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ログイン ~リアルのオンラインゲームは待ったナシ~  作者: ロングブック
第一章 バイト戦士と私の王子様
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ページ8 訪問者 その1

 なんだよ、これ。


 ノエルの後を追いかけて辿り着いた病院の入口……らしき場所。


 もはや見る影もない。


 そこかしこから硝煙の匂い。


 門や塀は無残に吹き飛ばされている。


 コンクリートの地面は幾重にも亀裂が走り、自衛隊のバリケードがソレを囲んでいた。


 バリケードは一定の距離を取って少しずつ後退しているように見える。


「戻りなさいッ!」


 軽々とバリケードを飛び越えたノエルに声が上がった。


 それを盛大に無視してロングケープの背中に手を回すと、弓を取り出した。


 更に腰に右手を入れ、矢を出す。


 こいつ、なんてもん持ち歩いてんだ……。


「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」


 ごつい大きな2本の腕を天に掲げてソレは吠えた。


 こ、怖ェ。


 地面と空気が震えるような雄たけびだった。


 バリケードの後方にいるオレまで腰が引けて一歩後退んだ。


 まだこんなに離れているのに気圧された。


 これが本物のモンスター。


 ゴクリ。


 体長およそ4メートルに届く巨大な巨躯。


 民家ほどの大きさもある巨大なゴリラ。


 まるでドラム缶のように太い腕を軽々と振り回す。


 振り下ろされた腕をノエルがギリギリのところで躱した。


 ズドンッ!


 躱された腕はそのまま勢いよく地面に叩きつけられ、地響きと共にコンクリートの地面が豆腐のように形を変えていく。


 ノエルが超至近距離から弓を撃ち込み、放たれた矢が腕や肩に命中、すべて刺さることなく弾き飛ばされた。


 決してノエルの放った矢が弱いわけじゃない。


 敵が堅過ぎるのだ。


 恐らくオレ達が聞いたサイレンの段階で、自衛隊は諦めたんだ。


 辺りで立ち込めている焼けるような硝煙の匂いが物語っていた。


 そりゃそうだろ。


 ライフルなんかで傷一つ付かない敵に矢が刺さるわけがない。


 無理無理無理。


 どうやってあんな巨躯にこんなちっぽけなナイフ一つで戦うんだよ!


 大量の教科書が詰まった鞄で戦ったゴブリンとはわけが違うんだぞ!


 なのに……、なのにだッ!!


 なんでこっちをちらちら見るんだよ!


 ノエルは戦いながら『早く来い』と言わんばかりに、オレに視線を送って来る。


 そんな余裕あるなら早く逃げろよ……。


「ダメだノエル。早く下がれッ!」


 オレの悲鳴のような叫びでそれに反論する。


「それはダメなの。ノエルが逃げればみんな殺されるの。避難した人もアイもみんななの!」


 その言葉にオレはハッとした。


 すでにここにいる自衛隊ではあの巨大ゴリラには適わない──。


 ここが崩されるのも時間の問題かもしれなかった。


 ここを抜けたあいつが次に向かうのはこの先……。


 不意に店長やさっちゃん、左雨さんの顔が頭を過った。


 ノエルはわかっているのだ。


 自分がここを離れるとどうなるのか、を。


 いや、その前にノエル一人じゃどうしようもないだろ。


 みんなが避難するまでの時間稼ぎ?


 それも命がけでやることか?


 くそッ!


 何がそういう設定。コスプレだッ!


 震える両足。


 現実逃避してわかった振りをしているのは、オレの方じゃないか。


 ノエルの被っていたフードが取れた時、オレ達が見た物は作り物と見間違うほどの人間ではありえない形をした『長い耳』だった。


 少なくともオレの目の前で巨大ゴリラなと戦う少女は、この世界の住人ではない。


 モンスター(あいつら)と同じように、突然現れた訪問者(エルフ)なのだ。


 人間が作った物をうまいと食べて幸せそうに笑い。


 そして今、多くの人間の命を背負って、たった一人であの巨大ゴリラと対峙している。


 人間のオレが膝を笑わせてブルッているっていうのに。


 なんでそんな事できるんだよ。


 かっこよすぎだろッ!


 はぁ。二日連続でモンスターと戦うって。


 オレの現実(リアル)、ハード過ぎんだろ……。


 数歩下がって全力で地面を蹴る。


「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおッッ!!」


 自衛隊の人を踏み台に、肩に足を乗せ、バリケードを飛び越える。


「お、おい、君っ」


 よし、うまくいった!


 これ一度やってみたかったんだよな。


 背中から聞こえて来る声を無視して全力で駆け出した。


「正面で引き付けるから、ユウトは後ろから攻撃するの!」


 はいはい、こうなったらヤケクソだッ。


 少しでも時間を稼いでやる!


 ノエルの弓から矢が次々に発射され、それを拒むようにゴリラが腕を盾のように正面に(かざ)し、弾き飛ばされる。


 オレはがら空きになった背後に回り込んだ。


 女の子を囮にして自分は安全な背後からって……。


 つくづく我ながら情けないと思いつつ、左手に持ったナイフで巨大ゴリラの背中に突き刺した。


 うぉぉおおおおおおッッ!


 硬い皮膚を貫く生々しい感触が手を伝って来るのを感じた。


 さ、刺さった……。


「ヴォオオオオオオオオオッ!!」


 巨大ゴリラが悲鳴を上げ、その巨躯からナイフを引き抜いた。


 よし、効いている。


「逃げるのッ!」


 ──え?


 タキサイキア現象。


 眼に映る光景がゆっくりと流れる。


 振り向くとすぐ横に巨大な腕が合った。


 迫り来る巨大な腕。


 あ、これあかんやつや。

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