ページ39 ウィザード
「うわああああああああああああああああ」
ガシャガシャガシャ。
どれだけの時間走ったか。
気づけばオレのすぐ前を誰かが大量のスパルトイと追いかけっこしていた。
ノエルではない。
短髪に、男だ。
オレと同じぐらいの年齢か……。
「おいっ、あんた! こんなところで何してんだ?!」
オレが声を掛けると男はギョッとした顔をした。
「うお、骸骨が喋っただと?!」
「ちげええっ。オレは人間だ!」
よく見ろよ。ぶっ飛ばすぞ。
「あぁ、なんだ。脅かす、なよっ」
走りながらなので男は若干息が上がっていた。
「我は、宵闇っ、……んの中を、同胞をっ、求めて、……あんぼ中であるっ!」
息も絶え絶えで何言ってるかわかんねえ。
しかも、散歩中じゃなくて全力疾走してるだろ!
「そうか、強く生きろよ。兄弟」
オレは手を振って交差点を右折した。
そして、男は焦ったように声を荒げてついて来た。
「ちょ、ちょっ、ちょっと、待たれよ!」
いや、後ろ来てるし、待てないから。
仕方ないので少しスピードを落としてやった。
「なんだ?」
「うむ、其方も一人よりは二人の方が心強かろう。しばし我と行動を共にすることを許す!」
何言ってんだこいつ……。
「いや、オレ今人を探しているもんで……」
「相分かった! ならば我もそれを手伝うとしよう。感謝せよ」
別に一人でいいんだけど……、しかも恩着せがましい。
「いやいや、ご迷惑をお掛けするわけには……」
「はっはっは。謙虚な奴め。良い良いっ、我は今機嫌がいい。そのような些末なことに文句は言わぬ」
「はあ……」
何だか段々めんどくさくなってきた。
「わかったよ。オレは影山優人だ」
「我は名を捨てた。ウィザードと呼ぶが良い」
もう面倒なので突っ込まないぞ。
「そうかウィザード。小学校まで道案内してくれ」
「承知した」
ノエルならオレとはぐれても道に迷うことなく、小学校に辿り着ける。
生きてさえいてくれれば、小学校で会えるはずだ。
オレ達は大量のスパルトイを引き連れて小学校へ走った。
ウィザード曰く、ここは駅の近くだそうで、オレが向かっていた小学校とは高校から全然方角が違うらしい。
道理で小学校に辿り着けないわけだよ。
「見えて来たぞ……」
「はぁはぁっ、はぁはぁっ……」
ウィザードはすでに喋れる状態ではなかった。
「ちょっと、休憩っを……」
「いやもう着いたし、てか後ろからあんだけスパルトイが来てるのにどうやって休憩すんだよ」
ガジャガジャガジャ。
街中を駆けずり回ったオレ達の後ろには、道路を塞ぐほど大量のスパルトイが長蛇の列を作っていた。
ノエルと会えたとして、これどうっすかな。
溜息をつきながら視線をようやく見えて来た小学校へやった。
「なぁ、あの校庭。何かが蠢いているように見えないか?」
「奇遇だな。我もちょうどそのように考えていたところだ」
オレ達の目指す先、小学校の校庭では、大量の何かが砂煙を上げて蠢いていた。
そして、その先頭には……。
…………。
…………。
先頭には……。
「って、ノエルじゃねーかっ!」
ノエルが小学校の校庭でオレ達に負けず劣らずの大量のスパルトイを引き連れて走り回っていた。
「短剣使い、あのスパルトイの群れ、一匹でかいのが居ないか?」
ん?
言われて眼を細める。
オレ達は小学校の校庭にようやく飛び込んだ。
ノエルの後ろ、大勢のスパルトイの群れの中で一際異彩を放つソレは確かに存在した。
全身光り輝く鎧を身にまとった骸骨。
その骸骨が地面に剣を突き立てて祈るように片膝をつくと、校庭の地面からスパルトイが這い出て来た。
間違いない、あれがテーバイだ。
「ゆううううううううううとおおおおおおおおおおおおおお」
「ば、ばか。こっち来んじゃねー!!」
オレ達に気付いたノエルが泣きながら向かって来た。
「一人怖かったのおおおおお、うわああああああああああん」
「ちょ、短剣使いこっち来るぞ。逃げろおおおおおおおおお」
「悪かった、悪かったから、うわああああああああああああ」
オレ達は逃げ出した。
何からって?
そんなもんオレもわからん。
先頭を走るオレとウィザード。
その後ろで泣きじゃくりながら追いかけて来るノエル。
そして、合流して数をさらに増した超大量のスパルトイの群れ。
その中にズシンズシンと巨大な足音を立てて追いかけるテーバイ。
「「「うわああああああああああああ」」」
無理無理無理。数が多過ぎる!
「ユウト早く行って倒して来るのッ!」
「無理に決まってんだろ、死んでまうわああっ!」
オレが本気出して一人で突っ込んでも、相手に出来るのはせいぜい30~40匹のスパルトイだろう。
一匹倒して、再生して人型に戻るまでに倒せる数だ。
しかも、無限ループである。
オレの体力が尽きるか、スパルトイの後ろからテーバイにサクッと切り殺される未来が見える。
数を考えろ、数をっ!
優に300匹は超えてるぞ。
どこのマラソン大会だよ。
テーバイの確認はできたし、逃げるか?
いや、オレだけならまだしも二人は無理か……。
「このままでは拉致が明かん。止むを得ん!」
突然声を上げたウィザードがオレを睨む。
「短剣使い、しばしの間我を守れ!」
そう言い残し、一人校舎の方へ走り出すウィザード。
一人逃げるわけじゃないよな……?
「よーし、わかった。その代り逃げたら許さないからな!」
オレに策がない以上、やらせてみるしかない。
「お前らの相手はこっちだ!」
オレはウィザードを追いかけていくスパルトイに石を投げつけてヘイトを取る。
そして、ウィザードはそのまま校舎には入らず、ぎりぎり校庭の外で振り向き、両手を天に掲げて何やらブツブツと言い出した。
「我は偉大なる魔法使いウィザード」
何か残念なことが始まった気がした。
「誰なの」
「オレも知らん!」
「悠久の時を翔る星々よ」
オレとノエルは校庭の陸上トラック上を大量のスパルトイを引き連れて駆け抜ける。
スタートしたばかりのマラソン大会を思い描いて欲しい。
もし、今、躓いてこけようモノなら、プチッとその物量に潰されるだろう。
「遍く破壊の力をこの手に」
ウィザードを中心にピリッとした冷たい冷気が漂い始める。
おお、もしかして何か来てる……?!
「時空の果てより来たれりて」
尋常じゃない緊張感に場が飲まれようとする中、祝詞は続けられた。
オレ達は走り、ウィザードが唱える。
「我が敵を撃ち滅ぼせッ。短剣使い!」
よくわからんが、敵を集めればいいんだな?
「ノエルッ。ついてこい!」
「はいなのっ」
オレは校庭の中心に敵を集めるように円を描いて走り出した。
「「うわあああああああああああ」」
「異でよ。メテオストライクッ!!」
ウィザードが掲げていた腕を地面に叩きつけるように振り下ろした。
……は?