第三節 死のカウントダウン
二学期が始まり、数日が過ぎた。
夏休みに各々楽しんだのか、クラス内で本格的にグループが構成され始めた。
もちろん、夏休みは家でぐーたら生活を送っていた僕はどのグループにも属さないいわゆるボッチとなっていた。
「君さ、本当に友達居ないんだね」
後ろからシンプルかつ鋭利な言葉を刺してきた天はにやにやと嘲笑うかのように見てきた。
「うっせ。高校生は勉強が本分だ。無意味に友達なんか作っても意味が無いだろ」
「うわでたよ。ボッチが言う言葉ランキング第1位。そんなんだから友達出来ないんだって」
「……うっせ」
正論だ。別に強がってる訳じゃないが、友達は居ても居なくても正直どうでもいい。いたところで遊び代やら気遣いやらなんやらで金も心も持つ気がしない。僕からしたら正直デメリットしかない。別に強がってる訳じゃ――
「友達いたところで変わらない。むしろ僕には必要ない。って思ってるでしょ」
「うっ……」
図星だ。
「別に僕には奏叶いるし。それだけで十分」
「かなとくんもそうだけど、友達はいるだけいいと思うよ? 毎日楽しいし」
「別に楽しさなんて求めてないよ。言っただろ。勉強が本分だ。」
「そういうとこだって……」
彼女は深いため息をつき、机にかけてあるカバンから弁当を取り出した。
「そういうお前こそ友達い――」
「天ー! 弁当食べよー!」
「うん! 今行くね! ……友達がなんだって?」
突然クラスの女子から昼飯の誘いを受けた天が、僕を勝ち誇ったかのようなドヤ顔で見る。いやこの場合見下すが正しいのだろう。僕は内心「くそ」と思いながらカバンから財布を取り出した。
「あれ? 今日弁当じゃないんだ。なーんだせっかく私たちが一緒に食べてあげようと思ってたのに」
「余計なお世話です。今日は妹が熱で寝込んでて弁当作ってくれなかったんだよ」
「ふーん。なら今日君の家行っていい?」
「なんでそうなる」
「私の羽。もしかしたら妹ちゃんを治せるかもよ?」
「お前の羽はそんなことが出来るのか。でも遠慮しとくよ。ただの風邪だ。数日すれば治るしお前に借りなんか作りたくない。あと遠い」
「別に借りとかそーゆーの要らないよ。私の自己満。私今日は暇だし、君もどーせ暇なんでしょ? いいよね? 行くね!」
天は僕が反対する前にソサクサと友達のところに行ってしまう。こうなると天は絶対に曲げない。今日は騒がしくなりそうだ。
食堂はいつも通り2、3年生で賑わっており、1年生の姿は夏休み前に比べたら少しはいるもののほとんどいない。この学校は別に2、3年生の権力が高い訳ではないが、1年生が謙遜しているのだろう。
食堂の隣にある購買でたまごサンド、カフェラテを買い屋上庭園に向かう。奏叶は他の友達と食べるらしく1人で食べるのは久しぶりだ。しかも今日は雲ひとつない晴天。こんな日に1人で過ごすチャンスなんてそうそうないだろう。
屋上のドアを開け、いつもの定位置に座る。風が心地よい。スマホを取り出して適当なニュースを見ながら昼食を取る。最近は人の死を見ることは無い。というか見ないようにしている。今までは寿命が短い人について行き、どうにかしてカウントを伸ばすことを考えていたのだが1秒たりと伸びたことは無い。カウントが『00000000』になった瞬間、何らかの方法でその人は死ぬ。最近は意識しない限りカウントは現れない。僕の眼は中学の時から発病し、今まで何十回と目の前で人が倒れてたのを見たためか、死と言うものには慣れた気がする。
サンドイッチを食べ終わり、屋上のドアの鍵を閉め、階段を降りる。廊下にはふざけ合う男子生徒。それを見て笑う女子生徒。教室には化粧をする女子生徒。食後の睡眠を取る男子生徒など、それぞれ充実した昼休みを過ごしていた。
「あっ……ごめんなさい!」
突然女子生徒がぶつかってきた。咄嗟の事で「あっ」としか反応出来なかったが、女子生徒はぺこりと頭を下げてそのまま去っていった。惹かれるかのように僕は去って行く女子生徒―ではなく女子生徒の頭上の数字を見ていた。ぶつかった衝撃で無意識に能力が発動してしまったんだ。
『04.42.15.55』
「……残り4時間42分」
教室に戻った僕は机にうつ伏せていた。あの女子生徒は今日の18時48分に何らかの方法で死ぬ。時間的には部活終わりの下校中といったところだろう。別にあの女子生徒との接点もなければ名前すら知らない。僕が助ける道理なんてこれっぽっちもない。
ただ無性に――
「気色悪い」
助けようとも助けられない。伝えようにも伝えられない。そんな胸糞悪さに耐えながら必死に忘れようと瞼を閉じた。
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