第二節 赤目の少年
私は人じゃない。
人なんだろうけど、皆とは少し違う。
普通の人なんて羽なんか生えてない。
私はやっぱり人じゃない。
でも、この羽はとても綺麗で私は好きだ。
純白の潤いを放ち、今にも飛び立とうとするその凛々しさ。
そしてこの羽には不思議な力がある。
私の周りはみんな元気。多分この羽のおかげ。
だから別に隠したりはしない。むしろ見てほしい。
だってこんなに綺麗なんだもの。
「白上 天と言います。よろしくお願いします」
やっぱり皆驚いてる。
そりゃそうだ。こんな綺麗な羽の付いた転校生なんてどこにもいない。
私だけ。
私だけが特別なんだ。
「君の席は窓側の一番後ろ、あそこの席だよ」
先生が指定席である方へ指をさす。隣の席は誰もいない。前には地味目の男の子。
―うーん。あの子から仲良くなるしかないなあ。
私は一直線に席へ向かい、座る。みんなからの視線を感じる。羽を見ているんだ。
どう思っているんだろう。気味悪がっているのかな? それとも見惚れているのかな。
「その羽って……」
突然話しかけられて驚いた。地味目くんから話しかけてくるなんて。人は見た目によらないってこのことだろう。
「綺麗でしょこれ。私結構気に入ってるんだ。邪魔になる時も時々あるけど、別にそこまで気にしてないし、何より綺麗だし」
そう答えると驚いた顔でこちらを見ていた。見開いた目には少し違和感がある。
「え? ちょっと待ってもしかしてカラコンしてるの?」
笑い気味にそう言う。こんな地味目くんでもカラコンするんだ。しかも片目だけ。
「ちょっと、声がでかいって!」
「え? あーごめんごめん」
カラコンは普通に校則違反だ。朝礼終了のチャイムと重なったためか、幸い誰にも聞かれてなかった。地味目くんは少し安心したのか、ため息をこぼす。
―良かった。この子とは仲良くなれそうだ。
そう思いつつ一時限目の準備をする。
久しぶりの学校生活は特に問題なく進み昼休みになった。友達―とまではいかないが、少し喋る子も出来た。
「あかねくんご飯食べない? 一人は少し寂しくて」
「え。ごめん先客が――」
「アカネ! メシ食うぞ!」
彼の言葉を遮ってドアから声が勢いよく響いた。茜の友達だろうか。
「という訳なんだ。白上。誘いは嬉しいけどごめんね」
「あー君が例の転校生か。何? もう仲良くなったの? アカネちゃんたらしだなあ」
「別に席近いから少し喋ってただけ」
―どうしよう。入るスペースがない。
「ええっと、転校生ちゃん? 君が良ければ一緒に食べない?」
「え?」
突然そう言われ戸惑った。今まで誘われた事なんてないから嬉しい。
「うわナンパ」
「うるせぇ!」
ふふっ、と笑みがこぼた。
「ならよろしくね」
そう答え、弁当を持ち二人の後を追った。
途中の廊下ではやはり注目の的だった。私の事はもう広まってるらしい。「うわ」だの「なにあれ」だのちょくちょく聞こえてくるが慣れたものだ。
「どこに行くの?」
二階の教室から結構階段を登りただいま四階。それでもなお登ろうとするので前を歩く茜に聞いてみた。
「屋上」
「え?」
驚いた。屋上でご飯が食べれるなんて。ドラマやアニメでしか見たことないから胸の高鳴りが抑えきれない。
「この学校屋上行けるの!? 楽しみ!」
「一般生徒は立ち入り禁止なんだけどな。アカネちゃんは園芸部だから屋上庭園への出入り自由なんだよ。だから俺たちはいつもそこで食ってる」
「へぇー園芸部。あかねくん花とか好きなの?」
「まあまあかな。したい部活なかったから少し興味ある園芸部に入っただけ。活動少ないから楽だし」
茜という名前に花好きときた。もしかしたら私より女子力高いんじゃ。
ガチャッとドアの鍵を開ける音か響き、暗かった階段に光が漏れる。本物の屋上だ。初めて見る。開けて右手には貯水用のタンクがあり、左手は屋上庭園らしきものが広がっている。庭の近くに二人が座ったため私も近くに行き座る。
「ここ、誰も来ないからその羽隠すのにはうってつけでしょ」
「別に気にしないよ。そんなこと気にしてたらこの先生きていけないでしょ」
「そうだぞーアカネちゃん。ソラちゃんみたく自分に自信持たないと俳優なれないぞ」
「誰も俳優になるなんて言ってない」
また二人のふざけ合いが始まる。よっぽど仲が良いのか見てて飽きない。というか面白い。
「あ、そうだ忘れてた。俺カナトって言うんだ。奏に叶うで奏叶。よろしく!」
「あーたしかに。名前聞いてなかったね。よろしくかなとくん」
「名前的に音楽好きなの?」
「んーや別に普通。あーでも軽音部でドラムやってるから好きっちゃ好き――あ! 完全に忘れてた!」
いきなり立ち上がり叫び出した。茜が「何」と嫌々聞くと、何やら昼に軽音部で活動があるらしい。それを伝えすぐさま屋上を出て行った。
「結構元気な人なんだね。君とは大違い」
「まあね」
そんな会話を最後に屋上は静寂に包まれる。奏叶がどれだけ重要人物だったか思いやられる。どうにかしてこの気まずい空気を変えなければ。
「そう言えば、君今日カラコンしてきてるでしょ」
「あーうん」
「やっぱり。しかも片目だけって何でなの?」
前髪が長く、ほぼ隠れている目にカラコンを付けるなんておかしい。カラコン付けるなら髪の毛切って目を見せるべきだ。と心の中で説教し彼の目を見る。彼は少し俯き無言になる。聞いてはいけなかったのか。
「あー別に話したくないなら良いよ」
とりあえず保険をかけとこう。そう言うと彼はポケットからコンタクトケースを取り出した。
「別に君にならいいか」
コンタクトを取る。やっぱりカラコンだった。
謎に緊張する。なんでだろう。
前髪を上げ、彼は目を開いた。
真っ赤な目がそこにあった。
その目だけ光が宿っていない。
充血とかの問題じゃない。本物の血だ。どこまでも黒く、どこまでも深い赤。
「僕も君と同じ奇病持ちだよ」
彼は苦し紛れの笑顔で言った。
「君が天使の羽ならば、僕は悪魔の目だ。なんてね」
なぜか既視感あるその笑顔に恐怖を感じた。