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ログイン ~リアルのオンラインゲームは待ったナシ~  作者: ロングブック
第二章 バイト戦士と精霊の友人
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ページ49 散歩 その2

「い、痛い痛いっ、て、店長ぉ、放してぇ……」


 喜びのあまり、出会い頭にオレは店長に抱き着かれて絞殺されるところだった。


 女の子ならともかく、おっさんに抱き着かれて死ぬなんてごめんだ。


「おおう、すまんすまん。そんでお前、どこおったんじゃ?」


 お、おかしい。


 オレの防御力、上がってるはずなんだが……。


「あの後いろいろあって、今は避難所になっている学校に戻りました」


「いろいろてぇ、お前なぁ……、この前とは違う女の子つれとるせいで早知がはぶて(すね)とるじゃろ」


「そ、そんなことないですよ。ちぃとぉ(少し)気になっただけじゃし……」


 二人の視線の先にいる博士を何と説明したモノか、考えてると。


「あはは、ボクは少年の先輩だよ。名は九条澪(くじょうみお)という」


 嘘は言っていない。


 だが、この辺りでは見かけない制服と。


 ここが病院なだけに明らかに目立ってしまう、丈の長い白衣。


 もし、博士一人だったら怪し過ぎて捕まって居たかもしれない……。


「彼女のことは気にしないでください」


「おいおい、随分な扱いだな」


「勝手について来たんだから文句言わないでくださいよ」


「ボクだって女の子なんだからなっ」


 今度は博士の方が口を尖らせてはぶて(すね)てしまった。


 子供かっ!


「まぁ、せっかくじゃけん二人とも食って行きや」


 オレ達は店長のご厚意に甘えてちょっと早めの昼飯に在りついた。





「んっ! これは美味いなっ! 身体の芯から温まる」


「あぁ、やっぱうっめぇなぁ……」


「おうおう、嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか」


 店長の作った炊き出しだ。


 こればっかりは申し訳ないが、学生が作った飯より数倍味の重みが違う。


 正直、うちの学校に来てほしいぐらいだ。


「ん? この肉って……」


 妙に食べなれた触感にオレは手を止めた。


「どうだ? うめぇじゃろ。それ、ヘビ肉じゃ」


「ヘ、ヘビッ?!」


 ギョッと目を見開く。


「あぁ、何でもNo.4とかいう軍の特殊部隊が巨大ヘビを討伐したらしいんじゃが、それはその時回収した肉がここにも回って来たんじゃ」


「へ、へぇ……」


 ノエルの回収したヘビ肉がこんなところにも恩恵を与えていた。


 腕章外しておいてよかった~。


「始めは食えたモノかと思ったんじゃが、意外とピリッという触感が癖になるじゃろ?」


 店長それ、毒ヘビの毒素ですっ!


 食べ過ぎると危ないんで気を付けて……。


「──でも、これもいつまで作れることか……」


「こら、早知っ」


 ポツリとさっちゃんの呟きを店長が声を上げた。


「あ、ごめんなさい。優人さん達に言っても仕方ないよね」


 俯いてしまうさっちゃん。


「店長、何か合ったんですか?」


 店長は溜息をついて教えてくれた。


「それがなぁ、この避難所に届く予定じゃった食材が運ばれてくる途中で、ゴブリンとか言うモンスターに襲撃されて奪われおったんじゃよ」


えっとぉ(たくさん)居たらしくて、今朝討伐隊が出発したのですが……」


 そういえば、オレもここに来る途中でゴブリンを倒したな。


 討伐隊はどうなったのだろうか。


「大丈夫だ。きっと自衛隊の人らが何とかしてくれる」


 店長がさっちゃんに言い聞かすように頭を撫でた。


「店長、ご馳走さまです。ちょっとオレ、用事を思い出しました」


「……そうか。いつでも……とは行かんじゃろうが、また顔を見せにこい」


「はいっ、ボクも学校に居ますので何かあれば必ず連絡ください。さっちゃんもありがとね」


「あぁ、ありがとよ」


「はい、また必ず来てくださいね!」





「よかったのかい? 二人だけでも学校に連れて行けば、ここに居るよりも安全だったはずだ」


「ええ、でもそれだとここの人達が困るじゃないですか」


 この避難所の炊き出しは店長達が病院に掛け合って始めたことだ。


 二人が居なくなれば、避難所として集まった人達の飯は、大量に効率よく作るための冷たく冷えた病院食に代わるだろう。


 ただでさえ不安と辛い気持ちでいっぱいなのに、飯までまずくなっては生きる活力すら失ってしまう。


 ──それはダメだ。


 暖かい飯は人を元気にする。


 こんな状況でも頑張ろうって、力をくれる。


「博士、美味しいご飯の炊き方って知ってます?」


「うーん、一応知識として、水の量や米の質、蒸らすタイミングなどは色々知っているが、君の言いたいことはそうじゃないんだろう?」


 さすが博士、お見通しか……。


「オレは愛情だと思います。作る人が丹精込めて炊いたご飯は、どんなお米でも美味しくなる、心温まるんです。だからオレは店長の想いを守りたい……」


 店長とさっちゃんのあんな顔見たら、何とかしてあげたいじゃないか。


「……それが、君が戦う理由かい?」


 博士が心を覗くような眼でオレを見据えた。


 そんな大層な理由じゃない。


 ただ、オレは──。


「この手が届く範囲にある者は守ってみせると、決めたんです」


 博士がフッと笑った気がした。


「博士はこの避難所で待っていてください。全部終わったら戻ってきます」


「いや、ボクも行こう」


「え? いや、ここからは本当に危険ですから」


「まったく少年はボクを何だと思ってるんだい?」


 何って言われても……、ねぇ。


 博士が溜息を吐く。


「ボクは君のことを知るためにわざわざここ(ひろしま)まで来たんだがね……。こんなところで大事な観察対象を手放して堪るかッ!」


 オレはモルモットじゃねぇ!


「どうなっても知りませんからね?!」


「あぁ、自分で決めたことだ。死んで本望。いやッ、むしろ殺せ! ボクは死んでも止まらぬ!」


 博士が死んだら日本の科学が止まるわ。


 そんな重い期待背負って、オレの後ろを歩かないでくれ。


 モンスターよりよっぽど怖い。


 博士が空を見上げて言う。


「それより降り出す前に終わらせよう。ボクは何を隠そう、下着は今穿いているやつしか持って来ていない」


 そんな情報知りたくなかった──。

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