表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ログイン ~リアルのオンラインゲームは待ったナシ~  作者: ロングブック
第一章 バイト戦士と私の王子様
38/57

ページ36 弱肉強食

 その後、全身ぐるぐる巻きで手も足もでない役立たずのノエルを校庭に残して、オレ達は校舎の中を探索した。


 もしノエルに何かあっても、叫べばすぐ駆けつけられるだろう。


 結果から言うと校舎の中は、あの大蛇が這いずり回ったのであろう、かなりの荒れ具合だったけど、何も発見できなかった。


 そして、校舎が終わり体育館に差し掛かった時に異変に気付いた。


「酷い異臭だ。みんな気を付けろ」


 菊池さんの言葉に緊張が走る。


 気を引き締め直して体育館の扉を開けた。


「これは──」


「見るなっ!」


 菊池さんが突然声を上げ、オレの視界を遮った。


 そこにあったのは、おそよ1,5メートルほどの4つの卵とその横に、体育館の天井付近まで高々と積み上げられた骨の山だった。


 あの大蛇は、恐らく産卵の為にこの小学校に避難していた子供達や付近の住人達を喰らい、己の体力に変えて卵を産んだ。


 そして、体内で消化しきれなかった骨などが排出され、山を築いたのだ。


 それを見てしまったオレは──。


「おええええええええええええええええええっっ」


 あまりの悍ましい光景に、胃の中の物を吐き出した。


「落ち着け! ゆっくり呼吸をするんだ」


「ゴホッゴホッ。はぁはぁ……」


「あぁ、すまない、私の責任だ。三佐からくれぐれも注意を受けていたのにこの様だ」


「どう、いう、……?」


 食道と口いっぱいに広がる胃液の気持ち悪さに顔を顰めながら、背中を擦ってくれる菊池さんに問いかけた。


 菊池さんは大きく溜息をついた後、語ってくれた。


「実は、君達にはなるべく人の死体などを見せないようにと指示が出されていたんだ。今回の大災害で多くの死者が出ている。人の死という物は、それだけで受け止めきれない者だっているんだ。そして、それは今後の戦闘にも大きく影響する。私がもう少し配慮するべきだった。本当にすまない」


 ノエルと一緒にここに来る途中にも、それらしいモノは一度も見なかったおかげで、オレ達は半ば遠足気分でモンスター討伐に来てしまっていた。


 でも、その影では自衛隊の人達が、オレ達に見せない為に回収していてくれたのかもしれない。


 多くの人の死に直面することで、次は自分もあぁなるかもしれない。


 ──死にたくない。


 そして、戦えなくなること恐れ、オレ達からそれらを隠してくれていたのだ。


 知らないうちにオレは青井さんを始め、多くの人から護られていたのだ。


 オレがモンスターを倒してみんなを守ってるつもりでいたのが、それはとても傲慢な考えで、滑稽で、馬鹿らしく思えてきた。


 情けねェ。


 ほんっと情けねェ……。


「おおい、バイトくん! 本当に大丈夫か?!」


 菊池さんが慌てて声を荒げた。


 オレは俯いたままポタポタと涙を流していた。


「すみません……。大丈夫です」


 恥ずかしくて腕の袖で涙を拭った。


「青井さんを始め、菊池さんやここに居る皆さんの気持ちが嬉しくて……」


 よく考えたら、オレよりも彼らの方がずっと死ぬ確率は高いんだ。


 元プレイヤーとしての力もないただの人間である。


「坊主、心配すんな。俺達もここに来る前に散々吐いたんだぜ」


「お前は鼻水も流してただろ」


「「「「あははは」」」」


 さっき、大蛇に捕まって本当に死にかけてた隊員さんが苦笑する。


 誰だって死にたくはない。


 それでもみんな戦ってる。


 愛する人や大切な人の為。


 オレだけじゃない。


 それがわかって、凄く嬉しかった。


 こんな人間離れした力を手に入れても、オレの心は人間のままだった。


 そして、そんなオレを同じ人間として扱ってくれる人達がいる。


 一緒に戦ってくれる人達がいる。


 オレは自分でも思った以上に嬉しかったのだ。



 オレ達は他に体育館の中に何も居ないことを確認して中に入り、卵をすべて割ってからその場を後にした。


 遺骨の方は、もはや誰が誰か判別不能なので、あとでまとめて回収して埋めるらしい。


 オレとノエルは菊池さん達と別れ、トボトボと学校に帰った。



「「なっ……」」


「はい、これお土産」


 学校に戻ってノエルの姿に愕然とする左雨さんと青井さんに、途中で買わされた缶コーヒーと大蛇の魔石を手渡した。


「愛、これ響子にから揚げしてもらうの」


「こんなに食べきれないよぉ」


 突っ込むとこそこじゃないからっ。


「影山くん、菊池から聞いたよ。嫌な物を見せてしまってすまなかったね」


「いえ、遅かれ早かれ見ることになったんです。青井さんに要らぬ心配を掛けなくて済むように頑張ります」


「期待しているよ」


 青井さんも笑って頷いてくれた。


 オレは大丈夫。


 前に進める。



「はい、ユウトの分なのっ」


「こ、これはまさか……」


 その日の昼食で何故かカウンターの向こうにいるノエルに出された、から揚げ定食にオレは思考を停止させた。


 ノエルとから揚げの間を何度も視線が行き来する。


「ふっふっふ。いざ、尋常に勝負なの」


 ノエルが両手を腰に当ててドヤ顔で宣言した。


 その向こうで古賀が歩いて来る……。


「ちょっとノエル。あなたは私の隣でつまみ食いしてただけでしょーがっ!」


「違うの響子っ。こ、これは、その……、きょ、響子の代わりにユウトに言ってあげたの。ま、待つの。もうぐりぐりはあっ。アーッ!」


「問答無用!」


 油の熱さのせいでイライラしているらしく、古賀がノエルの頭を拳でぐりぐりしていた。


「あ、影山。それ食べ終わったら、掃討戦で外に出てる自衛隊の人達にお弁当を届けてくれるわよね?」


「はいっ、よろこんで!」


 オレに選択肢はなかった……。


 きっと断ったらノエルと同じ道を辿っただろう。


 ノエルの尊い犠牲は無駄にはしない。



「はぁ、大蛇のから揚げか……、しかもこれ、毒ヘビだよな」


 テーブルからちらりとカウンターの方を見るとノエルと古賀が、オレの食べるところを楽しそうに見守っていた。


 くっ、逃げられない。


 オレは勇気を出して一口頬張ってみた。


 肉は揚げたてで柔らかく、じゅわっと口の中に肉汁が広がる。


 そして遅れてやってくるピリッとした感覚。


 「うまっ! なんだこれ?!」


「「よしっ!」」


 パチンッ。


 あまりの美味さにオレは声をあげて驚愕し、向こうでは古賀とノエルがハイタッチしていた。


 お前らいつの間にそんなに仲良くなったんだよ。


 くそぉ、すっごい敗北感。


 ノエルがドヤ顔するのも納得である。


 うっめぇなおい。



 食後は、古賀の邪魔をしていたノエルを連れて、弁当配達だ。


 道案内人がいると早く目的地に辿り着けることをオレは学んだ。


 森に住む種族だけあって、ノエルは土地勘に強く、地図を一度見ただけで間違うこともなく目的地に辿り着けたのだった。


「はい、菊池さん」


「……ありがとう。でもこれ……さっきの大蛇、だよね……?」


 弁当を受け取った菊池さん達は微妙な顔をしていたが、一口それを頬張ると空気が一転した。


「うぉ?! これほんとにさっきの毒ヘビか?!」


「うめぇ。生きててよかったー」


「この、後から来る辛みがくせになるなっ」


 オレとノエルは終始ニヤニヤが止まらなかった。


 百聞は一見に如かずである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=7345858&siz
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ