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百合と何度もファーストキスを  作者: ささやか椎
第1章 ルームメイト
6/126

6、おとなり

 

 朝の気配は、窓辺からそっと差し込んでくる。


 暖かい布団のさらさらとした感触と、心地良いまどろみに包まれたまま、新しい一日のまっさらな空気を感じとった月美は、半分眠ったまま脚だけでグッと伸びをした。

「ん~・・・」

 今日は日曜日である。


 夢の中を自由に浮遊していた記憶のパズルピースが、少しずつつながっていき、一枚の自画像を形成していく。


 自分は中学を超優秀な成績で卒業し、三日月みかづき女学園に入学・・・そして百合さんと出会って恋に落ちてしまい、寮生活が始まって・・・ここまで思い出したところで、月美の意識はピリッと引き締まった。

(そうですわ! 百合さんより先に起きなくちゃ!)

 目覚ましのアラームは平日よりずっと遅い時間にセットとしてあるのだが、そんなものが鳴った頃にはもう、読書しながら朝のティータイムをしているのが月美の理想なのである。百合が目覚めた時、「おはようございます、百合さん。遅かったですわね」とお茶を飲みながらカッコよく言ってみようと思っていたのだ。先んずれば人を制す、という言葉を、月美お嬢様は昔から愛している。


 目を開けた月美はまず、百合の様子を確かめるために、もぞもぞと寝返りを打ってみた。

「おはようございます、月美さん♪」

「ひ!」

 残念ながら、百合のほうが早かったのである。彼女はもうベッドから出て来ており、白いカーディガンを羽織って月美のベッドにそっとひじをつき、月美を見つめていたのだ。月美は慌てて布団に潜りこんだ。

(ね、寝顔見られちゃいましたわぁあ・・・!!!)

 月美は恥ずかしさのあまり、冬眠する子熊のように丸くなって動かなくなってしまった。

「・・・あ、ごめんなさい。じろじろ見ちゃってて。失礼でしたよね」

 そう言いながらも、百合はちょっぴり微笑んでいた。

(いつもクールな月美さんも、寝顔は可愛いんだなぁ♪)

 お嬢様の意外な一面を見ることが出来て、百合はとても満足である。



「ちょっとあなた達! いつになったら挨拶に来るのよっ!」

「わぁ!」

 それはあまりにも突然の出来事だった。月美たちの部屋のドアが乱暴に開かれたかと思うと、小学生みたいなカワイイ女の子が怒鳴り込んできたのである。月美は冬眠から飛び起きてベッドを下りた。

「な、何ですの急に!?」

「何ですのじゃないわよ。私は隣の部屋に住んでる山田綺麗子きれいこよ。綺麗子様とお呼びなさい!」

 めんどくさそうな少女である。

「き、綺麗子さん、ですのね。素敵なお名前ですわね」

「あなた達、いつになったら挨拶に来るの? 待ちくたびれて徹夜しちゃったじゃない!」

 綺麗子は、月美たちの同級生とは思えない幼い顔立ちと体格をしているが、髪だけはエレガントなツインの縦ロールにしていた。月美と同じで、お嬢様なのかも知れない。

「徹夜って・・・あの、ご挨拶には今週、何度かうかがったんですけど、お留守でしたのよ」

 月美は晩ご飯前や寝る前などに隣の部屋をノックした事があるのだが、ことごとく留守だった。一時は空き部屋なのかとも思ったのだが、夜中に「じゃんけんぽん! あっちむいてホイ!」みたいな声が隣から聞こえてきたので、元気な幽霊でない限り、隣人の存在は明らかだった。


 しかし綺麗子の興味は、月美との会話からすぐに別の場所に移る。

「わぁ・・・! あなたが百合ね! やっぱり美人ね、女優さんみたい!」

 百合を見つけた綺麗子は、好奇心で目を輝かせたのだ。そしてどんどん室内に入ってきて百合に迫るので、月美が慌てて間に入った。

「ちょ、ちょっと待って下さる!?」

「ん、何よ。あなたの事も知ってるわよ。黒宮月美でしょ」

「ええそうですわ。百合さんのルームメイトですの。モテすぎる百合さんのボディーガードも務めていますから。あんまり馴れ馴れしくしないで下さい」

「むぅ。いいじゃん、ちょっとくらい! ケチ!」

 綺麗子は月美を見上げながらにらんだが、彼女は名前の通り、とても綺麗な顔をしていた。


 そもそもこの学園は、入学条件に『容姿端麗であること』という一文が入れられているほど、美しさにこだわった変な学園なので、その辺を歩いている少女たちも、みんな普通の高校に行けば学年で一番可愛いレベルの女の子だったりする。


「ふん。丁度いいわ月美。挨拶がてら、私と勝負しましょう」

「しょ、勝負・・・? わたくしたちはこれから朝食ですのよ」

「じゃあその後でいいわ。勝負よ! どちらが真のお嬢様か、この綺麗子様が教えてあげるわ!」

「真のお嬢様・・・ですの?」

 お嬢様の称号を掛けた戦いを申し込まれたら、月美も黙ってはいられない。朝から思いがけずライバルに出会ってしまった。

「じゃあ・・・わかりましたわ。勝負してあげますわよ」

「ふふっ♪」

 なんだか面白そうな事になったので、百合は笑ってしまった。楽しい日曜になりそうである。



 朝食後、月美たちは一度部屋に戻り、顔を洗ったりして身だしなみを整えてから、約束通り待ち合わせ場所のエントランスに向かった。

「遅いわよ! 待ちくたびれたわ。なんでそっちの階段から来るのよ」

「あら、申し訳ないですわね。一度部屋に戻っていたので」

「のろいわねぇ」

「悪かったですわね・・・」

 待ち合わせ場所には綺麗子ともう一人、綺麗子と同じくらい小柄の、内気そうな女の子がいた。

「ごきげんよう。そちらの方はどなたですの」

「わ、わ、わ、私は! その・・・あぅぅ!」

 女の子は顔を真っ赤にして綺麗子の後ろに隠れてしまった。これは百合と月美を目の前にした時の正常な人間の反応である。

「この子は桃香ももかよ。私と同室の子。まあ、私の家来ってところね」

「お隣さんですのね。よろしくお願いしますわ、桃香さん」

 月美と百合が頭を下げると、桃香は目を白黒させながら「よ、よろしくお願い・・・しますぅ・・・」と小さく答えた。どうやら綺麗子の勢いに巻き込まれている普通の女の子のようである。実に不憫ふびんである。



「ルールは簡単よ! どっちのチームが先に図書館前の広場に辿り着くか、それだけ!」

 外靴に履き替えた綺麗子は、青空の下に駆け出してバレエダンサーのようにクルクルと二度回った。制服のスカートはパラソルのようにふわっと広がって陽だまりにきらめいた。ちなみに日曜日は私服で過ごしてもいいのだが、寮外に出る時は結局制服に着替えている生徒も多い。

「あら、それってつまり、駆けっこですの? そんなのでお嬢様度合いを計るんですの?」

「これはただの駆けっこじゃないわ。むしろ走る必要なんてない。どの道を選択して図書館まで行くかという頭脳戦よ!」

「頭脳戦?」

「そうよ! 私と桃香はこの学区を既にいっぱい探検してるの! だから月美たちが知らない特別な手段で図書館まで辿り着いてみせるわ!」

「な、なるほど・・・」

 どうやら強敵であるようだ。相手がおチビちゃんだからと言って油断していたら、お嬢様の座を奪われてしまうかも知れない。

「さっきから月美の後ろでニヤニヤしてるけど、百合も本気出しなさいよね」

「あ、うん。分かってますよ、綺麗子さん♪」

 百合は誰かと一緒に遊ぶという経験をほとんどしたことがないので、とても楽しみなのだ。

「それじゃ、よーいドーン!!! いくわよ桃香!」

「あぁっ! ま、待ってくださーい」

 綺麗子は全速力で学舎のほうへ行ってしまった。あちらは図書館とは反対の方向である。やはり何か作戦があるようだ。

「月美さん、私たちも行きましょうか♪」

「え! は、はい。そうですわね。やるからには負けられませんわ」

 百合と二人きりでどこかに行くのは、やはり緊張してしまう。月美はクールな表情を必死に保ちながら歩き出した。



 ビドゥ学区の図書館は、直線距離で言えば、月美たちの寮からかなり近い。

 寮は丘のかなり上の方に建っているわけだが、そのすぐ下には木の香りいっぱいの森林公園があり、この公園の中の階段を下りていけばすぐに図書館の裏手に到着するのだ。この島でしか見られない種類の鹿や、レッサーパンダのような謎の動物、そして様々な野鳥たちにも会えるので、動物好きにはたまらないスポットと言える。

「とりあえず、公園の階段で図書館に向かいましょう」

「はい♪」

 二人は初めて、森林公園へと足を踏み入れた。



「あいつら、やっぱり普通に森林公園を抜けていってるわ!」

 馬車の窓から双眼鏡を覗き込み、綺麗子は高笑いした。

「この学園には機馬車きばしゃがあること、まだ知らないみたいね!」

 綺麗子と桃香は、学舎の近くの大通りの坂道を、機馬車と呼ばれる機械仕掛けの馬車に乗って下っていた。自動で動く小型の路面電車みたいなものだが、前方にロボットの馬がくっついているのが特徴であり、なかなか美しくて乗り心地も良いので、長距離移動をする生徒たちは頻繁に利用している。

「・・・それにしても、この機馬車、もう少し早く走れないの?」

 ちなみにこの機馬車は6人乗りだが、今は綺麗子と桃香しか乗っていない。

「んー、下り坂でスピード出したら危ないからねぇ」

 桃香の言う通り、下りの機馬車はむしろブレーキを掛けっぱなしで運行されていて、それによって微量な発電がされている。風力と太陽光、そして下り移動の際の位置エネルギーを利用して動いているのが機馬車なのだ。

「これじゃ月美たちに抜かされちゃうじゃない! もっと急ぎなさいよぉ!」

「ロボットの馬に言ってもしょうがないよぉ・・・」

 歩いて坂を下る生徒たちに追い越されるくらいのスピードに、綺麗子はイライラした。そもそも、下り坂でわざわざ機馬車を利用する生徒などあまりいない。



「遅いですわね・・・」

「そうだね」

 ルネッサンス様式の豪奢ごうしゃな外観をした図書館の前の広場で、月美と百合は待ちくたびれていた。公園の中にいた野生の鹿たちがなぜか二人について来て、広場に集まってしまっているため、早くここから去りたいものである。

「図書館の中で待とうかしら。あ、でも図書館の前にいないと負けたことにされそうですわ・・・」

「鹿さんたちー、よしよしぃ♪ かわいいねぇ♪」

「わ、ちょっと、わたくしには寄らないで下さい。百合さんに撫でて貰って下さい。ちょっと!」

「よしよしぃ♪」

 しばらく二人が鹿とたわむれていると、ようやく綺麗子たちが肩で息をしながら図書館の前に現れた。

「な、なによこの鹿の群れ・・・」

わたくしたちの圧勝ですわね」

「う、うるさいわね! 機馬車が遅かったせいなのよ!」

「機馬車って何ですの?」

「坂道を上り下りしてる乗り物よ」

「そんなものがあるんですのね」

「とにかく、勝負は一回とは言ってないわ! 今度はここから寮まで勝負よ!!」

「え・・・まだやりますの?」

「なに、逃げるつもり? それじゃあこの綺麗子様のほうが優れたお嬢様ということになるわよ」

 謎の理論が登場した。せっかく初めて図書館まで来たので、中を覗いて行きたかったのだが、仕方がない。月美はもうひと勝負付き合うことにした。ライバルになりうるお嬢様にはきちんと勝利しておかなければならない。

「綺麗子さん」

「ん、なによ月美」

「図書館裏の森林公園、動物がこんな風にいっぱい近寄ってきて面倒ですけど、寮まで行くには本当に近道ですわよ」

 月美は綺麗子にこんな事を言ってみた。

「た、確かにそうね・・・。じゃあ、ルール追加よ! 今日、一度でも使った道は一切使用禁止にしましょう! だから、月美たちはその公園、もう通っちゃダメだからね!」

「あらそう。わかりましたわ」

「じゃあ、二回戦よーいドーン! いくわよ桃香!」

「は、はいぃ!」

 綺麗子は桃香の手を引いて、図書館の裏手に向かって走り去っていった。


「じゃあ、私たちはどうしよっか、月美さん♪」

「さっき綺麗子さんが言ってた機馬車っていう乗り物で行きましょう。たぶん大通りですわ」



 機馬車は坂を上る時にこそ力を発揮する。

 人間ではヘトヘトになってしまう上り坂も、電気の力でグングン上って行くのだ。速度はあまりでないが、人間の足で上るよりずっと速いし、何より疲れない。素晴らしい移動手段と言える。

「月美さん! 後ろ見て! 海が凄く綺麗!」

 機馬車に乗った二人は景色を楽しむ余裕すらあった。まだ午前中だが、夕方にはここからとても美しい夕日が見られるに違いない。

 大通りは両側にたくさんの寮が立ち並んでおり、それぞれの一階部分は何らかの店になっているため、お買い物には最適なエリアである。カフェテラスはどこも生徒たちで賑わっており、アコーディオンを演奏する先輩や、ソフトクリームを食べ歩く子たち、そして月美たちに気付いて手を振ってくる生徒までいた。日曜日の学園はとっても華やかだ。

 ちなみに月美はカッコイイ服が大好きなので、今度この辺りの服屋を見に来ようと思った。



「ちょっと、なんなのよこの公園! 途中からすんごい急勾配になるじゃない!」

「綺麗子さん、私少し休憩したいですぅ・・・」

「何言ってるのよ! このままじゃまた月美に負けちゃうわよ!」

 とは言いながら、綺麗子の足取りもどんどん重くなっていった。この公園の階段は下りるのは早いが、上りは地獄なのである。

「ちょ、ちょっと、鹿たちのほうが速いじゃない! もう! そこのウサギ! 追い越さないでよぉ! なんでお嬢様の私が動物なんかに負けてるのよぉ!」

 綺麗子の悲鳴が静かな森にこだました。



「遅いですわね・・・」

「また勝っちゃったね♪」

 快適な機馬車の旅を楽しんだ月美と百合は、もう寮の前の美しい噴水のへりに腰かけていた。

「エントランスのソファーで待ちたいですわ。でもそんなことすると負けにされそうですし・・・」

「さっきの機馬車、いろんなところにあるみたいだから、また乗ってみましょうね♪」

「そうですわね。いい勉強ができましたわ」

 しばらくすると、ジャングルの遺跡を二、三個探検してきた後みたいに、泥だらけのヘトヘトになった綺麗子たちが公園の入り口から姿を現した。

「あなたたち・・・なかなか・・・やるわね・・・はぁ・・・はぁ・・・」

「じゃあ、わたくしたちの勝ちでいいですわね」

「ま、待ちなさい月美!」

 このとき百合は桃香にハンカチを貸してあげようとしたが、桃香は顔を真っ赤にして首を横に激しく振り、噴水の水で顔をぱしゃぱしゃ洗った。百合に親切にされて正気でいられる人間などいない。

「つ、次が最後の勝負よ・・・。これで勝ったチームは一気に100ポイントだからね」

「今度は一体なんですの? 学舎まで競争かしら?」

 綺麗子にもうそんな体力は残っていない。

「う・・・あ! 食堂よ! 寮の食堂まで勝負よ!」

「すぐそこじゃありませんの・・・」

「そうよ! でも少し走るだけなら、私と桃香のほうがたぶん優れてるわ! 私たちはもう、なりふり構わず走れるほど泥だらけだもんね!」

 確かに、上品に生活することをモットーにしている月美が、寮生たちがたくさんが行き交うエントランスの階段を全速力で駆け上がるようなことはできない。

「息も整って来たし、最後の勝負いくわよ! よーい・・・!」

「ちょっと待って下さる?」

「え、何よ」

 月美は綺麗子の肩に付いた葉っぱを手で払ってあげながら、彼女にある質問をした。

「さっき綺麗子さん、朝食を食べた後、中央階段を使ってエントランスまで来たんじゃありませんの?」

「え・・・そうだけど、それが何よ」

「さっき綺麗子さんが追加したルール、覚えてらっしゃる?」

「え? ・・・な、なんだっけ」

 綺麗子はどうやらおバカなようである。

「今日、一度でも使った道は一切使用禁止。でしょう?」

「・・・あ」

 綺麗子の顔が青くなった。

「言っておきますけど、わたくしと百合さんは今日まだ中央階段を一回も使ってませんのよ。さっきは自室に寄ったあと、一番奥の、南階段から下りてきましたから」

「ちょ、ちょっと待って!」

「はいはい、スタートですわよ」

「あ、ま、待って! 待ちなさぁーい! 待ってよぉ! 月美ぃ!!」

 新しいお嬢様の登場で、月美は自分の立場を心配したが、どうやら綺麗子は月美のライバルではないようである。

 勝負の結果はもちろん、中央階段を悠々と上った月美と百合の圧勝であった。



「遅いですわねぇ・・・」

 二人は食堂前の壁にもたれて綺麗子たちを待った。

「楽しいおとなりさんで、良かったですね、月美さん♪」

「良くないですわ。桃香さんは無害な感じなので、別にいいですけど」

「二人とも同級生なのに、妹みたいに可愛いですね♪」

「そうかしら・・・」

「そうですよ♪」

 愉快な隣人に巡り合えて、百合はご機嫌だった。

 そんな百合の様子を横目で見ながら、月美もちょっとだけ幸せな気持ちだった。人前に出る時、いつも申し訳なさそうな顔をして隠れている百合が、これくらいリラックスして遊べる隣人なのだから、ちょっと生意気な綺麗子も、別に悪い人ではないかも知れないと月美は思ったのだ。

 百合の美しい横顔に月美が見とれていると、不意に百合と目が合ってしまった。百合は月美に微笑んできたが、月美は反射的にうつむいてしまった。赤くなった頬は、このように髪で自然に隠すしかないのである。

「はぁ・・・あなたたち・・・速いわね・・・」

 しばらくすると、ヘトヘトになった綺麗子と桃香が食堂前に姿を現した。

「みっともないですわね。もっとしゃんとして下さい」

「う、うるさいわね・・・」

「顔を洗って、またここに来て下さい」

「はぁ? ・・・なんでよ。もう競争はしないわよ」

「・・・ランチ、ご馳走してあげますわ」

「え!?」

 綺麗子は目を丸くした。

 月美は一応、感謝しているのだ。百合と一緒に遊べて、そして彼女の笑顔がたくさん見られたのは、綺麗子たちのお陰だからだ。それに、一方的にボロ負けしてしまった綺麗子たちが可哀想に思えてきたのである。

「・・・何度も言わせないで下さいます? ご馳走してあげるから、早くその汚い顔を洗って来て下さい」

「ほ、ほんとに!? 月美がおごってくれるの!? いいの!?」

「今日だけですわよ」

「やったー!!! 私絶対フライドポテト付けるぅ!! 行くわよ桃香!!」

「わぁ! は、はいぃ!」

 急に元気になった綺麗子は、桃香の手を引いて自室に猛ダッシュしていったのだった。


「ふふふっ♪ あー、かわいい♪」

 百合の心地よい笑い声に耳をくすぐられながら、あの二人は確かにちょっと、妹みたいな雰囲気だなと月美は思った。


 綺麗子たちの背中を見送った百合は、こっそりと、月美のクールな横顔を見た。

(月美さんって、ホントに優しい・・・凄く優しいよ・・・)

 またまた自分の『優しい人度合い』が上がってしまった事に、月美は全然気付かないのだった。


 

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