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ログイン ~リアルのオンラインゲームは待ったナシ~  作者: ロングブック
第二章 バイト戦士と精霊の友人
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ページ46 実験開始

「あんだ? この握り飯、やけにしょっぺーな」


「あ、それ、お姉ちゃんが握ったのだよ」


 無精髭を生やした男が声を上げた。


「汗を流した後は塩分を多めに取る方がいいのさ」


 些か不服そうな男を尻目にボクは時計の針を見る。


 ──ふむ、そろそろか。


「諸君、そろそろ時間だ! ボクが合図したら手筈通りに頼むよ」


 彼らの顔には先ほどまでの不安の色は一切感じられない。


「あぁ、任せろッ!」


「一発かましてやるぞ」


「何だか俺達までワクワクしてきたぜ」


 そうだろうそうだろう。


 実験は、準備を整えてスイッチを押す瞬間が一番ワクワクするんだ。


 外の者達が稼げる時間、そして襲撃の来る場所。


 それらを数百にも及ぶ計算式から導き出す──ボクの十八番(おはこ)


「この辺りだ。みんな配置についてくれ」


 もうボクの言葉を疑う者は誰も居やしない。


 男達はボクが指差した壁を何の疑いも無く見据え──構えた。


 計算から導き出される結果は、未来予知にすら届きうる。


 ──直後。


 ズドオオオオオオオオオンッ。


 体育館内の全員が見据える壁が崩れ落ちた──。


 そして、土足で踏み入るモンスターに向けて声を張り上げた。


「第一部隊、放水開始。いっけぇー!」


「「「いっけぇーっ!」」」


 ボクの合図に子供達の掛け声が続く。


 シャーーーーーーーーーーーーーーッッ!!


 合計4本のホースから勢いよく放たれる消火栓の水が巨大サイに降り注ぐ。


「狙いは眼だッ。水を集中させるんだ!」


 ただの水を浴びせるだけでは意味がない。


 しかし、生き物である以上、弱点を集中的に狙われては、どんな動物でも嫌がり、逃げ出したくなる。


「ヴォ、ヴォォッ」


 ドスッドスン。


 両眼球目掛けて大量の水が一点集中する。


 これにはさすがの巨大サイも顔を背け、その巨体を体育館の外へと下げて行く。


 目算、予定の位置まで下がったのを確認。


「第一部隊、放水中止。第二部隊、放てッ!」


「うりゃーー!」


「そら、よおっ」


「これでも食らえっ」


 別の場所で待機していた男達が4本の導線の束(・・・・)を巨大サイに放り投げた。


「よし、今だッ。スイッチを入れてくれッ!」


 ガチンッ。


 ──瞬間。


 導線から幾重もの火花が散り、巨大サイの身体に高圧電流が流れる。


「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ」


 全身を数百ボルトもの電流が駆け抜け巨大サイが悲鳴を上げた。


 ──その直後。


 体育館の電気が落ち、配電盤が火を噴いて爆発──弾け飛んだ。


 どうせモンスターにやられたら使えなくなる。


 誰も文句は言うまい……。


 瞬間的な電熱による熱上昇で立ち上がった濃い水蒸気。


 皮膚が焼け焦げた匂いにボクは鼻を抑えた。


 水蒸気の中に目を凝らすと、未だ倒れない影が薄っすら見える。


 青井、お膳立てはしたぞ。


 そう心の中で呟いたまさにその瞬間。


 ズドオオオオオオオオオオオオオオンッ!!


 今までで最も大きな音と地響きが鳴り、体育館の床が揺れた。


 ──来た。


「…………ォーク」


 微かに聞き取れた声。


 水蒸気が去った後、黒い霧の残滓が僅かに見え──消えていった。


 そこにはもう──何も、誰も居ない。


 だが、その惨状は凄まじい。


 直径約6メートルの有り得ないほど巨大なクレーターが、巨大サイを中心に体育館の入口を巻き込んで形作っていた。


「「「「うおおおおおおおおぉぉっ」」」」


 周囲ではモンスターが倒されたことに歓声が沸く。


 ──だが彼らは気付いていない。


 水分で多少ブーストさせたぐらいでは、あのモンスターは倒せないことを。


 そんなことを伝えたところで彼らにとっては何の意味も成さないだろう。


 ──これでいい。


 彼らの仕事は()()()()()()()()()()()だった。


『無ければ用意すればいい』


 時間通りだったな、青井。


 バサバサバサバサバサバサ。


 見上げる上空では、一機のヘリが雲一つない青空で盛大に自己主張していた。


 自然に口が緩む。


 良い退屈しのぎになったよ。



 ◇ ── 話は数十分前に遡る ──



 放送で呼び出されたオレは、すでに職員室で待機していたノエル、左雨さんと合流した。


 そして、説明はヘリの中でと、何も聞かされずに出発したのだった。


 ──くっ。


 プロペラの回転する振動が地味に腹に響く。


 た、頼む、もっと慎重に操縦してくれ……。


 波が近いっ。


「急に呼び出してすまない。先ほど僕の軍用のアカウントにこんなメールが届いたんだ」


 そう言い、青井さんはタッチパネルをオレ達の方に向けた。


『青井へ、モンスターに襲われちゃった♡テヘ。 助けに来て~♡ 場所は、広島県xxxxだよん♡』


「青井さんの彼女さんですか?!」


「そんなわけあるかっ!」


 血相を変えて叫ぶ青井さんを尻目に、左雨さんが口を抑えて笑いを堪えていた……。


「こんなふざけたメールを送って来るのは一人しか居ない」


 眉間を指で抑えて続ける。


「実は関東から重要人物をこちらへ護送していたんだが……、恐らくその途中で襲われたのだろう」


「はあ……」


 うっ!


 そんなことより……。


 このままだと長くは持たない、かもっ。


 さっきから変な汗が止まらないんですけど!


 早くぅ……っ!


「まぁこの様子だと襲われたというよりは、自分から飛び込んで行ったんじゃないかな」


 青井さんの話をスルーして、ノエルが急にオレの顔を覗き込んだ。


「ユウト、さっきから体調悪いの?」


 くっ、誰のせい、だと……。

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