてみる。

 世界救うとはどういう意味かわからないけど、なんかこの人の力が必要不可欠らしいので仲間にしようと思った為。


 金髪の男は不機嫌そうに剣を鞘に納め、僕を見下す。

 腕を組み、足を広げ、これでもかと見下してくる。

 そして…………宣言をした。




「────世界を救うのは、このオレだ!!」




 ……。


「そっか、じゃあ手伝わせて」


「……チッ、仕方ねぇなカス。付いて来い、ゴミクズ野郎」


「あ、僕の名前は……アイルで良いよ」


 本当は黒字(くろあざ) 大地(だいち)だけど。


 ────様々な携帯小説を読み漁った僕は知っている。


 ……その世界では名前が絶対だった。

 名前を知られると、契約魔法を使われ────奴隷となる!


 とまぁ、そんな小説を知っているので偽名を使いました。

 昨日に夜に読んだ、謎小説の主人公の名前で有る。

 本当に謎の小説だった、あれは。


 ────それはともかく、軽いなこの金髪。


 実は陽気な奴なんじゃ……それは無いか。

 出会って早々、人を殺す様な奴だ。

 頭がおかしなことに変わりない。


 金髪の男は僕に背を見せ、歩き始め……静かに名前を言ってきた。




「────アルハザード・アヴァロン。何れ、世界を救う男だ。クソッタレな脳味噌に刻んどけカス野郎」



 早歩きで、スタスタと……素足で歩いている金髪の男……アルハザード・アヴァロンについて行きながら、僕は思った。



「名前言った意味無い、それと名前長い」







 ────斯くして、僕の冒険は始まった。


 長い長い冒険が。

 単純な男アルハザード・アヴァロンと出会ったことにより。

 いや、異世界に飛ばされたことにより、か。

 何はともあれ、こんな感じで緩く始まった。




 ────僕の、悲劇と呼ぶに相応しい物語が。





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