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52、目覚め

 

 体育祭を翌日に控えた日のことである。

 キャロリンたちが眠っている初等部部屋に、静かな朝が訪れた。


 心地よい温もり中から爽やかな朝の気配を敏感に察知したキャロリンは、布団を跳ね除けて上半身を勢い良く起こした。

(今日は運動会デース!!)

 キャロリンは二段ベッドの上の段で寝ていたので、バンザイした両手を天井にぶつけてしまった。

(・・・と思ったら明日だったデース)

 手をさすりながら初等部部屋を見渡してみると、月美や銀花はまだ眠っており、下の段にいる桃香も目覚めていないようだった。

(前日の早起き競争1位は私デース!)

 一等賞になって機嫌を良くしたキャロリンは、桃香の寝顔でも観察しようと思い、木の梯子はしごを下りていった。


 ちなみに、向かい側の二段ベッドで寝ている月美はキャロリンが動いていても全く気付かず、熟睡中であるが、これは昨夜おそくまで百合に秘密を打ち明ける方法を脳内で何度もリハーサルしていたからである。

 月美の考え事の仕方はかなり独特で、寝る前にベッドの上で正座し、真顔のまま枕を抱きしめて体を左右にゆっくり揺らすのだ。月美は最近、百合のことでとにかく頭がいっぱいだ。


(月美にもこの後イタズラするデース。まずは桃香デース)

 キャロリンは裸足でカーペットをゆっくり踏みしめながらシッシッシと笑った。寝起きの足裏に感じるカーペットの感触は少しひんやりしていてくすぐったい。


 キャロリンの期待通り、桃香ちゃんは清らかで無防備な寝顔をさらしていた。穏やかな波音がはじける窓明かりが、カーテンの隙間でほんのり輝いているので、可愛い寝顔がかすかに見えるわけである。口元がほんの少しにやけているので、お菓子の夢でも見ているのかも知れない。


 いきなり大きな声を出して起こす、というイタズラを真っ先に思い付いたが、そんなことをしたら月美や銀花も目覚めてしまい、楽しみが減ってしまう。ここは何かサイレントな手法で桃香をビックリさせたいものである。

(脇腹でもくすぐってみるデース?)

 陳腐な案だが面白そうである。キャロリンは桃香のベッドに乗ってみることにした。

 桃香という少女は、小心者である点以外は非常に健やかな心身をしているので、睡眠も深いらしく、キャロリンが掛布団にひざをつきながら2、3歩動いても目覚める様子はなかった。


(なかなかいい感じデース!)

 勢いに乗ってきたキャロリンは、そーっと桃香にまたがってみることにした。くすぐった時にすぐに逃げられないようにするためである。

 桃香は仰向けのまま寝ており、寝相のためか上半身だけは掛布団から出ていた。キャロリンは掛布団の上からにじりより、桃香の腰のあたりにまたがることに成功した。キャロリンはハーフパンツを履いていたので、素足に触れる布団のさらさらした感触が心地よかった。


(しめしめ。くすぐりの刑デース!)

 キャロリンは太ももできゅっと桃香の体を取り押さえながら、彼女の脇腹に手を伸ばした。脇腹の辺りは布団で隠れているため、まずは掛布団を下か横にずらす必要がある。

(ん?)

 桃香の表情を確認しながら作業をしようとしたキャロリンは、この時ちょっと気になるものを見つける。桃香のパジャマのシャツのボタンがいくつか外れており、胸の辺りが少し見えていたのだ。

(ん~、桃香はレディーの自覚がないデスねぇ)

 キャロリンは自分のことをしっかり者だと思い込んでる子なので、桃香の服を整えてあげようとした。


 が、これがチャンスであることにキャロリンはすぐに気付いたのである。シャツの内側に手を突っ込んで直接触ればくすぐりの効果は倍増なのだ。

(我ながら天才デスねぇ)

 キャロリンは桃香の脇腹を狙うため、シャツのボタンを外していくことにした。


 キャロリンは子供向けの海外ドラマで、宇宙船に仕掛けられた爆弾を慎重に解体するシーンを見たことがあるのだが、彼女は今まさにそんな気分だった。シャツをぐいっと引っ張ってしまったり、おへその辺りに指が当たったりしたら桃香は起きてしまうだろう。キャロリンはドキドキしながら指先に意識を集中させた。

(お! 上手くいったデース!)

 シャツのボタンを全て外すことに成功した器用なキャロリンは、いよいよ桃香にくすぐり攻撃を仕掛けられる喜びで胸がいっぱいであった。さて、どんな風にくすぐろうか。


 しかし、キャロリンはここで、またしてもあるものを発見する。


(んー?)


 それは彼女の今後の人生を左右する大きな発見だった。


(わーお。桃香の胸が見えてるデース)


 シャツのボタンを外したのだから当然である。

 キャロリンは桃香の脇腹に忍び込ませようとしていた手を止め、まじまじと桃香の胸を観察してしまった。桜色のパジャマのシャツから姿を見せた桃香のおっぱいは、サクラ餅みたいなふわふわ感と甘い立体感に満ちており、滑らかな色合いも美しかったので、キャロリンはとってもワクワクした。

(なんだか、おいしそうデース・・・!)

 なんとなく、桃っぽいのである。

 キャロリンは非常に好奇心が強い女であるから、目の前にある桃香のおっぱいの魅力から逃れられなくなった。くすぐってイタズラする計画などどうでも良くなってしまったのである。

(ん~・・・)

 キャロリンは初めてカブトムシを見つけた都会のお嬢様みたいな心境であり、とにかく目が釘付けだ。

(私のとちょっと違うデスねぇ)

 キャロリンは自分のパジャマのえりをあごの下でびよーんと引っ張り、自分のおっぱいを覗き込んだ。見比べてみれば色々違いがあるのだが、明確な違いはやはり大きさかも知れない。


 桃香は自分のことをぽっちゃり系だと勘違いしており、小学生のくせにダイエットの本などを読んでいる子であるが、彼女の体のボリューム感は実は胸の大きさによるものである。年齢の割に結構ナイスバディなキャロリンよりもさらに大きいのだ。

(触ったらどんな感じデース?)

 知的好奇心を持つのは良いことだが、とりあえず触れてみようとするのは子供の悪いくせである。キャロリンはワクワクする気持ちを抑えきれず、桃香ちゃんの桃に右手の人差し指をそーっと近づけた。


 それは、忘れられない一瞬であった。


 桃香の肌に触れたとたん、キャロリンの指先は全く新しい幸福な境地に達していた。

 まるで、他人が見ている夢の輪郭をなぞってしまったかのような超常的なその感触は、キャロリンが今まで指先で感じてきた何物にも似ておらず、目が覚めるような新鮮な愛おしさが込み上げてきた彼女の心臓はぴょんぴょんと飛び跳ねた。

(す、すっごいデース!)

 もちもちぽよんなおっぱいが、自分の指先の動きに非常に繊細に反応して揺れる様子がたまらなく面白くて、キャロリンは桃香の胸を色んな角度から、強弱をつけながら何度も何度もつついてしまった。この最高の癒しは、指先からキャロリンの頭の中にまで駆け上っており、とろけるような幸福感となって彼女の意識を支配した。夢見心地というやつである。

(こんな面白いものがあったなんて、知らなかったデース!)

 すっかり感動してしまったキャロリンは、目をキラキラさせながら、夢中で桃香の胸を指先で触り続けた。



 さて、ここまでされて目覚めない桃香はかなりの眠り姫だと言えるが、実はそうではない。

 なんと桃香は、キャロリンにシャツのボタンを外された辺りから目を覚ましていたのだ。

(な、な、なんでキャロリンさん、こんなことをぉおおお!?!?)

 朝一番に突然胸を触られている桃香の動揺は言うまでもない。

 桃香は元々女性に興味がある少女であり、同級生の天真爛漫な海外美少女であるキャロリンに惚れつつあったところだったから、効果が絶大だった。

(い、いけませんよぉおお!!)

 さっさと飛び起きて「やめて下さい!」と言えばいいのに、何だかその機会を逸してしまったし、このドキドキを味わい続けたいという奇妙の欲求もあって、声は出せなかった。

(キャロリンさんの指、温かくて・・・くすぐったいですぅう!)

 嫌がっているのか喜んでいるのかよく分からない子である。

 体に力が入ってしまって、目をぎゅっと閉じてしまうことが度々あったが、おっぱいの揺れ方を夢中になって観察しているキャロリンには気づかれなかった。腰の辺りにキャロリンが馬乗りになっているため、身動きしたらすぐにバレてしまう状態だったから、桃香は足先だけをもじもじさせながら、なんとかこの時間を耐えていた。隠密しなければならないのはキャロリンの方だったはずなのになぜか立場が逆転している。


(そ、そうだ・・・! キャロリンさんが起きてるってことは、もうすぐ目覚ましが鳴る時間なんだ! そしたらキャロリンさんは慌ててベッドから下りてくれるはずだよ・・・!)

 一筋の希望を見出した桃香は、キャロリンが左手の指も使って胸をつっつき始めたことに激しく動揺しながらも、懸命に耐え続けた。とっても恥ずかしくて、とっても幸せな、不思議なドキドキが、桃香をぞくぞくさせた。


 その時、向かい側の二段ベッドで寝ている月美の目覚ましが音を立てた。同じ時刻に設定されていた桃香の目覚まし時計も、すぐにピッピッと鳴り始めたのである。

 桃香は安堵した。キャロリンが飛び退いた後は、何も気づいてないフリをして「おはようございますぅ」と言い、普通に生活すればいいのである。今朝のことは全て忘れて、今まで通り過ごそうと彼女は思った。


 ところが、キャロリンは桃香の目覚ましを止めた後、5秒経っても10秒経っても、桃香の上からどかなかった。桃香は目を閉じたまま眠ったフリを続けているが非常に混乱した。こんな状況になったら逃げていくのが普通なのに、いつまでもここにいるキャロリンの気持ちがサッパリ分からなかったのだ。

(え・・・!? 私、どうしたらいいんだろう!?)

 焦っている桃香の胸に、再びキャロリンの指先がちょんっと触れた瞬間、桃香はビックリして飛び起きてしまった。

「ひゃぁん!!」

 目を開けると、桃香の想像よりもずっと近くにキャロリンの顔があり、しかも彼女は目を輝かせていた。

「桃香のおっぱい、すっごいデース!!」

 包み隠さず、非常にストレートな感想を言われてしまった。

 どうやらキャロリンはこのイタズラを恥ずかしいものだと全く感じていないようだ。

「も、もう!! 何してるんですかぁー!」

「こんな面白いもの、どうして今まで隠してたデスかぁ!?」

「いやいや! ここは絶対隠す場所ですぅ!!」

「あとで写真撮っていいデース!?」

「なぁーに言ってるんですかぁ!」

 あまりに無邪気なキャロリンに、自分のほうが恥ずかしくなってしまった桃香は、もう起きているはずの月美に助けを求めることにした。年下なのに超クールで頼りになる月美ちゃんなら「キャロリンさん、何アホみたいなことしてるんです? はぁ、これからはわたくしが桃香さんのボディーガードになるしかありませんわね」みたいなことを言ってくれるに違いないのだ。

「た、助けて月美さぁーん!」

 キャロリンに乗られたままの桃香は、月美のベッドに目をやりながらそう声を上げた。


 しかし残念ながら月美は、ベッドの上で正座し、真顔のまま枕を抱きしめて体を左右にゆっくり揺らす例の考え事タイムを、起きて早々始めていた。百合のことで頭がいっぱいであり、非常に集中しているから、桃香の声は届かない。


「つ、月美さぁーん!?」

「桃香のおっぱいはどうしてこんなにぷるぷるデース!? 夏休みの自由研究はこれに決まりデスねぇ!」

「ひゃぁーん!!」

 二年生の銀花ちゃんは何も知らずにまだスヤスヤ眠っていた。彼女にはちょっと見せられないカオスな朝のひと時である。

 

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