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ログイン ~リアルのオンラインゲームは待ったナシ~  作者: ロングブック
第二章 バイト戦士と精霊の友人
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ページ45 天才の暇つぶし

 バサバサバサバサバサバサ。


 はぁ、そろそろ瀬戸内海の景色も飽きて来たな……。


 陸路よりも空路の方が安全なのはわかるけど、退屈なんだよなぁ。


 青井の奴め、ボクをわざわざ呼びつけて置いて、これでNo.4がヘタレだったら許さないぞ。


「博士、あと30分ほどで目的地に到着します」


 前の席からヘッドセットに声が届く。


「あー、はいはい、ご苦労さまです」


 ん?


 なんだ。


 今、海岸と反対の窓が光った……?


 ふとそちらの窓の外を覗くと、目下、森に囲まれた陸地に運動施設らしき建物が見える。


 あ、また光った。


 ──間違いない。


 あの施設からチラチラと人為的な光がこちらへ飛ばされている。


 施設の隣の野外アリーナでは、巨大サイが数人の自衛隊員に囲まれていた──。


「なぁ、2時の方角、救援信号じゃないのかね?」


 災害時における鏡で太陽光を反射させた救援信号。


「はい、恐らく……」


 運転席の一人が苦渋に噛み締めた声で答えた。


 ふむ、どうやら気が付いていたようだ。


「放置するのかい?」


「……止むを得ません。我々は如何なる理由が在ろうと、博士を目的地にお届けする使命があります。ここで博士を危険に晒すわけには参りません」


 その模範解答のような受け答えに苛立ちを覚える。


「博士っ! ……ッ」


「寄せッ!」


 もう一人、隣に座っている男が何かを言おうとして止められた。


「ボクは軍の者ではないから、君達への指揮権はないよ」


 だから、ボクが勝手に彼らを命令することはできないのだ。


「だが、要はこのボクが目的地に着けばいいんだろう? それまでの間、護送役の君達がボクを守ってくれる、違うかい?」


「待ってください博士ッ、このヘリはあくまで護送用。あのモンスターを倒すほどの火器など搭載されておりません!」


 そんなことわかっているさ。


 無ければ用意すればいいんだ。


「君達の後ろに居るのは誰だと思っているんだい? ボクに考えがある」


「し、しかし……」


 日本の未来と目の前の人命で揺れるか。


 ふむ、悪くない──。


「では、もう一つヒントを与えよう。もしこのボクが護送途中にモンスターに襲われたと青井が知れば、血相を変えて救援に来ると思わないかい?」


 そんな青井の顔を見るのも面白いかもしれないな。


 ま、あいつなら血相を変えるどころか、憎たらしいぐらい涼しい顔でやってくるんだろうがな……。


「……わかりました。博士、ご協力感謝します」


「よろしい。ではまずは、あのグラウンドにヘリを降ろして裏手から建物に入ろう。避難民の確認からだ」


「「はッ!」」


 ふふふ、楽しくなって来たな。


 さぁて、降りるまでにボクはラブメールでも送るとしよう。




 ──ドーン!


 体育館の重い扉を両手で勢いよく開いた。


 中で集まっていた避難民達が一斉にこちらを向いた。


 やって来たボク達を希望の光のように見つめる。


 口元がニヤリと緩む。


 ふふっ、楽しい楽しい実験の始まりだ!


 ここはもうボクの研究所(ラボ)


 久しぶりに大きく息を吸って腹から叫んだ。


「さぁ選べ! このまま指を加えたままモンスターに食い殺されるか、それとも少しでも運命に抗って時間を稼ぎ生き延びるか、どっちだ?!」


 なんだなんだと、人が集まって来て責任者っぽい老人が出て来る。


「お願いだ。助けてくれ! 今は外でお前さん方のお仲間が足止めしてくれてるが、そう長くは持たないじゃろう……」


 老人は明らかにボクを無視して後ろに控える二人の隊員に訴えかけた。


 外で戦っている者を見捨てて、自分達だけでも助かろうとする気兼ねに少しばかりイラッとしたので現実を教えてやる。


「ボク達が乗って来たヘリにはアレを倒すだけの火器は搭載されていないし、君達全員を乗せて飛ぶことは不可能だよ?」


「なっ──ならば、救援をっ! 救援を呼んでくれっ!」


「ふむ、悪くない案だが救援が到着するまで外の者達は持たないと思うよ?」


「なん、じゃと……」


 希望を失ったかのように床に崩れ落ちる老人は、困惑したかのように告げた。


「ならば、……お主等はいったい何しにここに来たというんだ……」


 周囲に集まった人々を見渡す。


ボク(・・)は君達の選択を聞きに来たんだ」


 何を言っているんだという視線があちらこちらから集まってくる。


「人間は弱いが馬鹿ではない。生きる為に知識を付け、知恵を働かせることのできる生き物だ。もし、君達が生きたいと望むのであれば、このボクが手を貸してやろう!」


 周囲の顔ぶれは様々だった。


 耳にした言葉の意味がわからず首を傾げる者。


 何を馬鹿なことをと首を振り、俯く者。


 自分では何も決められず、周囲の様子を伺う者。


 そして、一人、人垣を掻き分けて若い男が前に出て来た。


 楽しくなってきてつい口元が緩んでしまった。


 居るんだよ、どこの世界にもこういう馬鹿な奴が。


 ついでに言うなら、ボクは馬鹿が大好きだ!


「そこまで言うんだ、何か考えがあるんだろう? 何をすればいい?」


 そして始まる楽しい実験の時間。


 ボクの計画を聞き、半信半疑ながらも人々は動き出した。


 初めはたったの一人だったが、次第に増えていき、作業は予定通り(・・・・)に進んでいく──。


 ボクの護衛について来た二人も、外の時間稼ぎに加わらせた。


「お姉ちゃん、私達も…………」


 気が付けば、手の空いていた子供達が集まっていた。


 ボクは大きく両手を広げて答える。


「やる気のある者は子供でも大歓迎さっ。おーい、奥様方。避難してるぐらいだから米はあるんだろう? 手が空いてる者で握り飯でも握ろうじゃないか」


「そら来たよっ! 男連中が頑張ってるんだ。みんなやるよっ」


「しょうがないわねぇ、うちの米も使いなっ」


 女性陣と子供達で米を焚いて、出来立ての握り飯を握った。


「あー、お姉ちゃん下手くそだねっ」


「ははは、これは失敗ではないのだよ。失敗という成功なんだ。この小さな成功をたくさん重ねて大きな成功にするんだよ」


「うーん、わかんなーい」


「「「「あはははは」」」」

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