その時私はこいに落ちた
始まり
目が覚めた。
君のいる世界には何が見えているのだろうか。
歩くことすら出来ない君を見て。
私は。
こいに落ちた。
い ち
ある時君は目が覚めた。
暗い。殆ど何も見えない。
その中を見渡す。
でも何も見えない。
君は試しに手を伸ばすことにした。
.....壁がある。
君は手探りで壁を見つけ、殴ったり蹴ったりしてみた。
.....変な感触。柔らかい。
触ったことの無い感触。
それなのに。
その場所が我が家の壁のような。
今までずっとそこにいたような。
守られてるような。
.....そんな気がした。
矛盾してるのも気にせず、何も見えない君は。
何か分かってるかのように先にすすんだ。
それは何かに動かされているようにも思えた。
に
.....ここは何処なんだろう。
君は進む。
柔らかい壁をつたって進もうとした。
.....その時だった。
ふと、痛みを感じたと思えば首が締まり出した。
くるしい。いたい。たすけて。
君はもがき、足掻いた。
無駄と分かっても。
辛いのを紛らわそうと必死になった。
苦しいのも痛いのも嫌だから。
息が出来ない。
意識が遠のこうとする。
ダメだ。
それから1分ほど息が出来ないままだった。
1分なのに1時間にも2時間にも感じるのは。
そんな苦しみは人の気持ちが分からないのか。
また1分程度すると同じような苦しみがやってきた。
また首が締まる。
また苦しい。辛い。
辛そうな顔して、苦しむ君は。
また何か分かってるかのように先にすすんだ。
.....これ以上は進まない方がいい。
何となく、そう感じた。
さ ん
苦しい。まだ苦しみが続いてる。
.....すすまなきゃ。
あれ。
殆ど何も見えない君に、見えたもの。
それは、光だった。
暗闇に、一筋の光がさしていた。
君は、光の方へと進む。
苦しみが終わる。
明日が始まる。
そんな気がしたから。
光の方へと頭を覗かせようとした。
.....ここから出なきゃ。
その時、頭に感じたことの無い、とてつもなく大きな痛み。
メキメキ、と音を立てて頭蓋骨が軋んでいる。
歪んでいる。確実に顔が歪んでいる。
圧迫され、首も締まっている。
それから、頭が出た。
強い痛み。身体中の骨が軋む。
いたい、つらい。
光しか見えなかった。
そこで見たのは。
病院のベッド、ピンクのナース服。
そして、母の顔だった。
四
子供が産まれる。
怖くなんてない。
最初はそう思ってた、でも。
彼の子を産むとなると胸がドキドキして、痛くて。
ワクワクした。
この子を見た時、彼はどんな顔をするのだろう。
この子は元気に腹を殴る、蹴る。
でも、そんなの気にならない。
陣痛は痛かった。
1分ごとに痛みがくる。
そして1分やむ。
また1分痛むの繰り返しが一二時間と続いたりした。
陣痛が来る事に。
この子が生きてる、そう感じた。
そのことを考えると嬉しくて、楽しくて。
気づいた時には病院で、生まれようとしている。
そうこうしてる間に、時は来た。
産まれる。
そんなことすら考えられない。
痛い。とにかく痛いはずだが。
快楽さえ頭にあった。
やっとこれで終わらせられる。
そう思うと楽になった気がして。
産んだあと、私はすぐに眠りについた。
五
目が覚めた。
君のいる世界には何が見えているのだろうか。
歩くことすら出来ない君を見て。
私は。
こいに落ちた。
いや、
故意に落ちた。
ビルの屋上、見晴らしのいいところだった。
風はまるで私を蔑むよえに冷ややかなものだった。
いざ落ちるとなると、怖かった。
息の吸い方すら分からない。
でも、そんなことどうだっていい。
やっぱり落ちるのは止めようか、この子だけを落とそうか。
そう考えた。
その時だった。
後ろから誰かに突き飛ばされた。
でも。
その手は知ってる手だった。
いつもの彼の手だった。
今までのことが全て蘇る。
彼と出会った日。
素敵な人だった。
可愛いらしい口元、優しい目、下がってるのに強そうな眉。
全てが好きだった。
一目惚れで、いつ話そうか、モジモジしてた時、彼が、話しかけてくれた。
彼と付き合った日。
彼は出会って間もない、馬鹿な私を受け入れてくれた。
彼の笑った顔がたまらなく好きで。
少しクシャッとゆがめる笑い顔のため、全力を尽くすと決めた。
結婚した日。
彼がプロポーズしてくれた。
告白したのが私からというのもあり、嬉しかった。
涙を流してYESと言った。
その時またクシャッとした笑顔をするので、なんでも許そうと決めた。
子供が出来た日。
彼の様子が変わった。
そんなつもりはなかった、と。
毎日のように暴力をふるってくる。
止めてなんて言って終わるものじゃなかった。
皿を投げられ、刺さったりもした。
それから1ヶ月、子供が死んだ。
早く別れたい。でも。
親がなんというだろうか。
こいつはなんというだろうか。
下手をすれば殺されるやもしれない。
彼を元に戻して、また仲良くしたい。
私にはそう考えるしかなかった。
また子供が出来た日。
彼は毎日暴力をふるった。
でも私は確実に子供を守った。
こいつを産んで殺せば、彼は元に戻るかも。
そんなこと絶対にないのに。
私はそれしか考えれなかった。
楽しかったことも、辛かったことも思い出した。
人は死ぬ時少しずつゆっくりになるらしい。
現にこれだけのことを考えているのにビルの半分にも到達していない。
ここから誰かの家のベランダがみえる。
蜂の羽がゆっくり動いて見えて気持ち悪い。
きっと神様が最後の時間として与えてくれたのだろう。
しっかり堪能しなくては。
街の人や景色、普通は見ない木の葉の模様までしっかりみた。
そこから地面に着くまでは体感だが4、5時間は経っているのではないかとおもった。
子供はまだ抱えている。
この子もこの長い時間を過ごしているのだろうか。
そう思った時だった。
頭の割れるような、鈍い痛みがきた。
その痛みはおさまらず、少しづつ頭を潰していく。
本当に長い時間をかけて、痛みを味わう。
神様は、許してくれなかったらしい。
少しずつゆっくりになっていく。
これからどれだけ長い時間苦しむのか分からない。
ここに落ちた私のことを知ったら彼はなんというだろうか。
きっと私をみて元に戻る。
そしたらまた、私を愛してくれるかな。
ろく
俺はただ街を歩いていた。
飯を買いに。
俺の母は生まれてすぐに死んだらしい。
その理由は知らないが。
父の分と自分の分のロールケーキも買って、家に帰ろうとした。
その時だった。
横に置いてある包丁をみて、急に胸が熱くなった。
何故か分からないが、会計の時にその包丁も買った。
買ってしまった。ロールケーキは最初から切れてる。何故買ったのだろう。
何故か分からない。
返品もせず、ただ家に帰った。
その時一瞬誰かの記憶が見えた。
その記憶には父がいた。
俺はニヤリと笑い、家のドアを開けて言った。
「ただいま」
望月凛音です。
その時私はこいに落ちた
ただのネット短編小説なので表紙もなく、タイトルだけで選んで手に取って頂いたということです。
このタイトルをみて、読む前と読んだ後の(あ、そういう事か!)はありました?
恋愛物だと思ってこれを手に取ったあなた、ナイスです。
普通に怖い話になってしまいました。
最初はタイトルも別のもので、恋愛要素も入れるつもりでした。
でも私には無理でした。
それでも、この話が面白いと思ってくれた人がいたなら嬉しいです。
命は大事と何度も言われていると思います。
それは分かってると何度もおもいます。
でも、実際どれだけ大切なんて誰にも分からないんです。
これをみて、本の中だからって命粗末にしてんじゃねーぞと思ってください。
そして、長生きして下さい。
最後に、短い話でしたが、この話を読んでいただいて、本当にありがとうございました。
⚠️この本を面白く読むなら、視点の変更や文字に注目して見てください
この本を元に、長編(?)作ろうと思っています。
似てるなと思ったら私かも知れません。




