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色。まちがった記憶

作者: 佐々雪

色。


生まれたときから、正しい色が分かりません。

保育園の頃、桜の絵を描いたとき、花びらを灰色でぬりました。

「ふざけるな」と、先生におこられました。


色。


私が見ている色は、失われているのです。

灰色とピンクを分かつ何かを、誰かが奪っていくのです。


正しい灰色を、正しいピンク色を、みたことがないのです。


色。


仕事で資料を作るときに、へんな色になっていないか、いつも心配になります。

「ふざけるな」と、怒られないか、心配になります。


色。


以前、画家を目指している人と仲良くなったときに、

「私の描いた絵に、色を塗ってみて」

とお願いされて、塗り絵をしたことがあります。

奇抜な配色になることを期待されたのだと思います。

しかしそれは、単なるつまらない作品に仕上がりました。


色が変わってみえるのではなく、失われて見えるのだから、当然です。


期待した結果にならなかったことは、その人の顔色からも分かりました。

それは、色の分からない自分にも、良く分かりました。


ごめんね、ありがとう、と思いました。


それが、私のみた色。




黒色の思い出。


誕生日プレゼントは、ユニクロの黒いシャツが良いと言われました。

そんなものがいいのか、と思いました。

仕事で使うそうでした。


その日は会って五分で嫌になってしまったので、六分後にはどうやって帰ろうかを考えていました。

楽しかった思い出も、あったはずでした。


でも、まったくもって必要なものがない、ここにはない、と思いました。



黒い色のシャツを身体に当てた、そのときの黒さ。





赤色の思い出。


彼女から、スマートフォンで写真が送られてきました。

彼女がいつも自慢していた長くて黒い髪の毛は、乱雑にハサミで切り落とされ、坊主頭になっていました。

しかも頭からは、赤い血が出ていました。


「なんでこんなことしたの?」


「この髪の毛がもとの長さに戻るまで、逃げるんじゃねえぞ」


 何かを怒っていました。


「じゃあ明日は映画を見に行こう」


「こんなんで、一緒にいけるの? ウィッグ買おうかな」


「頭から血でてるよ」


「うそ。ほんとだ」


 送られてくる写真。手についた赤い血。

 そのときの、赤さ。



色々な色の思い出。


記憶に残っているすべての色は失われていて、間違っています。


そう思ったとき、私は記憶の色をながす川のまえに立っていました。



「すべての誤りは、正すべきなのです」


神父さんが言いました。


「なぜでしょうか?」


「誤った知覚により、誤った記憶が作られ、誤った知識を作り出してしまいます。そこから作り出させるものは、やはり誤っているのです」


「それは、生きることより優先されるのですか?」


神父さんがそれに答えるより早く、私は拳銃の引き金を引きました。


私のふざけた色よりも、私のふざけた記憶よりも、彼こそが今ここで死ぬべきだと思ったからです。


私の間違った色は、私のもので、やはり死ぬまで守り続けるものです。


間違った色の記憶は、私が取り逃した色のぶんまで、守り続けます。




オレンジ色の記憶


「ねえ。色ってどんなこと思う?」


「オレンジ!」


「楽しそうな色だよね」


「うん、ごめんね、そういうことじゃない感がw」


 彼女の思い浮かべるオレンジ色を、思い浮かべます。


 そのときの、鮮やかな、オレンジ色。



(了)


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― 新着の感想 ―
[一言] 強い記憶とセットになっていると、その色を見ただけでも出来事を思い出しますよね。 産まれた時から色の無い世界で生きてきたのであればその人にとってはそれが普通なのでしょうけど、途中から色の失われ…
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