ページ34 赤金財閥
「どうやら影山くんは面識があるようだけど、改めて紹介させてもらうよ」
そう言って青井さんが話を進めた。
「こちらはこの学校の理事長であり、協力者の一人としてゼロに対し多額の資金提供してくださっている赤金財閥現当主の赤金糸代さんと娘さんの紗代さん」
お互いに軽く会釈する。
「糸代さんは昔から眼を悪くされていてね、たぶん左雨くんでも治すことができないと思うから気にしないでくれ」
手を返し、今度はオレ達が紹介される。
「そして、この3人が西日本の希望であるNo.4で影山優人くん、左雨愛くん、異世界から来たエルフのノエル・シュトラスくんです」
西日本の希望とか言われると少しこっぱずかしい。
きっと資金提供をしてくれるスポンサーへの青井さんなりのアピールなのだろう。
そこは甘んじて受け入れよう。
世の中金である。
オレのバイトの金もスポンサーから流れてくるのだ。
むしろ、アピールに協力したいぐらい。
「今回の学校奪還は、こちらの赤金糸代さん直々の依頼で大至急とのことだったんだ。実際に校長先生は危ないところだったし、よくやってくれた」
青井さんが笑顔で褒めてくれた。
「ええ。我が校だけでなく、校長先生まで救って頂き本当にありがとう御座いました」
左雨さんが嬉しそうに微笑む。
「いえ、間に合って本当によかったです」
「残り一名の男子生徒についても左雨くんのマナが回復次第、魔法で治癒させる予定です。少し待たせることにはなりますが、病院に運ぶよりもずっと早いでしょう」
青井さんが付け加え、左雨さんが頷く。
「本当に素晴らしい力ですね。……しかし、それ故に狙われる可能性も出て来るでしょう。しっかり護ってあげて下さいね」
お婆さんがオレに視線を向けて答えた気がした。
一瞬で傷を癒す魔法の力なんて誰でも喉から手が出るほど欲しがるだろう。
ましてや、モンスターが普通に現れる世界となってしまったのだ。
その希少価値は計り知れない。
オレはその言葉を心に刻むように力強く返事をした。
「はいっ」
「はいなのっ」
何故かノエルと返事が被った。
ま、まぁ、守ってくれる人は一人でも多い方がいいよな……。
不服そうなノエルと眼が合った。
まるですべて見えているかのようにお婆さんが「ふふふ」と微笑んだ。
「ではまず、本題に入る前に赤金財閥について説明しておこう。二人は赤金財閥について何か知っていることはあるかい?」
「いえ、知りません」
「私もです」
オレと左雨さんが肩を竦めると何故か青井さんが満足そうに頷いた。
「はい、素直でよろしい。……日本には政界、軍事、医療、教育などを裏で支える4つの財閥が存在する。それが黒金、白金、赤金、青金と言われる、その名に『金』の入る人達で、彼らは決して表舞台に出て来ることが無く、その莫大な資産力で日本を陰から支えている、君達が知らないのもそういう風に仕向けているからなんだ」
ゴクリと息を呑む。
何だか一介の高校生であるオレが知ってはいけない話を聞かされている気分だ。
「そして、その一つが教育関係に強い影響力を持つ赤金財閥だ」
「日本にとって国民は財産であり、宝です。学力を伸ばし、より優秀な生徒を輩出することで、これからの日本を支える柱となるのです」
お婆さんがそう締めくくる。
「では、私から今後についてお話させて頂きます」
それまで横に控えていた紗代さんが口を開いた。
「まず、先に話がありました校長先生につきましては、先生方にお話を伺ったところ、どうやら校長は生徒や先生方を庇って一人で人質を申し出たそうです。その行動に報いる為に学校側として、しばらく休養を与え労う予定です。その間は理事長が校長を兼任し、私がサポートしていきます」
妥当なところだろう。
校長先生もこのお婆さんほどではないが、かなりのお年だ。
例え身体の傷が癒えても、心や恐怖といった精神的な部分は魔法では癒せない。
ゆっくり休養を取って欲しいと思う。
「また、今回の依頼完遂に伴い、我が校をゼロ西日本支部の本拠地、並びに近隣住人の避難所として提供、全力で支援させて頂く予定です。どうぞよろしくお願いします」
おー。
これには青井さんも笑顔で頷いている。
「じゃあ、今度は僕の方から」
そう言って青井さんは姿勢を正して人差し指を立てた。
「第一に、可能な限り早急に自衛隊を使って、学校の校庭に仮設住宅を設置し、当面の必要な物資の運び入れ、生徒並びに避難民の安全の確保を行います」
人間、衣・食・住が整わなければ生きていけない。
オレ達は近くに寮があるからそこまで戻れれば何とかなるが、そうでない者にとっては死活問題だろう。
まぁ、モンスターが居るんじゃその寮もすぐには帰れそうにないんだけどね。
幸いこの学校は、食堂やシャワー室など様々な生活環境が整っている。
それらを活用すれば、住人の不満も最小限に抑えられるだろう。
赤金財閥が後ろ盾となってくれたことは思いの外大きいのかもしれない。
そして、青井さんの中指が立てられてピースサインの形になる。
「第二に、周辺地域に出現したモンスターの掃討を行います。小型モンスターであれば自衛隊で対処可能だけど、大型モンスターが出て来た場合は君達に力を借りることとなる」
オレと左雨さん、そしてノエルが頷く。
「その後は県外に目を向けることとなるが、一先ず急ぎなのは我々人類の生活圏の確保だ」