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41、再会

 

 フェリーから見えるビドゥ港は、絵の具のパレットのようににぎやかだった。


 月美の知っているビドゥ港と基本的な構造は同じだが、見覚えのない洋館や噴水の広場などが増えており、色とりどりの花がこぼれる花壇が、レンガの世界を春色に飾っていたのだ。


「景色が変わってますわぁ・・・」

「ほら月美ちゃん、順番にフェリーから下りるよ」

 翼先輩は月美の背中を優しく押して、乗降口に案内してくれた。先輩の手がなんだか大きく感じられる。



 とりあえず、月美の願いは2つである。


 ぜ~んぶ夢であって欲しい。

 そうでないなら、早く百合さんに会いたい。


 こんな感じである。

 凄まじい混乱の中にいる月美を癒してくれるのは、最愛の百合さんだけだからだ。



 フェリーが港に停まると、ユリカモメたちは一斉に沖へ戻っていった。

 港は花の香りと陽気なピアノジャズに包まれていたが、月美はちっとも明るい気分になれなかった。地面に足を付けると、改めて自分の体の小ささを実感することになったからだ。高校生と思われる少女たちが自分よりずっと高身長だし、花壇に生えてるサクラソウさえ、月美の胸の辺りまであるのだ。


「月美ちゃんと銀花ちゃんは、ちょっとここで待っててね」

「は、はい・・・」

 翼先輩は月美のことをずっと小学生扱いしており、一年近く一緒に過ごして友情を育んできた先輩後輩という雰囲気は一切ない。昨日のことのように思える文化祭の劇でも、翼先輩と月美は同じステージに立っていたわけだが、それらが全て夢だったみたいである。

「あの、翼先輩・・・」

「なんだい?」

 悪い冗談ならそろそろやめて下さいと月美は言いかけたが、月美の体が小学生みたいに小さくなっている点は翼先輩のイタズラとか演技とかとは関係ないだろう。

「あの・・・本当にわたくしのこと、分かりませんの?」

「え? いやいや、分かってるよぉ。月美ちゃんでしょ? 初等部4年生に編入だよね」

「あぁ・・・ハイ」

「初等部の寮に案内してあげるから、ついて来てね!」

 これはもう別の人に相談したほうがいいですわねと月美は思った。


 三人は歩き始めたが、混雑に紛れてピヨはどこかに行ってしまった。どうせまたいつか会えるだろう。


 足元のレンガのわずかな段差や小石の感触が妙に大きく感じられて、月美は歩くだけで疲れてしまった。早く百合さんに会って安心したいものである。

(百合さんが・・・わたくしのこと覚えてなかったらどうしましょう・・・)

 想像したくもないが、起こりうる問題である。大好きな大好きな百合さんが、両想いになれた百合さんが、完全に自分のことを忘れていたら・・・そう思うと、月美は胸がぐぅーんと重くなった。

(・・・というか! こんなおこちゃま姿で百合さんに会うことになりますの!? わたくしの美しいお嬢様ボディーはどこへ行ってしまいましたのぉおお!)

 重度のナルシストである月美が、今の体を気に入るわけがない。

(もぉー! 夢なら早く覚めて下さぁーい!!)

 花壇の前で地団駄を踏む月美を、銀花ちゃんは不思議そうな顔で見ていた。愉快なお友達が出来たものである。


「月美ちゃん、銀花ちゃん、あれが機馬車きばしゃ乗り場だ。機馬車を見るのは初めてだろう?」

 翼先輩が指差したのは、数十台の機馬車と生徒の行列が続くステーションだった。

 機馬のデザインがかなり変わっていたのだが、基本的な作りは月美が知っているものと同じである。機馬車なんて何度も乗ってますわよと言いたいところだったが、もう面倒なので月美は何も言わなかった。

「先輩。これからどこに行くんでしたっけ・・・?」

「キミたちの寮だよ。入学式は明日さ」

 このままでは本当に小学生として暮らしていくことになりそうである。

「えーと・・・寮って、あの図書館の向こうに見えてる赤い屋根のやつですの?」

「ん? 違うよ。キミたちの寮は隣の学区なんだ」

「え・・・もしかしてストラーシャですの?」

「そうだよ。よく知ってるねぇ!」

 なんと、月美は今回、ストラーシャ学区の生徒にされているらしい。

「初等部はストラーシャ学区にしかないからね。今年設立されたから生徒も少ないんだ」

「あら、そうですのね・・・」

「順番が来たよ。乗ろう!」

「ハイ・・・」

 もう月美は話についていく事を半分あきらめている。


 体に異変が起きているので、保健の舞鶴先生に相談するのがいいかも知れないが、月美が早急に見つけたいのは、自分と同じ境遇の人である。つまり月美が経験した去年の12月までの記憶を共有している生徒に会いたいわけであり、願わくば百合さんがそうであって欲しいところである。



 機馬車に乗った月美は、さっさと自分の席を確保し、シートベルトを締めた。小型の馬車なので乗客は月美たち3人だけである。

 翼先輩は銀花ちゃんの座席の調整などをしており、なかなか出発できない。停留所は混雑しているから、行き先の入力だけでも月美がやってあげるべきかも知れない。

「行き先は何番ですの」

「え? あー・・・Sの50番だけど」

「はい」

 月美は手慣れた様子で行き先を入力した。

「あ、あれ? 機馬車の操作なんて、どこで知ったの?」

「席に座って下さい」

「あ、はい・・・」

 先輩が席についたのを見て、月美は発進のスイッチを押した。



「女学園島は別名クロワッサン島なんだ。名前の通り、クロワッサンみたいな形をしてるのさ」

 今後の事について月美が真剣に考えていると、翼先輩が得意な調子で学園を解説し始めた。

両端りょうはしが手前にクイッと曲がったタイプのクロワッサンを想像してごらん。その内側のラインに面しているのがストラーシャ学区。外側の海に面している部分の左半分がビドゥ学区。そして右半分がアヤギメ学区さ」

 月美にとっては全く新情報がないし、銀花ちゃんにとっては例えが少々難しかったので、二人とも翼先輩の話をあんまり聴いていなかった。外の景色のほうが面白い。


『KYC放送局がお送りする、女学園豆知識のお時間です♪』

 しばらくすると、機馬車の中にあるレトロな雰囲気のモニターがなにやら騒ぎ出した。状況の整理に忙しい月美を邪魔するものは多い。

『近頃の三日月女学園の科学技術の進歩は、目覚ましいものです。これはひとえに、ウツクシウムガスを発見した山田綺麗子きれいこ博士の功労と言えるでしょう♪』

 月美はパッと顔を上げた。

(き、綺麗子博士・・・?)

 なぜかモノクロ映像が映っているモニターを、月美は凝視した。

『綺麗子博士がウツクシウムガスを発見したのは、博士が高校生の頃です。友人らが遊び半分で化石探しをする中、彼女は科学への情熱と信念を持ち、懸命に地面を掘り進めたのです♪』

 映像に登場した白衣の女性は、なんとついこの前まで月美のお隣の部屋に暮らしていた綺麗子だった。

「き、綺麗子さん!?」

 記者たちのマイクとカメラに囲まれている綺麗子は、月美の記憶の中の彼女よりずっと大人びており、ロールさせたお嬢様ヘアーもかなりゴージャスになっていたが、思いつきで行動してそうな何とも言えない小物感は健在だった。

『ウツクシウムガスの無限の可能性に誰よりも早く気づいた綺麗子博士は、卒業後すぐにKYCを立ち上げ、三日月女学園への技術支援を始めたのです。こうしてウツクシウムガスは女学園島の発電システムを一変させることとなったのです♪ 未来のエネルギー、ウツクシウムガスは、あなたの女学園ライフを今日も明るく照らしています♪』

 なんだか胡散くさいコマーシャルである。

 よく分からないが、この世界では綺麗子が天才科学者扱いされているらしい。例のヘリウムが発電システムを変えたようなので、ルネさんの風車はきっと無事だろう。

(な、なんで綺麗子さんだけ大人になってますの・・・)

 どうせなら月美も大学生くらいのお姉さんにして欲しかったところである。

 綺麗子はもう卒業生らしいから、おそらくこの島にいないので、今の月美の状況を説明し、協力してもらうのは難しそうである。

(まあ、綺麗子さんはもともと戦力外でしたからいいんですけど・・・)

 月美は座席に深く座り直した。かかとが床につかないので何だか足元がスースーする。



 恐ろしい話だが、去年の思い出が全て夢だったという可能性もある。しかしその場合、翼先輩や綺麗子など、おなじみの人物がこっちの世界にも登場している点はちょっとおかしい。翼先輩は今日初めて月美と会ったようだが、月美は翼先輩について既に色々知っているのだ。

「翼先輩」

「なんだーい」

「翼先輩はアテナ様のことが好きですのよね?」

「え!?」

 翼先輩は一瞬言葉を失ったあと、顔を赤くしてブンブン首を横に振り、「あーっはっは! いやぁ~、まさかそんなぁ~」などと大袈裟に笑って誤魔化し始めた。やっぱり月美の去年の思い出は夢なんかじゃなさそうだ。

(翼先輩、去年はもうちょっと落ち着いた、王子様みたいな人だったんですけど、この世界ではちょっと無邪気というか、少年っぽいですわね・・・)

 少年っぽいお姉様とはなかなかシュールである。年齢だけでなく性格などにも多少の変化はあるのかも知れない。



 丘を越えればストラーシャ学区である。

 内海うちうみの美しさは相変わらずで、空色のオパールみたいな幻想的な海原が、白い砂浜に抱きしめられる形で輝いている。

 街並みはかなり変化しており、田園地帯だったエリアや山の斜面の一部が、白とブルーを基調にした地中海風の世界になっていた。栄養満点の島野菜の栽培がちゃんと行われているか不安になるが、広大な緑の丘は健在だし、謎のジャングルも見えるから、あの辺りで色々育てているのだろう。

「いい眺めだろう? ここまでくると、寮はもうすぐさ」

 ここで月美は急に、気になることを思い出した。

(あら・・・そう言えばさっき翼先輩、すごく重要なことを言ってた気がしますわ・・・)

 それはフェリーの上で何気なく聞いた言葉だった。

「あ、あの・・・翼先輩」

「なんだーい」

「ゆ、百合さんをご存知ですのよね?」

「もちろんさ。同級生だよ」

「えーと・・・寮にいるっておっしゃってませんでした?」

「うん。初等部のキミたちのお世話役の一人さ。だからもうすぐ会えるよ」

 月美は心の準備がぜんっぜん出来ていない。

(どどどどうしましょうぅうう!!!!)

 座席に腰かけたままガタガタ震える月美を、銀花ちゃんは不思議そうに見ていた。



 初等部の寮はビーチの目の前にあった。

 それほど新しい建物ではなさそうだったが、ペンキを塗ったばかりのような小綺麗なライトブルーが、芝と青空の間でよく映える、風通しの良い、二階建ての可愛い寮だった。


 機馬車は海沿いの道に面した小さなロータリーで停車した。機馬車から降りた翼先輩は、寮の二階のバルコニーに手を振って叫んだ。

「おぉ、ルネちゃーん。二人を連れてきたよ!」

「え!? ルネさん!?」

 月美は耳を疑った。

 ルネは謎の難病により、丘の上の療養所でひっそり生活していたはずである。劇場に来るだけでふらふらになっていた彼女が、こんな賑やかな市街地で普通に暮らしているなんて信じられない。

「あら、いらっしゃい! 案内おつかれさま!」

 しかしルネはバルコニーから顔を出した。彼女の頬はとても血色けっしょくが良く、患者衣の代わりにレモン柄の爽やかなワンピースを着て太陽を浴びていた。

「百合ちゃんもいるのかーい?」

「百合は買い物に出かけたわ!」

「もしかして、絵の具?」

「いいえ、今日は普通に食料品よ! 今だけアスパラが安いんだってー!」

 洗濯物の白いシーツが青空を泳ぎ、ルネの笑顔と髪がきらきらと輝くその光景に、月美はなんだか見とれてしまった。

「あなたたちが月美と銀花ね。荷物おろすの手伝うわ! 今そっちに行くー!」

 点滴とも車椅子とも縁のない、健康で幸せそうなブロンドお姉さんが、やがてエントランスから駆け出してきたのだった。




 夕暮れが近づくと風が静まり、ピンクとブルーのグラデーションが島をゆったり包み込む。

 月美は銀花ちゃんと一緒に寮の目の前のビーチを散歩していたのだが、銀花ちゃんは長い移動で疲れたらしく、近くのベンチですやすや眠り始めた。


 ピンク色に染まった白砂しらすなのビーチに腰を下ろした月美は、自分の小さな素足が、打ち寄せる静かな波にギリギリ濡れない様子をぼんやり眺めつつ、考え事をしていた。


 月美は美しいお嬢様ボディーを失った。

 すらっと長い脚、とっても素敵な形をした大きな胸、理想的なくびれ、そしてカッコイイ高身長・・・。


 ついでに、去年築いた人間関係も失ってしまった。

 思い出は月美の中に残っているが、楽しかった毎日が皆遠くに行ってしまった孤独感に、月美の胸はきゅっと締め付けられてしまう。


 ぜーんぶ悪い夢であって欲しいと月美は願った。


「んー・・・」


 しかし、悪いことばかりでもなかった。

 病気で苦しんでいたルネが元気になっており、初等部の生徒のお世話を担当する活発なお姉さんになっている点は、正直月美はとても嬉しかったのだ。点滴に繋がれ、毎日続く微熱に苦しんでいたルネを月美は知っているので、去年のほうが悪い夢だったように思えるくらいだ。


 元の日常に戻る方法は諦めずに探すべきだが、この世界に適応する努力をしていくのも、決して不正解ではないのかも知れない。

「はぁ・・・」

 大好きな百合さんと、せっかく両想いになれたというのに、なんて酷い運命だろうか。

「うぅ・・・」

 透き通る波打ち際が、涙で潤んだ。寂しくって、怖くって、切ない気持ちでいっぱいになった月美は、夕焼けの眩しさから逃げるように目を伏せ、体育座りで小さくなった。



 優しい波音。


 カモメたちの声。


 夕焼け色の美しい時の流れに、やがてその人の声が聞こえ始めたのである。


「あれー」


 その声は遠かったが、月美の心臓は高性能なアンテナのように、すぐにドキリと反応したのである。


「んー、どこだろう」


 声の主は砂浜をゆっくり歩いて近づいて来るが、月美は緊張のあまり振り返ることができず、ちょっとだけ顔を上げたまま石のように固まってしまった。


「この辺に忘れたはずなんだけどなー」


 間違いない、百合の声である。

 百合は月美のすぐ近くの波打ち際まで来たが、月美に声は掛けず、わざとらしく何かを探していた。月美はどうしていいか分からず、じんじんと熱くなる全身を抱きしめるように一人で小さくなった。うるさいほど聞こえる自分の心臓の鼓動は、恋愛のBGMみたいなものである。


「あのー、ちょっといいですか?」

「ひっ!」

 ついに百合が話しかけてきた。

「この辺りに、日焼け止めのボトル、落ちてませんでした?」

 やっぱり、百合は月美のことを覚えていなかった。

 しかし、大好きな大好きな百合さんに再会できて、月美は本当に、本当に嬉しかった。神々しい夕焼けの後光が差す百合の姿を直視できない月美は、涙を拭ってうつむいた。

「し、知りませんわ・・・。そんなの・・・」

「そっかぁ・・・。カモメに持って行かれちゃったかなぁ」

 百合はそう言って一旦いなくなってしまったが、月美のそばから離れようとはせず、近くをウロウロし続けた。

 百合が自分の正面、2、3メートル先にいるのを波音で察知した月美は、盗み見るようにそーっと顔を上げた。


(わぁ・・・)


 ほとんど、神話の世界である。

 桜色の夕焼けに浮かぶ百合の横顔は、レリーフのような強い存在感と、水彩画のような透明感を合わせた、神々しい美しさであり、ハープの音色のようなしなやかな彼女の歩みが、波打ち際を美術館に変えていたのだ。

 長い髪に差し込んだ夕日は繊細な虹色の光をほんのり月美の瞳に映して揺れ、小さな風が懐かしい百合の香りを月美の鼻先に運んだ。今すぐにでも駆け出して、百合に抱き着いてしまいたかったが、相手は自分のことを知りもしないはずなので、そういうわけにもいかず、月美はますます泣けてきてしまった。


(あら・・・?)

 いっぱいの涙でますます輝く百合の姿に、月美はちょっと気になるものを見つけた。彼女は以前と同じように長くつややかな髪をポニーテールにしていたのだが、髪をまとめるヘアゴムの辺りに、ちょっと不自然なものが乗っかっていたのだ。それは半透明のプラスチック製ボトルであり、今の月美の拳くらいのサイズであった。髪飾りとは到底思えない。


「あ、あの・・・」

「ん?」

 月美は思わず、かすれた声で百合に話しかけた。

「日焼け止め・・・ありますわよ・・・百合さんの頭の上に」

「あ! ホントだぁー! こ~んなところにッ! ありがとう!」

「え・・・あ・・・うっ・・・」

 月美はちょっぴり笑ってしまった。

 どうやら百合は、砂浜でしくしく泣いている幼い編入生を見つけ、彼女を笑顔にするために、わざと日焼け止めを頭に乗っけてやってきたらしい。

(やっぱり・・・百合さん・・・優しいですわ・・・)

 何も変わっていないいつもの百合に、月美の胸は一杯になったのである。


 百合は照れ笑いしながら月美に近づいてきた。

「こんにちは。私、百合っていいます。初等部の寮で一緒に暮らす、高2のお姉さんだよ♪」

「ハ、ハイ・・・!」

 愛する百合さんの瞳から逃げるように、月美はそっぽを向いて必死に返事をした。去年よりもますます美しくなったように思える高校二年生の百合の眼差しに、月美のハートは一瞬で限界を迎えているので、少し離れてほしいものである。

「あなた、月美ちゃんだよね?」

「ん・・・まあ・・・その・・・」

 月美は本当は言いたかった。「何を言っているんですか百合さん、わたくしのことが分からないなんて、もう! ひどいですわ!」みたいな感じで怒りたかったのだ。しかし、この状況はきっと百合のせいではないし、むしろ、もう一度出会ってくれてありがとうと感謝したいくらいである。百合がいない世界なんて、月美は耐えられないからだ。

 月美は潤んだ瞳で恥ずかしがりながら、ゆっくり頷いた。

「ハイ・・・月美ですわ・・・」


 これは夢なんかじゃないようだ。

 月美の目の前にいるのは、間違いなく最愛の百合さんであり、今の月美は、新しくなってしまった女学園島の住人なのである。


「うん! これからよろしくね、月美ちゃん♪」

「ひっ!」

 百合に頭をぽんぽんと優しく撫でられて、月美は顔から火が出そうだった。

(も、もーーう!! このわたくしを・・・お嬢様であるわたくしを・・・小学生みたいに扱わないで下さぁーい!!)

 それはちょっと無理な注文である。


 怒りながら喜んでいる月美は、ここでようやく立ち上がり、服についた砂を払うと、いつの間にか天の川が輝き出した宵のビーチに小さな足跡を付けて、百合お姉様と一緒に歩き出したのだった。



(なんだろう・・・。私・・・月美ちゃんと・・・どこかで会ったことある気がする・・・)


 百合がそんな事を考えているなど、幼い月美ちゃんは全く気付かないのだった。


 

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